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【咲-Saki-SS:咲久】 久「30歳の誕生日」【誕生日SS】

<お知らせ>
11月13日から竹井久誕生日習慣という事で
5日連続でSSを公開します。

<あらすじ>
竹井久30歳が、宮永咲28歳に祝われます。

<登場人物>
竹井久,宮永咲

<症状>
・共依存(軽症)

<その他>
・竹井久誕生日SSです。Twitterでいただいたお題
『30歳の誕生日』『久咲同居』より。

・誕生日SSなので病み要素はほぼなしです。ご注意を。



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『誕生日』


それを素直に喜べなくなる境界線があるとしたら、
やはりこの辺りにあるのだと思う。

そういえば大昔、小鍛治プロが
『アラサーだよ!って何言わせるの!』なんて
持ちネタを披露してたっけ。

思い起こしてクスリと笑う。
あの頃は、自分がそう呼ばれる日が来るなんて
想像もしていなかった。

輝かしかったあの頃から十年と少し。
私は明日、三十路の世界に足を踏み入れる。


「ただいまー」

「おかえりなさい」


スーパーから帰還する。少し肌寒さを感じる季節、
身震いしながら扉を開けると、同居人が言葉をくれた。
姿は見えない。どこかで掃除でもしているのだろう。
その自然さが心地いい。

さて、まずは買ってきたものをしまってしまおう。
ビニール袋から牛乳を手に取り、冷蔵庫の取っ手を掴む。
漏れだした冷気とともに、視界に飛び込んでくる白い箱。
朝はなかった大きな箱が、冷蔵庫の中央を陣取っていた。

中身を確かめるまでもない。何度も見た箱だったから。
自然と頬が緩んでいく。同時に、
このケーキがもたらすカロリーを想像して
少しだけ眉が下がった。


(咲って本当に律儀よねえ。別に、
 もう誕生日なんて祝わなくていいと思うけど)


そう思うのも初めてじゃない。
二十代も後半に差し掛かり、年を重ねる事に抵抗を覚え始めた頃。
苦笑しながら語る私に、彼女は穏やかに微笑んで見せた。


『大切な人が、今年も生きていてくれる。
 顔を見て祝う事ができる。
 それって、すごい事だと思うよ』

『……そうね』


異論はなかった。

今こうして咲と二人で誕生日を迎えられる事。
それはある種の奇跡と言えただろうから。

人はいつ死ぬかわからない。
そうでなくとも、別れは冷酷に訪れる。
まして年をとればとる程、
関係を繋ぎ止めるのは難しくなるものだ。


高校の頃は、友達にもプレゼントを渡してた。
決して多くないお小遣いとにらめっこして、
他愛もない文房具にありったけの友愛を籠めて。
自分なんかパーティーまで開いてもらってたっけ。

友愛は大学に入って飲み会に姿を変えた。
飲み代を奢ってもらったり、
ちょっとした小物をもらったり。
プレゼントの金額は上がっただろう。
でも、何をもらったか思い出すのには苦労する。

少しずつ。少しずつ特別感が薄れていく。
そして卒業した後は、
思い出したようにLINEで『おたおめ』。


何度も年を重ねる度に、人間関係は削ぎ落とされていった。
いや、もちろん仕事仲間とか、新しくできた関係もある。
でも、わざわざ誕生日を祝いあったりなんてしない。
というか、相手の誕生日なんていちいち聞かないし。


そんな今の私にとって。
大人になっても面と向かって、誕生日を祝ってくれる人。
そんなの、家族か恋人くらいのものだろう。

そこまで考えて首を傾げる。『家族か恋人』、か。
咲は、私にとってどちらなんだろう。


物思いに耽っていたら、寝室から咲が顔を出した。
ケーキの箱をにらめっこする私を見て口角をあげる咲。


「料理も頑張るから期待してね!」


腕をまくって握りこぶしを作る咲を見ても、
答えを見つける事はできなかった。



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『30歳の誕生日』




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咲と同居を始めてから、今年でもう十年になる。

一足先に卒業した私を追い掛けるように、
咲は私と同じ東京の大学に進学してきた。

家賃が高くて生活が大変なんて言うものだから、
『それならルームシェアしましょっか』
なんて気軽に誘いを持ち掛けて。
一つ屋根の下に住む事になった。

それからズルズルと早十年。
卒業して就職してからも、アパートを引き払う事も無く。
私達は今もこうして、二人寄り添って暮らしている。


それは酷く、不思議な関係。


私達の関係に、法律上の繋がりはない。
恋人なのかと問われても、
愛を囁いた事もなければ唇を重ねた事もない。

なのに、家族よりも距離が近い人。
もし私がこの世を去ったら、
一番最初にその事実を知る事になる人。
でも。恋人ってわけじゃない。


何度も誕生日プレゼントを贈りあった。
いい加減贈る物が思いつかなくて頭を悩ませる程に。
クリスマスもバレンタインも一緒に居た。
それでも。恋人ってわけじゃない。


咲にとって、私はどんな存在なんだろう。


明日、私は三十歳になる。咲にしても二十八だ。
このまま、咲と関係を続けていていいんだろうか。
それは私のみならず。
咲の幸せを奪う事になりはしないか。

そんな事を思いながら寝床に入る。
三十歳の誕生日は、もう二時間後まで迫っていた。



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「誕生日おめでとう、久さん」

「ありがと、咲。じゃあお仕事行ってくるわね」




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三十歳の誕生日。お祝いの言葉を受け止めながら、
私はブーツに足を通す。


「こんな日くらい休めばいいのに。私は有給取ったよ?」
「ごめんごめん、その代わり帰りは定時ダッシュするから」


今年の誕生日は月曜日。残念ながら出勤だ。

『誕生日だから休みます!』
昔の私なら言ったかもしれないけれど、
今の私には休むという発想自体がなかった。

別に社畜根性が染みついたつもりもないけれど。
単純に『三十路の誕生日』に魅力を感じないからだろう。
当然のように出社して、いつも同様に業務をこなす。


「じゃあお先に失礼しますね」
「お疲れさまー」


労働にいそしむ事八時間。私はパソコンの電源を落とすと、
颯爽とデスクを後にした。
さあここからオフタイムだ。
家に帰れば咲がごちそうとケーキを用意して待っている。

そういえばプレゼントは用意してあるのかしら。
去年はコートだったっけ。でも、結局咲は自分じゃ選べなくて
二人で一緒に見に行ったのよね。

一昨年はお揃いのアクセサリー。まあ、私が先に贈ってたから、
単に一緒に買い物したみたいになっちゃったけど。

なんて、歴代のプレゼントを思い浮かべて頬を緩める。
なんだ。結局、なんだかんだ楽しみにしてるんじゃないか。


肩に疲労を覚えつつも、軽い足取りで帰路に就く。
玄関を開けた途端、ごちそうの香りが鼻をくすぐる。
私は思わず破顔すると、『ただいま』と声を張り上げた。



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三十歳の誕生パーティーは、
『いつもどおりに』行われた。


沸かされていたお風呂に入って、身も心も清めた後。
咲が作ったご飯に舌鼓を打つ。

しばらくしてお腹がこなれてきたら、
咲がケーキを取り出してきて。
大きなロウソクを三本立てると、
部屋の明かりを消して歌い出した。


「ハッピバースデー ディア 久さん〜〜♪
 ハッピバースデートゥーユー♪」


ロウソクに照らされた薄闇の中、
笑顔の咲がパチパチと手を叩いて。
和気藹々と二人でケーキをパクつく。

もう何年も繰り返してきた恒例行事。
それが普段と違う様相を呈してきたのは、
すっかりケーキを胃袋に収めて
歯を磨こうかと腰を持ち上げた時だった。


「待って、久さん。今年はまだ終わりじゃないから」
「ん?もしかしてプレゼント?
 次の週末に買いに行くパターンかと思ってたけど」


「ううん。三十歳の誕生日だし、特別なものをご用意しました!」


私は思わず居住まいを正す。

茶目っ気たっぷりの咲の言葉、でもその声音は強張っていて。
表情も酷く硬かったから。

何てことない風を装いながら、でも、
ガチガチに緊張した様子で咲は部屋を去っていく。
次に戻ってきた時には、その手に何かを携えていた。


「……っ」


ドラマかなんかで見た事がある。
ほらあの、プロポーズの時にパカッとする奴。
そう、咲の手に納まっていたのは――



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――リング、ケースだった。




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咲は意を決したように。
ゆっくりと。ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。


「最近、久さんから視線を感じてたんだ。
 あんまり嬉しくない視線。
 多分、こう思ってたんだよね?」

『このままでいいのかしら』
『女二人、結婚もせずダラダラ同棲』
『挙句、恋人ってわけでもない』
『そろそろ。生活を見直した方がいいんじゃないかしら』

「って。違う?」
「……ま、考えなかったと言えば嘘になるわね」


ううん。むしろ、社会人になってから
ずっと考えていた事だ。

人恋しさを咲で埋めていた。
でも、恋人になろうとは思わなかった。
そこに愛はなかったから?
違う。私は、咲を愛している。


でも、どうしても怖かった。
『家族』という枠に収まって、やがて破局を迎える事が。


私の両親、咲の両親。
どちらも円満な家庭だったとは言い難い。
自分の過去を顧みても、
幸せなイメージを描くのは難しかった。

それ以前の問題もある。同性愛に対する抵抗。
薄らいではいるものの、いまだこの日本で
同性による結婚は認められていないのだ。

私達の前途はつらく険しいものになるだろう。
一度は幸せの絶頂を迎えても、その後引きずり落されるなら。
ずっと曖昧な境界に佇んでいたかった。


「久さんは昔からそうだよね。
 怖がりで、いざという時にはいつも待っちゃう」


表情を強張らせたまま、それでも咲はぎこちなく笑う。

おっしゃる通りで言葉がなかった。
策はいろいろ張り巡らす癖に、
最後には相手に選択を委ねてしまう。

麻雀でもそう。牌が来てくれるのを待つ。
人間関係もそう。相手が来てくれるのを待つ。
来てくれなかった時は……ただ諦めて嗚咽する。


「私は逆。相手の状況とかお構いなしで突っ込んじゃう。
 どっちかと言えば悪癖だけど」

「でも、だから。私達って相性いいと思うんだ。
 多分、これからもずっとやっていけると思う」


「だから……私と、結婚してください」


小刻みに震える指で、咲はぎこちなくリングケースの留め金を外す。

そこに収められていたのは、シンプルな指輪が二つ。
華美過ぎず、でも上品な輝きを放つプラチナリング。
どう見ても結婚指輪でしかないそれから、咲の本気が伺えた。


咲が指輪を手に掴む。


「日本じゃ結婚できないわよ?」
「フランスにでも行けばいいんじゃないかな?
 明華さんとか結婚してたよね」

「…私の両親、離婚してるわよ?」
「関係ないよね?」

「……私、心が弱いし……寂しがり屋だし……
 おまけに独占欲まで強いわよ?」
「お互い様だし、今更過ぎだよ」

「ほかにある?久さんが不安に感じる要素。
 あるなら全部潰して見せるよ。どんな些細な事でも、全部」
「……今のところ、思い、つかないわ」


「そっか。無いなら…いいよね?」


咲が私の指を掴んで、薬指に指輪を通す。
少し寸法が合わなかったのか、
間接に引っ掛かってすんなりとは通らない。

それでも咲はぐっ、ぐっと指輪を動かしながら、
強引に根元まで押し込んだ。


「…えへへ、嬉しいな。これで久さんは私のもの」
「……はあ、強引ね。というか、
 指のサイズくらい測っておきなさいよ」

「これでぴったりなんだよ。はめる時は
 関節で苦労するくらいがいいって聞いたんだ。
 ……そう簡単に、抜けないように」
「壊死とかしないわよね?」
「くるくる回せるから大丈夫だよ」


「さ、久さんも」


対のリングを手に取ると、咲が私の掌にのせる。
私達を永遠に縛り付ける手錠。
さして大きくもないそれは、なぜかズシリと重く感じた。

壊れものを扱うように、咲の指をそっと掴む。
こちらの指輪も簡単には通らなかった。
強引に力でねじ込む。咲が私にしたように。


咲がその手を天にかざした。
煌く指輪を見て細められた咲の目は、
潤んで光を反射している。


「これ、で。私。久さんのものになれたんだよね」
「ええ。私を、貴女にあげる」

私達は手を繋ぐ。強引に押し通った指がジンジンと痛くて熱い。
その痛みが酷く優しくて、不意に目頭が熱くなる。


「これからも、よろしくね」
「……うん」


そして、私達は互いを抱き締めて。
三十にして初めて口づけた。



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こうして、三十歳の誕生日は終わりを告げる。
曖昧だった関係に終止符を打ちながら。


私達はこれからも、二人で誕生日を繰り返していくのだろう。

十回、二十回、もっとたくさん?
そのうち新鮮味なんて無くなって、
どう祝ったかすら思い出せなくなる、かもしれない。


でも、何度誕生日を重ねても。
この三十歳の誕生日だけは、決して忘れはしないだろう。


だって、この日は初めて咲と結ばれた日。
永遠に咲に囚われた日。そして――


――『家族』という悲しい呪詛が。
『幸せ』に変わった日なのだから。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2017年11月17日 | Comment(2) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
同性愛にとって未来は厳しそう、最悪後戻りできない。
Posted by at 2017年11月18日 00:44
すごくよかったです

最後にふさわしい話でした‼️
Posted by at 2017年11月18日 04:27
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