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【咲-Saki-SS:咏えり】えり「はぁ!?三尋木プロと一週間二人きり生活ですか!?」【ヤンデレ】【狂気】
<あらすじ>
咏「なしだ!タイトル見れば大体わかるだろうからねぃ!」
<登場人物>
三尋木咏,針生えり
<症状>
・狂気
・異常行動
・執着
・依存
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・濃厚なうたえり
--------------------------------------------------------
えり
「それでは本日はこの辺で。お疲れ様でした」
えり
「……ふぅ」
『はい、お疲れ様でした!あ、針生さん。来週から特番で
一週間缶詰になるからそのつもりで』
えり
「一週間ですか。また随分と長丁場ですね。
一体どんな番組ですか?」
『うーん、わけあって今はちょっと話せないかな。
企画に対するリアクションも含めて
生の反応が欲しいらしくて』
えり
「……はぁ。あまり好みじゃないタイプの
番組という事はわかりました。
まあ、局の意向には従いますよ」
『ありがとう。楽しみにしておいて!』
--------------------------------------------------------
えり
「……なんて事を言われて迎えた当日。
何の変哲もないマンションの部屋に
連れてこられたと思ったら」
咏「よ。今日からよろしくー」
えり
「なぜか三尋木プロが居る、と。
これはどういう事ですか?」
咏「あれ?針生さん、企画の内容
聞いてないのかい?」
えり
「当日のお楽しみ、と言われて
情報を秘匿されていたので」
咏「そっかそっか。じゃあ堪能してもらおうかねぃ。
まさかの一週間缶詰同棲生活をさ!」
えり
「……は?」
咏「お、いいねぃいいねぃ、
その呆気にとられたリアクション!」
えり
「え?一週間缶詰、同棲?」
咏「イエス!」
えり
「貴女と?私が?」
咏「イエス!」
えり
「どうして?」
咏「ほら、ちょっと前まで
バラエティーでやってただろ?
芸能人を二人で数日同居させて
仲良くなるのを見るって奴。
あれの特別編だってさ」
えり
「いや、その番組は知ってますけど。
だからって、どうして三尋木プロと私なんですか?」
咏「水と油っぽい、天地がひっくり返っても
絶対仲良くならなさそうなコンビだから、
だってさ。知らんけど」
えり
「な、なんて趣味の悪い……っ!」
咏「ま、そーゆーわけだから、
一週間よろしく頼むぜぃ!」
えり
「……もうアナウンサー業やめようかな」
--------------------------------------------------------
えり
「……よし、気持ちを切り替えます。
とりあえず、番組の意図については理解しました。
不服ではありますが局の意向には従います」
えり
「で、これからどうすればいいんですか?
確か例の番組だと、
日中は普通に仕事してましたよね?」
咏「あー、今回は特別版だからねぃ。
一週間ガチ軟禁だってさ。
外に出る事はできないって言われたよ」
えり
「軽く犯罪じゃないですか?」
咏「私に言われても知らんし。
ところで針生さん、おなか減らね?」
えり
「そりゃ、まあお昼時ですし……って、
まさか食事も自分で用意するんですか?」
咏「女子力って奴の見せどころじゃないかい?知らんけど」
えり
「いやそう言うなら三尋木プロこそ
見せつけてくださいよ」
咏「おいおい目は大丈夫かよアナウンサー。
私が料理とかできるように見えるってのかい?」
えり
「ああもう!なんとなく予想してましたけど!
胸張って言う事じゃないでしょう!?」
咏「ごーはーんー、ごーはーんー!!」
えり
「もうやだこの24歳児」
--------------------------------------------------------
咏「ごちそうさまでした!」
えり
「はい、お粗末様でした」
咏「いやーやるねぃえりちゃん。
こんな美味しいの久しぶりに食べたよ。
お店開けるんじゃねーの?知らんけど」
えり
「まあ、一人暮らししてますし、
家事は一通りできますけど……
というか私が料理できなかったら
どうするつもりだったんですか」
咏「その時は一週間地獄の
カップラーメン生活だったねぃ」
えり
「あ、カップラーメンは作れるんですね」
えり
「って流しそうになりましたけど。
なんですか今の」
咏「ん?」
えり
「呼び方ですよ。なんですか『えりちゃん』って。
ちょっと前まではちゃんと『針生さん』
だったじゃないですか」
咏「もう一緒に飯まで食ったんだし、
名前呼びしてもいいんじゃね?」
えり
「なんですかそのゆるゆる基準。それに私、
三尋木プロより4歳も年上なんですが」
咏「呼び方なんて年齢とは関係なくね?」
えり
「ああもう!親しき中にも礼儀ありって事ですよ!
お互い社会人でいい年なんですからそう軽々に」
咏「はい、ストップ」
えり
「っ……!?」
咏「いいかいえりちゃん。私達が組まされたのは
まさにそういうとこなのさ。
『礼儀に厳しくパキッとしたアナウンサーと、
いい加減でちゃらんぽらんなプロ雀士』」
咏「だから、『絶対仲良くなれるはずない』ってさ。
喧嘩する私達を見て嘲笑いたいわけよ」
えり
「……」
咏「一泡吹かせてやりたくないかい?
いけ好かないディレクターの奴らにさ」
えり
「……その第一歩が名前呼びって事ですか?」
咏「そ。見せてやろうじゃないか。
凸凹でも凸凹なりに上手くやれるってところさ」
咏「って事で、ほら。えりちゃんも」
えり
「……なんですか?」
咏「ほら、呼んでみなよ。咏ちゃんって」
えり
「え、私までやるんですか!?」
咏「あったり前じゃん。私だけ名前呼びしてても
切ない一方通行だろ?」
咏「礼儀正しい勢のえりちゃんが呼ぶからこそ
意味があるんじゃん。ほれほれ早く」
えり
「う……」
咏「名前呼び、名前呼びっ!」
えり
「うた……さん」
咏「うっはー!『うたさん』呼びいただきました!
いいねぃいいねぃ!
なんかこうぐっと来るねぃ!知らんけど!」
えり
「うぅ……これ無性に恥ずかしいんで
やっぱりなしじゃ駄目ですか」
咏「駄目に決まってんだろ?大丈夫、
一週間も続けてればそのうち慣れるさ」
えり
「慣れるほど何度も呼びたくないんですけど」
咏「ひっでー」
--------------------------------------------------------
えり
「はぁ。まだ始まったばっかりなのにどっと疲れた」
咏「お疲れさん。まぁ食うもん食ったし、
後はゆっくり休めばいいさ」
咏「っていうか、休む以外する事ないんだけどねぃ」
えり
「この部屋おかしくないですか?
一週間も軟禁する癖に娯楽の類が何もないとか」
えり
「テレビも、パソコンも、本もなし。
ゲームの類も皆無。
本当に何もする事がないじゃないですか」
咏「一人遊びなんてしてないで
愛を育めって事じゃね?知らんけど」
えり
「いやいや、これTV番組ですよね?
一週間何もせずしゃべってるだけって、
番組として成立しなくないですか?」
咏「超面白い漫才でも繰り広げればいけんじゃね?」
えり
「そういうのは芸人の方にお願いします」
咏「ではここでえりちゃんが隠し芸を一つ」
えり
「そういうのは芸人の方にお願いします」
咏「かー、ガードかったいねぃ。
隠し芸の一つや二つ持ってるだろ?
アナウンサーなんだしさぁ」
えり
「まあ、仕事で覚えさせられたのは
いくつかありますけど。
どのみち小道具が必要ですから
できませんよ」
えり
「三尋……う、咏さんこそ何かないんですか?
プロ雀士なんですし」
咏「はっ、雀士から麻雀取ったら
陸に上がったカッパみたいなもんさ」
えり
「そうですか?瑞原プロは前に
即興の手品を見せてくださいましたけど」
咏「むむ、同業他社を引き合いに出してくるか。
そこまで言われたらやるしかないねぃ」
咏「一番、三尋木咏、一発芸行きまーす」
えり
「はい」
咏「くらげ」髪の毛ぶわぁあぁあ
えり
「はい!?」
咏「おしまい。……やっぱインパクトに欠けるかねぃ?」
えり
「え、今のどうやったんですか!?
物理法則を完全に無視してたんですけど!?」
咏「お、意外に食いつきいいねぃ?
こんなの雀士なら誰でもできると思うけど」
えり
「いやいやできませんよ!何なんですか雀士って!
本当に同じホモサピエンスなんですか!?」
咏「わっかんねー。あ、じゃあ
これもできなかったりする?
コークスクリューちゃんリスペクトで――」
咏「――扇風機」ぶわぁぁぁぁあぁぁ
えり
「とりあえず別の生命体なんだと思っておきますね」
--------------------------------------------------------
咏「ごちそーさん。いやー夕飯も美味しかった!」
えり
「お粗末様でした。それにしても、
本当にしゃべって料理して食べてるだけですね」
咏「ギャラもらえるならいいんじゃね?
番組になるかどうか悩むのは番組屋の仕事だろ」
えり
「そうですね。もう深く考えない事にします」
咏「んじゃ、えりちゃんが開き直ったところで
嬉し恥ずかし入浴タイム!」
えり
「お湯は張っておきますのでお先にどうぞ」
咏「かー、わっかんねー!
なんでそうなるのかわっかんねー!」
咏「ここはこう、二人仲良く
お風呂に入るところだろぉ?
狭い湯船で密着しちゃったりしてさぁ!」
えり
「お風呂くらいゆっくりさせてくださいよ。
……あ、よかったこのバスルーム
ちゃんと鍵掛かりますね」
咏「ちぇーっ!この一週間で絶対一緒に入ってやる!」
えり
「まぁ頑張って仲良くなってください。
おそらく絶対無理だとは思いますが」
--------------------------------------------------------
えり
「お風呂いただきました。
ああ、お布団敷いてくださったんですね。
ありがとうございま……」
えり
「って、これは一体どういう事ですか」
咏「いや、私にすごまれても知らんし。
これしか用意してなかったんだからさ」
えり
「二人用サイズのふとん……こんなのあるんですね。
スタッフの悪意に殺意がこみ上げてきます」
咏「枕は二つ用意してあったんだけどねぃ」
えり
「はぁ……もういいです。
疲れたしさっさと眠りましょう」
咏「お、意外にあっさり受け入れるんだ?」
えり
「女性同士ですし、密着する程
狭いわけでもなさそうですから。
まあ一週間くらいは我慢しますよ」
えり
「って、言ったそばから
くっついてこないでくださいよ!?」
咏「えーいいじゃんいいじゃん女同士なんだしさぁ。
このくらいスキンシップの範疇だろ?」
えり
「セクハラ男性みたいな言い方しないでくださいよ。
嫌な事思い出しちゃうじゃないですか」
咏「……え、このご時世にそんな奴いんの?誰?」
えり
「咏さん。これ、カメラ回ってるんですよね?」
咏「あ、そっか。じゃ、こっそり耳打ちで教えてくんない?」
えり
『……○○さんと△△さんです』こそっ
咏「……」ぼそっ
咏「ふへー、アナウンサーも大変だねぃ。知らんけど」
えり
「雀士の皆さんはそういうのないんですか?」
咏「どうだろねぃ。ほら、私はこんななりだから
はなっから対象になってないんじゃね?」
えり
「好きな雀士ランキング2位なのにですか」
咏「それはあくまで雀士としてだろ?
性対象として選ぶなら断然えりちゃんっしょ」
えり
「せっ……!?生々しい言い方するの
やめてくださいよ」
咏「ごめんごめん。でも、女の私から見ても
えりちゃんは魅力的だと思うぜぃ?」
えり
「誉め言葉として受け取っておきます。
って、だからくっついてこないでください」
咏「えーいいじゃんいいじゃん女同士なんだしさぁ。
このくらいスキンシップの範疇だろ?」
えり
「無限ループするつもりですか!?」
--------------------------------------------------------
咏「二日目ーー」
えり
「やる事が本当に何もないんですが」
咏「まー仲良くお喋りしてればいいんじゃね?」
えり
「いい加減話すネタも尽きますよ」
咏「そうかい?28年も生きてきたんだ。
一つ一つ説明してたら
一週間じゃとても終わらないと思うけどねぃ」
えり
「それはそうですけど。一般人の身の上話なんて
誰が聞いて喜ぶんですか」
咏「少なくとも私は喜ぶぜ?
好きな人の事なら何でも知りたいもんだろ」
えり
「す、好きって……咏さん、
私の事そういう風に思ってたんですか?」
咏「存じ上げぬ」
えり
「いやそこはわかってくださいよ!
自分の心の事でしょう!?」
咏「いやいや、意外とわからないもんだぜ?
自分の本心なんてのはさ」
咏「現にえりちゃん気づいてないっしょ」
えり
「え、何がですか?」
咏「えりちゃんさ、昨日ここに来た時
『げ』って顔しかめてたじゃん?」
えり
「非常に申し訳ありませんが自覚ありです。
『またこのお子様雀士かぁ』なんて思ってました」
咏「ひっでー。まあともかくさ、、
昨日の時点では、私の好感度って
結構低かったと思うんだよねぃ」
えり
「話が見えませんけど。それが私の本心とどういう関係が?」
咏「そんなえりちゃんが、二日目にしてもう
スリスリくっつかれても拒絶せず、
平然と咏さん呼びするようになってるわけだけど」
咏「心境の変化に気づけたかい?」
えり
「……っ、それは、いちいち拒絶していたら
話が進まないからってだけで」
咏「ああうん、えりちゃんは確かにそうだよねぃ。
耐えて飲み込むタイプだろうさ」
咏「でもさ、飲み込んでも消化できるわけじゃないだろ?
不快に思う気持ちはそのまま、ただ胸に秘め続ける」
咏「でも、今のえりちゃんからは……
そういうのは感じないけどねぃ」
えり
「っ……それは、まぁ、最初より抵抗は薄れましたけど……
ああもう、だから密着してこないでください!
そんな嬉しそうな顔しても駄目です!」
--------------------------------------------------------
咏「三日目ーー」
えり
「すごいですね……本当に何のイベントもなく
淡々と三日目に突入するとは」
えり
「正直、ちょっとくらい山場になるような
イベントが来ると思ってたんですが」
咏「『これまで何とか我慢し続けてきた針生アナ、
ここに来てついにキレる!!』みたいな?」
えり
「まあ、そうなるように誘導するような
イベントがあっても不思議ではないかなと。
不快ではありますけど」
咏「あー。イベントは特にないんだけどさ、
一つのターニングポイントではあるんだよねぃ」
えり
「と、言うと?」
咏「スタッフから伝言もらってんだよねぃ。
もしこの三日目で、えりちゃんが
『もう我慢できません!』って言うなら、
最後にブチ切れてドロップアウトしてもOKだってさ」
えり
「ええ、こんなところで切られたら
本当に番組として成立しないんじゃないですか?」
咏「ま、あいつらの目算ではもっとケンカしまくって
険悪な関係になってる予定だったんだろ」
咏「一週間ってのは最初から考えてなくて、
『喧嘩別れで3日持ちませんでした!』って
シナリオだったんじゃね?」
えり
「なるほど。そう考えればこの状態も頷けますね。
ストレスのはけ口を徹底的に除去して
積極的に争うように仕向けたと。
で、喧嘩のシーンだけ編集して使う、と。
……本当にいい趣味してますね」
咏「ま、私個人としてはそうならなくて何よりさ。
で、どうだいえりちゃん」
咏「このまま、私と暮らせそうかい?」
えり
「……っ!?」ゾクッ
えり
(どうしてだろう。今、咏さんが一瞬すごく怖く見えた)
えり
(正直な感想を言ってしまうなら、
もう慣れてしまったという感じ)
えり
(この部屋には本当に娯楽がなくて、
できる事と言えば咏さんと会話するか
家事をするかぐらいで)
えり
(あまりにやる事がないものだから、
咏さんに纏わりつかれたりする事すら
暇つぶしの余興になって)
えり
(それで一日が終わってしまうものだから。
なんだか時間が酷くゆったりで)
えり
(本音を言えば。『悪くない』とさえ思えてきてる)
えり
(でも)
えり
(どうして?胸騒ぎが止まらない。
『はい』って答えてしまったら、
取り返しがつかなくなりそうで)
えり
(…………断ろう)
咏「……っ」ぎゅぅ
えり
(……って、思ったのに。そんな、
すがるような目で見つめられたら)
えり
(断れないじゃないですか……)
えり
「……まあ。後4日くらいなら、
何とか乗り切れると思います」
咏「っ、そっか!じゃあこっちも包み隠さず
テンション上げていこうかねぃ!」
えり
「ちょ、これ以上酷くなるなら
流石に考え直しますからね!?」
えり
「って、言ったそばから服の中に
手を入れてくるのはやめてください!!」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
えり
(今思えば、薄々気づいていたのかもしれない)
えり
(窓もなく、扉に外から鍵を掛けられた
酷く閉鎖的な空間)
えり
(番組の撮影だというのに、
カメラやマイクも見当たらず)
えり
(ひたすら繰り返される
エンタメのかけらもない日常生活。
こんなもの、番組になるはずもない)
えり
(仮に咏さんが言う通り、私達の不仲を
笑いものにしたかったのだとしても。
だとすれば、絶対ここで打ち切るはず)
えり
(やっぱり。この状況を
『撮影』だと考えるには無理があり過ぎる)
えり
(だとすれば、一体誰が何のために?)
えり
(決まってる。登場人物が極端に少ないのだから。
犯人は咏さん以外にあり得ない)
えり
(うぬぼれかもしれないけれど、
多分それは、私と仲良くなるためで。
やり方はちょっと極端だけど、
これは咏さんからの好意の表れ)
えり
(だとしたら、まぁ。
付き合ってあげるのも悪くないかなと。
そう、素直に思えるくらいには)
えり
(咏さんの事を、好ましく思えてきた)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
……X日後。
--------------------------------------------------------
咏「というわけで最終日も後1時間。
長いようで短い一週間だったねぃ」
えり
「いや普通に長かったですよ。
いつもの3倍は長く感じました」
咏「まーでもゆっくり休めたろ?
親睦も十二分に深められたしさ」
咏「というわけでさ、最終日ぐらい
一緒にお風呂入ろうぜい?」
えり
「はぁ……わかりましたよ、私の負けです」
咏「やりっ!えりちゃんとお風呂っ、
えりちゃんとお風呂っ!!」
えり
「……ふふ。まったく、何がそんなに嬉しいんですか」
咏「そりゃぁ、好きな人と一緒にお風呂入れるんだから、
嬉しいに決まってるだろ?」
えり
「っ、好きって、咏さんそればっかりですね」
--------------------------------------------------------
咏「はふぅ。えりちゃんに包まれながら
入るお風呂は格別だねぃ」
えり
「嫌な言い方しないでください。
というか、なんでこのお風呂
こんなに狭いんですか」
咏「おひとり様前提なんだろ。
私達みたいなバカップルは想定外って事さ」
えり
「ば、バカップルって」
咏「いやいやこれはもうバカップルっしょ。
えりちゃんの上に乗っかって、
後ろから腕を回されるとか」
咏「これもう完全にアレじゃん。
パパラッチされたら一発アウトな奴じゃね?」
えり
「一応番組を装ってるのに
その発言はどうかと思うんですが」
咏「……」
咏「おりょ?もしかして気づいてた?」
えり
「そりゃ気づきますよ。一週間何もアクションなしで
ただただ平凡に過ごすだけとか。
番組だとしたら酔狂にもほどがあります」
えり
「どうせ、番組撮影というのは
咏さんのでっち上げですよね?」
咏「まーそりゃ気づくかぁ。でも、
ならなんで付き合ってくれたんだい?」
えり
「……正直不本意ではありますけど、
楽しかったのも事実ですから」
えり
「誰かを下の名前で呼ぶのも。
夜にくっついて眠るのも。
こうして、一緒にお風呂に入るのも」
えり
「全部、私にとっては初めての経験で。
楽しいなって。もう少し続いてもいいかもなって。
そう思ってしまったのも事実です」
咏「そっか。じゃぁさ」
咏「このまま、私と暮らせそうかい?」
えり
「……っ」ゾクッ
えり
(また、またこの感じ……っ!
しかも、この前よりもずっと強い……!)
えり
(……駄目。今度は受け入れるわけにはいかない。
これを受け入れてしまったら――)
えり
(――私の、人生が終わる気がする)
えり
「申し訳ありません。
元々一週間という期限付きだからこそ
受け入れていたところがあるので」
えり
「これ以上は受容しかねます」
咏「……」
咏「そっか。でもさ、えりちゃん気づいてるかい?」
えり
「何に、ですか?」
咏「もう、ここに軟禁されて『10日目』だって事」
えり
「……え?」
咏「いや、だからさ。もう10日目なんだよ。
私達が行方不明になってからさ」
えり
「はぁっ!?嘘でしょう!?
時計は毎日ちゃんと確認して……っ」
えり
「って、まさか」
咏「秒針、微妙に遅らせてあるんだよねぃ。
具体的には1.5倍くらい引き延ばしてる。
えりちゃんは気づかなかったけどさ」
えり
「意味が分かりません!何のためにそんな行動を!」
咏「『期限付きだから』って言い訳は
何の役にも立たないって事さ。
だって実際、えりちゃんはもう
上限を3日も振り切っちゃってるわけだしさ」
咏「気づかなかったろ?んで、問題なかったろ?
て事はさ。それが1年になっても、10年になっても。
別に問題なく受け入れられんじゃね?」
咏「いいや。むしろ期間が長くなればなるほど
楽になってくと思うぜぃ?」
咏「ここからは、どんどん私の事を好きになっていく。
……そうなるように、しつけてやるから」
えり
「……っ」ゾクッ
咏「割とあっという間だと思うぜぃ?
何しろ、たった10日で……んっ。こんなに
肌が触れ合う関係になっちゃってるわけだしさぁ」
えり
「う、咏さん、貴女……狂ってます!!」
咏「はっは、今更遅過ぎんじゃね?
4日目にはもう気づいてたんだろ?
私がちょっとヤバいって事にさ」
--------------------------------------------------------
咏「逃げる気があるならさ、
あの時に拒絶しとくべきだったのさ」
--------------------------------------------------------
咏「今更、もう逃がしてやんないぜ?」
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『ニュースをお伝えします。
先月より行方不明となっていた
プロ麻雀選手の三尋木咏さんと
××テレビ局アナウンサーの針生えりさんですが、
本日をもって警察による捜索が
中止される事となりました』
『数日前に捜査本部に届けられた
捜索中止を願う封書について、
警察が分析を行った結果、
付着した指紋などから
本人による投書であると断定されました』
『警察では本封書をもって
捜索願が取り消されたと判断し、
以降の捜索を打ち切ったとの事です』
--------------------------------------------------------
『続けてお伝えします。先日未明、
××テレビ局のディレクター○○○○さん47歳と、
同じく同テレビ局のプロデューサー△△△△さん39歳が
病院に緊急搬送されました』
『通報した目撃者の情報によりますと、
両名は勤務先のテレビ局入り口で
絶叫しながら頭を血がにじみ出るほど強く
かきむしっていたとの事です』
『担当した医師の見解では、
両名は深刻な心的外傷後ストレス障害を発症しており、
完治の可能性は極めて低いとの事で――』
--------------------------------------------------------
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--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
咏「んっ……よく寝たぁ。今何時だっけかねぃ?」
えり
「はぁ。時計なんて意味無いでしょう?
どうせこの部屋から外に出ないんですから」
咏「別に出てもいんだぜ?今更もう
逃げ出す気もないだろしねぃ」
咏「どうする?このまま、
一生私と暮らせそうかい?」
えり
「……はぁ」
えり
「最近は逆に出るのが怖くなってきましたよ。
外に出た途端マスコミが殺到するんでしょうし」
えり
「昔、貴女が言った通り。
この生活が心地よく感じるように
洗脳されてしまいましたから」
咏「そうかいそうかい。じゃ、
このまま二人で一生引き籠ろうかねぃ!」
えり
「はい」
えり
「それじゃ『運動』しましょうか。
室内に閉じこもってると
どうしても運動不足になりがちですからね」
咏「うっ……お手柔らかに頼むぜぃ?
正直最近のえりちゃんに本気で盛られると
私の方が身が持たないって言うか」
えり
「知りませんよ。こんな風に
調教した自分を恨んでください」
咏「わっかんねー。えりちゃんがここまで
変わっちまうとかわっかんねー」
えり
「ふふ。責任は取ってくださいね」
咏「はいはい、わかってますよ。
ちゃーんと自分の言動に責任取って――」
--------------------------------------------------------
咏「一生、独り占めしてやるさ」
(完)
咏「なしだ!タイトル見れば大体わかるだろうからねぃ!」
<登場人物>
三尋木咏,針生えり
<症状>
・狂気
・異常行動
・執着
・依存
<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・濃厚なうたえり
--------------------------------------------------------
えり
「それでは本日はこの辺で。お疲れ様でした」
えり
「……ふぅ」
『はい、お疲れ様でした!あ、針生さん。来週から特番で
一週間缶詰になるからそのつもりで』
えり
「一週間ですか。また随分と長丁場ですね。
一体どんな番組ですか?」
『うーん、わけあって今はちょっと話せないかな。
企画に対するリアクションも含めて
生の反応が欲しいらしくて』
えり
「……はぁ。あまり好みじゃないタイプの
番組という事はわかりました。
まあ、局の意向には従いますよ」
『ありがとう。楽しみにしておいて!』
--------------------------------------------------------
えり
「……なんて事を言われて迎えた当日。
何の変哲もないマンションの部屋に
連れてこられたと思ったら」
咏「よ。今日からよろしくー」
えり
「なぜか三尋木プロが居る、と。
これはどういう事ですか?」
咏「あれ?針生さん、企画の内容
聞いてないのかい?」
えり
「当日のお楽しみ、と言われて
情報を秘匿されていたので」
咏「そっかそっか。じゃあ堪能してもらおうかねぃ。
まさかの一週間缶詰同棲生活をさ!」
えり
「……は?」
咏「お、いいねぃいいねぃ、
その呆気にとられたリアクション!」
えり
「え?一週間缶詰、同棲?」
咏「イエス!」
えり
「貴女と?私が?」
咏「イエス!」
えり
「どうして?」
咏「ほら、ちょっと前まで
バラエティーでやってただろ?
芸能人を二人で数日同居させて
仲良くなるのを見るって奴。
あれの特別編だってさ」
えり
「いや、その番組は知ってますけど。
だからって、どうして三尋木プロと私なんですか?」
咏「水と油っぽい、天地がひっくり返っても
絶対仲良くならなさそうなコンビだから、
だってさ。知らんけど」
えり
「な、なんて趣味の悪い……っ!」
咏「ま、そーゆーわけだから、
一週間よろしく頼むぜぃ!」
えり
「……もうアナウンサー業やめようかな」
--------------------------------------------------------
えり
「……よし、気持ちを切り替えます。
とりあえず、番組の意図については理解しました。
不服ではありますが局の意向には従います」
えり
「で、これからどうすればいいんですか?
確か例の番組だと、
日中は普通に仕事してましたよね?」
咏「あー、今回は特別版だからねぃ。
一週間ガチ軟禁だってさ。
外に出る事はできないって言われたよ」
えり
「軽く犯罪じゃないですか?」
咏「私に言われても知らんし。
ところで針生さん、おなか減らね?」
えり
「そりゃ、まあお昼時ですし……って、
まさか食事も自分で用意するんですか?」
咏「女子力って奴の見せどころじゃないかい?知らんけど」
えり
「いやそう言うなら三尋木プロこそ
見せつけてくださいよ」
咏「おいおい目は大丈夫かよアナウンサー。
私が料理とかできるように見えるってのかい?」
えり
「ああもう!なんとなく予想してましたけど!
胸張って言う事じゃないでしょう!?」
咏「ごーはーんー、ごーはーんー!!」
えり
「もうやだこの24歳児」
--------------------------------------------------------
咏「ごちそうさまでした!」
えり
「はい、お粗末様でした」
咏「いやーやるねぃえりちゃん。
こんな美味しいの久しぶりに食べたよ。
お店開けるんじゃねーの?知らんけど」
えり
「まあ、一人暮らししてますし、
家事は一通りできますけど……
というか私が料理できなかったら
どうするつもりだったんですか」
咏「その時は一週間地獄の
カップラーメン生活だったねぃ」
えり
「あ、カップラーメンは作れるんですね」
えり
「って流しそうになりましたけど。
なんですか今の」
咏「ん?」
えり
「呼び方ですよ。なんですか『えりちゃん』って。
ちょっと前まではちゃんと『針生さん』
だったじゃないですか」
咏「もう一緒に飯まで食ったんだし、
名前呼びしてもいいんじゃね?」
えり
「なんですかそのゆるゆる基準。それに私、
三尋木プロより4歳も年上なんですが」
咏「呼び方なんて年齢とは関係なくね?」
えり
「ああもう!親しき中にも礼儀ありって事ですよ!
お互い社会人でいい年なんですからそう軽々に」
咏「はい、ストップ」
えり
「っ……!?」
咏「いいかいえりちゃん。私達が組まされたのは
まさにそういうとこなのさ。
『礼儀に厳しくパキッとしたアナウンサーと、
いい加減でちゃらんぽらんなプロ雀士』」
咏「だから、『絶対仲良くなれるはずない』ってさ。
喧嘩する私達を見て嘲笑いたいわけよ」
えり
「……」
咏「一泡吹かせてやりたくないかい?
いけ好かないディレクターの奴らにさ」
えり
「……その第一歩が名前呼びって事ですか?」
咏「そ。見せてやろうじゃないか。
凸凹でも凸凹なりに上手くやれるってところさ」
咏「って事で、ほら。えりちゃんも」
えり
「……なんですか?」
咏「ほら、呼んでみなよ。咏ちゃんって」
えり
「え、私までやるんですか!?」
咏「あったり前じゃん。私だけ名前呼びしてても
切ない一方通行だろ?」
咏「礼儀正しい勢のえりちゃんが呼ぶからこそ
意味があるんじゃん。ほれほれ早く」
えり
「う……」
咏「名前呼び、名前呼びっ!」
えり
「うた……さん」
咏「うっはー!『うたさん』呼びいただきました!
いいねぃいいねぃ!
なんかこうぐっと来るねぃ!知らんけど!」
えり
「うぅ……これ無性に恥ずかしいんで
やっぱりなしじゃ駄目ですか」
咏「駄目に決まってんだろ?大丈夫、
一週間も続けてればそのうち慣れるさ」
えり
「慣れるほど何度も呼びたくないんですけど」
咏「ひっでー」
--------------------------------------------------------
えり
「はぁ。まだ始まったばっかりなのにどっと疲れた」
咏「お疲れさん。まぁ食うもん食ったし、
後はゆっくり休めばいいさ」
咏「っていうか、休む以外する事ないんだけどねぃ」
えり
「この部屋おかしくないですか?
一週間も軟禁する癖に娯楽の類が何もないとか」
えり
「テレビも、パソコンも、本もなし。
ゲームの類も皆無。
本当に何もする事がないじゃないですか」
咏「一人遊びなんてしてないで
愛を育めって事じゃね?知らんけど」
えり
「いやいや、これTV番組ですよね?
一週間何もせずしゃべってるだけって、
番組として成立しなくないですか?」
咏「超面白い漫才でも繰り広げればいけんじゃね?」
えり
「そういうのは芸人の方にお願いします」
咏「ではここでえりちゃんが隠し芸を一つ」
えり
「そういうのは芸人の方にお願いします」
咏「かー、ガードかったいねぃ。
隠し芸の一つや二つ持ってるだろ?
アナウンサーなんだしさぁ」
えり
「まあ、仕事で覚えさせられたのは
いくつかありますけど。
どのみち小道具が必要ですから
できませんよ」
えり
「三尋……う、咏さんこそ何かないんですか?
プロ雀士なんですし」
咏「はっ、雀士から麻雀取ったら
陸に上がったカッパみたいなもんさ」
えり
「そうですか?瑞原プロは前に
即興の手品を見せてくださいましたけど」
咏「むむ、同業他社を引き合いに出してくるか。
そこまで言われたらやるしかないねぃ」
咏「一番、三尋木咏、一発芸行きまーす」
えり
「はい」
咏「くらげ」髪の毛ぶわぁあぁあ
えり
「はい!?」
咏「おしまい。……やっぱインパクトに欠けるかねぃ?」
えり
「え、今のどうやったんですか!?
物理法則を完全に無視してたんですけど!?」
咏「お、意外に食いつきいいねぃ?
こんなの雀士なら誰でもできると思うけど」
えり
「いやいやできませんよ!何なんですか雀士って!
本当に同じホモサピエンスなんですか!?」
咏「わっかんねー。あ、じゃあ
これもできなかったりする?
コークスクリューちゃんリスペクトで――」
咏「――扇風機」ぶわぁぁぁぁあぁぁ
えり
「とりあえず別の生命体なんだと思っておきますね」
--------------------------------------------------------
咏「ごちそーさん。いやー夕飯も美味しかった!」
えり
「お粗末様でした。それにしても、
本当にしゃべって料理して食べてるだけですね」
咏「ギャラもらえるならいいんじゃね?
番組になるかどうか悩むのは番組屋の仕事だろ」
えり
「そうですね。もう深く考えない事にします」
咏「んじゃ、えりちゃんが開き直ったところで
嬉し恥ずかし入浴タイム!」
えり
「お湯は張っておきますのでお先にどうぞ」
咏「かー、わっかんねー!
なんでそうなるのかわっかんねー!」
咏「ここはこう、二人仲良く
お風呂に入るところだろぉ?
狭い湯船で密着しちゃったりしてさぁ!」
えり
「お風呂くらいゆっくりさせてくださいよ。
……あ、よかったこのバスルーム
ちゃんと鍵掛かりますね」
咏「ちぇーっ!この一週間で絶対一緒に入ってやる!」
えり
「まぁ頑張って仲良くなってください。
おそらく絶対無理だとは思いますが」
--------------------------------------------------------
えり
「お風呂いただきました。
ああ、お布団敷いてくださったんですね。
ありがとうございま……」
えり
「って、これは一体どういう事ですか」
咏「いや、私にすごまれても知らんし。
これしか用意してなかったんだからさ」
えり
「二人用サイズのふとん……こんなのあるんですね。
スタッフの悪意に殺意がこみ上げてきます」
咏「枕は二つ用意してあったんだけどねぃ」
えり
「はぁ……もういいです。
疲れたしさっさと眠りましょう」
咏「お、意外にあっさり受け入れるんだ?」
えり
「女性同士ですし、密着する程
狭いわけでもなさそうですから。
まあ一週間くらいは我慢しますよ」
えり
「って、言ったそばから
くっついてこないでくださいよ!?」
咏「えーいいじゃんいいじゃん女同士なんだしさぁ。
このくらいスキンシップの範疇だろ?」
えり
「セクハラ男性みたいな言い方しないでくださいよ。
嫌な事思い出しちゃうじゃないですか」
咏「……え、このご時世にそんな奴いんの?誰?」
えり
「咏さん。これ、カメラ回ってるんですよね?」
咏「あ、そっか。じゃ、こっそり耳打ちで教えてくんない?」
えり
『……○○さんと△△さんです』こそっ
咏「……」ぼそっ
咏「ふへー、アナウンサーも大変だねぃ。知らんけど」
えり
「雀士の皆さんはそういうのないんですか?」
咏「どうだろねぃ。ほら、私はこんななりだから
はなっから対象になってないんじゃね?」
えり
「好きな雀士ランキング2位なのにですか」
咏「それはあくまで雀士としてだろ?
性対象として選ぶなら断然えりちゃんっしょ」
えり
「せっ……!?生々しい言い方するの
やめてくださいよ」
咏「ごめんごめん。でも、女の私から見ても
えりちゃんは魅力的だと思うぜぃ?」
えり
「誉め言葉として受け取っておきます。
って、だからくっついてこないでください」
咏「えーいいじゃんいいじゃん女同士なんだしさぁ。
このくらいスキンシップの範疇だろ?」
えり
「無限ループするつもりですか!?」
--------------------------------------------------------
咏「二日目ーー」
えり
「やる事が本当に何もないんですが」
咏「まー仲良くお喋りしてればいいんじゃね?」
えり
「いい加減話すネタも尽きますよ」
咏「そうかい?28年も生きてきたんだ。
一つ一つ説明してたら
一週間じゃとても終わらないと思うけどねぃ」
えり
「それはそうですけど。一般人の身の上話なんて
誰が聞いて喜ぶんですか」
咏「少なくとも私は喜ぶぜ?
好きな人の事なら何でも知りたいもんだろ」
えり
「す、好きって……咏さん、
私の事そういう風に思ってたんですか?」
咏「存じ上げぬ」
えり
「いやそこはわかってくださいよ!
自分の心の事でしょう!?」
咏「いやいや、意外とわからないもんだぜ?
自分の本心なんてのはさ」
咏「現にえりちゃん気づいてないっしょ」
えり
「え、何がですか?」
咏「えりちゃんさ、昨日ここに来た時
『げ』って顔しかめてたじゃん?」
えり
「非常に申し訳ありませんが自覚ありです。
『またこのお子様雀士かぁ』なんて思ってました」
咏「ひっでー。まあともかくさ、、
昨日の時点では、私の好感度って
結構低かったと思うんだよねぃ」
えり
「話が見えませんけど。それが私の本心とどういう関係が?」
咏「そんなえりちゃんが、二日目にしてもう
スリスリくっつかれても拒絶せず、
平然と咏さん呼びするようになってるわけだけど」
咏「心境の変化に気づけたかい?」
えり
「……っ、それは、いちいち拒絶していたら
話が進まないからってだけで」
咏「ああうん、えりちゃんは確かにそうだよねぃ。
耐えて飲み込むタイプだろうさ」
咏「でもさ、飲み込んでも消化できるわけじゃないだろ?
不快に思う気持ちはそのまま、ただ胸に秘め続ける」
咏「でも、今のえりちゃんからは……
そういうのは感じないけどねぃ」
えり
「っ……それは、まぁ、最初より抵抗は薄れましたけど……
ああもう、だから密着してこないでください!
そんな嬉しそうな顔しても駄目です!」
--------------------------------------------------------
咏「三日目ーー」
えり
「すごいですね……本当に何のイベントもなく
淡々と三日目に突入するとは」
えり
「正直、ちょっとくらい山場になるような
イベントが来ると思ってたんですが」
咏「『これまで何とか我慢し続けてきた針生アナ、
ここに来てついにキレる!!』みたいな?」
えり
「まあ、そうなるように誘導するような
イベントがあっても不思議ではないかなと。
不快ではありますけど」
咏「あー。イベントは特にないんだけどさ、
一つのターニングポイントではあるんだよねぃ」
えり
「と、言うと?」
咏「スタッフから伝言もらってんだよねぃ。
もしこの三日目で、えりちゃんが
『もう我慢できません!』って言うなら、
最後にブチ切れてドロップアウトしてもOKだってさ」
えり
「ええ、こんなところで切られたら
本当に番組として成立しないんじゃないですか?」
咏「ま、あいつらの目算ではもっとケンカしまくって
険悪な関係になってる予定だったんだろ」
咏「一週間ってのは最初から考えてなくて、
『喧嘩別れで3日持ちませんでした!』って
シナリオだったんじゃね?」
えり
「なるほど。そう考えればこの状態も頷けますね。
ストレスのはけ口を徹底的に除去して
積極的に争うように仕向けたと。
で、喧嘩のシーンだけ編集して使う、と。
……本当にいい趣味してますね」
咏「ま、私個人としてはそうならなくて何よりさ。
で、どうだいえりちゃん」
咏「このまま、私と暮らせそうかい?」
えり
「……っ!?」ゾクッ
えり
(どうしてだろう。今、咏さんが一瞬すごく怖く見えた)
えり
(正直な感想を言ってしまうなら、
もう慣れてしまったという感じ)
えり
(この部屋には本当に娯楽がなくて、
できる事と言えば咏さんと会話するか
家事をするかぐらいで)
えり
(あまりにやる事がないものだから、
咏さんに纏わりつかれたりする事すら
暇つぶしの余興になって)
えり
(それで一日が終わってしまうものだから。
なんだか時間が酷くゆったりで)
えり
(本音を言えば。『悪くない』とさえ思えてきてる)
えり
(でも)
えり
(どうして?胸騒ぎが止まらない。
『はい』って答えてしまったら、
取り返しがつかなくなりそうで)
えり
(…………断ろう)
咏「……っ」ぎゅぅ
えり
(……って、思ったのに。そんな、
すがるような目で見つめられたら)
えり
(断れないじゃないですか……)
えり
「……まあ。後4日くらいなら、
何とか乗り切れると思います」
咏「っ、そっか!じゃあこっちも包み隠さず
テンション上げていこうかねぃ!」
えり
「ちょ、これ以上酷くなるなら
流石に考え直しますからね!?」
えり
「って、言ったそばから服の中に
手を入れてくるのはやめてください!!」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
えり
(今思えば、薄々気づいていたのかもしれない)
えり
(窓もなく、扉に外から鍵を掛けられた
酷く閉鎖的な空間)
えり
(番組の撮影だというのに、
カメラやマイクも見当たらず)
えり
(ひたすら繰り返される
エンタメのかけらもない日常生活。
こんなもの、番組になるはずもない)
えり
(仮に咏さんが言う通り、私達の不仲を
笑いものにしたかったのだとしても。
だとすれば、絶対ここで打ち切るはず)
えり
(やっぱり。この状況を
『撮影』だと考えるには無理があり過ぎる)
えり
(だとすれば、一体誰が何のために?)
えり
(決まってる。登場人物が極端に少ないのだから。
犯人は咏さん以外にあり得ない)
えり
(うぬぼれかもしれないけれど、
多分それは、私と仲良くなるためで。
やり方はちょっと極端だけど、
これは咏さんからの好意の表れ)
えり
(だとしたら、まぁ。
付き合ってあげるのも悪くないかなと。
そう、素直に思えるくらいには)
えり
(咏さんの事を、好ましく思えてきた)
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
……X日後。
--------------------------------------------------------
咏「というわけで最終日も後1時間。
長いようで短い一週間だったねぃ」
えり
「いや普通に長かったですよ。
いつもの3倍は長く感じました」
咏「まーでもゆっくり休めたろ?
親睦も十二分に深められたしさ」
咏「というわけでさ、最終日ぐらい
一緒にお風呂入ろうぜい?」
えり
「はぁ……わかりましたよ、私の負けです」
咏「やりっ!えりちゃんとお風呂っ、
えりちゃんとお風呂っ!!」
えり
「……ふふ。まったく、何がそんなに嬉しいんですか」
咏「そりゃぁ、好きな人と一緒にお風呂入れるんだから、
嬉しいに決まってるだろ?」
えり
「っ、好きって、咏さんそればっかりですね」
--------------------------------------------------------
咏「はふぅ。えりちゃんに包まれながら
入るお風呂は格別だねぃ」
えり
「嫌な言い方しないでください。
というか、なんでこのお風呂
こんなに狭いんですか」
咏「おひとり様前提なんだろ。
私達みたいなバカップルは想定外って事さ」
えり
「ば、バカップルって」
咏「いやいやこれはもうバカップルっしょ。
えりちゃんの上に乗っかって、
後ろから腕を回されるとか」
咏「これもう完全にアレじゃん。
パパラッチされたら一発アウトな奴じゃね?」
えり
「一応番組を装ってるのに
その発言はどうかと思うんですが」
咏「……」
咏「おりょ?もしかして気づいてた?」
えり
「そりゃ気づきますよ。一週間何もアクションなしで
ただただ平凡に過ごすだけとか。
番組だとしたら酔狂にもほどがあります」
えり
「どうせ、番組撮影というのは
咏さんのでっち上げですよね?」
咏「まーそりゃ気づくかぁ。でも、
ならなんで付き合ってくれたんだい?」
えり
「……正直不本意ではありますけど、
楽しかったのも事実ですから」
えり
「誰かを下の名前で呼ぶのも。
夜にくっついて眠るのも。
こうして、一緒にお風呂に入るのも」
えり
「全部、私にとっては初めての経験で。
楽しいなって。もう少し続いてもいいかもなって。
そう思ってしまったのも事実です」
咏「そっか。じゃぁさ」
咏「このまま、私と暮らせそうかい?」
えり
「……っ」ゾクッ
えり
(また、またこの感じ……っ!
しかも、この前よりもずっと強い……!)
えり
(……駄目。今度は受け入れるわけにはいかない。
これを受け入れてしまったら――)
えり
(――私の、人生が終わる気がする)
えり
「申し訳ありません。
元々一週間という期限付きだからこそ
受け入れていたところがあるので」
えり
「これ以上は受容しかねます」
咏「……」
咏「そっか。でもさ、えりちゃん気づいてるかい?」
えり
「何に、ですか?」
咏「もう、ここに軟禁されて『10日目』だって事」
えり
「……え?」
咏「いや、だからさ。もう10日目なんだよ。
私達が行方不明になってからさ」
えり
「はぁっ!?嘘でしょう!?
時計は毎日ちゃんと確認して……っ」
えり
「って、まさか」
咏「秒針、微妙に遅らせてあるんだよねぃ。
具体的には1.5倍くらい引き延ばしてる。
えりちゃんは気づかなかったけどさ」
えり
「意味が分かりません!何のためにそんな行動を!」
咏「『期限付きだから』って言い訳は
何の役にも立たないって事さ。
だって実際、えりちゃんはもう
上限を3日も振り切っちゃってるわけだしさ」
咏「気づかなかったろ?んで、問題なかったろ?
て事はさ。それが1年になっても、10年になっても。
別に問題なく受け入れられんじゃね?」
咏「いいや。むしろ期間が長くなればなるほど
楽になってくと思うぜぃ?」
咏「ここからは、どんどん私の事を好きになっていく。
……そうなるように、しつけてやるから」
えり
「……っ」ゾクッ
咏「割とあっという間だと思うぜぃ?
何しろ、たった10日で……んっ。こんなに
肌が触れ合う関係になっちゃってるわけだしさぁ」
えり
「う、咏さん、貴女……狂ってます!!」
咏「はっは、今更遅過ぎんじゃね?
4日目にはもう気づいてたんだろ?
私がちょっとヤバいって事にさ」
--------------------------------------------------------
咏「逃げる気があるならさ、
あの時に拒絶しとくべきだったのさ」
--------------------------------------------------------
咏「今更、もう逃がしてやんないぜ?」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『ニュースをお伝えします。
先月より行方不明となっていた
プロ麻雀選手の三尋木咏さんと
××テレビ局アナウンサーの針生えりさんですが、
本日をもって警察による捜索が
中止される事となりました』
『数日前に捜査本部に届けられた
捜索中止を願う封書について、
警察が分析を行った結果、
付着した指紋などから
本人による投書であると断定されました』
『警察では本封書をもって
捜索願が取り消されたと判断し、
以降の捜索を打ち切ったとの事です』
--------------------------------------------------------
『続けてお伝えします。先日未明、
××テレビ局のディレクター○○○○さん47歳と、
同じく同テレビ局のプロデューサー△△△△さん39歳が
病院に緊急搬送されました』
『通報した目撃者の情報によりますと、
両名は勤務先のテレビ局入り口で
絶叫しながら頭を血がにじみ出るほど強く
かきむしっていたとの事です』
『担当した医師の見解では、
両名は深刻な心的外傷後ストレス障害を発症しており、
完治の可能性は極めて低いとの事で――』
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
咏「んっ……よく寝たぁ。今何時だっけかねぃ?」
えり
「はぁ。時計なんて意味無いでしょう?
どうせこの部屋から外に出ないんですから」
咏「別に出てもいんだぜ?今更もう
逃げ出す気もないだろしねぃ」
咏「どうする?このまま、
一生私と暮らせそうかい?」
えり
「……はぁ」
えり
「最近は逆に出るのが怖くなってきましたよ。
外に出た途端マスコミが殺到するんでしょうし」
えり
「昔、貴女が言った通り。
この生活が心地よく感じるように
洗脳されてしまいましたから」
咏「そうかいそうかい。じゃ、
このまま二人で一生引き籠ろうかねぃ!」
えり
「はい」
えり
「それじゃ『運動』しましょうか。
室内に閉じこもってると
どうしても運動不足になりがちですからね」
咏「うっ……お手柔らかに頼むぜぃ?
正直最近のえりちゃんに本気で盛られると
私の方が身が持たないって言うか」
えり
「知りませんよ。こんな風に
調教した自分を恨んでください」
咏「わっかんねー。えりちゃんがここまで
変わっちまうとかわっかんねー」
えり
「ふふ。責任は取ってくださいね」
咏「はいはい、わかってますよ。
ちゃーんと自分の言動に責任取って――」
--------------------------------------------------------
咏「一生、独り占めしてやるさ」
(完)
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というか麻雀界の狂気の元凶って咏なんじゃないかねぃ。
わっかんねーけど。
咏さんの狂気、それを受け入れるえりちゃんの狂気、、、、素晴らしかったです。
また楽しみにしてます。
麻雀界の狂気の元凶って咏なんじゃないかねぃ>
咏「流石に買いかぶり過ぎじゃね?
例のネコミミ実家暮らしとか
偉大な先達が他にもいるっしょ」
えり
「いや明らかに咏さんの方がアレですよ」
えりちゃんが病んでからの話を>
咏「いやでもこれ後はもう
猛獣と化したえりちゃんに
私がにゃんにゃんされるだけだぜぃ?」
えり
「鳴く咏さんが見たいって事ですよ」
一生、独り占めしてやるさ>
えり
「なかなか言える言葉じゃないですよね。
……健常な人なら特に」
咏「ある意味幸せなハッピーエンドじゃね?」
咏えり最高>
咏「咏えりも大好きだから
今後も細々書いていきたいねぃ」
えり
「そのたびに私が酷い目に合うんですが」
時計遅らせて気付かせないように>
咏「感覚を狂わせて、理性を狂わせて、
気づいたらもう元に戻れない。
背徳感がいいよねぃ」
えり
「陰湿な……もっと怒涛の火力で
攻めてきてくださいよ」