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【咲-Saki-SS:尭淡】尭深「私が与えられるもの」【ヤンデレ】【猟奇】
<あらすじ>
宮永照と弘世菫が卒業した白糸台。
偉大な先輩が築いた栄光を引き継いだのは、
まだ2年生の大星淡だった。
任せておいてくださいよ、
そう豪語する大星の前に、
過酷な現実が立ちはだかる。
果たして大星は折れる事なく
進む事ができるのか。それとも。
<登場人物>
大星淡,渋谷尭深,宮永照,弘世菫
<症状>
・ヤンデレ
・依存
・狂気
・異常行動
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・淡×尭深
(『毒を吸って、愛を吐く』のような
共依存で重いメリーバッドエンド)
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もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたのでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたのでしょうか
ごめんなさい、どちらも与えられなくて
悲しいけれど、私は凡人で
無力で無能で、酷く弱くて
そんな私にできるのは
壊れていく貴女のそばに寄り添う事だけ
一緒に壊れてあげる事だけで
だから
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『私が与えられるもの』
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先輩方が卒業し、桜が葉桜に変わる頃。
我が白糸台の学び舎には、連日のように
メディアが押し掛けて来ていました。
関心の的はチーム虎姫。
2トップが抜けた穴を埋める事はできそうなのか、
はたまた虎姫を解体して別のチームを編成するのか、
世間の注目を集めているそうです。
記者が囲む輪の中心にいるのは淡ちゃん。
そう、部長は淡ちゃんが引き継ぎました。
今後主軸となる選手を早めにトップに据える事で、
部長交代の負担を軽減するのが目的です。
弘世先輩が1年生で部長となったように。
『まー任せといてくださいよ!
このスーパーノヴァ大星淡が、
今年も優勝旗を白糸台に持って帰りますから!』
『宮永でも荒川でも高鴨でも、
何でも持ってきてください!
最後に笑うのは私達です!』
ビッグマウス。そう嘲笑されないだけの実績と実力を、
淡ちゃんは持っていました。
だからこそ記者達も沸きに沸いて、
彼女の言葉を鵜呑みにします。
記者は持ち帰ったインタビューを
そっくりそのまま記事にしました。
『4連覇に向けて動き始めた白糸台。
連覇の記録をさらに伸ばせるか。
大星淡選手に独占インタビュー!』
『宮永弘世コンビが抜けた白糸台、
気になる補充要員は?大星淡は不敵に笑う』
『虎姫解体?風穴が開いた白糸台、
先輩が築いた栄光を守る事はできるのか。
大星淡に秘策あり?』
踊る見出しは様々なれど、締めの言葉は皆同じ。
『大星選手率いる白糸台に、今後も目が離せない』
間違いではありませんでした。
白糸台のさらなる躍進も、もしかしたら凋落も。
どちらになるか、全ては淡ちゃん次第。
小さく華奢な双肩に、重く圧し掛かっています。
それが何よりもつらく苦しくて、
胸をギリギリと締め付け続けるのでした。
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淡ちゃんがメディアの前で見せる態度とは裏腹に、
白糸台は窮地に陥っていました。
圧倒的リーダーの不在。
その弊害が顕在化し始めていたのです。
前人未到の三連覇を成し遂げた白糸台。
その栄光の軌跡は、そのまま
あのお二人の足跡でもありました。
宮永先輩と弘世先輩。
お二人が入学する前、白糸台高校は
地区ベスト8がせいぜいの中堅校に過ぎなかった。
そんな白糸台高校を王者に押し上げたのは、
まぎれもなくこのお二人でした。
そのお二人が卒業した今、
黄金時代を継げるほどのメンバーは揃っておらず。
白糸台は元の中堅校に戻ってしまったのです。
こう語れば異を唱える人も居るでしょう。
確かに、地区予選は勝ち抜けると思います。
全国でもベスト8なら何とかなるかもしれません。
でも我々に求められるのはただ優勝の2文字のみ。
その期待に応える力があるかと言えば、
頭を抱えずにはいられません。
そんな中、唯一残された希望が淡ちゃんでした。
全国でもトップクラスの雀力を持ち、
相手は5〜6向聴からスタートするのに対して
自分はダブルリーチが可能。
挙句カン裏が必ず乗るという凶悪仕様と、
『宮永照の後継者』を名乗るに相応しい実力を持っています。
でも。淡ちゃんが、
宮永先輩に勝った事はほとんどありません。
そして。淡ちゃんには、
弘世先輩ほどの統率力はありません。
特に致命的なのは後者でした。
どちらかと言えば唯我独尊で我が道を行く淡ちゃんは、
エースとしては文句なくとも、
部を統率する長としては未成熟に過ぎたのです。
ええ、もちろんわかっています。
何を他人事のように言っているのかと。
本来その重荷は私達3年生が背負うべきもので。
私達の代さえ育っていれば、
淡ちゃんが苦しむ必要なんてなかった。
結局のところ私達がふがいないから、
全てが淡ちゃんに圧し掛かっているのです。
それでも淡ちゃんは笑いました。
なんて事のないように、不敵に八重歯を光らせて、
夜の闇を思わせる深い瞳を湛えながら。
『まかせといてよ。ちょっとくらい
ハンデあった方が燃えるから』
その勝気さが頼もしくて。つい、先輩であるはずの私は、
淡ちゃんに頼りきりになってしまいます。
もしかしたら、淡ちゃんなら本当に大丈夫かも。
そう思わせてくれるくらいには、淡ちゃんは頼もしいから。
でも。それが虚像に過ぎない事は、
すぐ明らかになったのでした。
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春季選抜。
通称スプリングと呼ばれ、
一年生が戦力として見込めないこの大会は、
各校における戦力を量る重要な大会になります。
秋季大会ではまだ引退前の三年生を使う高校もあれば、
途中でのオーダー変更が可能な事もあり、
次代を担う選手の実験的起用を行う学校がほとんどです。
それに対して。春季で起用される選手は、
インターハイを視野に入れて慎重に選ばれます。
大物新人の加入で1人や2人入れ替わる事はありますが、
基本はこの時点のメンバーが主軸になるわけで。
つまり、春季メンバーがどの程度仕上がっているかで
各校の地力が明らかにされるわけです。
宮永先輩と弘世先輩が居た頃は、
当然のように優勝したスプリング。
なのに今年の白糸台は、ファイナルに残るのが精一杯でした。
先鋒、次鋒、中堅、副将。大将の淡ちゃんに回るまでに、
かなり手酷く削られて。淡ちゃんが必死で追い掛けるも、
逆転叶わず3位で終了。
白糸台の勢いに、はっきりと陰りが見える結果となりました。
春季選抜3位。この結果だけ見れば、
まだまだ有望と言えるかもしれません。
しかしながら、スプリングは欠場する有力校も多いのです。
インターハイのみに焦点を絞る臨海女子を筆頭に、
戦略的、もしくは固有の理由で欠場するチームも存在します。
これらの事情を考慮すれば。3位という結末は、
決して許されるものではありませんでした。
『インターハイでは絶対に負けません!!』
試合終了後、多数の記者からマイクを向けられ、
淡ちゃんは涙ながらに叫びます。
ああ、違う。違うんです。淡ちゃんはもう十分頑張っていて。
不甲斐ないのは私達で。一人羽ばたこうともがく淡ちゃんを、
私達が押さえつけているだけで。
これ以上、淡ちゃんが頑張る必要はないのです。
それでも、淡ちゃんは歯を食いしばりながら、
前を睨みつけるのです。
私達のために。そして、
去っていった先輩達の誇りを守るために。
少しずつ、少しずつ影が落ちていく。
その影を拭う事ができる人物は、
今の白糸台には居ませんでした。
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淡ちゃんに牙をむくもの。
それは過去の栄光だけではありませんでした。
白糸台の内部からも、現行の体制に
異を唱える者が現れたからです。
春季選抜での敗北、それが呼び水となりました。
チームを再編するべきだ、そんな声があがり始めたのです。
白糸台のチーム編成は、部内成績の
上位5人を集めたものではありません。
仲のいい者がチームを組んで、
校内対抗戦で1位になったチームが
レギュラーとなる仕組みです。
しかしそれは言い換えれば、苛烈な派閥闘争でもあります。
個人でどれだけ力があっても、
主流のチームに入れなければ一度として
公式試合に出られない。
チーム虎姫の栄光の陰で、涙をのんだチームも多くあったのです。
今までは勝っていたから我慢していたのでしょう。
でも春季で受けた敗北を受けて、皆の不満が噴き出し始めた。
もっとも、その不満の矛先は淡ちゃんではなく。
淡ちゃんを飛び越して、皆監督に直訴するのでした。
『チームを再編するべきです。
今の虎姫ではインターハイを勝ち抜けない』
『大星部長を起点として、一から考え直すべき。
弘世先輩もそうしたはずです』
『実際、弘世先輩が初めて一軍を打ち倒した時のメンバーは、
弘世先輩が集めた即席チームだったそうじゃないですか』
『旧虎姫にこだわる必要はないんです。
いいえ、もはや旧虎姫は害悪です』
日に日に部は変わっていきました。
和やかな雰囲気は一転して、
ギスギスした不穏な空気に満ち満ちていきます。
「白糸台も、変わっちゃったね」
「菫先輩だったら、こんな時どうしてたのかな」
「あはは。そもそも菫先輩が仕切ってたら、
こんな風にはならないか」
否定はできませんでした。
実際、弘世先輩の人気は飛び抜けていましたから。
そのカリスマたるや、彼女が歩く道には
自然と左右にファンが集まり、かしずく行列ができるほど。
弘世先輩なら納められただろう争い。
いいえ、そもそも起きなかっただろう争いが起きている。
その事実が、淡ちゃんを壊していきました。
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連日圧し掛かるプレッシャー。
部内からの批判の声。
気丈で健気な淡ちゃんは、
それらにずっと耐え続けて。
いつも通りの勝気な笑みと、
不遜な態度を崩さずいました。
でも、中身は少しずつ変わり始める。
耐え切れない程の重圧に、
潰されきしんでねじれていく。
私が気づいた頃には、もう。
『手遅れ』。
そう呼べるほどに変質してしまっていたのです。
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異変。私がそれに気づけたのは、
常日頃から淡ちゃんを気に掛けていたからでしょう。
異変と言うには些細な出来事。
でも、取り返しのつかない第一歩を、
淡ちゃんは踏み出していました。
「……ええと、淡ちゃん。体調悪いなら休んだ方が」
対局中、わき腹を押さえる淡ちゃん。
見れば顔色も青ざめていて。
お腹でも冷えたのかなと、その時は軽く考えていました。
「ううん、大丈夫。このまま対局続行で」
淡ちゃんが不調なのも起因したのでしょう、
その対局はオーラスで私が大三元を和了って勝ちました。
淡ちゃんは私の健闘を称えた後、
全体に向けて部活終了を告げて。
それが終わると、よろよろとトイレに歩いていきます。
なぜだか妙な胸騒ぎがして、私は後を追いました。
気持ち悪い事をしている、その自覚はあったけれど。
淡ちゃんが入った個室の隣に入って、
息をひそめて様子を伺います。
周囲を包み込むねっとりとした沈黙。
やがて、そこに一つの音がこだましました。
「いっ……!」
音、というよりは声。名前を付けるならそれは悲鳴。
小さく、痛みをこらえるような悲鳴が数度、
トイレの空気を揺らしました。
私は気が気じゃなくなって、壁に耳をこすり付けます。
しゅるり、しゅるりと衣擦れの音。
淡ちゃんは何かを巻いているようでした。
やがて大きなため息とともに、
ガチャリと扉の開く音がして、淡ちゃんが出て来ます。
同時に私も飛び出しました。
「えっ、タカミ!?」
驚いたように目を丸くする淡ちゃん。
でも私の驚きは、淡ちゃんのそれを
大きく上回っていました。
淡ちゃんの右手に握られた物。
眩く光る銀色に、てらてらと赤がぬめっているそれは――
「……あ、淡、ちゃん。それ、一体、どういう、事?」
――カミソリ。
そう、淡ちゃんの右手には。
今まさに使われたのであろう、
血塗られたカミソリが握られていました。
震えた声での問い掛けに、淡ちゃんはふっと嘲笑を浮かべると。
唇を歪ませて、短く小さく口にしました。
「ペナルティー、だよ」
そして、体を大きくぐらつかせて。
そのまま、地べたに倒れ伏したのです。
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「淡ちゃん……どうしてこんな事したの……」
「だから言ったじゃん。ペナルティーだよ」
「マイナス千点ごとに1回。負けたらおなかに線を引く。
今日は−13だから13回。
ちょっと血を流し過ぎちゃったかも」
「答えになってないよ……どうしてそんな事するの?」
「ねえタカミ、知ってる?インターハイってさ、
『3年生ブースト』ってのがあるらしいって」
「知ってるけど……それがどうしたの」
「思いの強さに牌が応える。それってさ、逆に言えば、
負けた人は思いが弱かったって事だよね」
「だからペナルティー。負けたら痛い思いするぞって、
自分をもっと追い込むの」
「そん、な……」
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狂気。
そう呼ぶしかない情熱が、淡ちゃんを支配していました。
お腹に巻かれた包帯からは、じわりと赤色が染み出していて。
淡ちゃんの科したペナルティーが、
決して軽くない事を知らしめています。
聞けば春季選抜で負けたあの日から、
どうして負けたのかずっと考えていたと言うのです。
そしてたどり着いた結論。
それは、自分に覚悟が足りなかったから。
思いで敵に負けていたから。
そう考えた淡ちゃんは、トップとの点差分、
自分のわき腹に線を引いたとの事でした。
その痛みを、苦しみを。雀力に変換するために。
でも。そもそもその刑罰は、
淡ちゃんが負うべきものだったでしょうか。
だって、淡ちゃんは春季選抜で全ての対局を
プラスのトップで終わらせていて。
個人の成績だけであれば、大会MVPだったのです。
なのに。
「そんなの言い訳にならないよ。
トップとの点差は7万点」
「テルなら絶対ひっくり返してた」
「私が。春夏の連覇を止めたんだ」
淡ちゃんが目指すもの。その比較対象が、
あまりにも高みにあり過ぎて。
淡ちゃんは自分を許してあげられないのです。
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春季選抜。連覇の数字は2で止まりました。
それは決して淡ちゃんだけの責任ではなかったけれど、
淡ちゃんはそう考えはしなかった。
だって、宮永先輩はできていた。自分にはできない。
それは、自分が宮永先輩に及ばないから。
部は分解してまとまりません。
元々チーム間の溝が深くなりがちの体制で、
確執は広がるばかりです。
それは決して淡ちゃんの責任ではないけれど、
淡ちゃんはそう考えはしなかった。
だって、弘世先輩はできていた。自分にはできない。
それは、自分が弘世先輩に及ばないから。
淡ちゃんが日に日におかしくなっていく。
酷く自罰的になり。
歯を食いしばりながら麻雀を打つようになって。
そしてついには、自分の体に直接罰を。
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だからと言って、どうして私に
淡ちゃんを慰められるでしょう。
元はと言えば、私達がふがいないから、
重責が淡ちゃんに押し付けられたわけで。
押し付けた側の私達が何を言ったところで、
淡ちゃんの心には響かないでしょう。
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だったら、私にできる事と言えば。
せめて、一緒に罰を受ける事だけです。
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「……淡ちゃん。そのカミソリ貸して」
「……取り上げたって無駄だよ。
私の意志は変わらない。
別のカミソリ使うだけだから」
「うん。わかってる。だから、こうするの」
「……タカミ?」
「スプリングの最終成績は、
トップと−7800点だったよね。
だったら多分、8回かな」
「た、たか、み……?」
「っ……!1っ……回。2、回。っ、3回!
4回、5回、6回、7回っ……
8回っっっ!!!」
「タカミっ……どうしてっ…………!」
「……私は、宮永、先輩みたいに、強くないし。
弘世、先輩、みたいに、頼もしくも、ないけど……」
「一緒に、背負う事は、でき、る、はずだから……」
「淡ちゃんが、こう、するなら……せめて、一緒に、傷つくよ」
「そう、どこまでも、一緒に……」
「タカミ……!!」
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わき腹から血を垂れ流し、それでも微笑む私を前に
淡ちゃんは顔を真っ白にして怯えて見せます
でも、恐怖に怯える瞳の奥に
どこか救われたような、そんな希望の色が見えました
そうだよ、淡ちゃん
貴女は独りぼっちじゃない
強くはないけど、頼もしくもないけれど
それでも私が一緒に居る
一緒に苦しんであげるから
だから、もう
たった独りで苦しまないで
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思えば私は、ずっと孤独だったんだと思う。
独りぼっちだったところをテルに拾われて、
チーム虎姫に転がり込んだ。
そこで私は猫かわいがりされたけど、
やっぱりぼっちのままだった。
だって、テルには菫先輩が居る。タカミには亦野先輩が。
私だけ居ないんだ。
倒れそうになった時、横で支えてくれる人間が。
わかってる。虎姫のみんなはきっと助けてくれるって。
でも、それはあくまで在学中だけ。
みんな、私を置き去りにして卒業していく。
結局、私は独りで頑張るしかないんだ。
でも私には無理だった。
春季選抜でさっそく負けた。
私にテルの代わりは無理だった。
部は崩壊し始めた。
私に菫先輩の代わりは無理だった。
無理、無理、無理、無理。
自信がひしぎ折られてく。
プライドは粉々に打ち砕かれて、
残されたのはただ弱くて泣き虫な私。
もうどうすればいいかわからなくって、
でもなんとかしなくちゃいけなくて。
そんな時にある言葉を知った。
『3年生ブースト』
思いの強さが力に変わるんだって。
すごくわかりやすかった。全ての問題が収束した。
そう。単に、思いが弱かったから負けたんだ。
だったら強化すればいい。
だから、私は、カミソリを
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でも
タカミがカミソリを手に取って、
自分のおなかを切り裂いて
そしたら世界が変わった気がした
ううん、きっと気がしただけじゃない
実際に世界は変わったんだ
独りぼっちの世界から、二人ぼっちの世界へと
わかってる
結局はタカミも私を置いていくって
でも、少なくとも今この瞬間、
私達は二人で一緒に傷ついて
苦しんで、痛みにうめいてるのは一緒
だからもう少しだけ、少なくとも後一年は
タカミと一緒に、頑張ってみようって思えたんだ
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二人して包帯を巻きました
じんじんと鈍く疼く痛みにわき腹を押さえながら、
血を失ってもうろうとする意識で牌を打ちます
一局一局に命を懸けて、思いを込めて打つのです
今思えば私には、確かに甘いところがありました
オーラスで役満を和了れる事に期待して、
それ以外の局では防御に専念
親の時だけ連荘目指して早和了り
そんな日和った打ち方で、
どうして攻撃型を名乗れるでしょう
だから自分に課しました
オーラスの和了りを収支から除外して、
南3局終了時までにトップを取れなかった場合
負けた分をカミソリに変換する事にしたのです
無論、最初は負けに負けました
おなかはまるで、キャベツの千切りのように線まみれになって
血がどんどん抜けていきました
それでも刻み続けました
思いがいつか、力に変わる
ただそれだけを信じ続けて
何度も刻み続けました
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タカミの力が変わり始めた
ドロリと濁った墨汁のような、
ねばりつくような闇が滲み出るようになった
それはお腹の辺りから
まるで流した血がそのまま宙に漂って溶け込むように、
卓にべっとりまとわりいて
少しずつ、少しずつ
タカミはオーラス以外でも
支配力を持つようになってきた
すごいな、嬉しいな
タカミは私を支えるために、
必死で強くなろうとしてくれてる
だったら私も頑張らないと
だからペナルティーを重くした
最終成績に関係なく、誰かに和了された点数分
カミソリを引く事にしたんだ
もちろん、ダブリーは禁止した上で
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体がボロボロになって崩れていきます
皮がめくれ、血が流れ、意識がかすみ、
命が零れ落ちていきます
でもそれに反比例して
力は増えていきました
思いの力
それは確かに実在したのです
3年生ブースト
高校生最後の試合、その思いが人を炎に変える
だとすれば
命を犠牲にするほどの思いを糧にすれば
どれほどの炎を巻き上げる事になるのでしょう
結果は目に見える形で表れます
インターハイの地区予選
私達は、他校3チームを飛ばして快勝したのです
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地区大会を圧勝で終え、記者に囲まれる淡ちゃんと私
持ち前の勝気な笑みを湛えながら、
淡ちゃんはこう言い放ちました
「今年も白糸台が優勝します!
これはもう決定事項です!」
「私達が4連覇に懸ける思い、その思いの強さで
誰かに負けるとは思えませんから!」
ああ、それはそうでしょう
私達は、思いどころか命すら懸けている
そんな狂気を持つ人間が、
他にどれだけいるでしょう
私だけが知っていました
声高に語る淡ちゃん、
そのわき腹に血が溢れている事を
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『照、この前の地区予選の映像見たか?』
『うん』
『まるで別人だ。いや、打ち筋もそうだが人相が。
正直背筋が凍えたよ』
『で。このまま放置していいと思うか?』
『よくはない。よくはないけれど……
そもそもかける言葉が思いつかない』
『二人を変えちゃったのは、多分私達だから』
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白糸台は破竹の勢いで勝ち進みました
それと同時に、体の傷は増えていきました
敵はどんどん強くなります
科されるペナルティーはどんどん重くなり、
命をこそぎ取っていきます
手に持つ牌に重さを感じ
動くのがおっくうになっていきます
それでも、今更引くわけにはいきません
ここでやめてしまったら
今までの労苦が全て水の泡になる
そんな事になるなら死んだ方がまし
そう思えるくらいには、私も壊れてしまったようでした
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そして迎える決勝戦
そこには見覚えのある名前が並んでいました
臨海女子高校、清澄高校
そして……阿知賀女子学院
奇しくも去年と同じ顔触れが並んでいて
大将のメンバーも去年と同じ
もし去年と同様大将の力が拮抗しているとすれば
白糸台の運命を決めるのはこの私
私が、宮永先輩と弘世先輩の
代わりになれるかどうかにかかっています
なってみせる
ううん、上回って見せる
無論、人生全体で論ずればまるで叶わないでしょう
でも今この瞬間、この一戦のみに命を懸けたなら
私にも、あのお二人を超える事ができるかもしれない
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だから、どうか、勝たせてください
この戦いさえ終わったら
もうどうなっても構いませんから
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どうか、勝たせて
淡ちゃんを、この苦しみから解放するために
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『あれ……ここ、は……?』
『気づいたか。ここは会場近くの病院だ』
『弘世先輩……どうしてここに』
『覚えてないか。お前、対局が終わるなり倒れたんだよ。
レギュラーメンバーが外れるわけにもいかないから、
私が付き添いで同行したんだ』
『そうですか……ありがとうございました』
『……。その、試合の方は?』
『今はとにかく、ゆっくり休め』
『答えてください!!試合の方は!!!』
『……』
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『……白糸台は準優勝に終わった。
次鋒で清澄高校に役満が出て逆転されたんだ。
そこから中堅で大崩れした』
『淡は必死に食らいついたが、後一歩及ばなかった――』
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『――っおい!動くな!お前だって重症なんだ!!』
『寝てる場合じゃありません!
淡ちゃんは!今淡ちゃんはどうしてますか!?』
『お前と同じだ!対局が終わった途端倒れた!
今は別室で眠っているはずだ!
照と亦野が監視している!』
『行動は逐一お前に連絡する!だから今はとにかく休め!』
『っ……!!』
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医者を呼び、暴れる尭深に鎮痛剤を投与する。
数分してようやく沈黙したのを見届けて、
私はため息をつきながら病室を立ち去った。
照は廊下で待っていた。
懸念した通りだったのだろう、その表情は酷く青ざめている。
「尭深の方はどうだった?」
「残念ながら予想通りだ。かなり手酷く自傷している」
「そっか。淡の方も散々だった。
ケガしてないところを探すのが難しいくらい」
尭深も淡も、対局が終わると同時に倒れた。
理由はおそらく貧血だろう。
制服を剥いた時、思わず悲鳴を上げそうになった。
ほぼ全身に包帯が巻かれている。
足、腹、胸、背中。
およそ服で隠れる範囲の全てが、
赤黒い色で覆われていた。
完全に病気の領域だ。
肉体面だけでなく、精神面でも治療が必要だろう。
「……これからどうなると思う」
「自傷の原因にも依るけど、
予想通りなら命が危ない。
二十四時間体制で見守る必要があると思う」
「難しいな」
だが必須だろう。病院側に掛け合うしかない。
最悪の場合、このまま精神病院の
閉鎖病棟に収容する事も視野に入れなければ。
「……くそっ」
自らの頬を両手で叩く。尭深の顔がちらついた。
薬によって、強制的に眠りに落ちるその瞬間、
あの大人しい後輩が見せた眼差しが忘れられない。
悪鬼が如き形相、まるで、この世の全てを憎むような。
そして。その怒りは確かに私に向けられていた。
『貴女が!貴方達が!こんなものを遺さなければっ……!!』
そう呟いた一言は。私の胸に、
今も棘のように突き刺さっている。
私達が残した3連覇。今や栄光は呪いとなり、
二人の体を蝕んでいるのだ。
「別に、そんな事は望んでなかったのにな」
いくらインターハイといえど、所詮は部活動じゃないか。
命を懸けてまでやるような事じゃない。
「二人にとって、インターハイの連覇は
命よりも大切なものだった。
二人が守ろうとしたものは、優勝じゃなくて私達との絆」
だとしたらなおさらだ。死んでは何の意味もない。
生きてさえいれば、いくらでもやり直しがきくんだから。
なんて。
「今の二人に説いたとしても。
まるで聞き入れはしないんだろうな」
大きく息を吐いて天を見上げた。
所詮私はもう部外者だ。今の私にできる事と言えば、
二人が道を絶やさぬよう見守る事くらいしかない。
どうか、二人が思い直してくれますように。
いくらそう願っても、祈りとは裏腹に。
二人が聞き入れるイメージを、
一度として浮かべる事はできなかった。
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白糸台高校四連覇ならず、準優勝で涙を呑む
だからと言ってその結末で、
責められる事はありませんでした
運の要素が絡む麻雀で、三連覇したのがそもそも奇跡
さらに結果が準優勝とあれば、
騒ぐほどの失態でもなかったという事でしょう
あるいは私達が思っていたほど、
世間は注目していなかったのかもしれません
もっとも、それはあくまで第三者視点の話
部員達の落ち込みようと言えば、
それは悲惨なものでした
特に、敗北の決定的要因となった次鋒と中堅の子は、
あれ以来不登校が続いており
再起の見通しは当分立ちそうにないとの事です
そんな子達とは対照的に
意外にも、元気に登校してくる生徒もいます
淡ちゃんでした
大会後に全身の傷が明らかになり、
一時は私と一緒に精神病院に入院となった淡ちゃん
今では元気に復帰して、
毎日楽しそうに麻雀を打っています
例のお二人に諭されたそうです
大会の結果にこだわる必要はないだとか、
生きていれば挽回するチャンスは訪れるだとか、
その手のありがたいご高説を
その言葉が示した通り、
私達は秋季大会で再び王者に返り咲いて
そして
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今、二人
部活が終わった部室に居る
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「さて、と。秋季大会も終わったし、
タカミもこれでお疲れ様だね」
「うん。淡ちゃんのおかげで、最後の大会で優勝できたよ」
「どーいたしまして。インターハイもこのくらい
楽勝だったらよかったのにね」
「……そうだね」
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「じゃ、そろそろ。
インターハイのペナルティー行こっか」
「……うん」
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知っていた、淡ちゃんが立ち直ってない事は
病院の先生に見つかれば、薬で無理矢理鎮められる
だから淡ちゃんは機を待った
誰からも邪魔されず、自分を罰する事ができる日まで
秋季選抜の優勝、そんなの慰めにもならない
と言うより、8月の時点ですべて終わっているのだから
インターハイで私達は命を懸けた
そして負けた
なら、私達に科されるペナルティーは
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言うまでもなく、死
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毎日毎日悩み続けた
淡ちゃんが立ち直る未来
それだけをひたすら探し求めた
そんなものはどこにもなかった
敬愛する先輩から受け継いだ連覇の軌跡
ただそれだけが、
先輩から捨てられた淡ちゃんに残された
唯一の道しるべ
記録なんて重要じゃない、
大切なのは結果に至る過程
いくら理想を語ったところで
『思いの強さが反映される』なんて言われれば
その上で負けてしまったら
私達の思いなど、
優勝校に届かなかったという事で
淡ちゃんがそんな自分を許せるはずなど
ありもしなくて
--------------------------------------------------------
だから私にできる事は
ただ
ただ
淡ちゃんに
ついていく事だけで
--------------------------------------------------------
ああ、ああ
もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたのでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたのでしょうか
ごめんなさい、どちらも与えられなくて
悲しいけど私は凡人で
無力で無能で、酷く弱くて――
--------------------------------------------------------
(――ちがうよ?)
--------------------------------------------------------
最初は確かにそうだった
テルからあっさり捨てられて
菫先輩が見えなくなって
ただ一つ残されたわかりやすい絆
連覇の2文字に取り憑かれたの
でもね、途中から違ってたんだ
お腹の肉を切り出して、タカミにそれを見つけられて
二人で一緒に切り出して
嬉しかった、幸せだったの
思いを共有できた気がして
ようやくぼっちの私にも
誰よりも大切な人ができた気がした
肉を切りあって、二人で秘密を共有して
タカミを独り占めしたかったんだ
それが、どんなに歪な繋がりだとしても
--------------------------------------------------------
でもね、気づいちゃったんだ
ううん、最初から分かってた
だってタカミは2年生
例えこの夏がどうなろうと
結局私を捨てて行っちゃう
このオータムが最後の大会
そしたらもう虎姫は、ホントのホントに解体で
私だけが独り取り残される
--------------------------------------------------------
多分あの日、私は勝てた
そしてタカミに四連覇を捧げて
笑顔で見送る事ができたはず
それができなかったのは
歪に想いがゆがんでたから
だって、だって、だって、だって
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負けたペナルティーで死んじゃえば……
タカミ、卒業しないよね?
--------------------------------------------------------
好きだよ、タカミ
だから、置いて行っちゃ、やだ
--------------------------------------------------------
ナイフがおなかに吸い込まれる
次の瞬間、おなかが燃えるように熱くなった
淡ちゃんは目に涙を浮かべ
でも笑いながらナイフを手渡す
血がべっとりとこびりついたナイフ
私はそれを両手で握って、同じ場所に突き刺した
痛い、痛い、痛い、痛い
でも
それ以上に気持ちよかった
苦しみ、悲しみ、一切合切から解放される気がして
多分、完全に壊れちゃったんだ
何度となく繰り返した自傷行為
脳はその苦しみに耐えられなくて
壊れて狂って血迷って
痛みを快感に変換した
たとえその裂傷が、死にいざなう傷であっても
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あったかいね、あわいちゃん
うん、タカミもあったかいよ
ごめんね、タカミ そつぎょう できなくなっちゃうね
いいよ、どうせあわいちゃんを おいてはいけなかったから
ごめんね、こんなおわりかたで
ううん、こっちこそ
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ごめんね
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『結局、こうなってしまったか』
『……』
『秋季大会で持ち直したと思ったのが甘かった。
やはり監視を解くべきじゃなかったんだ』
『……』
『なあ照。お前、本当はわかってたんじゃないのか?
お前の鏡なら、淡の復活がまやかしなのか、
見破る事ができたはずだ』
『……』
『……照!!!』
『淡の本心ならわかってたよ。
そんなの鏡を見るまでもない』
『なら!!』
『菫こそもっとちゃんと考えて。
本気で死にたいと思う人間が、
わざわざおなかを刺すと思う?
どう考えても胸を一突きした方が早いのに』
『……死ぬ気はなかったって事か?』
『半々だったんだと思う。
このまま死んじゃってもいいやって、
そのくらいには考えてたんじゃないかな』
『でも』
『本当の願いは違う。淡の願いは、
ただ尭深と一緒に居たいってだけ。
だったら、別に死ななくてもそれは叶う』
『無意識のうちに賭けたんだと思う。
そして淡は、賭けに勝った』
『もう、二人は大丈夫』
『……』
『……どうやらお前も監視対象に含めた方がよさそうだな。
私には、底なし沼に陥ったようにしか見えない』
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私より先に回復した淡ちゃんが、
満面の笑みで教えてくれました
どうやら私の傷は淡ちゃんより重く
また、度重なる自傷で肉体が衰弱しており、
全快には今年いっぱいかかるそうです
更には精神的な治療も必要で、
全てのケアを終えるまでに、
相当な期間休まなければならないと
「白糸台の場合、1年で60日休むと
出席日数が足りなくなって留年になるんだってさ」
「体の傷で1か月半、心の傷でもう一声。
もう、タカミは留年するしかないね!」
「……最初からこれを狙ってたの?」
「まさか。起きたらテルが教えてくれたんだ。
私達は離れずにすむって」
「それとも。タカミ的には、嬉しくなかった?」
「ううん。ただ、私はあの時完全に、
淡ちゃんと逝く気だったから」
「もし単に、私と離れたくないだけだったら、
そう言ってくれればすんだのになって」
「何?私が留年して欲しいって言ったら、
タカミは素直に留年したの?」
「うん」
淡ちゃんは目を丸くして
次の瞬間、とろけるような笑顔を浮かべます
「あはは、やっぱりタカミ、狂ってるよ」
「駄目かな」
「ううん。そうじゃないと私が困る!
私も完全に狂ってるからね!」
「というわけで、タカミの留年は決定!
これで後一年、タカミと一緒に居られるね」
「その後はどうしようか。
宮永先輩と、弘世先輩を追いかける?」
「ううん、それはいいや。
私にはもう、タカミがいるから」
「そっか」
「でも。タカミは私を置いてっちゃ駄目だよ?」
人懐っこい笑みを浮かべて、
私に纏わりつく淡ちゃんは、
それでもやっぱり壊れているのでしょう
キラキラと輝く瞳の光は、
どこまでも狂気に彩られていて
もし私が離れたいと願ったら
四肢を潰してでも阻止するのでしょう
でも
そんな淡ちゃんを、愛おしいと思ってしまう、
私もやはり壊れているのでしょう
もし万が一淡ちゃんが私から離れようとしたら、
きっと、私も同じようにするでしょうし
「淡ちゃんこそ、私を置いていかないでね」
「もちろんだよ!死ぬ時は二人で一緒に死のうね!」
私達は二人でほほ笑んで
まだ治りきらない互いのおなかを、
そっと優しくいたわるように
何度も指でなぞるのでした
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私が与えられるもの
もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたでしょうか
ううん、きっと無理だったでしょう
淡ちゃんが求めてたもの
それは強さでも、まして頼もしさなんかじゃなくて
ただ、ただ
共に寄り添ってくれる人
自分の弱さを曝け出して
それでも一緒に居てくれる人
淡ちゃんが求めてたのは
きっとそんな人だから
だから私は今もまだ
淡ちゃんのそばに居る
(完)
宮永照と弘世菫が卒業した白糸台。
偉大な先輩が築いた栄光を引き継いだのは、
まだ2年生の大星淡だった。
任せておいてくださいよ、
そう豪語する大星の前に、
過酷な現実が立ちはだかる。
果たして大星は折れる事なく
進む事ができるのか。それとも。
<登場人物>
大星淡,渋谷尭深,宮永照,弘世菫
<症状>
・ヤンデレ
・依存
・狂気
・異常行動
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・淡×尭深
(『毒を吸って、愛を吐く』のような
共依存で重いメリーバッドエンド)
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もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたのでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたのでしょうか
ごめんなさい、どちらも与えられなくて
悲しいけれど、私は凡人で
無力で無能で、酷く弱くて
そんな私にできるのは
壊れていく貴女のそばに寄り添う事だけ
一緒に壊れてあげる事だけで
だから
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『私が与えられるもの』
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先輩方が卒業し、桜が葉桜に変わる頃。
我が白糸台の学び舎には、連日のように
メディアが押し掛けて来ていました。
関心の的はチーム虎姫。
2トップが抜けた穴を埋める事はできそうなのか、
はたまた虎姫を解体して別のチームを編成するのか、
世間の注目を集めているそうです。
記者が囲む輪の中心にいるのは淡ちゃん。
そう、部長は淡ちゃんが引き継ぎました。
今後主軸となる選手を早めにトップに据える事で、
部長交代の負担を軽減するのが目的です。
弘世先輩が1年生で部長となったように。
『まー任せといてくださいよ!
このスーパーノヴァ大星淡が、
今年も優勝旗を白糸台に持って帰りますから!』
『宮永でも荒川でも高鴨でも、
何でも持ってきてください!
最後に笑うのは私達です!』
ビッグマウス。そう嘲笑されないだけの実績と実力を、
淡ちゃんは持っていました。
だからこそ記者達も沸きに沸いて、
彼女の言葉を鵜呑みにします。
記者は持ち帰ったインタビューを
そっくりそのまま記事にしました。
『4連覇に向けて動き始めた白糸台。
連覇の記録をさらに伸ばせるか。
大星淡選手に独占インタビュー!』
『宮永弘世コンビが抜けた白糸台、
気になる補充要員は?大星淡は不敵に笑う』
『虎姫解体?風穴が開いた白糸台、
先輩が築いた栄光を守る事はできるのか。
大星淡に秘策あり?』
踊る見出しは様々なれど、締めの言葉は皆同じ。
『大星選手率いる白糸台に、今後も目が離せない』
間違いではありませんでした。
白糸台のさらなる躍進も、もしかしたら凋落も。
どちらになるか、全ては淡ちゃん次第。
小さく華奢な双肩に、重く圧し掛かっています。
それが何よりもつらく苦しくて、
胸をギリギリと締め付け続けるのでした。
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淡ちゃんがメディアの前で見せる態度とは裏腹に、
白糸台は窮地に陥っていました。
圧倒的リーダーの不在。
その弊害が顕在化し始めていたのです。
前人未到の三連覇を成し遂げた白糸台。
その栄光の軌跡は、そのまま
あのお二人の足跡でもありました。
宮永先輩と弘世先輩。
お二人が入学する前、白糸台高校は
地区ベスト8がせいぜいの中堅校に過ぎなかった。
そんな白糸台高校を王者に押し上げたのは、
まぎれもなくこのお二人でした。
そのお二人が卒業した今、
黄金時代を継げるほどのメンバーは揃っておらず。
白糸台は元の中堅校に戻ってしまったのです。
こう語れば異を唱える人も居るでしょう。
確かに、地区予選は勝ち抜けると思います。
全国でもベスト8なら何とかなるかもしれません。
でも我々に求められるのはただ優勝の2文字のみ。
その期待に応える力があるかと言えば、
頭を抱えずにはいられません。
そんな中、唯一残された希望が淡ちゃんでした。
全国でもトップクラスの雀力を持ち、
相手は5〜6向聴からスタートするのに対して
自分はダブルリーチが可能。
挙句カン裏が必ず乗るという凶悪仕様と、
『宮永照の後継者』を名乗るに相応しい実力を持っています。
でも。淡ちゃんが、
宮永先輩に勝った事はほとんどありません。
そして。淡ちゃんには、
弘世先輩ほどの統率力はありません。
特に致命的なのは後者でした。
どちらかと言えば唯我独尊で我が道を行く淡ちゃんは、
エースとしては文句なくとも、
部を統率する長としては未成熟に過ぎたのです。
ええ、もちろんわかっています。
何を他人事のように言っているのかと。
本来その重荷は私達3年生が背負うべきもので。
私達の代さえ育っていれば、
淡ちゃんが苦しむ必要なんてなかった。
結局のところ私達がふがいないから、
全てが淡ちゃんに圧し掛かっているのです。
それでも淡ちゃんは笑いました。
なんて事のないように、不敵に八重歯を光らせて、
夜の闇を思わせる深い瞳を湛えながら。
『まかせといてよ。ちょっとくらい
ハンデあった方が燃えるから』
その勝気さが頼もしくて。つい、先輩であるはずの私は、
淡ちゃんに頼りきりになってしまいます。
もしかしたら、淡ちゃんなら本当に大丈夫かも。
そう思わせてくれるくらいには、淡ちゃんは頼もしいから。
でも。それが虚像に過ぎない事は、
すぐ明らかになったのでした。
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春季選抜。
通称スプリングと呼ばれ、
一年生が戦力として見込めないこの大会は、
各校における戦力を量る重要な大会になります。
秋季大会ではまだ引退前の三年生を使う高校もあれば、
途中でのオーダー変更が可能な事もあり、
次代を担う選手の実験的起用を行う学校がほとんどです。
それに対して。春季で起用される選手は、
インターハイを視野に入れて慎重に選ばれます。
大物新人の加入で1人や2人入れ替わる事はありますが、
基本はこの時点のメンバーが主軸になるわけで。
つまり、春季メンバーがどの程度仕上がっているかで
各校の地力が明らかにされるわけです。
宮永先輩と弘世先輩が居た頃は、
当然のように優勝したスプリング。
なのに今年の白糸台は、ファイナルに残るのが精一杯でした。
先鋒、次鋒、中堅、副将。大将の淡ちゃんに回るまでに、
かなり手酷く削られて。淡ちゃんが必死で追い掛けるも、
逆転叶わず3位で終了。
白糸台の勢いに、はっきりと陰りが見える結果となりました。
春季選抜3位。この結果だけ見れば、
まだまだ有望と言えるかもしれません。
しかしながら、スプリングは欠場する有力校も多いのです。
インターハイのみに焦点を絞る臨海女子を筆頭に、
戦略的、もしくは固有の理由で欠場するチームも存在します。
これらの事情を考慮すれば。3位という結末は、
決して許されるものではありませんでした。
『インターハイでは絶対に負けません!!』
試合終了後、多数の記者からマイクを向けられ、
淡ちゃんは涙ながらに叫びます。
ああ、違う。違うんです。淡ちゃんはもう十分頑張っていて。
不甲斐ないのは私達で。一人羽ばたこうともがく淡ちゃんを、
私達が押さえつけているだけで。
これ以上、淡ちゃんが頑張る必要はないのです。
それでも、淡ちゃんは歯を食いしばりながら、
前を睨みつけるのです。
私達のために。そして、
去っていった先輩達の誇りを守るために。
少しずつ、少しずつ影が落ちていく。
その影を拭う事ができる人物は、
今の白糸台には居ませんでした。
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淡ちゃんに牙をむくもの。
それは過去の栄光だけではありませんでした。
白糸台の内部からも、現行の体制に
異を唱える者が現れたからです。
春季選抜での敗北、それが呼び水となりました。
チームを再編するべきだ、そんな声があがり始めたのです。
白糸台のチーム編成は、部内成績の
上位5人を集めたものではありません。
仲のいい者がチームを組んで、
校内対抗戦で1位になったチームが
レギュラーとなる仕組みです。
しかしそれは言い換えれば、苛烈な派閥闘争でもあります。
個人でどれだけ力があっても、
主流のチームに入れなければ一度として
公式試合に出られない。
チーム虎姫の栄光の陰で、涙をのんだチームも多くあったのです。
今までは勝っていたから我慢していたのでしょう。
でも春季で受けた敗北を受けて、皆の不満が噴き出し始めた。
もっとも、その不満の矛先は淡ちゃんではなく。
淡ちゃんを飛び越して、皆監督に直訴するのでした。
『チームを再編するべきです。
今の虎姫ではインターハイを勝ち抜けない』
『大星部長を起点として、一から考え直すべき。
弘世先輩もそうしたはずです』
『実際、弘世先輩が初めて一軍を打ち倒した時のメンバーは、
弘世先輩が集めた即席チームだったそうじゃないですか』
『旧虎姫にこだわる必要はないんです。
いいえ、もはや旧虎姫は害悪です』
日に日に部は変わっていきました。
和やかな雰囲気は一転して、
ギスギスした不穏な空気に満ち満ちていきます。
「白糸台も、変わっちゃったね」
「菫先輩だったら、こんな時どうしてたのかな」
「あはは。そもそも菫先輩が仕切ってたら、
こんな風にはならないか」
否定はできませんでした。
実際、弘世先輩の人気は飛び抜けていましたから。
そのカリスマたるや、彼女が歩く道には
自然と左右にファンが集まり、かしずく行列ができるほど。
弘世先輩なら納められただろう争い。
いいえ、そもそも起きなかっただろう争いが起きている。
その事実が、淡ちゃんを壊していきました。
--------------------------------------------------------
連日圧し掛かるプレッシャー。
部内からの批判の声。
気丈で健気な淡ちゃんは、
それらにずっと耐え続けて。
いつも通りの勝気な笑みと、
不遜な態度を崩さずいました。
でも、中身は少しずつ変わり始める。
耐え切れない程の重圧に、
潰されきしんでねじれていく。
私が気づいた頃には、もう。
『手遅れ』。
そう呼べるほどに変質してしまっていたのです。
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--------------------------------------------------------
異変。私がそれに気づけたのは、
常日頃から淡ちゃんを気に掛けていたからでしょう。
異変と言うには些細な出来事。
でも、取り返しのつかない第一歩を、
淡ちゃんは踏み出していました。
「……ええと、淡ちゃん。体調悪いなら休んだ方が」
対局中、わき腹を押さえる淡ちゃん。
見れば顔色も青ざめていて。
お腹でも冷えたのかなと、その時は軽く考えていました。
「ううん、大丈夫。このまま対局続行で」
淡ちゃんが不調なのも起因したのでしょう、
その対局はオーラスで私が大三元を和了って勝ちました。
淡ちゃんは私の健闘を称えた後、
全体に向けて部活終了を告げて。
それが終わると、よろよろとトイレに歩いていきます。
なぜだか妙な胸騒ぎがして、私は後を追いました。
気持ち悪い事をしている、その自覚はあったけれど。
淡ちゃんが入った個室の隣に入って、
息をひそめて様子を伺います。
周囲を包み込むねっとりとした沈黙。
やがて、そこに一つの音がこだましました。
「いっ……!」
音、というよりは声。名前を付けるならそれは悲鳴。
小さく、痛みをこらえるような悲鳴が数度、
トイレの空気を揺らしました。
私は気が気じゃなくなって、壁に耳をこすり付けます。
しゅるり、しゅるりと衣擦れの音。
淡ちゃんは何かを巻いているようでした。
やがて大きなため息とともに、
ガチャリと扉の開く音がして、淡ちゃんが出て来ます。
同時に私も飛び出しました。
「えっ、タカミ!?」
驚いたように目を丸くする淡ちゃん。
でも私の驚きは、淡ちゃんのそれを
大きく上回っていました。
淡ちゃんの右手に握られた物。
眩く光る銀色に、てらてらと赤がぬめっているそれは――
「……あ、淡、ちゃん。それ、一体、どういう、事?」
――カミソリ。
そう、淡ちゃんの右手には。
今まさに使われたのであろう、
血塗られたカミソリが握られていました。
震えた声での問い掛けに、淡ちゃんはふっと嘲笑を浮かべると。
唇を歪ませて、短く小さく口にしました。
「ペナルティー、だよ」
そして、体を大きくぐらつかせて。
そのまま、地べたに倒れ伏したのです。
--------------------------------------------------------
「淡ちゃん……どうしてこんな事したの……」
「だから言ったじゃん。ペナルティーだよ」
「マイナス千点ごとに1回。負けたらおなかに線を引く。
今日は−13だから13回。
ちょっと血を流し過ぎちゃったかも」
「答えになってないよ……どうしてそんな事するの?」
「ねえタカミ、知ってる?インターハイってさ、
『3年生ブースト』ってのがあるらしいって」
「知ってるけど……それがどうしたの」
「思いの強さに牌が応える。それってさ、逆に言えば、
負けた人は思いが弱かったって事だよね」
「だからペナルティー。負けたら痛い思いするぞって、
自分をもっと追い込むの」
「そん、な……」
--------------------------------------------------------
狂気。
そう呼ぶしかない情熱が、淡ちゃんを支配していました。
お腹に巻かれた包帯からは、じわりと赤色が染み出していて。
淡ちゃんの科したペナルティーが、
決して軽くない事を知らしめています。
聞けば春季選抜で負けたあの日から、
どうして負けたのかずっと考えていたと言うのです。
そしてたどり着いた結論。
それは、自分に覚悟が足りなかったから。
思いで敵に負けていたから。
そう考えた淡ちゃんは、トップとの点差分、
自分のわき腹に線を引いたとの事でした。
その痛みを、苦しみを。雀力に変換するために。
でも。そもそもその刑罰は、
淡ちゃんが負うべきものだったでしょうか。
だって、淡ちゃんは春季選抜で全ての対局を
プラスのトップで終わらせていて。
個人の成績だけであれば、大会MVPだったのです。
なのに。
「そんなの言い訳にならないよ。
トップとの点差は7万点」
「テルなら絶対ひっくり返してた」
「私が。春夏の連覇を止めたんだ」
淡ちゃんが目指すもの。その比較対象が、
あまりにも高みにあり過ぎて。
淡ちゃんは自分を許してあげられないのです。
--------------------------------------------------------
春季選抜。連覇の数字は2で止まりました。
それは決して淡ちゃんだけの責任ではなかったけれど、
淡ちゃんはそう考えはしなかった。
だって、宮永先輩はできていた。自分にはできない。
それは、自分が宮永先輩に及ばないから。
部は分解してまとまりません。
元々チーム間の溝が深くなりがちの体制で、
確執は広がるばかりです。
それは決して淡ちゃんの責任ではないけれど、
淡ちゃんはそう考えはしなかった。
だって、弘世先輩はできていた。自分にはできない。
それは、自分が弘世先輩に及ばないから。
淡ちゃんが日に日におかしくなっていく。
酷く自罰的になり。
歯を食いしばりながら麻雀を打つようになって。
そしてついには、自分の体に直接罰を。
--------------------------------------------------------
だからと言って、どうして私に
淡ちゃんを慰められるでしょう。
元はと言えば、私達がふがいないから、
重責が淡ちゃんに押し付けられたわけで。
押し付けた側の私達が何を言ったところで、
淡ちゃんの心には響かないでしょう。
--------------------------------------------------------
だったら、私にできる事と言えば。
せめて、一緒に罰を受ける事だけです。
--------------------------------------------------------
「……淡ちゃん。そのカミソリ貸して」
「……取り上げたって無駄だよ。
私の意志は変わらない。
別のカミソリ使うだけだから」
「うん。わかってる。だから、こうするの」
「……タカミ?」
「スプリングの最終成績は、
トップと−7800点だったよね。
だったら多分、8回かな」
「た、たか、み……?」
「っ……!1っ……回。2、回。っ、3回!
4回、5回、6回、7回っ……
8回っっっ!!!」
「タカミっ……どうしてっ…………!」
「……私は、宮永、先輩みたいに、強くないし。
弘世、先輩、みたいに、頼もしくも、ないけど……」
「一緒に、背負う事は、でき、る、はずだから……」
「淡ちゃんが、こう、するなら……せめて、一緒に、傷つくよ」
「そう、どこまでも、一緒に……」
「タカミ……!!」
--------------------------------------------------------
わき腹から血を垂れ流し、それでも微笑む私を前に
淡ちゃんは顔を真っ白にして怯えて見せます
でも、恐怖に怯える瞳の奥に
どこか救われたような、そんな希望の色が見えました
そうだよ、淡ちゃん
貴女は独りぼっちじゃない
強くはないけど、頼もしくもないけれど
それでも私が一緒に居る
一緒に苦しんであげるから
だから、もう
たった独りで苦しまないで
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--------------------------------------------------------
思えば私は、ずっと孤独だったんだと思う。
独りぼっちだったところをテルに拾われて、
チーム虎姫に転がり込んだ。
そこで私は猫かわいがりされたけど、
やっぱりぼっちのままだった。
だって、テルには菫先輩が居る。タカミには亦野先輩が。
私だけ居ないんだ。
倒れそうになった時、横で支えてくれる人間が。
わかってる。虎姫のみんなはきっと助けてくれるって。
でも、それはあくまで在学中だけ。
みんな、私を置き去りにして卒業していく。
結局、私は独りで頑張るしかないんだ。
でも私には無理だった。
春季選抜でさっそく負けた。
私にテルの代わりは無理だった。
部は崩壊し始めた。
私に菫先輩の代わりは無理だった。
無理、無理、無理、無理。
自信がひしぎ折られてく。
プライドは粉々に打ち砕かれて、
残されたのはただ弱くて泣き虫な私。
もうどうすればいいかわからなくって、
でもなんとかしなくちゃいけなくて。
そんな時にある言葉を知った。
『3年生ブースト』
思いの強さが力に変わるんだって。
すごくわかりやすかった。全ての問題が収束した。
そう。単に、思いが弱かったから負けたんだ。
だったら強化すればいい。
だから、私は、カミソリを
--------------------------------------------------------
でも
タカミがカミソリを手に取って、
自分のおなかを切り裂いて
そしたら世界が変わった気がした
ううん、きっと気がしただけじゃない
実際に世界は変わったんだ
独りぼっちの世界から、二人ぼっちの世界へと
わかってる
結局はタカミも私を置いていくって
でも、少なくとも今この瞬間、
私達は二人で一緒に傷ついて
苦しんで、痛みにうめいてるのは一緒
だからもう少しだけ、少なくとも後一年は
タカミと一緒に、頑張ってみようって思えたんだ
--------------------------------------------------------
二人して包帯を巻きました
じんじんと鈍く疼く痛みにわき腹を押さえながら、
血を失ってもうろうとする意識で牌を打ちます
一局一局に命を懸けて、思いを込めて打つのです
今思えば私には、確かに甘いところがありました
オーラスで役満を和了れる事に期待して、
それ以外の局では防御に専念
親の時だけ連荘目指して早和了り
そんな日和った打ち方で、
どうして攻撃型を名乗れるでしょう
だから自分に課しました
オーラスの和了りを収支から除外して、
南3局終了時までにトップを取れなかった場合
負けた分をカミソリに変換する事にしたのです
無論、最初は負けに負けました
おなかはまるで、キャベツの千切りのように線まみれになって
血がどんどん抜けていきました
それでも刻み続けました
思いがいつか、力に変わる
ただそれだけを信じ続けて
何度も刻み続けました
--------------------------------------------------------
タカミの力が変わり始めた
ドロリと濁った墨汁のような、
ねばりつくような闇が滲み出るようになった
それはお腹の辺りから
まるで流した血がそのまま宙に漂って溶け込むように、
卓にべっとりまとわりいて
少しずつ、少しずつ
タカミはオーラス以外でも
支配力を持つようになってきた
すごいな、嬉しいな
タカミは私を支えるために、
必死で強くなろうとしてくれてる
だったら私も頑張らないと
だからペナルティーを重くした
最終成績に関係なく、誰かに和了された点数分
カミソリを引く事にしたんだ
もちろん、ダブリーは禁止した上で
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体がボロボロになって崩れていきます
皮がめくれ、血が流れ、意識がかすみ、
命が零れ落ちていきます
でもそれに反比例して
力は増えていきました
思いの力
それは確かに実在したのです
3年生ブースト
高校生最後の試合、その思いが人を炎に変える
だとすれば
命を犠牲にするほどの思いを糧にすれば
どれほどの炎を巻き上げる事になるのでしょう
結果は目に見える形で表れます
インターハイの地区予選
私達は、他校3チームを飛ばして快勝したのです
--------------------------------------------------------
地区大会を圧勝で終え、記者に囲まれる淡ちゃんと私
持ち前の勝気な笑みを湛えながら、
淡ちゃんはこう言い放ちました
「今年も白糸台が優勝します!
これはもう決定事項です!」
「私達が4連覇に懸ける思い、その思いの強さで
誰かに負けるとは思えませんから!」
ああ、それはそうでしょう
私達は、思いどころか命すら懸けている
そんな狂気を持つ人間が、
他にどれだけいるでしょう
私だけが知っていました
声高に語る淡ちゃん、
そのわき腹に血が溢れている事を
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『照、この前の地区予選の映像見たか?』
『うん』
『まるで別人だ。いや、打ち筋もそうだが人相が。
正直背筋が凍えたよ』
『で。このまま放置していいと思うか?』
『よくはない。よくはないけれど……
そもそもかける言葉が思いつかない』
『二人を変えちゃったのは、多分私達だから』
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白糸台は破竹の勢いで勝ち進みました
それと同時に、体の傷は増えていきました
敵はどんどん強くなります
科されるペナルティーはどんどん重くなり、
命をこそぎ取っていきます
手に持つ牌に重さを感じ
動くのがおっくうになっていきます
それでも、今更引くわけにはいきません
ここでやめてしまったら
今までの労苦が全て水の泡になる
そんな事になるなら死んだ方がまし
そう思えるくらいには、私も壊れてしまったようでした
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そして迎える決勝戦
そこには見覚えのある名前が並んでいました
臨海女子高校、清澄高校
そして……阿知賀女子学院
奇しくも去年と同じ顔触れが並んでいて
大将のメンバーも去年と同じ
もし去年と同様大将の力が拮抗しているとすれば
白糸台の運命を決めるのはこの私
私が、宮永先輩と弘世先輩の
代わりになれるかどうかにかかっています
なってみせる
ううん、上回って見せる
無論、人生全体で論ずればまるで叶わないでしょう
でも今この瞬間、この一戦のみに命を懸けたなら
私にも、あのお二人を超える事ができるかもしれない
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だから、どうか、勝たせてください
この戦いさえ終わったら
もうどうなっても構いませんから
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どうか、勝たせて
淡ちゃんを、この苦しみから解放するために
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『あれ……ここ、は……?』
『気づいたか。ここは会場近くの病院だ』
『弘世先輩……どうしてここに』
『覚えてないか。お前、対局が終わるなり倒れたんだよ。
レギュラーメンバーが外れるわけにもいかないから、
私が付き添いで同行したんだ』
『そうですか……ありがとうございました』
『……。その、試合の方は?』
『今はとにかく、ゆっくり休め』
『答えてください!!試合の方は!!!』
『……』
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『……白糸台は準優勝に終わった。
次鋒で清澄高校に役満が出て逆転されたんだ。
そこから中堅で大崩れした』
『淡は必死に食らいついたが、後一歩及ばなかった――』
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『――っおい!動くな!お前だって重症なんだ!!』
『寝てる場合じゃありません!
淡ちゃんは!今淡ちゃんはどうしてますか!?』
『お前と同じだ!対局が終わった途端倒れた!
今は別室で眠っているはずだ!
照と亦野が監視している!』
『行動は逐一お前に連絡する!だから今はとにかく休め!』
『っ……!!』
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医者を呼び、暴れる尭深に鎮痛剤を投与する。
数分してようやく沈黙したのを見届けて、
私はため息をつきながら病室を立ち去った。
照は廊下で待っていた。
懸念した通りだったのだろう、その表情は酷く青ざめている。
「尭深の方はどうだった?」
「残念ながら予想通りだ。かなり手酷く自傷している」
「そっか。淡の方も散々だった。
ケガしてないところを探すのが難しいくらい」
尭深も淡も、対局が終わると同時に倒れた。
理由はおそらく貧血だろう。
制服を剥いた時、思わず悲鳴を上げそうになった。
ほぼ全身に包帯が巻かれている。
足、腹、胸、背中。
およそ服で隠れる範囲の全てが、
赤黒い色で覆われていた。
完全に病気の領域だ。
肉体面だけでなく、精神面でも治療が必要だろう。
「……これからどうなると思う」
「自傷の原因にも依るけど、
予想通りなら命が危ない。
二十四時間体制で見守る必要があると思う」
「難しいな」
だが必須だろう。病院側に掛け合うしかない。
最悪の場合、このまま精神病院の
閉鎖病棟に収容する事も視野に入れなければ。
「……くそっ」
自らの頬を両手で叩く。尭深の顔がちらついた。
薬によって、強制的に眠りに落ちるその瞬間、
あの大人しい後輩が見せた眼差しが忘れられない。
悪鬼が如き形相、まるで、この世の全てを憎むような。
そして。その怒りは確かに私に向けられていた。
『貴女が!貴方達が!こんなものを遺さなければっ……!!』
そう呟いた一言は。私の胸に、
今も棘のように突き刺さっている。
私達が残した3連覇。今や栄光は呪いとなり、
二人の体を蝕んでいるのだ。
「別に、そんな事は望んでなかったのにな」
いくらインターハイといえど、所詮は部活動じゃないか。
命を懸けてまでやるような事じゃない。
「二人にとって、インターハイの連覇は
命よりも大切なものだった。
二人が守ろうとしたものは、優勝じゃなくて私達との絆」
だとしたらなおさらだ。死んでは何の意味もない。
生きてさえいれば、いくらでもやり直しがきくんだから。
なんて。
「今の二人に説いたとしても。
まるで聞き入れはしないんだろうな」
大きく息を吐いて天を見上げた。
所詮私はもう部外者だ。今の私にできる事と言えば、
二人が道を絶やさぬよう見守る事くらいしかない。
どうか、二人が思い直してくれますように。
いくらそう願っても、祈りとは裏腹に。
二人が聞き入れるイメージを、
一度として浮かべる事はできなかった。
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白糸台高校四連覇ならず、準優勝で涙を呑む
だからと言ってその結末で、
責められる事はありませんでした
運の要素が絡む麻雀で、三連覇したのがそもそも奇跡
さらに結果が準優勝とあれば、
騒ぐほどの失態でもなかったという事でしょう
あるいは私達が思っていたほど、
世間は注目していなかったのかもしれません
もっとも、それはあくまで第三者視点の話
部員達の落ち込みようと言えば、
それは悲惨なものでした
特に、敗北の決定的要因となった次鋒と中堅の子は、
あれ以来不登校が続いており
再起の見通しは当分立ちそうにないとの事です
そんな子達とは対照的に
意外にも、元気に登校してくる生徒もいます
淡ちゃんでした
大会後に全身の傷が明らかになり、
一時は私と一緒に精神病院に入院となった淡ちゃん
今では元気に復帰して、
毎日楽しそうに麻雀を打っています
例のお二人に諭されたそうです
大会の結果にこだわる必要はないだとか、
生きていれば挽回するチャンスは訪れるだとか、
その手のありがたいご高説を
その言葉が示した通り、
私達は秋季大会で再び王者に返り咲いて
そして
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今、二人
部活が終わった部室に居る
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「さて、と。秋季大会も終わったし、
タカミもこれでお疲れ様だね」
「うん。淡ちゃんのおかげで、最後の大会で優勝できたよ」
「どーいたしまして。インターハイもこのくらい
楽勝だったらよかったのにね」
「……そうだね」
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「じゃ、そろそろ。
インターハイのペナルティー行こっか」
「……うん」
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知っていた、淡ちゃんが立ち直ってない事は
病院の先生に見つかれば、薬で無理矢理鎮められる
だから淡ちゃんは機を待った
誰からも邪魔されず、自分を罰する事ができる日まで
秋季選抜の優勝、そんなの慰めにもならない
と言うより、8月の時点ですべて終わっているのだから
インターハイで私達は命を懸けた
そして負けた
なら、私達に科されるペナルティーは
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言うまでもなく、死
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毎日毎日悩み続けた
淡ちゃんが立ち直る未来
それだけをひたすら探し求めた
そんなものはどこにもなかった
敬愛する先輩から受け継いだ連覇の軌跡
ただそれだけが、
先輩から捨てられた淡ちゃんに残された
唯一の道しるべ
記録なんて重要じゃない、
大切なのは結果に至る過程
いくら理想を語ったところで
『思いの強さが反映される』なんて言われれば
その上で負けてしまったら
私達の思いなど、
優勝校に届かなかったという事で
淡ちゃんがそんな自分を許せるはずなど
ありもしなくて
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だから私にできる事は
ただ
ただ
淡ちゃんに
ついていく事だけで
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ああ、ああ
もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたのでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたのでしょうか
ごめんなさい、どちらも与えられなくて
悲しいけど私は凡人で
無力で無能で、酷く弱くて――
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(――ちがうよ?)
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最初は確かにそうだった
テルからあっさり捨てられて
菫先輩が見えなくなって
ただ一つ残されたわかりやすい絆
連覇の2文字に取り憑かれたの
でもね、途中から違ってたんだ
お腹の肉を切り出して、タカミにそれを見つけられて
二人で一緒に切り出して
嬉しかった、幸せだったの
思いを共有できた気がして
ようやくぼっちの私にも
誰よりも大切な人ができた気がした
肉を切りあって、二人で秘密を共有して
タカミを独り占めしたかったんだ
それが、どんなに歪な繋がりだとしても
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でもね、気づいちゃったんだ
ううん、最初から分かってた
だってタカミは2年生
例えこの夏がどうなろうと
結局私を捨てて行っちゃう
このオータムが最後の大会
そしたらもう虎姫は、ホントのホントに解体で
私だけが独り取り残される
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多分あの日、私は勝てた
そしてタカミに四連覇を捧げて
笑顔で見送る事ができたはず
それができなかったのは
歪に想いがゆがんでたから
だって、だって、だって、だって
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負けたペナルティーで死んじゃえば……
タカミ、卒業しないよね?
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好きだよ、タカミ
だから、置いて行っちゃ、やだ
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ナイフがおなかに吸い込まれる
次の瞬間、おなかが燃えるように熱くなった
淡ちゃんは目に涙を浮かべ
でも笑いながらナイフを手渡す
血がべっとりとこびりついたナイフ
私はそれを両手で握って、同じ場所に突き刺した
痛い、痛い、痛い、痛い
でも
それ以上に気持ちよかった
苦しみ、悲しみ、一切合切から解放される気がして
多分、完全に壊れちゃったんだ
何度となく繰り返した自傷行為
脳はその苦しみに耐えられなくて
壊れて狂って血迷って
痛みを快感に変換した
たとえその裂傷が、死にいざなう傷であっても
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あったかいね、あわいちゃん
うん、タカミもあったかいよ
ごめんね、タカミ そつぎょう できなくなっちゃうね
いいよ、どうせあわいちゃんを おいてはいけなかったから
ごめんね、こんなおわりかたで
ううん、こっちこそ
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ごめんね
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『結局、こうなってしまったか』
『……』
『秋季大会で持ち直したと思ったのが甘かった。
やはり監視を解くべきじゃなかったんだ』
『……』
『なあ照。お前、本当はわかってたんじゃないのか?
お前の鏡なら、淡の復活がまやかしなのか、
見破る事ができたはずだ』
『……』
『……照!!!』
『淡の本心ならわかってたよ。
そんなの鏡を見るまでもない』
『なら!!』
『菫こそもっとちゃんと考えて。
本気で死にたいと思う人間が、
わざわざおなかを刺すと思う?
どう考えても胸を一突きした方が早いのに』
『……死ぬ気はなかったって事か?』
『半々だったんだと思う。
このまま死んじゃってもいいやって、
そのくらいには考えてたんじゃないかな』
『でも』
『本当の願いは違う。淡の願いは、
ただ尭深と一緒に居たいってだけ。
だったら、別に死ななくてもそれは叶う』
『無意識のうちに賭けたんだと思う。
そして淡は、賭けに勝った』
『もう、二人は大丈夫』
『……』
『……どうやらお前も監視対象に含めた方がよさそうだな。
私には、底なし沼に陥ったようにしか見えない』
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私より先に回復した淡ちゃんが、
満面の笑みで教えてくれました
どうやら私の傷は淡ちゃんより重く
また、度重なる自傷で肉体が衰弱しており、
全快には今年いっぱいかかるそうです
更には精神的な治療も必要で、
全てのケアを終えるまでに、
相当な期間休まなければならないと
「白糸台の場合、1年で60日休むと
出席日数が足りなくなって留年になるんだってさ」
「体の傷で1か月半、心の傷でもう一声。
もう、タカミは留年するしかないね!」
「……最初からこれを狙ってたの?」
「まさか。起きたらテルが教えてくれたんだ。
私達は離れずにすむって」
「それとも。タカミ的には、嬉しくなかった?」
「ううん。ただ、私はあの時完全に、
淡ちゃんと逝く気だったから」
「もし単に、私と離れたくないだけだったら、
そう言ってくれればすんだのになって」
「何?私が留年して欲しいって言ったら、
タカミは素直に留年したの?」
「うん」
淡ちゃんは目を丸くして
次の瞬間、とろけるような笑顔を浮かべます
「あはは、やっぱりタカミ、狂ってるよ」
「駄目かな」
「ううん。そうじゃないと私が困る!
私も完全に狂ってるからね!」
「というわけで、タカミの留年は決定!
これで後一年、タカミと一緒に居られるね」
「その後はどうしようか。
宮永先輩と、弘世先輩を追いかける?」
「ううん、それはいいや。
私にはもう、タカミがいるから」
「そっか」
「でも。タカミは私を置いてっちゃ駄目だよ?」
人懐っこい笑みを浮かべて、
私に纏わりつく淡ちゃんは、
それでもやっぱり壊れているのでしょう
キラキラと輝く瞳の光は、
どこまでも狂気に彩られていて
もし私が離れたいと願ったら
四肢を潰してでも阻止するのでしょう
でも
そんな淡ちゃんを、愛おしいと思ってしまう、
私もやはり壊れているのでしょう
もし万が一淡ちゃんが私から離れようとしたら、
きっと、私も同じようにするでしょうし
「淡ちゃんこそ、私を置いていかないでね」
「もちろんだよ!死ぬ時は二人で一緒に死のうね!」
私達は二人でほほ笑んで
まだ治りきらない互いのおなかを、
そっと優しくいたわるように
何度も指でなぞるのでした
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私が与えられるもの
もし私が、宮永先輩のように強かったなら
貴女を救う事ができたでしょうか
もし私が、弘世先輩のように頼もしければ
貴女を支える事ができたでしょうか
ううん、きっと無理だったでしょう
淡ちゃんが求めてたもの
それは強さでも、まして頼もしさなんかじゃなくて
ただ、ただ
共に寄り添ってくれる人
自分の弱さを曝け出して
それでも一緒に居てくれる人
淡ちゃんが求めてたのは
きっとそんな人だから
だから私は今もまだ
淡ちゃんのそばに居る
(完)
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代償は大きすぎましたがそれでも2人が幸せなら…でもやっぱりもっと上手くいく方法があったんじゃないかな、みたいなもどかしさが胸に来ました。ありがとうごさいます。
凡人とチャンピョンのどちらでもないからこそ……。
責任とかを感じるんだろうなぁ……。
そして尭深が親切だなぁ……。
やっぱりもっと上手くいく方法が>
淡「少なくとも体切る必要なかったよね」
尭深
「…どうだろう。最後に淡ちゃんを
受け入れたのも、
壊れちゃってたからって気もするし」
尭深
「結果的にはこれでよかった気もするよ」
虎姫の中で1番の被害者>
照「原作がどうなるかわからないけど、
もし三連覇してしまったら
かなり厳しいとは思う」
菫「原作でも2位になって泣いてたしな」
淡「健気可愛いでしょ!」
潰されていく姿と優しさが過ぎて狂う姿が>
淡「悪い人は誰も居ないんだよね。
ただ、状況がつら過ぎただけで」
尭深
「弘世先輩が言ってるみたいに
『所詮部活動だ』って開き直れれば
そうでもないんだろうけど……」