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【咲-Saki-SS:久洋】久「それは酷く些細なきっかけ」【あまあま】

<あらすじ>
短いのでなし。

<登場人物>
竹井久,愛宕洋榎,末原恭子

<症状>
・あまあま砂吐き

<その他>
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贈ってくださった方のリクエストで
久洋描きました!
(ご本人より許可をいただいたうえで
 ミニサイズをブログに公開)
せっかくなので小ネタSSも添えて。



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物語の始まりは、いつだって些細な事がきっかけだ。
今から語るお話もそう。
なんて事のない雑談から始まった。

インターハイが幕を閉じ、みんなで激闘に思いを馳せる。
印象に残ったシーンを語り合う中、
ふと優希が思い出したように口を開いた。


「印象に残ってると言えば、
 2回戦の部長にはビックリしたじょ」

「あー、あの緊張し過ぎで挙動不審になっとったやつか」

「ちょっともう、思い出させないでよー」


そう、団体戦の二回戦、私は窮地に陥った。
公式試合初めての見せ牌から始まって、
ありえないような放銃を連発。
点棒吐き出しマシーンと化したのだ。


「部長があんなにやられるのって珍しいですよね。
 でも、緊張してたっていうなら納得です」

「うーん。まぁ、気の持ちようもあったけど。
 単純に相手も手強かったと思うわよ?」

「でも準決勝ではちゃんとやり返して
 大差でトップだったじょ?」


やっぱり中堅最強は部長だじぇ!
なんて朗らかに笑う優希を横目に、
私はある人物の顔を思い出していた。
姫松高校の中堅、愛宕洋榎さんの事を。

私個人に限定すれば、このインターハイで
一番印象に残っているのは間違いなくあの子だ。
2回戦で一方的に私を打ち負かした子。
純粋に麻雀を楽しんでいた子。

それでいて……私を立ち直らせてくれた人。


「よく考えてみたら、一勝一敗でイーブンなのよね」


このまま終わるのは気が引けた。
できればもう一度戦いたい。
今度は引き継いだ点棒もプレッシャーもなしで、
私達二人だけの真っ向勝負を。


「よし。ちょっと再戦を申し込んでくるわ」

「えぇ!?い、今からですか!?」


善は急げ。今ならまだ姫松も東京にいるかもしれない。
逸る気持ちをそのままに、私はホテルを飛び出した。



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「主将。そろそろバス出ますよ」

「んあー、もうちょっと待ってや」


兵どもが夢のあと。インターハイも終わって
皆が帰り支度を整える中。
私、愛宕洋榎は一人物思いにふけっていた。

私達の夏が終わった。結果は準決勝敗退。
はっきり言ってしまえば微妙、
とても胸を張れるような成績ではない。

だから、くすぶるものがあるのは事実なのだけれど。
ただ。そういった悔しさとはまた別の感情が、
今もなお、私をここに縛り付けている。


「……楽しかったな」


そう、楽しかった。
役満を和了った1回戦も。快勝できた2回戦も。
そして、敗北に繋がった準決勝さえも。


「もうちょぃ打ちたかったなぁ」


思わずつぶやいた独り言。
その言葉は『……あいつと』と続いた。
あいつ?一体誰の事だろう。

瞼を閉じれば脳裏に浮かぶ。
ライトに照らされたステージ、その中心で、
不敵に口角をあげながら牌を打ち上げるその姿。

ああそうか、清澄高校の中堅だ。
確か名前は竹井久だったか。

よく考えてみれば一勝一敗。
あいつとは決着がついていない。
なんとなくすっきりしないのは、
あいつが原因なのかもしれない。

今なら向こうもまだ東京にいる可能性は高い。
帰る前にもう一戦くらいできないだろうか。


「なんて、流石にもう時間あらへんか」


気づくんが遅かったなぁ、なんて独り言ちながら立ち上がる。
かばんを背負い、帰りのバスが待つバス停に向かうべく
ホテルの部屋を踏み出した時……
訝し気な恭子の声が鼓膜を揺らした。


「主将。なんか清澄の部長が訪ねてきたんですけど」



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恭子と二人、ホテルのロビーに足を運ぶと、
見覚えのある女が微笑みながら佇んでいた。


「やっほー」


竹井久だ。でも、よく見れば少しだけ前と違う。
試合の時はおさげだった髪が、
解かれて緩やかなウェーブを描いていた。


「よぉ来たな。ていうかなんで
 うちらのホテル知っとるん?」

「いや、知らなかったんだけどね。
 インターハイの関係者が泊まるホテルって
 この辺が多いらしいから」

「適当にぶらついてたら見つけたってわけ」

「見つけたっちゅぅ事は、最初から
 うちらが目当てやったんか」

「そ。正確には貴女だけどね」


竹井は目を細めてにこりと笑う。
なぜか心音が一オクターブ上がった気がして、
ごまかすように口を開いた。


「奇遇やな、うちも会いたいと思っとったんや。
 アンタとは一勝一敗で分けやったしな」

「お、じゃあさっそく再戦を……
 と言いたいところだけど、もう時間切れみたいね」


竹井が残念そうに片眉を下げながら外を見る。
ホテルの入り口には、すでに姫松の貸し切ったバスが
エンジンをかけたまま停車していた。


「そうみたいやな。なぁ恭子、
 出発まで後どのくらいあるん?」

「荷物詰め込む時間含めて
 後15分っちゅぅところですわ」


微妙な時間だった。世間話には長いけれど、
麻雀を打つには全然足りない時間。

とりあえず連絡先を交換して、
再戦はまた今度か……なんて思っていたら。
竹井が何かを思いついたように、
ぱん、と小気味よく手を叩いた。


「あ、じゃあちょっとしたミニゲームでもしない?」

「ミニゲーム?」

「うん。それで勝った方がこの夏の勝者って事で」

「お、それええな。ビシッと勝って気持ちよぉ帰ったるわ」

「あはは。負けちゃって顔真っ赤にして
 帰る事になるかもしれないけどねー」

「ないない、ミニゲームやらせたら
 うちの右に出る奴なんてまあほとんど
 あんまそんなにおらんで?」

「結構おりそうやな」


ゲーム、ゲームか。最悪ジャンケンでもいいけれど、
どうせならもうちょっと面白味が欲しい。
なら、『いっせーのーで』とかどうや?
いや、やっぱなし、絵面が地味過ぎる。

二人して顔を突き合わせて考えていると、
心底どうでもよさそうな顔をした恭子が
ぶっきらぼうに吐き捨てる。


「いや、なんでもええですやん。
 にらめっこでもしたらどうですか。
 レフェリーなったるんで」

「お、ええな!姫松一の変顔マスターとはうちの事やで!」

「それって女子として誇っていいのかしら」

「あー、それならせっかくなんでカメラでも回しときますわ。
 二人の変顔が未来永劫世界に残り続けるように」

「ちょ、やりづらなるやん!?やめてや、
 あんな顔残されたら嫁に行かれへん!」

「どんだけ変な顔するつもりなのよ」

「はい、もう撮り始めてるんでちゃっちゃと
 嫁に行かれへん顔したってください」


マイペースにビデオカメラを構えた恭子は、
はよ、とばかりに勝負を促す。

仕方なく、脳内に千年の恋も一気に冷める
最強最悪の変顔を思い浮かべて――



--------------------------------------------------------




表情を変える前に、竹井に詰め寄られた。




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目と鼻の先。前髪が触れ合う程の近距離に、
竹井の顔が飛び込んでくる。


「ちょ、近い近い近い!なんやねん急に!」

「いやね、カメラで撮られるとなると、
 にらめっこは流石に嫌でしょう?
 だからチキンレースに変更しましょ?」

「チキン、レース?」

「そ。今からこうやって見つめあって、
 先に視線を逸らした方が負け」

「どうかしら?」


なんとなく直感した。この勝負は多分不利だ。
でもそこは腐っても姫松高校の主将、
挑まれた勝負をオリるわけにはいかない。


「お、面白いやんけ。そのケンカ買ったるわ」

「ふふ。じゃあ、今からスタートって事で」


話すや否や、竹井がさらに距離を詰めた。
鼻先が触れ合う程の至近距離で、
竹井の瞳に正面から見つめられる。


「ちょ、だから近い、近い!」

「そりゃあチキンレースだもの。
 動きがないと面白くないでしょう?」


夕暮れ時。陽に照らされた竹井の髪は、
キラキラと眩いばかりに輝いている。

頬がほんのり赤いのは、
やっぱり夕陽の色なんだろうか。
なんて事を考えたら、自分の頬も火照り始めた。


「あ、ちなみに私一歩も引く気ないから」

「う、うちかて」

「そっか。じゃあ、このまま
 どっちも引かずに近づくとしたら……
 キスする事になっちゃうわね」

「ちょ、それはあかんやろ!?」


竹井の吐く息が頬を撫でる。
ちらり、竹井の唇が視界に入る。
駄目だ、意識してしまった。

心臓が早鐘のように鼓動を打ち鳴らし始める。


「あら。私は別に洋榎とならいいわよ?」


ぞくぞくっと電流が背筋を駆けのぼる。
怖気に近い、でもそれだけじゃない不思議な感覚。
それは恐怖?それとも、期待?

ただ、胸の鼓動はさらにスピードを増した。


「……あげちゃおっかな。私のファーストキス」


竹井の唇が近づいてくる。ぷるんと艶めいて柔らかそうな唇。
もう吐息は触れ合っている、そのまま近づけば、きっと。


(あかんっ……)


耐え切れず、私は思わず瞼を閉じた。

20180430_久洋_mini.png


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「はい、私の勝ち〜〜」



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勝ち誇った声に目を開ける。
竹井がしてやったりとばかりに
舌を突き出して笑っていた。


「ちょ、おま、んな、なぁ!!」

「あっははは!洋榎のキス顔可愛かったわよ!」


顔が灼けたように熱くなる。
こいつ、ホンマなんやねん!!
こっちは、こっちは本当に――


「じゃ、これは勝者の特権って事で」


感情が爆発し過ぎて言葉が詰まる中、
竹井の顔がもう一度近づいてくる。
近づいてくる、近づいてくる。


そして――


「ご馳走様!じゃあね!再戦楽しみにしてるわ!」


すっと身を引いたと思えば、竹井はまくしたてるように
捨て台詞を吐いて去っていく。
私は何が起こったのか理解もできず、
呆然と立ち尽くすしかなかった。

無意識のうちに唇を指でなぞる。やわらかい感触。
本当に。本当にほんの一瞬ではあったけど。
でも、確かに唇が重なったような。


「え?もしかして、今のがうちのファーストキス?」

「……はぁ、図らずも青春ラブコメ映画撮ってしまったわ」


ぼやくような恭子の声が、私を現実に引き戻す。
次の瞬間、私は恭子に飛び掛かると、
ビデオカメラをひったくった。



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走る、走る、走る、走る。
ただガムシャラに走り抜けて、
ホテルが完全に見えなくなったのを確認すると、
ようやく私は足を止めた。


(……はぁ。なんであんな事しちゃったのかしら)


まだ唇に感触が残っている。
ちょこんと触れる程度だったけど、
温かくて、やわらかくて、
脳が甘く痺れてしまいそうなキス。

それは私の、人生で初めてのキス。
もう二度と戻ってこないファーストキス。
なのに、なんでこんな簡単に。


(なんで、って…そんなの決まってるわよね)


どうやらまた引き分けてしまったらしい。
チキンレースには勝った。でも、勝負には負けた。
だって、恋は惚れた方が負けって言うでしょう?


(なんて、負けっぱなしでいるつもりもないけどねー)


そう、今はまだ二勝二敗だ。戦績はイーブン。
すぐにまた再戦して、今度はきっちり勝ち逃げしよう。
あの子の心をちゃんと奪って。

まだ高鳴る胸の余韻。その心地よさに浸りながら、
スマートフォンを取り出して連絡先アプリを開く。

「ひ」の欄に並ぶ『洋榎』の文字。
思わず笑みを浮かべつつ、そこに4文字付け足した。



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『洋榎(恋人予定)』



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物語の始まりは、いつだって些細な事がきっかけだ。
私がこれから溺れるお話もそう。

ファーストキスから始まるお話。
それは、私とあの子の恋物語。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2018年05月11日 | Comment(4) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
綺麗な部長すきやわぁ〜

久さんかわいい。
Posted by at 2018年05月12日 12:03
なんだこの甘酸っぱい青春は…
久しぶりに姫松のキャラが見れて良かったです!
イラストも可愛くて好きです
Posted by at 2018年05月12日 13:57
部ひろも好きなので良かったです。
続きがあれば読んでみたい。
Posted by at 2018年05月13日 19:52
コメントありがとうございます!

綺麗な部長すき>
久「たまにはこういう甘酸っぱいのもいいわよね!」
洋榎
 「いや、腹黒いは腹黒いやろ」

久しぶりに姫松のキャラが>
洋榎
 「このブログやとうちはほとんど出てこんしな」
久「あんまり病みそうにないし」

部ひろも好きなので>
久「実は一番最初にハマったのって
  久洋だったのよねー」
洋榎
 「続きは……リクエスト回来たら考えるわ」
Posted by ぷちどろっぷ@管理人 at 2018年05月19日 21:39
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