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【咲-Saki-SS:咲久】 「仮面をつけた、私の彼女」【誕生日SS】

<あらすじ>
私の彼女は、常に仮面をかぶっている。


<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他

<症状>
・共依存
・狂気

<その他>
・竹井久誕生日SSです。Twitterでいただいたお題
『仮面越しのキス』より。



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私がそれに気づいたのは、暑い夏の日の事だった。


インターハイ初戦を快勝し、二回戦に進んだ最中。
飄々とした部長の笑顔に、ひんやりとした空気を感じて。
ぞくりと肌を撫でる悪寒に、思わず彼女を二度見した。


『ん?どうしたの?咲』


こちらを気遣うように微笑む彼女。
その穏やかな表情は温もりに溢れていて。
でも、だとしたら私はどうして。
底冷えするような冷たさを彼女に感じたのだろう。

訝しみながらも笑顔を返して、その時私は
はっと気づいた。
『これ』だ。今私が見せた作り笑い。
部長もきっと、私と同じ事をしてるんだ。


注意深く観察する。でも、部長の擬態は酷く高度で。
一度見せた綻びは、見事なまでに覆い隠されていた。

迷いが生じる。本当に気のせいだったのかもしれない。
それならそれでいいと思った。でも、もし勘違いじゃないのなら、
見逃すわけにはいかないと思った。

気づかれないように、でも執拗に部長を観察する。
彼女はいつも笑顔だった。飄々と、不敵に、悪戯っぽく。
コロコロ種類を変えながらも、彼女はいつも笑っていた。

違和感。

部長は、いつもこんなに笑っていただろうか。

なぜだろう。表情が酷く薄っぺらく感じる。
確かに笑っているはずなのに。虚ろで中身がないと感じる。
ずっと『それ』を見ていると、言いようのない胸騒ぎに襲われる。

いつまでそうして見ていただろう。
部長は笑顔を剥がさなかった。
気のせいなのか、いや違う。でも。でも。でも。
思考の袋小路に囚われ始めた刹那。


『……っ!』


私はついに『それ』を見つけた。
笑顔から別の笑顔に切り替わるほんの一瞬、
不安そうに目が泳ぐ。その瞳には確かに震えが混じっていた。
私は自分の懸念が杞憂でない事を確信する。


間違いない。部長は仮面をかぶっている。



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『仮面をつけた、私の彼女』




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気づく事ができた私に、でもできる事は何もなかった。

否、する勇気がなかったと言う方が正しい。
私がちゃんと動けていれば、部長は
孤独に二回戦を戦うことはなかったかもしれないのに。

結局のところ、私は声を掛ける事すらできなくて。
部長は仮面をつけたまま、一人会場に消えていった。


『もう行くんですか?』

『早く打ちたくて気が急くのよ』


気づいてたのに。
部長が独り震えている事を知っていたのに。


固唾をのんで対局を見守る。
まるで部長らしくない闘牌は、
部長の苦しみを代弁するかのようだった。

唇を噛み締める。胸に澱みが溜まっていく。
嗚呼。どうして私は、何もしなかったんだろう。


もっとも部長は、最終的には立ち直る。
誰に頼る事もなく。自分の力で踏みとどまり、
見事に復活を遂げて見せた。

その姿に胸を撫で下ろして、次の瞬間、
胸がぎゅぅと締め付けられる。


(ああ、そうか。だから部長は)

(仮面を、つけるしかなかったんだ)


部長は皆を助けるけれど、部長は助けてもらえない。
どんなに苦しくつらくても、仮面をつけて耐えるしかない。
部長の不安は、そのまま皆に伝搬してしまうから。
だから独りで苦しんで、なんとか突破口を切り開く。
だって、そうする以外に道がないから。


部長が、仮面をつけたのは私達のせいだ。


その事実に気づいた時。
もう見て見ぬふりはできなくなった。



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『部長、その、ごめんなさい』

『へ、何のこと?私のお菓子勝手に食べたとか?』

『その、そうじゃなくて……私、気づいてたんです』

『部長が、おかしくなってた事』

『……っ』

『前日から気づいてました。なのに、私は何も言えなくて』

『そのせいで、部長は独りで苦しんで』

『その、だから……』

『ごめんなさい』



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『そっか……咲は気づいてたのか』

『はい』

『もったいない事したわね。それなら、
 最初から咲に見てもらえばよかったわ!』

『へ?』

『いやー、お恥ずかしながら、私は気づいてなかったのよ。
 笑えるでしょ?自分の事なのに』

『そ、そうだったんですか』

『うん。虚勢を張ってるつもりはなかったのよ?
 いや、張ってる時もあるけどね。
 今回は本当に気づいてなかった』

『だから……』

『これからは、対局前に咲にチェックしてもらうわね!!』



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部長との距離が急に縮まった。

何か大切な場面になると、部長は私の名前を呼んだ。
目の前でくるりと一回転して、
浮かれた口調で私に問う。

『どう?今日の私は大丈夫そう?』

そして私は微笑みながら。こう部長に返すのだ。

『はい!かわいいです』


それは私にとって誇らしい仕事の一つではあったけれど。
でも、部長の異常性を白日に晒す儀式でもあった。

部長は自分を把握できない。
例え、どれだけ深く傷ついていたとしても。
夥しい程の血を流していても、その事実に気づけない。


『自分でも気づいてなかったの』


彼女はあっけらかんと言って笑う。
でもその言葉を聞いた私は、涙を堪えるのに苦労した。

なんて悲しい人だろう。

苦しみを、悲しみを、笑顔の仮面で覆いつくして。
やがて、仮面をつけている事にすら気づかなくなる。
そんな状態に至るまで、部長は
どれだけの苦痛に耐えてきたんだろう。


一枚仮面を剥がしてわかった。
部長がどれほどたくさんの仮面で武装しているのか。
怖い、苦しい、痛い、寂しい。
あまりに膨大な負の感情を、部長は奇麗に覆い隠す。


『実は私ね、3年前は上埜だったのよ。
 ああ、気にしないで。もう昔の事だから』

……

『いらっしゃい!遠慮しないでくつろいでね!
 どうせ一人暮らしだから大丈夫』

……

『いやでも今年は最高だったわ!
 麻雀部も安泰そうだし、心おきなく卒業できるわね!』

……

『あはは』

『あはは』


今私の目の前で見せる部長の笑顔は、
果たして本物なのだろうか。
幾重にも重ねた仮面、私は全部剥がせるだろうか。

まるで自信はないけれど。
私は今日も、仮面を剥がす。

仮面を剥がせば剥がす程、
部長との距離は縮んでいった。



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吹き抜ける風が冷たさを増し、
人恋しさが募る秋の夕暮れ。

部長と二人の帰り道。
呟くように問い掛けた。


「もうすぐ部長の誕生日ですね」

「ありゃ、知ってたんだ。
 もしかして、何かプレゼンでもくれたりとか?」

「はい。何か欲しいものありますか?」

「えー、それ聞いちゃうの?
 考えるのもプレゼントのうちじゃない?」

「その考えもわかりますけど…どうせなら、
 部長が一番欲しいものを贈りたいですから」


落ちていく夕日を眺めながら、
どこかそぞろに私は語る。

意識的にそうしてた。だって会話に集中したら、
胸の鼓動がうるさくなって、会話が成立しないから。

なんて涙ぐましい努力を、部長はあっさり無に帰した。
急にぴたりと足を止めると、正面から私の瞳を覗き込む。


全身を戦慄が駆け抜けた。


そこにいつもの笑顔はない。無表情。
剥き出しの顔がそこにあった。

一切の筋肉を使わないその表情は、
それこそ仮面さながらで。
でも直感してしまう。


これが、部長の。本当の、顔。


「一番欲しいもの。貴女は捧げてくれるのかしら?」

「っ、私が、用意できるものに、限りますけどっ」

「貴女が用意できるなら、何でもくれるの?」

「……その。『命』みたいな無茶ぶりじゃなかったら」


「なんだ。『命』はくれないのね」


くすり。眉を下げて部長が笑う。

無意識に唇を噛んだ。ああ、また間違えた。
部長に仮面をつけさせた。
せっかく部長が勇気を出して、
本当の顔を見せてくれたのに。


って、駄目だよ!ここで諦めちゃ駄目!


「そ、その!撤回します!」

「……ふむ?」

「わ、私があげられるものなら……
 その、何でも、部長にあげます!!」

「……本当に?今度はもう撤回なしよ?」

「そ、の……はい!大丈夫です!!」


部長は目を見開くと、とろりと潤んだ笑顔を見せた。
気づけば闇が周囲を包んでいる。部長の目は光を通さない。
熱っぽく。でも墨汁のように澱んだ瞳で、
部長が私を捉え続ける。


「そう。なら私は咲が欲しいわ」

「貴女の、全部が欲しい」


部長が私の肩を抱く。逃げられないように包み込む。
ゆっくりと吐息が近づいてくる。
私はぎゅっと目を閉じて、ぐっとあごを持ち上げた。


数秒の空白。


秋風で冷やされた唇に、ちょんと柔らかい何かが触れた。
温もりが離れていく感覚にまぶたを開く。
眼前に広がる部長の顔は、酷く蕩けて上気していた。


「ごちそうさま」
「……まだ、誕生日になってませんよ?」

「わかってるわよ。だから、ここで止めてあげる」
「っ、誕生日はどこまでする気なんですか……」

「言ったでしょ?全部よ、全部。
 余す事無く曝け出してもらうから」


にやりと唇の端を持ち上げる部長。
その表情は酷く蠱惑的。でも、やっぱり仮面に見えた。


わからなくなる。


もう戻ってこないファーストキス。
私が捧げた初めては、仮面越しのキスだったのだろうか。



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そして迎えた誕生日。

喜びと笑顔で包まれるはずの日なのに、
私の表情は酷く硬かった。

何を要求されるのだろう。
純潔を散らす程度で終わるだろうか。
いや、そんなはずがない。

誕生日パーティーという名の
仮面舞踏会が終わった後。
私は一人部室に残り、部長が戻ってくるのを待った。


「おまたせ〜」
「お、おかえりなさい」

「あはは、咲。貴女すっごい顔してるわよ?」
「だ、だって。まだプレゼント渡してませんから」

「や、どう見てもプレゼント渡す顔じゃないでしょ。
 それ、清水の舞台から飛び降りる顔よ」
「ある意味似たような状況ですし」


今でも耳に残っている。『なんだ、命はくれないのね』
部長は笑っていたけれど、声は底冷えする程に凍てついていた。
あれが部長の本心なら、最悪ここで死ぬ覚悟が必要だ。


なんて、思っていたのだけれど。


「言っとくけど。別にそんな大層な事
 望んでないからね?」
「え、でも……」


だとしたら、あの日の会話は何だったのか。
もしかして、まだ部長は仮面をつけている?
本音を聞き出すには準備が必要か――


「まあでも。咲にとっては、死ぬよりつらい事かもね」


全身から一気に汗が噴き出す。

ふっと気を抜いた刹那、部長は仮面を脱ぎ捨てていた。
にこりともしないその表情が、私に覚悟を突きつける。


「誕生日プレゼントね。うん、
 本当に大したものは要らないの」

「というかモノじゃない。あ、だからって
 別に初めてを寄越せとかも言わないわ」


どうしてだろう。囁く言葉は優しいのに。
穏やかで、あたたかくて、気遣いに溢れてるのに。
聞くのが、怖い。ただ部長の声が鼓膜を震わすだけで、
震えあがってしまう程に。


「ただ、一つだけ言う事を聞いてくれたらいいの」


やだ、逃げたい、聞いたら駄目だ。
これ以上聞かされたら『私は』壊れる。
駄目、逃げて。でも部長を助けなくちゃ。
ここで私が逃げちゃったら、誰が部長を――



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「ねえ、仮面を外してくれる?」

「『私の』じゃなくて、『貴女の』仮面を」




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頭の中が、真っ黒になった。




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咲は仮面をつけている。
私がそれに気づいたのは、暑い夏の日の事だった。


テレビに白糸台高校の文字が映った瞬間、
咲の顔から表情が消えた。
空白はほんの一瞬。
咲はすぐ表情を取り戻したけれど、
私は即座に理解した。


ああ、これが。本当の咲の顔なんだと。


悪い事とは思わない。人は誰しも仮面をかぶる。
いい人の仮面、正しい人の仮面。強い人の仮面。
武装せず曝け出している人の方が珍しいだろう。
私だってそうだ。仮面をかぶって偽る事は、
生きるために必要な術。


ただ一つ、納得がいかなかったのは。
自分はがっちり武装しながら、
咲が私の仮面だけ剥がそうとしてきた事だ。


『独りで抱え込まないでください』

『弱いところも、脆いところも見せてください』

『大して力にはなれないけれど。
 話を聞く事くらいはできますから』


そう語る咲の顔面には、分厚い仮面が広がっていた。


ううん、流石にこの言い方は穿ち過ぎか。
私にくれた数多の言葉、きっと本心には違いない。
でも。咲は自分の弱さをひた隠してる。


− ねえ咲、知ってる?そういうの、
  ブーメランって言うのよ?    −


何度口に出しかけたろう。それを必死に飲み込んだのは、
咲自身が自分の仮面に気づいてなかったからだ。

おそらく、その仮面を奪ったら。
咲はきっと壊れてしまうから。



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私の弱さを垣間見て、咲は新しい仮面をつけた。
弱い私を助ける自分。私のために自分を捧げるという仮面だ。

私は甘んじて受け止めた。
新しい仮面をこしらえた咲は、
古い仮面を少しずつ壊し始めたからだ。


『部長も、複雑な家庭だったんですね。
 実は私もだったりするんです』

……

『結局、お姉ちゃんとは遊べなかったな……
 でもいいんです。私には新しい仲間が居ますから。
 そう、部長が居ますから』

……

『引退しても大丈夫ですよ!
 部長の家に遊びに行っちゃいます!
 私達は離れ離れにはなりません!』


急ごしらえだからだろうか。
新しい仮面は、古いそれより雑だった。
覆いきれない歪な闇が、至る所で見え隠れしてる。


ねえ、本当の事を言って?


貴女も限界なんでしょう?
お姉さんと復縁できなくて、
もうボロボロなんでしょう?

拠り所が欲しいんでしょう?
お姉さんの代わりにすがれる人が。
私を使いたいんでしょう?
なのに私は引退しちゃって、
つらくてつらくて仕方ないんでしょう?


いいのよ?本当の事を言ってくれれば、
私は貴女を離さない。


咲は私の仮面を剥がす。私は素直に受け入れた。
私が仮面を脱げば脱ぐほど、咲も闇を私に晒す。

結局は似た者同士なのだ。
どちらも仮面を被ってて、
その裏で子供みたいに泣いている。

弱い自分を曝け出せば、お返しに咲も弱さを見せて。
私達は傷を舐めあって、どろどろに溶接されていく。


でも、多分。咲の仮面の方が分厚い。


『そう。なら私は咲が欲しいわ』
『貴女の、全部が欲しい』


言葉の裏に隠した真意に、咲は気づく事ができただろうか。
盲目に唇を差し出す咲は、分厚い仮面をつけている。
私が捧げたファーストキスは、仮面越しのキスになった。


素直に、悲しいなって思う。


仮面をつける事は悪い事じゃない。
仮面を全てはぎ取れば、咲の心は壊れるだろう。

それでも、奪い取りたいと思う。
偽りの仮面を破壊して、心を全部曝け出して。
安寧を求めて彷徨う心を、私でくるんでしまいたい。

咲は手遅れになるだろう。私なしで生きていけなくなる。
依存して依存して依存して依存して、
私を取り除けなくなる。
その状況と比べれば、まだ今の方が健全なはずだ。


それでも。仮面を外してくれる?
貴女が私を救いたいなら。



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貴女は壊れてしまうけど。

私も一緒に壊れてあげるから。




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部長の言ってる事が分かった

お互い様だったのだ
遮二無二部長の仮面を剥がす私は、
その実頑なに武装していた

部長の心を癒す事で、私は自分を癒そうとした
そうしなければもう耐えられなかったから


なのに、部長はそれを取れと言う


取ったらどうなっちゃうんだろう
私の仮面は部長のそれとは違う
ずっと被り続けたそれは、もう心に癒着していて
無理に引き剥がそうとすれば、心も引き千切れるだろう


それでも、部長は取れと言う
いいのかな
ねえ、それわかって言ってるの?

私、多分壊れちゃうよ?形を保てなくなっちゃうよ?
そしたらきっと私は狂って
目の前にいる部長にしがみつくよ?


いいの?ねえ、いいの?
それでも、ぶちょうは、ゆるして、くれるの?


わたしを すてないで、いて、くれるの?



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『いいのよ、こわれちゃいなさい?』

『責任は取ってあげるから』




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頭の中が、真っ白になった




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誕生日が終わった翌日
部長と手を繋いで登校した

指の一本一本をしっかり絡ませた恋人繋ぎ
固く繋がったその手を前に、
見る人が皆黄色い悲鳴を上げる


学生議会長に春が来た!相手はあの宮永咲だ!
そんな言葉を背中に受けて、私は頬を朱に染める

その点部長は大したもので
うろたえるどころか勝気な笑みで、
繋いだ手を誇らしげに掲げて見せた


『今日から咲は、私のものです!!』


歓声が一気にボリュームを増す
ついに耐えきれなくなって、
部長を引っ張って部室に逃げ込んだ

部長はクスクス笑いながら、
からかう様に囁いてくる


「別に逃げなくてもよかったのに。
 というかどうせ逃げても無駄よ?
 後10分で予鈴なんだから」

「う、うぅ……針の筵だよ……」

「ほら、覚悟を決めなさい!
 貴女の全てをくれるんでしょう?
 さあ、潔く教室で私のもの発言してきなさい!」


高らかにそう言い放つと、部長は私の手を離す
途端、崖から突き落とされたような恐怖を覚えて


「い゛やぁっっっ!!!!」


私はその手にしがみついた
部長は目を見開くと、ほどけるような笑顔を浮かべる


「あはは、そうよね。仮面外しちゃったんだもの。
 もう離れられないわよね」

「は、はい。むりです。はなれるの、むり」

「うん、無理なら仕方ない!
 来たばっかりだけど帰りましょっか!」


幼子みたいにコクコク頷く
部長の胸にすがりつく
全身がガクガクと恐怖に震えて、
まるで収まる気がしない

学校なんてどうでもよかった
もう部長から離れたくない
こんな恐怖を味わうくらいなら、
重なったまま餓死した方がよっぽどましだ


「随分壊れちゃったわね……ううん、
 これが本当の咲なのかしら」


「ねえ、咲。後悔してる?」


私の頭を撫でながら、部長がじっと私を覗き込む

心を見透かされてる気がした
だって、もう私を守る仮面はどこにもない
弱くて、脆くて、ボロボロで、汚い私の心が、
剥き出しのまま部長に晒されている


「してない、ですけど……こわい、です」
「こわい、か」
「は、い。こんなになっちゃって。
 すて、られたりしないかって」


「捨てたりなんかしないわよ。
 むしろ二度と離してあげないわ」


穏やかに微笑む部長の顔
何度も見た事があるはずの顔
なのに、『初めて見た』と思った


思う
この笑顔が見られるなら、
仮面なんか要らないと


酷く怖い事だろう
剥き出しになってしまった心は、
ほんの些細な事ですら、
悲鳴を上げてしまうだろう
繋いだ手すら離せない程に


でも、部長が守ってくれるなら、
それでいいやと素直に思えた


「じゃ、今度こそファーストキスをしましょっか」
「……え?でも。私達、もうとっくに」
「あはは、咲ったら面白い事言うのね」


「仮面越しのキスは、キスなんて呼ばないのよ?」


部長が私の顎を持ち上げる

酷く胸が高鳴った
唇が少しずつ近づいてくる
顔にかかる部長の吐息が、
私の頭を真っ白に染める

どうして、確かに経験済みのはずなのに
どうしよう、こんなの私は知らない

ぎゅっと堪えるように瞼を閉じる
さながら、あの日の再現でもするかのように

やがて唇に触れる小さなぬくもり
ただ、ほんの一瞬触れただけなのに
胸の鼓動が激しくなって、酷く涙腺が緩み出す

堪えるなんてとても無理
涙が後から後から零れて、
みっともなく泣きじゃくってしまう


「ああ、もう……そんなに泣かないのっ……」

「っ゛、でも、ぶちょうも゛、ないて、ま゛す」


二人して肩を震わせる

フィルターなしに受け取る刺激は、
何もかもが強過ぎた

こんな刺激が続いたら、
生きていけないとすら思う

でも、それでも
私達はもう二度と、仮面をつけたりしないだろう


「……ね、さき。もういっかい」

「……はいっっ」


仮面を脱いだ素顔のキス
剥き出しの心に触れるそれは、
気が違う程の安心を与えてくれるから


もう、私達に仮面は必要ない


頬を涙で染めながら、私達は再度口づけた


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2017年11月15日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
ひっささきひっささき‼️
Posted by at 2017年11月17日 08:53
咲さんかわいい
Posted by at 2018年01月06日 14:59
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