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【咲-Saki-SS:久咲】 久「寒さは二人の傷を癒して」【ほのぼの】

<あらすじ>
冬の寒い日に久さんと咲さんが
ぬくぬくするだけのお話。
小ネタです。

<登場人物>
竹井久,宮永咲,その他

<症状>
・特になし

<その他>
・以下のリクエストの対するSSです。
 季節が冬のときの久咲を…



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寒い。

張り詰めたような部屋の寒さに、
無意識が耐えきれず目を覚ました。

時刻を確認すると午前4時。起きるには早すぎる覚醒に、
ため息をつきながら布団を被る。
それでも底冷えするような寒さから逃れる事はできず、
私は小さくまるまった。

これだから冬は嫌いだ。
生命の息吹をかき消すようなこの寒さも、
全てを無に帰すような静寂も、潤いを奪い取る乾燥も。
どれもこれも好きになれそうにない。

雪が降りしきる寒い夜。雪が音をかき消す夜。
独り布団に包まっていると、
一人ぼっちで世界に取り残された錯覚に襲われる。

末端から少しずつ熱を奪されていく感覚が、
活力が失われて意識があいまいになっていく感覚が。
まるで死に近づいてるように感じられて。
酷く寂しくて悲しくて切ない気持ちになるのだ。


(あ、こりゃ駄目だわ)


どこまでも気持ちが沈んでいく。
このまま頑なに縮こまっていても、
きっと朝まで眠る事はできないだろう。
私は諦めてベッドから身を起こす。

ホットミルクでも作ろう。
せめて身体だけでも温まれば、
意識を手放す事はできるはずだから。



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『寒さは二人の傷を癒して』




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ホットミルク作戦が功を奏したのだろう。
少しずつ睡魔が寄り添ってくる。

明日が休みでよかった。今から眠れたとしても、
きっと昼まで起きないだろう。
貴重な休みを無駄遣いする予感に嘆息しながらも、
私はそのまま眠りについた。
もっとも、そんな私の予想は覆される事になるのだけれど。


「んっ……さむ、い……?」


意識が途切れてからいくばくか。
またも寒さを感じて目を覚ます。

ただ、今度は寒さの質が少し違った。
温めたはずの空間に、突如として
冷え切った異物を投げ込まれたような感覚。
何事かと重いまぶたを開くと、
そこには確かに異物があった。


「あ……起こしちゃいました?」


視界いっぱいに、特徴的な寝癖を持つ栗毛が飛び込んでくる。
猫のようにまるまるその存在は、
最近通い妻と化した咲だった。


「思いっきりね。ていうか貴女冷た過ぎよ。
 せっかく頑張ってぬくぬくにしたのに」

「え、えへへ……起きるまで待ってようかと思ったんですけど、
 それにはちょっと寒過ぎて」

「ストーブつければいいじゃない」

「今、欲しいのはそういう
 あったかさじゃなかったので」


言いながら、咲が私にすり寄ってくる。
遠路はるばるやってきたその身体は限界まで冷え切っていて、
私からごっそりと熱を奪い取っていった。


「部長、あったかいですね」
「貴女は冷たいけどね」

「あっためてください」
「はいはい」


その冷気は私が嫌悪する冬と同質、でも不快さは感じない。
むしろ、絶対に私の熱であっためてやろうという
奇妙な高揚すらもたらした。


「あったかくなってきました」
「…………私もよ」


冷え切った咲の身体が少しずつ温もりを取り戻す。
それでも、冬が咲から奪い取った熱はかなりの量で、
布団はいまだ元通りとは言い難い。


(……なのに、不思議ね)


心がぽかぽかと温もっていく。
ホットミルクでも温められず凍りついたままだった心が、
少しずつ融け出していくのを感じる。

やがて咲の身体が熱を生み出し、私に熱を返し始める。
心と身体、両方が温もりに包まれていく。
不思議と涙腺がじわりと緩んで、
それを覆い隠すように咲を抱き締めた。


「眠くなってきちゃったわ。二度寝していい?」
「はい。私も少し寝たいです」


私達は抱き合うと、そのまま二人で眠りに落ちる。
眠りを妨げるはずの障害は、咲が全部取り払ってくれていた。



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二人でたっぷり眠り込む。
再び意識が戻った時、時計の短針は
12まで進んでしまっていた。


「はあ……結局お昼まで寝ちゃったのね」


こぼしながら背伸びする。と同時に、
朝をすっ飛ばされたお腹が不満そうに
きゅるると小さく鳴き声をあげた。

さてどうしたものだろう。
何か食べたいとは思うものの、
身体はまだダルさに侵されていて
料理を作る気にはならない。


「あ、私お昼ご飯買ってきましたよ」


しばらく私の傍で蠢いていた咲が、
冷蔵庫からコンビニのビニール袋を取り出す。
慣れた手つきで弁当を電子レンジにセットすると、
そのまま温めボタンを押した。


「最初から昼まで寝るつもりだったのね」
「部長が起きてたら作るつもりでしたけど。
 多分寝てるだろうなって思いましたから」

(そこまでわかってるなら、最初からお昼前に来て
 ご飯を作ってから起こせばよかったんじゃ?)

言葉が喉をせりあがる。でも言葉を飲み込んだ。
今更ながらに気づいたからだ。
屈託なく笑う咲の目元に、うっすらとクマができていた事に。

きっと咲も同じだったのだ。
冬に囚われ、孤独に襲われ、眠りを妨げられて震えていた。
やがてどうしても耐えられなくなって飛び出して来たのだろう。

ただ私と違うのは、それでも咲は動いた事。


(ああ、やっぱり咲にはかなわないわね)


お互いに寂しがり屋であまえんぼ。
でも、内にため込んで潰れていく私に対して、
咲は震えながらも足を踏み出す。

別に私のためじゃないかもしれないけれど。
こういった咲の行動に、私は何度救われてきただろう。


「……?私の顔、何かついてます?」
「ああ、気にしないで。可愛過ぎて見とれてただけだから」
「も、もう!すぐそうやってからかうんですから!」


いつか素直に、ありがとうを伝えたい。

臆病で恥ずかしがり屋の私では、
いつになるかはわからないけど。

そんな事を考えながら。
電子レンジのピーという音に邪魔されるまで、
頬を染める咲を見つめ続けた。



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ご飯を食べて少し休んで、二人でちょっとゲームに興じて。

やがて咲が帰る時間になっても、
雪はこんこんと降りしきっていた。
窓の結露を指で拭った後、一面の銀世界を確認して
咲が大きくため息をつく。


「うわ……来た時より酷くなってる」

「……やだなぁ」


部屋を震わせたその声は、
いつも以上に沈んで聞こえた。

単純に帰るのが億劫になる、
それも事実ではあっただろう。
でも多分咲はこう思った。

『今夜も、きっと眠れないんだろうな』って。

根拠もなくそう確信した。
だって、私も同じ気持ちだったから。

今度は私の番だ。このまま咲を帰しはしない。


「無理して帰る事ないわよ。
 今日はいっそ泊まってったら?」
「……そうですね!」


沈んでいた声が一転し、まるで花が咲くような笑顔に変わる。
余程嬉しかったのか、咲は私にすり寄ってきた。


「今夜もすごい寒そうだしね。
 ちょうど湯たんぽが欲しいと思ってたのよねー」
「もう、私は湯たんぽ替わりですか」

「名付けて咲たんぽね。これはきっと売れるわよ!」
「買ってくれるの部長だけですってば」
「まあどのみち数量1個の限定販売だしね」


他愛もないやり取りをしながら、私は咲を抱き寄せる。
ああ、本当に温かい。今夜はぐっすり眠れそうだ。
そう考えたら、あれ程怖くて震えた夜が
少しだけ楽しみになった気がした。



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時計の短針が10を指す。
お風呂に入ってパジャマに着替えて。
それでも雪は降り続けていた。

冬特有の静寂が周囲を支配する。
ストーブを消した部屋は急速に凍てついていき、
空間は瞬く間に極寒の世界を取り戻した。

ただ昨日と違うのは、私の懐には咲が納まっている事。


「うーん、本当にあったかいわねぇ咲たんぽ。
 これはもう手放せないわー」
「部長もあったかいですよ?
 湯たんぽの素質あると思います」


我が家の室温は一桁で、吐く息すら白く濁っていく。
もしかしたら昨日より寒いかもしれない。
なのに、今はこんなにも温かい。


「……部長、ありがとうございます」
「ん?急に何?」
「泊めてくれて」
「あの雪の中帰す程鬼じゃないわよ」

「そうじゃなくて……気づいてたんですよね?」


腕の中におさまる咲が、上目遣いで私を伺う。
まだクマの残る目が私を捕らえて離さない。


「こういう寒い日、苦手なんです」
「世界に一人だけ置き去りにされた気分になって」
「怖くて、寂しくて、涙が止まらなくなるんです」


訥々(とつとつ)と語られる咲の独白。
それはまるで、私の内面を答え合わせしているようで。
咲の感じた震えが、孤独が。有無を言わせず入り込んでくる。


「寒くて、もう無理だと思ってストーブを付けました。
 そしたらあったかくなったけど、
 今度はカラカラに乾いてきて。
 全身に嫌な熱が溜まって、気が狂いそうになって」


咲は小さく震えながら、ぎゅうと私にしがみ付く。
その感覚には覚えがあった。
だってそれは、私が昨日どんなに寒くても
ストーブをつけなかった理由でもあったから。


「それで一晩中ずっと起き続けて、
 部長の家に来てようやく眠れたんです」

「今日、もし帰ってたら。
 多分同じ事になってたと思います」

「だから、ありがとうございます」


感謝の言葉を口にしながら、咲は私の胸に頬ずりする。
複雑な思いが胸を駆け巡った。
愛する人を救えた喜び。苦しみを共感できた嬉しさ。


そして何より……いまだ私達を苛み続ける孤独へのやるせなさ。


家族を取り戻してもなお。
愛する人ができてもなお。
いまだ咲の心には。そして、私の心にも。
過去の精神的外傷が、深く奥まで根付いている。

そう考えたら胸が苦しくなってきた。
今日は確かに咲を救えた。そして同時にもちろん私も。
でも明日はどうだろう。
もしこのまま、雪がいつまでも降り続いたら?

いつしか私は、ひとりでに口を開いていた。


「ねえ、咲。私に感謝してくれるなら、
 こちらからも一つお願いがあるの」
「……なんですか?」

「咲たんぽ、一つ譲ってくれないかしら?」
「もう、部長使ってますよね?」

「今日だけじゃなくて、明日も。明後日も。
 これからも、ずっと」
「……そ、それって」

「ねえ、譲ってくれない?
 私に差し出せるものなら何でもあげるから」


驚きに見開かれた咲の瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が零れる。
咲は嗚咽を繰り返した後、やがて一言だけ呟いた。


「……じゃ、あ。部長と、交換でお願いします」


相談成立。私は咲を抱き締める。
私に包まれた湯たんぽは、
いまや燃えるように熱くなっていた。

この調子なら、今夜は寒さに苦しめられる事もないだろう。
そしておそらくは明日からも。
そしてその後も、ずっと、ずっと。



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冬が嫌いだった。

生命の息吹をかき消すようなその寒さも、
全てを無に帰すような静寂も、潤いを奪い取る乾燥も。
どれもこれも、好きになれそうになかった。

でも少しだけ月日が経った今。
私は、冬に対する認識を改め始めている。

周囲が凍てつきこごえる中で、二人寄り添うのが好きだ。
騒音が全てかき消される中、かすかに聞こえる彼女の寝息が好きだ。
抱き合い続ける事で汗ばんで潤った肌が好きだ。

幸せを実感させてくれるプレゼント。
いつしか冬は、私にとって怖いものではなくなっていた。


「今日も、雪が降りそうだね」


あの日と同じように結露した窓を拭きながら、
咲が私に微笑みかける。
その言葉が呼び声になったとばかりに、
空に雪がちらつき始めた。


「今夜は寒くなりそうねー。これは湯たんぽさんに
 相当頑張ってもらわないと」
「うん、頑張って久さんをあっためるね」


湯たんぽがしがみ付いてくる。
温もりが伝わってきた。それは、
心の奥にまでじんわりと優しく染み渡る温もり。
頬を緩ませながら、私は一人結論付けた。


『うん。やっぱり、二人なら冬も悪くない』と。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2018年01月20日 | Comment(9) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
冷え切った躰に心の湯たんぽ……。
人肌ってなんか暖房器具とは違う心地よい温もりがありますよね……。
Posted by at 2018年01月20日 21:55
ヤン…?病m…?狂k??
あれ?ここ何のブログでしたっけ…?

不純物のないほのぼのも良いものですね〜。尊すぎてこっちまで温まりますよ
Posted by at 2018年01月20日 22:09
前回とは打って変わってほのぼのした話でほっこりしました。たまには病みなしの甘い話も素敵ですね。
Posted by at 2018年01月21日 08:03
ちょっと身構えてたけど普通にほのぼのだったw
寒さ=死or束縛系かな?と思ってしまったことを反省したいです
Posted by at 2018年01月21日 14:42
ぷちさんの書く久咲は
ヤンデレでも甘々でも
とても美しく大好きです!


久さんかわいい
Posted by at 2018年01月22日 12:51
もはや言葉は不要か…(ぽかぽか
ドロドロ咲久系も大好きだけどほのぼの咲久純愛系もすこ

咲たんぽと久たんぽの熱に包まれて永眠したい…したくない?
Posted by at 2018年01月23日 19:34
ひっささき!ひっささき!
Posted by at 2018年01月24日 00:21
この久咲を讃えきる語彙力がないのが悔やまれます
本当にすばらしい百合をありがとうございます!
Posted by at 2018年01月24日 21:29
コメントありがとうございます!

>暖房器具とは違う心地よい温もりが
咲「表面はひんやりしつつも
  奥からじんわりと伝わるぬくもりが…」
久「この、浸透してくるぬくもりは
  機械じゃ得られないわね!」

>あれ?ここ何のブログでしたっけ…?
>たまには病みなしの甘い話
咲「ヤンデレ狂気の百合SSブログです!
  確かにちょっとぬるすぎますね!」
久「これ微妙に闇抱えてると思うけどなあ」

>寒さ=死or束縛系かな?
咲「リクエストした人が病み系苦手だったので」
久「リクエストによっては
  普通にそっちになったかもね」

>ヤンデレでも甘々でもとても美しく大好き
咲「ありがとうございます!
  原作が奇麗なのでできれば
  イメージは壊さずに続けたいです」
久「まぁ病みが入ってる時点であれだけどね」

>ほのぼの咲久純愛系
咲「愛や行動の重さの違いだけで、
  基本的には純愛になると思います」
久「どちらも一途に重いものね」

>ひっささき!ひっささき!
久「ひっささき!」

>久咲を讃えきる語彙力がない
久「どんな些細な言葉でも
  感想がもらえる事が嬉しいわ!」
咲「こちらこそありがとうございます!」

Posted by ぷちどろっぷ@管理人 at 2018年02月24日 20:57
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