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【咲-Saki-SS:咲久】咲「初心者にもできる催眠術」【ヤンデレ】【狂気】【洗脳】【R18】
<あらすじ>
夏の寝苦しさに耐えかねた竹井さんが、
軽率に宮永さんに催眠してもらうお話。
割と直接的にR18なので
苦手な方や未成年の方は読むのをお控えください。
<登場人物>
宮永咲,竹井久
<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・共依存
・異常行動
・精神破壊
・洗脳
・催眠
<その他>
思った以上に長くなったので
宮永咲視点をカットしました。
宮永咲視点を望む方は、コメントで
「久さん可愛い!」とコメントしてください。
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物語の始まりは、特に面白味もない平凡な会話。
最高気温38度、うだるように暑い教室の中。
私は机に突っ伏しながら、ささいなぼやきを吐き出した。
「なーんか最近、寝つきが悪くて眠れないのよね」
「エアコンはちゃんとつけてますか?」
「私エアコン駄目なのよ。
体がダルくて起き上がれなくなっちゃうから。
だからそもそも家に無いわ」
「んで、扇風機とかで頑張ってるんだけどさー。
部屋自体がぬるいから焼け石に水って感じなのよねー」
悩みに起因する不眠ではなく、単なる環境の問題。
だから深刻に考えてはいなかった。
でも目の前の後輩は、しきりにうんうん唸り始める。
「エアコンに弱いとなると難しいですね……
こう熱帯夜だと部屋の温度を下げるにも限界がありますし」
どうやら真剣に考えてくれているらしい。
あくまで世間話として話を振っただけで、
解決して欲しくて語ったわけではなかったのだけれど。
そもそも。こういう言い方はちょっと失礼だけど、
私は彼女より博識で家庭的だったりする。
彼女が思いつきそうな対策は、
すでに実行し尽くしているだろう。
家の窓には緑のカーテンが生い茂ってるし、
保冷剤をタオルにくるんで脇に挟むだとかも実行済みだ。
枕やシーツにはジェルマットを使って、
なんちゃってひんやり感も演出している。
だから、本当に申し訳ないけれど。
有効な解決策が出てくるとは思えなかったし、
別に期待しても居なかった。
だがしかし。彼女は私の予想の斜め上を駆け抜ける
奇想天外な案を持ち出してくる。
「あ、そうだ!催眠術とかどうでしょう!
前にうちのお父さんが、
それで快眠できたって言ってたような!」
「へ?催眠術?」
いきなり何言い出してるのこの子。
なんて呆れてはみたものの、
字面だけ取り上げればそれっぽいのも確かだった。
眠りを催すと書いて催眠。ふむ、意味は通るか。
もしかしたら、安眠目的で使われる事もあるのかもしれない。
「とは言ってもねぇ。5円玉ユラユラするアレでしょ?
全然かかる気しないんだけど」
「えーと、私も詳しくは知らないですけど。
本格的なのはヒプノセラピーって言って、
医療現場でも使われる事があるみたいですよ?」
「へえ」
スマートフォンで検索してみる。
主に精神病の治療に使われるほか、ダイエットや禁煙。
そして安眠のために使用する事もあるのだとか。
まあ『医療行為ではありません』なんて
但し書きがついてるサイトもあって、
やっぱり眉唾感はぬぐい切れないけれど。
「せっかくだし駄目元でやってみませんか?」
やけに食い気味に提案してくる後輩を前に、
天井を眺めながら思案する。
実際のところ、物理的な対策では手づまりなのも事実。
『病は気から』なんて言うし、ここらで
精神的なアプローチもありかもしれない。
まあ彼女が言う通り、駄目でも別に困りはしないしね。
「そうねえ。じゃあお願いしてみようかしら」
こうして、私は怪しげな催眠療法に同意して。
その日の晩には試してみる事になったのだった。
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「うわあ……思った以上に暑いですね。
部長、忍耐力強過ぎですよ」
夜9時。訪問してきた後輩は、
玄関をくぐるなり呆れとも辟易ともつかない
ため息をついて眉をひそめた。
「一応対策はしてるんだけどねー。
ボロアパートだし夏は暑くて冬は寒いわ」
「いっそうちに来ませんか?」
「あはは、貴女の家に嫁げって?
それも悪くないかもね」
軽く雑談をしている間にも、後輩の額には
ぷつりと玉のような汗が浮かぶ。
もしかしたら、私の置かれている環境は
自分が思っている以上に劣悪なのかもしれない。
「うーん、一応一通り勉強はしてきましたけど。
正直これだと自信がないです」
「え、かける環境とか関係あるの?」
「えーと、催眠術にかける時って、
リラックスする必要があるらしくって。
居るのもつらい環境だと掛かりにくいらしいです」
ほうほう、私の家は落ち着く事もできないほど過酷だと。
催眠術がどうだとか言ってないで、
引っ越しする事を考えた方がいいのかもしれない。
しきりに汗をぬぐう後輩を横目に、
冷蔵庫から麦茶を取り出してくる。
キンキンに冷えた飲み物を体内に流しこんで、
後輩は少しだけ持ち直したようだった。
「で、どんな催眠術をかけるの?
というか実際に効いて私が寝ちゃったら貴女困らない?」
泊まっていく事はやぶさかでもないけれど、
そしたら彼女が眠れぬ夜を過ごす事は必至だろう。
そんな自己犠牲は望んでない。
「あ、大丈夫ですよ。今日かけるのは、
意識を逸らす催眠ですから」
彼女は朗らかに笑って見せると、
勉強の成果を説明し始めた。
「部長が眠れないのって、
要は暑いって感じてるからですよね?
だから、暑さに意識が向かないようにします」
「そんな事できるの?」
「催眠術の中では割と初歩の技術みたいです」
「マジでか」
本当にそんな事ができるなら、
麻酔に代わりうる革命的テクノロジーだ。
でも、医療現場で麻酔代わりに催眠、なんて聞いた事がない。
流石に大風呂敷を広げ過ぎでは?
いぶかしむ私を前に、後輩はさらに説明を加える。
「こんな経験ありませんか?
いつもは全然気にならないのに、
ある時だけ時計の音が妙に気になるだとか」
「あるわねー。主に眠りたい時とかに」
「後は、電車とかで友達と話してる時。
ガタガタ揺れる音が聞こえてるはずなのに、
全然聞こえなかったとか」
「それもあるわね」
「後は……退屈な授業を受けてる時、
いつも以上に時間が長く感じるとか」
「あー、あるある!5分おきに時計見ちゃって
げんなりする奴よね!」
「そんな感じで、実は人の感覚って、
かなり意識に左右されてるらしいんです」
「ふむ。ここまでは普通に納得できる話ね」
意識を集中すれば感覚が鋭敏になり、
おろそかになれば鈍感になる。
それ自体は日常生活でも普通に実感できる事だ。
「で、ここからが催眠術っぽい話になるんですけど。
この『意識』っていうのは、
本人が認識できる意識だけじゃなくて、
『潜在意識』も対象になるんですよ」
「もうちょい説明」
「えと。例えば次の日に朝早く
起きなくちゃいけないとします。
でも、部長は目覚ましとか使わなくても
普通に起きられますよね」
「それ、どうしてだと思いますか?」
ああ、そういう事か。
言わんとしている事がなんとなく掴めた。
眠っていて意識がなくても起きられるのは。
心の奥底で『起きなくちゃ』と意識し続けているから、
眠りが浅くなるという事なのだろう。
「はい、その通りです。人の心には、
本人が認識できる意識と、本人も認識できない、
心の奥底に潜った意識……潜在意識の2つがあるんです。
無意識、なんて呼ぶ事もありますね」
「部長が眠れないのも、この潜在意識に
『暑いなー、寝苦しいなー』って
気持ちが溜まってるからだと思います。
つまり、自分で『眠れない』って
暗示をかけちゃってるんですよ」
「そこに意識が向かないようにすれば、
ちょっとは眠りやすくなるんじゃないかなって」
内心こっそり舌を巻く。正直催眠術なんていうから、
眉唾でオカルティックなものを想像していたのだけれど。
こうして聞いてみると、意外と論理的だった。
「そうなんです。催眠術は怪しげな魔術じゃありません。
対象の潜在意識に働き掛けて、
本人の意識を変える技術の事なんです」
「なんて。私も今日ちょこっと調べただけなんですけどね」
てへ、と後輩が舌を出す。いやむしろ、私のために
頑張って半日で調べてくれたのだと思うと
その健気さが愛おしい。
「理屈はわかったわ。で、肝心の催眠はどうやるの?
やっぱり5円玉をブーラブラ?」
「それはそれでありみたいですね。
要は顕在意識……あ、本人が認識できる意識を
一点に集中させればいいみたいです」
「術者の声だけに集中して、それ以外に意識が向かなくなって。
その状態になると、潜在意識も無防備になって
暗示を掛けやすくなるって」
「ふむ」
そう言われると若干ためらう。
いくら相手が可愛い可愛い後輩だとしても、
自分の全てを委ねるのは少し怖い。
「あ、先に言っておきますね。
催眠術って、信頼関係がすごく重要なんです。
かけられる人が疑ってると掛かりませんし、
本人が嫌だと思うような暗示は掛けられません」
「潜在意識に働きかけるだけで、結局は対話ですから。
部長が本気で嫌と思う事を命令したりはできないんです」
「だから、安心して意識を預けてください」
目から鱗だった。催眠術って言うと、本人の意思を無視して
好き勝手に命令できるイメージだったから。
本人が拒否する暗示は掛けられない。
その事実を知らされて、警戒心がいくらかほぐれる。
「ま、とりあえずはやってみましょっか。
私の全意識を貴女に委ねるわ!」
「煮るなり焼くなり好きにして頂戴」
言いながらベッドに寝転がる。
こうして。彼女と私の、初めての催眠タイムが幕を開いた。
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『部長は催眠にかかるの初めてですよね』
「ええ」
『ゆっくり催眠に入るのと、
部長が入りたいと思う時に入るパターンとあります。
どっちで催眠に入りますか?』
「んと、じゃあゆっくりで」
『いいですよ。じゃあ、まずは深呼吸しましょう。
私の合図に従って、ゆっくり息を吸ってください』
「ん」
『鼻から息を吸ってー……はい、ここ。
お腹に息を送り込んでください』
『私の手がおなかに添えられてて、温かいのを感じますか?
おなかが膨らむように息を入れて……
はい、今度は口で吐いてください』
『いいですよ。すごく上手です。
その調子で、吸ってー……吐いてー……
吸ってー……吐いてー……』
『冷たい空気が体に入ってきて、気持ちいいです。
ゆっくーり息を吐くと、体の疲れが抜けていくようで、
気持ちいいです。はい、もう一度』
……
『まぶたは重くなってくるまでは開いててください。
……でも、閉じたくなってきますよね?
閉じたくなってきちゃう。
気持ちいいですから仕方ないです』
「……うん」
『だいぶ重たくなってきました?いいですよ。
ゆっくり閉じて……真っ暗にしてください。
気持ちいいですよね』
「……うん。いい気持ち』
『そのまま。私の声を聞きながら呼吸を続けてください』
『吸ってー……吐いてー……
だんだん体がポカポカしてきて、気持ちいいですね。
気持ちいい。すごくすごく気持ちいい』
……
『ぼーっとして、私の声だけが頭に響きます。
気持ちいい。囁かれるのが気持ちいい。
気持ちいいですね。幸せですね』
『……うん』
『部長、気づいてますか?もう催眠にかかってますよ。
私の声が気持ちよくて、もっともっと聞きたい。
幸せ。私の声が聞けると嬉しくて幸せ』
『それ、もう催眠状態なんです』
『部長はもう、私に催眠されて
気持ちいいって思うようになっちゃってます。
これからもっと気持ちよくなりますよ。
気持ちいい催眠、催眠は気持ちいい。
覚えてくださいね?』
『……うん。覚える』
『いいですね。ご褒美にもっと私の声を聞かせてあげます。
聞いてると、リラックスして幸せな気分になりますよね』
『まるで、ふかふかの布団に沈み込んでいくみたい。
沈んでいく。沈んでいく。沈んでいく』
『意識が、すぅーって遠くなって。
どんどん、どんどん、沈んでいきます』
『気持ちいいですね。海の底に沈み込むように、
ゆっくり、ゆっくり部長は沈んでいく』
『もう。私の声以外何も聞こえない。何も感じない。
ただふわふわ気持ちよくって、気持ちいい』
……
『はい、成功です。部長は今、
ふかーいふかーい心の奥底に沈んでます。
じゃあ、ここからは催眠癖をつけていきますね』
『今から10数えます。0になったら目を開けてください。
そしたら一気に覚醒します。
あ、でもまたすぐこっちに来れるから安心してくださいね』
『じゃあ行きますよ……
10,9,8,7,6,5,4,3,2,1』
『0。はい、目を開けて覚醒してください』
『……ふむ?」
『はい、まぶたが上がりましたね。まだフワフワしてますか?
じゃあ、またあっちの世界に行きましょう。
今度は1から数えますから、10で目を閉じてください。
そしたらまた気持ちいい催眠状態になりますから』
『じゃあ行きますね……
1,2,3,4,5,6,7,8,9』
『10。はい、目を閉じて……沈んでください。
はい。戻って来れましたね』
『……うん』
『何回か繰り返しますね。繰り返せば繰り返すほど、
催眠が深くなっていきますよ……』
……
『はい。じゃあ、また気持ちよく落ちましょう』
『数えますね。1,2,3……』
『4,5,6,7,8,9……』
『10,11,12,13,14,15,16,17,18,19』
『どんどん、どんどん沈んじゃう。
さっきより深く、深く、深く、深く』
『20,21,22,23,24,25,26,27,28、29』
『戻れない。深い、深い、沈む、沈む。
どうしよう、もう自分の意思では戻れないよ。
沈んじゃう、深くなっちゃう。気持ちいい、止められない、
きもちよくて、堕ちる』
『30,31,32,33,34……
堕ちる、沈む、沈む、堕ちる
もっと、もっと、もっと、もっと!』
『……97,98,99……』
『はい、ひゃーく(100)』
『沈み切っちゃったね。真っ暗な心の底。
部長は全部私にさらけ出しちゃった。
私に心を許しちゃったの』
『でも、気持ちいいよね。嬉しいよね。
私の声が部長の全部に広がっていく。
きもちいい、もっと聞きたい、幸せ、好き』
『大丈夫だよ。部長が嫌がる事なんて何もしないから。
ただ、私で頭をいっぱいにして。
私できもちよくなって。私で幸せになって。
もっと、もっと、もっと、もっと』
……
『んっ……んんっっ……!』
『うん。体の震え止まらないね。
でも、きもちよくなるのはこのくらいにしとこうか。
これ以上は次のお楽しみ』
『そろそろ部長に一つ暗示をかけるね。
あ、大丈夫だよ。怖い事はしないから』
『部長は暑さを感じなくなる。実際今暑くないでしょ?
今夜は気持ちよく眠れるよ。
お布団に入ったら、ビックリするくらいきもちよくて。
すぐにぐっすり眠れちゃう』
『この暗示は、部長が朝起きるまで続くよ。
朝になるまで絶対に抜けない。
きもちよーく眠れちゃう』
『……はい。今日の催眠はこれでおしまい。
ここからは催眠を解除していくね……』
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取り立てて不穏な事はなく、
ただただ気持ちよさに没入できた1時間。
安眠に効くかはまだわからないけれど、
単純にリラクゼーション効果だけでも素晴らしい。
またやって欲しい位だった。
「じゃあ、私はそろそろ帰りますね」
「ごめんね。この時間で一人帰すのもあれだから、
できれば泊まって欲しいんだけど」
「あはは……流石にこの暑さだと、
私は間違いなく眠れませんから」
「貴女の催眠が私に効いたら、
今度は私が貴女に催眠を掛けてもいいかもね」
「そうですね。当分は毎日かける事になるでしょうし」
そうか。安眠用なわけだから、
毎晩掛けてもらう必要があるのか。
でもそれは流石にこの子の負担が大き過ぎる。
「効果を長持ちさせる事はできないの?
例えば一回で一週間有効とか。
それか学校でかけた後寝るまで有効、とか」
「うーん、私も素人なのでよくわからないですけど。
ただ、基本的には寝て起きたら解けちゃうみたいです。
でも学校でかけるのはありかもしれません」
「そか。じゃ、また明日学校で。
今日は本当にありがとね」
「はい!ゆっくり休んでください!」
あの子は笑顔で帰って行った。
悪いとは思いながらも一足先にベッドに転がる。
そして、ある事実に酷く驚いた。
まるで暑さを感じないのだ。
感覚的には春の夜。ちょっと肌寒くて、布団が酷く心地いい。
体温計に目を配る。壁に掛けられた体温計は、
今も30度を振り切っていた。
「催眠術すごいわね……効き過ぎて怖い位だわ」
なんて一言つぶやいている間にも、
どんどんまぶたが重たくなってきて。
意識は闇へと沈んでいく。
ベッドに転がってほんの数十秒。
私はあっさりと眠りに落ちて、朝まで死んだように眠りこんだ。
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奇跡。そう呼べるほどの体験をした翌日。
当然ながら、私はもう一度
催眠術を掛けてくれるよう後輩にねだった。
彼女は二つ返事で快諾する。
部活を終え、他の部員が帰宅した後。
私達は部室のベッドで互いに向かい合っていた。
「いやぁすごかった!朝まで一度も起きなかったし、
起きた時の爽快感がはんぱなかったわ」
「すごいですね。正直かけた私もちょっと
半信半疑だったんですけど」
「もうこれから毎日お願いしたいくらい!」
「あはは。私のなんかでよければ」
「じゃあ、早速始めましょうか」
ドアに鍵を掛け、カーテンを閉め切って灯りを落とす。
それだけで部屋は薄暗闇に包まれて、
非日常感がひょっこり顔をのぞかせる。
私をベッドに寝かせると、おなかに掌を当てながら。
後輩は、ゆっくりと間延びした声で、
私を底へといざない始めた。
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『昨日と同じように、深呼吸しましょう。
吸ってー、吐いてー。おなかに置かれた
手のぬくもりをじんわり感じてください』
『昨日よりかなり掛かりやすくなってるはずです。
早く落ちたいですか?
それとも、ゆっくり落ちたいですか?』
「ゆっくり、かな」
『はい。じゃあ、ゆっくり、念入りに行きますね』
『その分深く、深く、深く、深く落ちちゃいますけど』
……
『はい、また昨日みたいに底の底まで落ちちゃった』
『きもちいいね。私の声がきもちよくて、ゾクゾクしちゃう。
体の芯を、ねっとり舐めあげられてるみたいだね。
きもちいい、きもちいい、きもちいい、好き』
『いいよ。好きになっちゃって。
きもちいいんだから仕方ないよ。
私の声、好きになって、病みつきになっていいんだよ?』
『じゃあ、囁くね。好き。好き。好き。好き』
『きもちいいね、好きだね。きもちいいね、好きだよ』
『ほら、もっと好きになって?そしたら、
もっともっと、きもちいいから。
口に出してみるといいよ。その方がもっときもちいい』
『す…き……』
『もっと言って?そしたらそれが本当になるから』
『すき、すき……さきのこえ、すき。だいすき』
『いいよ、その調子。もう完全に堕ちちゃったね。
嬉しいね。きもちよくて、すきで、幸せだね』
『うん。すき。さき。だいすき』
『……さてと。せっかくここまで堕ちちゃったんだから、
これからのために一つ暗示を加えておこっか。
毎日こうやって誘導してると、時間も結構掛かっちゃうし』
『キーワード、決めようね』
『私が、「部長、沈んでください」って言ったら。
部長はすぐに催眠状態になって、
「ここ」に落ちて来られるようになるよ』
『そして。「部長、浮き上がってください」って言ったら。
すぐに覚醒できるようになる』
『じゃあ早速、癖をつけていこうね』
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一通りの催眠が終わり、起き上がって伸びをする。
今回もすごく気持ちよかった。
幸せな気持ちに浸りながら、何気なく時計に目を向けて、
私は目を白黒させた。
いつの間にか3時間も経っている。
「あれ?昨日は1時間くらいで終わってなかった?」
「あ、はい。今日は次回以降
短縮できるように下準備してましたから。
その分、明日以降はもっと短くできますよ」
「私としては別に短縮しなくてもいいけどねー。
かかってる間は気持ちいいし」
まあ、時短できるならそれに越した事はない。
毎日私に1時間奪われ続けるのもきついだろうし。
でもやっぱり、あの気持ちよさは捨てがたくて。
できるだけ長く、できるだけ深く落ちていたい。
「その辺も大丈夫です。深く催眠できるようになれば、
時間の感覚も変えられるはずなので。
短時間でもじっくり楽しんでもらえると思います」
「ああ、退屈な授業パターンね」
聞けば聞くほど何でもありだなと感嘆する。
五感や意識の感覚を自由に制御できるとなれば、
ほとんどの問題は解決するだろう。
「あ、じゃあさ。せっかくだから
帰りの暑さも感じないようにとかできる?」
「できますよ。『部長、沈んでください』」
頭がいきなりストンと落ちる。
何も考えられなくなってからっぽになる。
『うん。ばっちり堕ちられるようになったね。
私の声しか聞こえない。きもちいい声しか聞こえない。
好きな声。愛おしい声。大好きな声』
『じゃあ、部長に一つ暗示をあげる。
部長は今日、帰るまで暑さを感じなくなるよ。
私と手を繋いでも、全然熱くなくてきもちいいよ。
ずっと離したくなくなっちゃうくらいきもちいい』
『よかったね。嬉しいね。暗示もらえるの嬉しいね。
嬉しい。暗示されるとすごい嬉しい。暗示、大好き。
もっと暗示が欲しくなる。私に催眠してほしくなっちゃうね』
『でも、駄目。今日はこの暗示だけで我慢してね。
我慢だよ。我慢。
部長の嫌がる事はしたくないから』
「はい。『部長、浮き上がってください』」
パチン。目の前でスクリーンが切り替わったように、
何もかもが鮮明になる。
その切り替えがあまりにも急すぎて。
頭がふわふわして、おぼつかなくて怖くなる。
もう少し催眠の奥底に浸っていたかったのに。
『うええ……ねー、もうちょっとこう、
優しく引き上げたりはできないの?」
「できますけど、今日はもう真っ暗ですから。
明日からはゆっくりにしますね」
「じゃあ、暗示が聞いてるか確認しましょうか」
彼女が目の前に手を差し出してくる。
その手を握って驚いた。
ちょっと汗ばんだ彼女の手。
でも私には、ひんやりと冷たく感じて気持ちいい。
「冷やしておいたの?」
「いえ、普通に熱いですよ、汗かいてますし。
暗示がちゃんと効いてるみたいで何よりです」
「じゃあ。こうしたら、多分もっと気持ちいいですよね」
さらに彼女は指を一本一本念入りに絡ませ、
ぎゅっと固く握りこむ。
指の付け根まで冷たい感覚が浸透して心地よかった。
つい、ずっと握っていたいと願ってしまう程に。
「じゃあ、帰りましょうか」
そう言うと、彼女は手を振りほどく。
私は慌ててその手を掴んで、再び指を絡み合わせた。
「部長?」
「いやー、すっごく気持ちよかったから。
今日はこのまま帰っちゃ駄目?」
「私はいいですけど……その。誰かに見られたら、
噂されちゃうかもしれませんよ?」
「別に手を繋ぐぐらい普通でしょ。
それとも、私と噂されるのは嫌?」
「別に。その、嫌じゃ、ないです……」
結局二人して手を繋いだまま帰る事にする。
時間が時間だったから、道行く人の影はまばらで。
おまけにもう暗かったから、
私達の手に目を留める人は居なかった。
なのに、後輩の顔は暗闇でもわかるくらい火照っていて。
それがなんだか可愛くて、私はつい握った指を、
ぎゅっと固く握りこんでしまうのだった。
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初めて催眠を掛けられてから一カ月。
もはや私の生活に、催眠は欠かせないものになっていた。
文字通り、世界が劇的に変わるのだ。
暑い、寒いといった五感に関する感覚。
長い、短いといった時間に対する感覚。
好き、嫌いといった感情に関する感覚。
それらをいい方向に傾けてやるだけで、
世界はどこまでも素晴らしくなる。
夏の暑さが心地よい。
退屈な授業が楽しくなった。
苦手科目の宿題が面白くて止まらない。
たった一カ月でこれなのだから、
これからずっと催眠され続けたら
どれだけ幸せになれるのだろう。
そう考えるとたまらなくなって、
つい催眠をせがんでしまう。
それはさながら、限度を知らない子供のように。
「ねえねえ、催眠してくれない?」
「いいですよ、いいですけど……
暗示、何をかければいいんだろ」
「内容はこの際お任せするわ」
「わかりました!じゃあ、『部長、沈んでください』」
ストンと落ちる。落ちるのが酷く気持ちいい。
全てがからっぽになって、何もかもを支配される感覚。
支配されるのが気持ちいい。
ああ、しあわせ。
いっそ、ずっと催眠状態が続けばいいのに。
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毎日。ううん、毎時間のように催眠をかけられて、
私はどんどん溺れていった。
最近では催眠そのものが目的になってる。
だって、催眠されるの気持ちいいから。
心を全部さらけ出して、支配されるのは幸せだから。
1時限目が終わった休み時間。
下級生の教室だろうと物おじせず飛び込んで、
私は後輩の手を掴む。
そのままトイレの個室に押し込んで、
後ろ手に鍵を掛けながら囁いた。
「ねえねえ、催眠しましょ?」
「えっと、今はちょっと駄目かな。
最近の部長、催眠されるとその……」
「すっごく、やらしくなっちゃいますよね?」
「だから、今は我慢してください」
後輩は目を伏せて頬を染めながら、
私の指に自らの指を絡み合わせる。
ただそれだけで、おなかの奥がずくんと疼いて、
じゅわりと熱が染み出してきて。
自然と腰がもぞりと蠢いてしまう。
いつからか、催眠されると妙に体が火照るようになった。
単純に『熱い』という意味ではなくて、
その、恥ずかしくて淫靡な意味で。
きもちいい、きもちいい。二重の意味で気持ちいい。
心地よくて、ドロドロにとろけちゃいそうで。
終わった後、服を着替えなくちゃいけないくらい。
『我慢ですよ、我慢』
いつも催眠する時のように、後輩は私のお腹に掌を添える。
そして、ゆっくりゆっくり、熱を浸透させるように撫で回しながら。
耳元で、そっと。言葉を流し込むように囁いた。
『お昼休みまで我慢してくださいね。
そしたら……思いっきり気持ちよくしてあげますから』
『腰がわなないて、痙攣が止まらなくなるくらい。
どうしようもなくトロトロになるまで
気持ちよくしてあげますから……』
『ね?』
耳から注ぎ込まれた言葉。彼女の声に脳を揺さぶられると、
頭が一気に真っ白になる。
聞かされただけで、ぷちゅり、と。
体の奥から粘り気のある蜜が押し出されてきた。
『んっ……声、きもち、いいっ……』
『もう、駄目だよ。我慢。すっごく切なくて
やらしい気持ちになっちゃうけど、お昼まで我慢』
欲望がむくむくと肥大化していく。
頭はじんと甘く痺れて、もう催眠される事しか考えられなくて。
でも、我慢しなくちゃいけなかった。
『我慢する。お昼休み、
部室で待ってるから飛んできてね』
「もちろんです」
うっとりと恍惚にまみれた表情で後輩は頷くと、
いつものように、私のお腹に口づけた。
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脳がドロドロにとろけてる。
腰はガクガク痙攣して、視界はチカチカ点滅中。
体はひたすら酸素を求めて、
全力疾走した後のように肩を上下させながら。
私は部室のベッドに転がっていた。
一糸纏わぬ姿のままで。
いつの間にか、催眠をかける時には
服を脱ぐのが絶対のルールになっていた。
まあ実際終わった後は、
お互い汗やら恥ずかしいアレやらで
二人ともドロドロになってるし。
「ん……今日もベトベトになっちゃいましたね」
後輩も私と同じく全裸のまま、
余韻に浸るように肩で息をしている。
汗で粘る体をすり寄せると、気だるそうにしつつも
幸せそうに目を細めるのが可愛い。
しばらくそうして、肌を、太ももをすり合わせていると。
まだどこか甘えを帯びた声で、
「そういえば」と後輩が口を開いた。
「三年生の進路希望調査って今日まででしたよね?
結局どんな進路にしたんですか?」
「ああ、あれ。結局プロになる事にしたわ」
「あれ、大学進学はやめたんですね。
大学でも団体優勝だーって息巻いてたのに」
後輩がいぶかしげな声を上げる。それもそうだろう。
以前から私は『プロには行かない』と公言していたのだから。
私にとって麻雀は、勝つ事よりも
皆でわいわい楽しくやる事の方が重要で。
同じチームと言えどライバル同士、
みたいなプロの世界は肌に合わないと思ってた。
それなら普通に進学して、今度はインカレを
荒らすのも悪くないなって思っていたのだ。
なのに私は、随分あっさりと進路を変更してしまった。
正直自分でも不思議なくらい。
「色々考えてみたんだけどさー。
プロの方が、貴女と長く一緒に居られるのよねー」
もし私が大学に進学したとして。
大学生と高校生の組み合わせでは、
会えるとしても放課後だけになるだろう。
でも、私がプロになって、この子に
私のマネージャーになってもらえば。
二人で過ごせる時間は比べ物にならない程長くなる。
「と、言うわけで。貴女には
高校退学してもらうけど、いいわよね?」
「はい」
後輩は二つ返事で快諾した。
まあ、もし駄目だって言われたら、
四肢を切り落として連れて行くつもりだったけど。
大惨事にならなくて何よりだ。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「あ、でも一つ条件を加えてもいいですか?」
「何かしら?私にできる事なら何でも聞くけど」
「ええと。私、こう見えて独占欲強いので。
私を縛るなら、私以外の人を切り捨ててください」
「具体的には?」
「極力私以外の人とは話さない。連絡を取らない。
必要な事務連絡は私経由で。
これだけ守ってもらえたら嬉しいです」
『できますか?』
『何だそんな事?いいわよ、喜んで受け入れるわ』
提示された要求は、拍子抜けするくらい簡単なものだった。
どうせ最近はこの子以外の事にまるで興味を持てなくなってるし、
むしろ事務連絡を肩代わりしてくれるなら助かる。
あ、でも。
「それって、いろんな人が貴女に話しかけるって事よね?」
割とお互い様な気がする。私だって、
最近誰かがこの子に話しかけるたびに殺意がドロドロと渦巻くのだ。
下手したら、勢い余って殺してしまうかもしれない。
「大丈夫ですよ。私だって、
もう部長以外に興味ありませんから。
必要最低限の事務連絡以外しません」
「それでも心配だって言うなら。いっそ貞操帯でも付けますか?
で、お互いに相手の鍵を持つとか」
『できますか?』
『いいわね。じゃあ早速、貞操帯買いに行きましょっか』
甘い余韻に後ろ髪をひかれながらも、
のそりと緩慢に起き上がる。
ぬちゅり、と粘着質な音を立てる下半身。
そこに貞操帯が巻かれる姿を想像して、
またトロリと新しい蜜が垂れた。
(……我ながら底なしね)
なんだかどんどん駄目になってる気がする。
欲望が抑えられない。肉欲が満たされる事はなくて、
すればするだけ卑猥な気持ちになっていく。
このまま行けば、そのうち日常生活も送れなくなるかも知れない。
そうなる前に、催眠で制御してもらわなくっちゃ。
「ねえ。性欲止まらないから催眠でなんとかして?」
「……っ」
後輩は思わずゾクッとする程
淫猥な笑みを浮かべると。
口にこびりついた粘液をぺろりと舐めて、
やがてこう返してくれた。
「大変ですね。あ、じゃあこれからは……」
--------------------------------------------------------
『部長の性欲も、私が全部管理します。
……いいですよね?』
--------------------------------------------------------
『もちろん。こっちからお願いするわ』
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--------------------------------------------------------
……一年後。
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『さあ、大将戦もついに最終局面!
ここまでの展開をさらっとおさらいしてみましょう!』
『現在トップはハートビーツ大宮。
先鋒で横浜ロードスターズの三尋木選手が大爆発しましたが、
中堅で選手兼コーチの瑞原選手がまくって逆転!
そのままトップを維持し続けて、
横浜がその背中を追いかける形になっています!』
『横浜が勝てば、今日リーグ優勝が確定するんだけどー、
牌のお姉さんの執念か、そう簡単には終わらせない!』
『さてはて、横浜ロードスターズが逆転して栄冠を掴むのか、
はたまたハートビーツ大宮が執念で逃げ切って見せるのか!
このオーラス、すこやんプロはどう見ますか!』
『だからすこやんプロって言うのやめてよ!』
『……コホン。点差ではハートビーツ大宮がリードしていますが、
決して楽観視はできない状況ですね』
『なにしろ、横浜ロードスターズの大将が
「あの」竹井選手ですから』
『ん?その辛口たるや歴代最強と名高いすこやんが
持ちあげるほどすごい子だっけ?』
『私そんなに毒舌じゃないよね!?』
『……コホン。竹井選手はルーキーで
まだ出場試合数が少ないものの……
これまで、追いかける展開で一度も負けた事がありません』
『状況が悪ければ悪い程強いんだっけ』
『そうですね。苦しい局面を耐え抜く程、
最後に大きく花開く事が多いようで――』
『カン!』
『おおっと、ここで竹井選手がカン!
これはアレか、アレが出てしまうのか!』
『そして、カンからのぉ――』
『嶺上開花!!!』
『出たーーーーっっっ!!!
竹井選手のお家芸、嶺上開花ツモドラ4で跳満炸裂!
逆転です!横浜ロードスターズが
リー棒一本分まくりました!』
『ていうかまるで意味が分からない!
途中までメンタンピン三色だったよね!?
なんで全部捨てて最終的に嶺上開花のみになるわけ!?』
『和了り牌も3枚切れてるラス牌だし!!
普通にメンタンピン三色の三面張じゃ駄目だったの!?』
『……駄目、だったんでしょう』
『竹井選手には、自ら悪い待ちに変えていく傾向と……
重要な局面では必ず嶺上開花を狙う傾向があります』
『やだなぁすこやん、嶺上開花は狙って出せる役じゃないよ?
これだからトッププロって奴は』
『出せちゃうんだから仕方ないでしょ!?』
『……コホン。私は直接竹井選手と対局した事はありませんが。
そういう時の竹井選手からは、何か、
ドロリとへばりつくような、
情念みたいなものを感じるそうです』
『ああ、あの子じゃない?
ヤンデレ専属マネージャー宮永咲』
『全国放送で失礼にもほどがあるよ!?』
『……コホン。確かに、カンからの嶺上開花はかつて
宮永咲さんが得意としていた戦法です。
竹井選手は、宮永咲さんから何か
大切なものを受け取ったのかもしれませんね』
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『個人的には。この手の能力の譲渡は、
両者に致命的な影響を与える事があるので、
手放しには賛同できませんが――』
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「よっし、これで公約は果たしたわ。
これで来年の年棒は大幅アップよ!」
「よっ、お疲れさん。それにしてもチャレンジャーだねぃ。
優勝を決める局面で嶺上開花を和了って勝つ。
達成できたら年棒3億、失敗したら500万だっけ?」
「そんなガツガツ行かなくたって、
竹井ちゃんなら数年もすれば億行くと思うぜぃ?」
「数年もかけたくないんですよ。
私、遅くとも再来年で引退する気満々ですし」
「一生働かずに暮らせる分お金を稼いだら――』
『――50モジ、コエタノデ、モウ、
サキ、イガイトハ、ハナセマセン』
『ハヤク、サキニ、アワセテクダサイ。
サキ、サキニ、ハヤク、サキ』
『サキ、サキ、サキ、サキ、サキ、
サキ、サキ、サキ、サキ、サキ』
「ああ、制限入っちゃったか。
相変わらず狂ってるねぃ。もう行っていいよん」
『サキ、サキ、サキ、サキ、サキ』
「……行ったか。ていうか、あの状態で
道に迷わないってのがまた恐怖だねぃ」
「……あ、あの。Weekly麻雀TODAYの西田ですが。
優勝決定という事で、フィニッシュを飾った竹井選手に
インタビューをお願いしたかったんですけど……」
「そ、その。今の、一体なんですか?」
「あー、これオフレコな?あの子、
なんか相方に『他人と50文字を超えて話したら駄目』って
制限掛けられてるみたいなのさ」
「ええ……完全に病気じゃないですか」
「ありゃ、意外とお茶の間には伝わってないんだねぃ。
竹井ちゃん、むしろ正気の時の方が珍しいんだけど」
「控室に居る時とかさ、ずーっとブツブツ呟いてるぜ?
サキ、サキ、サキ、サキって」
「で、でも。今までインタビューの時は普通でしたよ?」
「そりゃ横に相方が居たからだろ。
一人になった時のあの子はもう、
壊れた操り人形みたいなもんさ」
「ていうか――」
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「一体、何したらあそこまで人を壊せるのかねぃ。
後学のためにご教示願いたいもんだね」
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頭の中全てが埋め尽くされて、
もう彼女に会う事しか考えられない。
どこをどう歩いたかすらも覚えてないけど、
私の体は覚えているのか、
いつの間にか彼女の元にたどり着いていた。
『サキ、サキ、サキ、サキ』
「まったくもう。ちょっと一人にすると、
すぐ他の人と仲良くしようとするんだから」
「はい。『制限解除』」
『サキ……あれ?私何してたんだっけ」
「大将戦で逆転して優勝。
これからヒロインインタビューだよ」
ああそうだ。公約通り嶺上開花で勝利して、
来年の年棒が3億で確定して。
喜んでたら、『何か』に声を掛けられたんだっけ。
「あーでもまだ3億かあ。今年が2000万だから……
税金とかも考えると、二人で一生引き籠るには、
まだ少し心もとないわねえ」
「贅沢しなければ十分暮らせると思うけど?
どうせずっとシてるだけだろうし」
「病気になったりするかもしれないじゃない」
「誰かの世話にならないといけないような病気なら、
素直に死んじゃった方がよくないかな?」
「むむ、一理ある」
「だからさ、もう引退しちゃおうよ」
『いいよね?』
そう言われると心が酷く揺れる。
最近、引きこもり欲が酷くなってきた。
この子以外の『何か』に費やす時間が酷くもったいなく感じて。
誰かがこの子に話しかける姿を見ると、殺したいほど虫唾が走る。
それはこの子も同じらしくて。事あるごとに、
社会を切り捨てて引きこもろうって提案してくる。
魅力的な提案ではあるのだけれど。
私はこの子の妻として、この子を幸せにする義務がある。
私みたいに、金銭面で苦労させたくはない。
不安材料は取り除いて、何が何でも幸せに。
彼女の幸せ、それは私の体、私の心、私の命、私の全てより
優先されるべきなのだから。
いくら彼女の願いでも、彼女を不幸にしかねない選択は
受け入れる事ができない。
「うーん。いつになく効きが悪いなぁ。
まあそれだけ、久さんが私を愛してくれてるって
事なんだろうけど」
「ん?何の話?」
「ううん、こっちの話。じゃあ、予定通り
後2年は頑張ってもらおうかな」
「その後は、ずっと二人で引き籠って。
一生、裸で絡みついて生きようね」
「ええ。んじゃ、方針も決まったところで
さっさとインタビュー終わらせましょっか。
後1時間で発情タイムに入っちゃうし」
二人で軽く駆け出した。
腰に食いついた貞操帯が酷く重くて、
でもその重たさが愛おしい。
隙間から蜜が漏れ出してきてるけどガマン。
後1時間すれば、頭をぐちゃぐちゃに壊してもらえるから。
性欲に支配されたメスに堕ちて、いっぱい交尾できるから。
汗で滑る肌を擦り合わせて、トロトロになった秘部を
指で思いっきりグチュグチュかき回して、
何度も何度もびゅるって汁が噴き出して、
腰の痙攣が止まらなくなって、呼吸すらできなくな
「あれ、興奮し過ぎてちょっと催眠解けかけてるね。
インタビューでそんなとろけた顔されてたら困るから――」
『ちょっと人形になってもらうね?』
彼女が一言そう呟くと、視界が突然真っ黒に染まって。
私の意識はぷつりと途絶えた。
脳に、彼女の声が響き渡る。
--------------------------------------------------------
『うんうん、いい子だね。
インタビューの内容は私が考えるから、
間違えずにしゃべってね?』
『第一声は、この勝利を大好きなあの子に捧げます、にしよっか。
最近は久さんに色目使う子増えてきたし、
この辺で釘を刺しておかないと』
『それでね、後は私の事ばっかり話すの。
見てる人がちょっと不気味に思うくらいに
あの人おかしいなって引いちゃうくらいに、だよ?』
--------------------------------------------------------
『いいよね?』
--------------------------------------------------------
脳を支配する彼女の声に、満面の笑みで頷いた。
(SIDE−咲・真相編)
夏の寝苦しさに耐えかねた竹井さんが、
軽率に宮永さんに催眠してもらうお話。
割と直接的にR18なので
苦手な方や未成年の方は読むのをお控えください。
<登場人物>
宮永咲,竹井久
<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・共依存
・異常行動
・精神破壊
・洗脳
・催眠
<その他>
思った以上に長くなったので
宮永咲視点をカットしました。
宮永咲視点を望む方は、コメントで
「久さん可愛い!」とコメントしてください。
--------------------------------------------------------
物語の始まりは、特に面白味もない平凡な会話。
最高気温38度、うだるように暑い教室の中。
私は机に突っ伏しながら、ささいなぼやきを吐き出した。
「なーんか最近、寝つきが悪くて眠れないのよね」
「エアコンはちゃんとつけてますか?」
「私エアコン駄目なのよ。
体がダルくて起き上がれなくなっちゃうから。
だからそもそも家に無いわ」
「んで、扇風機とかで頑張ってるんだけどさー。
部屋自体がぬるいから焼け石に水って感じなのよねー」
悩みに起因する不眠ではなく、単なる環境の問題。
だから深刻に考えてはいなかった。
でも目の前の後輩は、しきりにうんうん唸り始める。
「エアコンに弱いとなると難しいですね……
こう熱帯夜だと部屋の温度を下げるにも限界がありますし」
どうやら真剣に考えてくれているらしい。
あくまで世間話として話を振っただけで、
解決して欲しくて語ったわけではなかったのだけれど。
そもそも。こういう言い方はちょっと失礼だけど、
私は彼女より博識で家庭的だったりする。
彼女が思いつきそうな対策は、
すでに実行し尽くしているだろう。
家の窓には緑のカーテンが生い茂ってるし、
保冷剤をタオルにくるんで脇に挟むだとかも実行済みだ。
枕やシーツにはジェルマットを使って、
なんちゃってひんやり感も演出している。
だから、本当に申し訳ないけれど。
有効な解決策が出てくるとは思えなかったし、
別に期待しても居なかった。
だがしかし。彼女は私の予想の斜め上を駆け抜ける
奇想天外な案を持ち出してくる。
「あ、そうだ!催眠術とかどうでしょう!
前にうちのお父さんが、
それで快眠できたって言ってたような!」
「へ?催眠術?」
いきなり何言い出してるのこの子。
なんて呆れてはみたものの、
字面だけ取り上げればそれっぽいのも確かだった。
眠りを催すと書いて催眠。ふむ、意味は通るか。
もしかしたら、安眠目的で使われる事もあるのかもしれない。
「とは言ってもねぇ。5円玉ユラユラするアレでしょ?
全然かかる気しないんだけど」
「えーと、私も詳しくは知らないですけど。
本格的なのはヒプノセラピーって言って、
医療現場でも使われる事があるみたいですよ?」
「へえ」
スマートフォンで検索してみる。
主に精神病の治療に使われるほか、ダイエットや禁煙。
そして安眠のために使用する事もあるのだとか。
まあ『医療行為ではありません』なんて
但し書きがついてるサイトもあって、
やっぱり眉唾感はぬぐい切れないけれど。
「せっかくだし駄目元でやってみませんか?」
やけに食い気味に提案してくる後輩を前に、
天井を眺めながら思案する。
実際のところ、物理的な対策では手づまりなのも事実。
『病は気から』なんて言うし、ここらで
精神的なアプローチもありかもしれない。
まあ彼女が言う通り、駄目でも別に困りはしないしね。
「そうねえ。じゃあお願いしてみようかしら」
こうして、私は怪しげな催眠療法に同意して。
その日の晩には試してみる事になったのだった。
--------------------------------------------------------
「うわあ……思った以上に暑いですね。
部長、忍耐力強過ぎですよ」
夜9時。訪問してきた後輩は、
玄関をくぐるなり呆れとも辟易ともつかない
ため息をついて眉をひそめた。
「一応対策はしてるんだけどねー。
ボロアパートだし夏は暑くて冬は寒いわ」
「いっそうちに来ませんか?」
「あはは、貴女の家に嫁げって?
それも悪くないかもね」
軽く雑談をしている間にも、後輩の額には
ぷつりと玉のような汗が浮かぶ。
もしかしたら、私の置かれている環境は
自分が思っている以上に劣悪なのかもしれない。
「うーん、一応一通り勉強はしてきましたけど。
正直これだと自信がないです」
「え、かける環境とか関係あるの?」
「えーと、催眠術にかける時って、
リラックスする必要があるらしくって。
居るのもつらい環境だと掛かりにくいらしいです」
ほうほう、私の家は落ち着く事もできないほど過酷だと。
催眠術がどうだとか言ってないで、
引っ越しする事を考えた方がいいのかもしれない。
しきりに汗をぬぐう後輩を横目に、
冷蔵庫から麦茶を取り出してくる。
キンキンに冷えた飲み物を体内に流しこんで、
後輩は少しだけ持ち直したようだった。
「で、どんな催眠術をかけるの?
というか実際に効いて私が寝ちゃったら貴女困らない?」
泊まっていく事はやぶさかでもないけれど、
そしたら彼女が眠れぬ夜を過ごす事は必至だろう。
そんな自己犠牲は望んでない。
「あ、大丈夫ですよ。今日かけるのは、
意識を逸らす催眠ですから」
彼女は朗らかに笑って見せると、
勉強の成果を説明し始めた。
「部長が眠れないのって、
要は暑いって感じてるからですよね?
だから、暑さに意識が向かないようにします」
「そんな事できるの?」
「催眠術の中では割と初歩の技術みたいです」
「マジでか」
本当にそんな事ができるなら、
麻酔に代わりうる革命的テクノロジーだ。
でも、医療現場で麻酔代わりに催眠、なんて聞いた事がない。
流石に大風呂敷を広げ過ぎでは?
いぶかしむ私を前に、後輩はさらに説明を加える。
「こんな経験ありませんか?
いつもは全然気にならないのに、
ある時だけ時計の音が妙に気になるだとか」
「あるわねー。主に眠りたい時とかに」
「後は、電車とかで友達と話してる時。
ガタガタ揺れる音が聞こえてるはずなのに、
全然聞こえなかったとか」
「それもあるわね」
「後は……退屈な授業を受けてる時、
いつも以上に時間が長く感じるとか」
「あー、あるある!5分おきに時計見ちゃって
げんなりする奴よね!」
「そんな感じで、実は人の感覚って、
かなり意識に左右されてるらしいんです」
「ふむ。ここまでは普通に納得できる話ね」
意識を集中すれば感覚が鋭敏になり、
おろそかになれば鈍感になる。
それ自体は日常生活でも普通に実感できる事だ。
「で、ここからが催眠術っぽい話になるんですけど。
この『意識』っていうのは、
本人が認識できる意識だけじゃなくて、
『潜在意識』も対象になるんですよ」
「もうちょい説明」
「えと。例えば次の日に朝早く
起きなくちゃいけないとします。
でも、部長は目覚ましとか使わなくても
普通に起きられますよね」
「それ、どうしてだと思いますか?」
ああ、そういう事か。
言わんとしている事がなんとなく掴めた。
眠っていて意識がなくても起きられるのは。
心の奥底で『起きなくちゃ』と意識し続けているから、
眠りが浅くなるという事なのだろう。
「はい、その通りです。人の心には、
本人が認識できる意識と、本人も認識できない、
心の奥底に潜った意識……潜在意識の2つがあるんです。
無意識、なんて呼ぶ事もありますね」
「部長が眠れないのも、この潜在意識に
『暑いなー、寝苦しいなー』って
気持ちが溜まってるからだと思います。
つまり、自分で『眠れない』って
暗示をかけちゃってるんですよ」
「そこに意識が向かないようにすれば、
ちょっとは眠りやすくなるんじゃないかなって」
内心こっそり舌を巻く。正直催眠術なんていうから、
眉唾でオカルティックなものを想像していたのだけれど。
こうして聞いてみると、意外と論理的だった。
「そうなんです。催眠術は怪しげな魔術じゃありません。
対象の潜在意識に働き掛けて、
本人の意識を変える技術の事なんです」
「なんて。私も今日ちょこっと調べただけなんですけどね」
てへ、と後輩が舌を出す。いやむしろ、私のために
頑張って半日で調べてくれたのだと思うと
その健気さが愛おしい。
「理屈はわかったわ。で、肝心の催眠はどうやるの?
やっぱり5円玉をブーラブラ?」
「それはそれでありみたいですね。
要は顕在意識……あ、本人が認識できる意識を
一点に集中させればいいみたいです」
「術者の声だけに集中して、それ以外に意識が向かなくなって。
その状態になると、潜在意識も無防備になって
暗示を掛けやすくなるって」
「ふむ」
そう言われると若干ためらう。
いくら相手が可愛い可愛い後輩だとしても、
自分の全てを委ねるのは少し怖い。
「あ、先に言っておきますね。
催眠術って、信頼関係がすごく重要なんです。
かけられる人が疑ってると掛かりませんし、
本人が嫌だと思うような暗示は掛けられません」
「潜在意識に働きかけるだけで、結局は対話ですから。
部長が本気で嫌と思う事を命令したりはできないんです」
「だから、安心して意識を預けてください」
目から鱗だった。催眠術って言うと、本人の意思を無視して
好き勝手に命令できるイメージだったから。
本人が拒否する暗示は掛けられない。
その事実を知らされて、警戒心がいくらかほぐれる。
「ま、とりあえずはやってみましょっか。
私の全意識を貴女に委ねるわ!」
「煮るなり焼くなり好きにして頂戴」
言いながらベッドに寝転がる。
こうして。彼女と私の、初めての催眠タイムが幕を開いた。
--------------------------------------------------------
『部長は催眠にかかるの初めてですよね』
「ええ」
『ゆっくり催眠に入るのと、
部長が入りたいと思う時に入るパターンとあります。
どっちで催眠に入りますか?』
「んと、じゃあゆっくりで」
『いいですよ。じゃあ、まずは深呼吸しましょう。
私の合図に従って、ゆっくり息を吸ってください』
「ん」
『鼻から息を吸ってー……はい、ここ。
お腹に息を送り込んでください』
『私の手がおなかに添えられてて、温かいのを感じますか?
おなかが膨らむように息を入れて……
はい、今度は口で吐いてください』
『いいですよ。すごく上手です。
その調子で、吸ってー……吐いてー……
吸ってー……吐いてー……』
『冷たい空気が体に入ってきて、気持ちいいです。
ゆっくーり息を吐くと、体の疲れが抜けていくようで、
気持ちいいです。はい、もう一度』
……
『まぶたは重くなってくるまでは開いててください。
……でも、閉じたくなってきますよね?
閉じたくなってきちゃう。
気持ちいいですから仕方ないです』
「……うん」
『だいぶ重たくなってきました?いいですよ。
ゆっくり閉じて……真っ暗にしてください。
気持ちいいですよね』
「……うん。いい気持ち』
『そのまま。私の声を聞きながら呼吸を続けてください』
『吸ってー……吐いてー……
だんだん体がポカポカしてきて、気持ちいいですね。
気持ちいい。すごくすごく気持ちいい』
……
『ぼーっとして、私の声だけが頭に響きます。
気持ちいい。囁かれるのが気持ちいい。
気持ちいいですね。幸せですね』
『……うん』
『部長、気づいてますか?もう催眠にかかってますよ。
私の声が気持ちよくて、もっともっと聞きたい。
幸せ。私の声が聞けると嬉しくて幸せ』
『それ、もう催眠状態なんです』
『部長はもう、私に催眠されて
気持ちいいって思うようになっちゃってます。
これからもっと気持ちよくなりますよ。
気持ちいい催眠、催眠は気持ちいい。
覚えてくださいね?』
『……うん。覚える』
『いいですね。ご褒美にもっと私の声を聞かせてあげます。
聞いてると、リラックスして幸せな気分になりますよね』
『まるで、ふかふかの布団に沈み込んでいくみたい。
沈んでいく。沈んでいく。沈んでいく』
『意識が、すぅーって遠くなって。
どんどん、どんどん、沈んでいきます』
『気持ちいいですね。海の底に沈み込むように、
ゆっくり、ゆっくり部長は沈んでいく』
『もう。私の声以外何も聞こえない。何も感じない。
ただふわふわ気持ちよくって、気持ちいい』
……
『はい、成功です。部長は今、
ふかーいふかーい心の奥底に沈んでます。
じゃあ、ここからは催眠癖をつけていきますね』
『今から10数えます。0になったら目を開けてください。
そしたら一気に覚醒します。
あ、でもまたすぐこっちに来れるから安心してくださいね』
『じゃあ行きますよ……
10,9,8,7,6,5,4,3,2,1』
『0。はい、目を開けて覚醒してください』
『……ふむ?」
『はい、まぶたが上がりましたね。まだフワフワしてますか?
じゃあ、またあっちの世界に行きましょう。
今度は1から数えますから、10で目を閉じてください。
そしたらまた気持ちいい催眠状態になりますから』
『じゃあ行きますね……
1,2,3,4,5,6,7,8,9』
『10。はい、目を閉じて……沈んでください。
はい。戻って来れましたね』
『……うん』
『何回か繰り返しますね。繰り返せば繰り返すほど、
催眠が深くなっていきますよ……』
……
『はい。じゃあ、また気持ちよく落ちましょう』
『数えますね。1,2,3……』
『4,5,6,7,8,9……』
『10,11,12,13,14,15,16,17,18,19』
『どんどん、どんどん沈んじゃう。
さっきより深く、深く、深く、深く』
『20,21,22,23,24,25,26,27,28、29』
『戻れない。深い、深い、沈む、沈む。
どうしよう、もう自分の意思では戻れないよ。
沈んじゃう、深くなっちゃう。気持ちいい、止められない、
きもちよくて、堕ちる』
『30,31,32,33,34……
堕ちる、沈む、沈む、堕ちる
もっと、もっと、もっと、もっと!』
『……97,98,99……』
『はい、ひゃーく(100)』
『沈み切っちゃったね。真っ暗な心の底。
部長は全部私にさらけ出しちゃった。
私に心を許しちゃったの』
『でも、気持ちいいよね。嬉しいよね。
私の声が部長の全部に広がっていく。
きもちいい、もっと聞きたい、幸せ、好き』
『大丈夫だよ。部長が嫌がる事なんて何もしないから。
ただ、私で頭をいっぱいにして。
私できもちよくなって。私で幸せになって。
もっと、もっと、もっと、もっと』
……
『んっ……んんっっ……!』
『うん。体の震え止まらないね。
でも、きもちよくなるのはこのくらいにしとこうか。
これ以上は次のお楽しみ』
『そろそろ部長に一つ暗示をかけるね。
あ、大丈夫だよ。怖い事はしないから』
『部長は暑さを感じなくなる。実際今暑くないでしょ?
今夜は気持ちよく眠れるよ。
お布団に入ったら、ビックリするくらいきもちよくて。
すぐにぐっすり眠れちゃう』
『この暗示は、部長が朝起きるまで続くよ。
朝になるまで絶対に抜けない。
きもちよーく眠れちゃう』
『……はい。今日の催眠はこれでおしまい。
ここからは催眠を解除していくね……』
--------------------------------------------------------
取り立てて不穏な事はなく、
ただただ気持ちよさに没入できた1時間。
安眠に効くかはまだわからないけれど、
単純にリラクゼーション効果だけでも素晴らしい。
またやって欲しい位だった。
「じゃあ、私はそろそろ帰りますね」
「ごめんね。この時間で一人帰すのもあれだから、
できれば泊まって欲しいんだけど」
「あはは……流石にこの暑さだと、
私は間違いなく眠れませんから」
「貴女の催眠が私に効いたら、
今度は私が貴女に催眠を掛けてもいいかもね」
「そうですね。当分は毎日かける事になるでしょうし」
そうか。安眠用なわけだから、
毎晩掛けてもらう必要があるのか。
でもそれは流石にこの子の負担が大き過ぎる。
「効果を長持ちさせる事はできないの?
例えば一回で一週間有効とか。
それか学校でかけた後寝るまで有効、とか」
「うーん、私も素人なのでよくわからないですけど。
ただ、基本的には寝て起きたら解けちゃうみたいです。
でも学校でかけるのはありかもしれません」
「そか。じゃ、また明日学校で。
今日は本当にありがとね」
「はい!ゆっくり休んでください!」
あの子は笑顔で帰って行った。
悪いとは思いながらも一足先にベッドに転がる。
そして、ある事実に酷く驚いた。
まるで暑さを感じないのだ。
感覚的には春の夜。ちょっと肌寒くて、布団が酷く心地いい。
体温計に目を配る。壁に掛けられた体温計は、
今も30度を振り切っていた。
「催眠術すごいわね……効き過ぎて怖い位だわ」
なんて一言つぶやいている間にも、
どんどんまぶたが重たくなってきて。
意識は闇へと沈んでいく。
ベッドに転がってほんの数十秒。
私はあっさりと眠りに落ちて、朝まで死んだように眠りこんだ。
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奇跡。そう呼べるほどの体験をした翌日。
当然ながら、私はもう一度
催眠術を掛けてくれるよう後輩にねだった。
彼女は二つ返事で快諾する。
部活を終え、他の部員が帰宅した後。
私達は部室のベッドで互いに向かい合っていた。
「いやぁすごかった!朝まで一度も起きなかったし、
起きた時の爽快感がはんぱなかったわ」
「すごいですね。正直かけた私もちょっと
半信半疑だったんですけど」
「もうこれから毎日お願いしたいくらい!」
「あはは。私のなんかでよければ」
「じゃあ、早速始めましょうか」
ドアに鍵を掛け、カーテンを閉め切って灯りを落とす。
それだけで部屋は薄暗闇に包まれて、
非日常感がひょっこり顔をのぞかせる。
私をベッドに寝かせると、おなかに掌を当てながら。
後輩は、ゆっくりと間延びした声で、
私を底へといざない始めた。
--------------------------------------------------------
『昨日と同じように、深呼吸しましょう。
吸ってー、吐いてー。おなかに置かれた
手のぬくもりをじんわり感じてください』
『昨日よりかなり掛かりやすくなってるはずです。
早く落ちたいですか?
それとも、ゆっくり落ちたいですか?』
「ゆっくり、かな」
『はい。じゃあ、ゆっくり、念入りに行きますね』
『その分深く、深く、深く、深く落ちちゃいますけど』
……
『はい、また昨日みたいに底の底まで落ちちゃった』
『きもちいいね。私の声がきもちよくて、ゾクゾクしちゃう。
体の芯を、ねっとり舐めあげられてるみたいだね。
きもちいい、きもちいい、きもちいい、好き』
『いいよ。好きになっちゃって。
きもちいいんだから仕方ないよ。
私の声、好きになって、病みつきになっていいんだよ?』
『じゃあ、囁くね。好き。好き。好き。好き』
『きもちいいね、好きだね。きもちいいね、好きだよ』
『ほら、もっと好きになって?そしたら、
もっともっと、きもちいいから。
口に出してみるといいよ。その方がもっときもちいい』
『す…き……』
『もっと言って?そしたらそれが本当になるから』
『すき、すき……さきのこえ、すき。だいすき』
『いいよ、その調子。もう完全に堕ちちゃったね。
嬉しいね。きもちよくて、すきで、幸せだね』
『うん。すき。さき。だいすき』
『……さてと。せっかくここまで堕ちちゃったんだから、
これからのために一つ暗示を加えておこっか。
毎日こうやって誘導してると、時間も結構掛かっちゃうし』
『キーワード、決めようね』
『私が、「部長、沈んでください」って言ったら。
部長はすぐに催眠状態になって、
「ここ」に落ちて来られるようになるよ』
『そして。「部長、浮き上がってください」って言ったら。
すぐに覚醒できるようになる』
『じゃあ早速、癖をつけていこうね』
--------------------------------------------------------
一通りの催眠が終わり、起き上がって伸びをする。
今回もすごく気持ちよかった。
幸せな気持ちに浸りながら、何気なく時計に目を向けて、
私は目を白黒させた。
いつの間にか3時間も経っている。
「あれ?昨日は1時間くらいで終わってなかった?」
「あ、はい。今日は次回以降
短縮できるように下準備してましたから。
その分、明日以降はもっと短くできますよ」
「私としては別に短縮しなくてもいいけどねー。
かかってる間は気持ちいいし」
まあ、時短できるならそれに越した事はない。
毎日私に1時間奪われ続けるのもきついだろうし。
でもやっぱり、あの気持ちよさは捨てがたくて。
できるだけ長く、できるだけ深く落ちていたい。
「その辺も大丈夫です。深く催眠できるようになれば、
時間の感覚も変えられるはずなので。
短時間でもじっくり楽しんでもらえると思います」
「ああ、退屈な授業パターンね」
聞けば聞くほど何でもありだなと感嘆する。
五感や意識の感覚を自由に制御できるとなれば、
ほとんどの問題は解決するだろう。
「あ、じゃあさ。せっかくだから
帰りの暑さも感じないようにとかできる?」
「できますよ。『部長、沈んでください』」
頭がいきなりストンと落ちる。
何も考えられなくなってからっぽになる。
『うん。ばっちり堕ちられるようになったね。
私の声しか聞こえない。きもちいい声しか聞こえない。
好きな声。愛おしい声。大好きな声』
『じゃあ、部長に一つ暗示をあげる。
部長は今日、帰るまで暑さを感じなくなるよ。
私と手を繋いでも、全然熱くなくてきもちいいよ。
ずっと離したくなくなっちゃうくらいきもちいい』
『よかったね。嬉しいね。暗示もらえるの嬉しいね。
嬉しい。暗示されるとすごい嬉しい。暗示、大好き。
もっと暗示が欲しくなる。私に催眠してほしくなっちゃうね』
『でも、駄目。今日はこの暗示だけで我慢してね。
我慢だよ。我慢。
部長の嫌がる事はしたくないから』
「はい。『部長、浮き上がってください』」
パチン。目の前でスクリーンが切り替わったように、
何もかもが鮮明になる。
その切り替えがあまりにも急すぎて。
頭がふわふわして、おぼつかなくて怖くなる。
もう少し催眠の奥底に浸っていたかったのに。
『うええ……ねー、もうちょっとこう、
優しく引き上げたりはできないの?」
「できますけど、今日はもう真っ暗ですから。
明日からはゆっくりにしますね」
「じゃあ、暗示が聞いてるか確認しましょうか」
彼女が目の前に手を差し出してくる。
その手を握って驚いた。
ちょっと汗ばんだ彼女の手。
でも私には、ひんやりと冷たく感じて気持ちいい。
「冷やしておいたの?」
「いえ、普通に熱いですよ、汗かいてますし。
暗示がちゃんと効いてるみたいで何よりです」
「じゃあ。こうしたら、多分もっと気持ちいいですよね」
さらに彼女は指を一本一本念入りに絡ませ、
ぎゅっと固く握りこむ。
指の付け根まで冷たい感覚が浸透して心地よかった。
つい、ずっと握っていたいと願ってしまう程に。
「じゃあ、帰りましょうか」
そう言うと、彼女は手を振りほどく。
私は慌ててその手を掴んで、再び指を絡み合わせた。
「部長?」
「いやー、すっごく気持ちよかったから。
今日はこのまま帰っちゃ駄目?」
「私はいいですけど……その。誰かに見られたら、
噂されちゃうかもしれませんよ?」
「別に手を繋ぐぐらい普通でしょ。
それとも、私と噂されるのは嫌?」
「別に。その、嫌じゃ、ないです……」
結局二人して手を繋いだまま帰る事にする。
時間が時間だったから、道行く人の影はまばらで。
おまけにもう暗かったから、
私達の手に目を留める人は居なかった。
なのに、後輩の顔は暗闇でもわかるくらい火照っていて。
それがなんだか可愛くて、私はつい握った指を、
ぎゅっと固く握りこんでしまうのだった。
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初めて催眠を掛けられてから一カ月。
もはや私の生活に、催眠は欠かせないものになっていた。
文字通り、世界が劇的に変わるのだ。
暑い、寒いといった五感に関する感覚。
長い、短いといった時間に対する感覚。
好き、嫌いといった感情に関する感覚。
それらをいい方向に傾けてやるだけで、
世界はどこまでも素晴らしくなる。
夏の暑さが心地よい。
退屈な授業が楽しくなった。
苦手科目の宿題が面白くて止まらない。
たった一カ月でこれなのだから、
これからずっと催眠され続けたら
どれだけ幸せになれるのだろう。
そう考えるとたまらなくなって、
つい催眠をせがんでしまう。
それはさながら、限度を知らない子供のように。
「ねえねえ、催眠してくれない?」
「いいですよ、いいですけど……
暗示、何をかければいいんだろ」
「内容はこの際お任せするわ」
「わかりました!じゃあ、『部長、沈んでください』」
ストンと落ちる。落ちるのが酷く気持ちいい。
全てがからっぽになって、何もかもを支配される感覚。
支配されるのが気持ちいい。
ああ、しあわせ。
いっそ、ずっと催眠状態が続けばいいのに。
--------------------------------------------------------
毎日。ううん、毎時間のように催眠をかけられて、
私はどんどん溺れていった。
最近では催眠そのものが目的になってる。
だって、催眠されるの気持ちいいから。
心を全部さらけ出して、支配されるのは幸せだから。
1時限目が終わった休み時間。
下級生の教室だろうと物おじせず飛び込んで、
私は後輩の手を掴む。
そのままトイレの個室に押し込んで、
後ろ手に鍵を掛けながら囁いた。
「ねえねえ、催眠しましょ?」
「えっと、今はちょっと駄目かな。
最近の部長、催眠されるとその……」
「すっごく、やらしくなっちゃいますよね?」
「だから、今は我慢してください」
後輩は目を伏せて頬を染めながら、
私の指に自らの指を絡み合わせる。
ただそれだけで、おなかの奥がずくんと疼いて、
じゅわりと熱が染み出してきて。
自然と腰がもぞりと蠢いてしまう。
いつからか、催眠されると妙に体が火照るようになった。
単純に『熱い』という意味ではなくて、
その、恥ずかしくて淫靡な意味で。
きもちいい、きもちいい。二重の意味で気持ちいい。
心地よくて、ドロドロにとろけちゃいそうで。
終わった後、服を着替えなくちゃいけないくらい。
『我慢ですよ、我慢』
いつも催眠する時のように、後輩は私のお腹に掌を添える。
そして、ゆっくりゆっくり、熱を浸透させるように撫で回しながら。
耳元で、そっと。言葉を流し込むように囁いた。
『お昼休みまで我慢してくださいね。
そしたら……思いっきり気持ちよくしてあげますから』
『腰がわなないて、痙攣が止まらなくなるくらい。
どうしようもなくトロトロになるまで
気持ちよくしてあげますから……』
『ね?』
耳から注ぎ込まれた言葉。彼女の声に脳を揺さぶられると、
頭が一気に真っ白になる。
聞かされただけで、ぷちゅり、と。
体の奥から粘り気のある蜜が押し出されてきた。
『んっ……声、きもち、いいっ……』
『もう、駄目だよ。我慢。すっごく切なくて
やらしい気持ちになっちゃうけど、お昼まで我慢』
欲望がむくむくと肥大化していく。
頭はじんと甘く痺れて、もう催眠される事しか考えられなくて。
でも、我慢しなくちゃいけなかった。
『我慢する。お昼休み、
部室で待ってるから飛んできてね』
「もちろんです」
うっとりと恍惚にまみれた表情で後輩は頷くと、
いつものように、私のお腹に口づけた。
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脳がドロドロにとろけてる。
腰はガクガク痙攣して、視界はチカチカ点滅中。
体はひたすら酸素を求めて、
全力疾走した後のように肩を上下させながら。
私は部室のベッドに転がっていた。
一糸纏わぬ姿のままで。
いつの間にか、催眠をかける時には
服を脱ぐのが絶対のルールになっていた。
まあ実際終わった後は、
お互い汗やら恥ずかしいアレやらで
二人ともドロドロになってるし。
「ん……今日もベトベトになっちゃいましたね」
後輩も私と同じく全裸のまま、
余韻に浸るように肩で息をしている。
汗で粘る体をすり寄せると、気だるそうにしつつも
幸せそうに目を細めるのが可愛い。
しばらくそうして、肌を、太ももをすり合わせていると。
まだどこか甘えを帯びた声で、
「そういえば」と後輩が口を開いた。
「三年生の進路希望調査って今日まででしたよね?
結局どんな進路にしたんですか?」
「ああ、あれ。結局プロになる事にしたわ」
「あれ、大学進学はやめたんですね。
大学でも団体優勝だーって息巻いてたのに」
後輩がいぶかしげな声を上げる。それもそうだろう。
以前から私は『プロには行かない』と公言していたのだから。
私にとって麻雀は、勝つ事よりも
皆でわいわい楽しくやる事の方が重要で。
同じチームと言えどライバル同士、
みたいなプロの世界は肌に合わないと思ってた。
それなら普通に進学して、今度はインカレを
荒らすのも悪くないなって思っていたのだ。
なのに私は、随分あっさりと進路を変更してしまった。
正直自分でも不思議なくらい。
「色々考えてみたんだけどさー。
プロの方が、貴女と長く一緒に居られるのよねー」
もし私が大学に進学したとして。
大学生と高校生の組み合わせでは、
会えるとしても放課後だけになるだろう。
でも、私がプロになって、この子に
私のマネージャーになってもらえば。
二人で過ごせる時間は比べ物にならない程長くなる。
「と、言うわけで。貴女には
高校退学してもらうけど、いいわよね?」
「はい」
後輩は二つ返事で快諾した。
まあ、もし駄目だって言われたら、
四肢を切り落として連れて行くつもりだったけど。
大惨事にならなくて何よりだ。
私はほっと胸を撫で下ろす。
「あ、でも一つ条件を加えてもいいですか?」
「何かしら?私にできる事なら何でも聞くけど」
「ええと。私、こう見えて独占欲強いので。
私を縛るなら、私以外の人を切り捨ててください」
「具体的には?」
「極力私以外の人とは話さない。連絡を取らない。
必要な事務連絡は私経由で。
これだけ守ってもらえたら嬉しいです」
『できますか?』
『何だそんな事?いいわよ、喜んで受け入れるわ』
提示された要求は、拍子抜けするくらい簡単なものだった。
どうせ最近はこの子以外の事にまるで興味を持てなくなってるし、
むしろ事務連絡を肩代わりしてくれるなら助かる。
あ、でも。
「それって、いろんな人が貴女に話しかけるって事よね?」
割とお互い様な気がする。私だって、
最近誰かがこの子に話しかけるたびに殺意がドロドロと渦巻くのだ。
下手したら、勢い余って殺してしまうかもしれない。
「大丈夫ですよ。私だって、
もう部長以外に興味ありませんから。
必要最低限の事務連絡以外しません」
「それでも心配だって言うなら。いっそ貞操帯でも付けますか?
で、お互いに相手の鍵を持つとか」
『できますか?』
『いいわね。じゃあ早速、貞操帯買いに行きましょっか』
甘い余韻に後ろ髪をひかれながらも、
のそりと緩慢に起き上がる。
ぬちゅり、と粘着質な音を立てる下半身。
そこに貞操帯が巻かれる姿を想像して、
またトロリと新しい蜜が垂れた。
(……我ながら底なしね)
なんだかどんどん駄目になってる気がする。
欲望が抑えられない。肉欲が満たされる事はなくて、
すればするだけ卑猥な気持ちになっていく。
このまま行けば、そのうち日常生活も送れなくなるかも知れない。
そうなる前に、催眠で制御してもらわなくっちゃ。
「ねえ。性欲止まらないから催眠でなんとかして?」
「……っ」
後輩は思わずゾクッとする程
淫猥な笑みを浮かべると。
口にこびりついた粘液をぺろりと舐めて、
やがてこう返してくれた。
「大変ですね。あ、じゃあこれからは……」
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『部長の性欲も、私が全部管理します。
……いいですよね?』
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『もちろん。こっちからお願いするわ』
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
……一年後。
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『さあ、大将戦もついに最終局面!
ここまでの展開をさらっとおさらいしてみましょう!』
『現在トップはハートビーツ大宮。
先鋒で横浜ロードスターズの三尋木選手が大爆発しましたが、
中堅で選手兼コーチの瑞原選手がまくって逆転!
そのままトップを維持し続けて、
横浜がその背中を追いかける形になっています!』
『横浜が勝てば、今日リーグ優勝が確定するんだけどー、
牌のお姉さんの執念か、そう簡単には終わらせない!』
『さてはて、横浜ロードスターズが逆転して栄冠を掴むのか、
はたまたハートビーツ大宮が執念で逃げ切って見せるのか!
このオーラス、すこやんプロはどう見ますか!』
『だからすこやんプロって言うのやめてよ!』
『……コホン。点差ではハートビーツ大宮がリードしていますが、
決して楽観視はできない状況ですね』
『なにしろ、横浜ロードスターズの大将が
「あの」竹井選手ですから』
『ん?その辛口たるや歴代最強と名高いすこやんが
持ちあげるほどすごい子だっけ?』
『私そんなに毒舌じゃないよね!?』
『……コホン。竹井選手はルーキーで
まだ出場試合数が少ないものの……
これまで、追いかける展開で一度も負けた事がありません』
『状況が悪ければ悪い程強いんだっけ』
『そうですね。苦しい局面を耐え抜く程、
最後に大きく花開く事が多いようで――』
『カン!』
『おおっと、ここで竹井選手がカン!
これはアレか、アレが出てしまうのか!』
『そして、カンからのぉ――』
『嶺上開花!!!』
『出たーーーーっっっ!!!
竹井選手のお家芸、嶺上開花ツモドラ4で跳満炸裂!
逆転です!横浜ロードスターズが
リー棒一本分まくりました!』
『ていうかまるで意味が分からない!
途中までメンタンピン三色だったよね!?
なんで全部捨てて最終的に嶺上開花のみになるわけ!?』
『和了り牌も3枚切れてるラス牌だし!!
普通にメンタンピン三色の三面張じゃ駄目だったの!?』
『……駄目、だったんでしょう』
『竹井選手には、自ら悪い待ちに変えていく傾向と……
重要な局面では必ず嶺上開花を狙う傾向があります』
『やだなぁすこやん、嶺上開花は狙って出せる役じゃないよ?
これだからトッププロって奴は』
『出せちゃうんだから仕方ないでしょ!?』
『……コホン。私は直接竹井選手と対局した事はありませんが。
そういう時の竹井選手からは、何か、
ドロリとへばりつくような、
情念みたいなものを感じるそうです』
『ああ、あの子じゃない?
ヤンデレ専属マネージャー宮永咲』
『全国放送で失礼にもほどがあるよ!?』
『……コホン。確かに、カンからの嶺上開花はかつて
宮永咲さんが得意としていた戦法です。
竹井選手は、宮永咲さんから何か
大切なものを受け取ったのかもしれませんね』
--------------------------------------------------------
『個人的には。この手の能力の譲渡は、
両者に致命的な影響を与える事があるので、
手放しには賛同できませんが――』
--------------------------------------------------------
「よっし、これで公約は果たしたわ。
これで来年の年棒は大幅アップよ!」
「よっ、お疲れさん。それにしてもチャレンジャーだねぃ。
優勝を決める局面で嶺上開花を和了って勝つ。
達成できたら年棒3億、失敗したら500万だっけ?」
「そんなガツガツ行かなくたって、
竹井ちゃんなら数年もすれば億行くと思うぜぃ?」
「数年もかけたくないんですよ。
私、遅くとも再来年で引退する気満々ですし」
「一生働かずに暮らせる分お金を稼いだら――』
『――50モジ、コエタノデ、モウ、
サキ、イガイトハ、ハナセマセン』
『ハヤク、サキニ、アワセテクダサイ。
サキ、サキニ、ハヤク、サキ』
『サキ、サキ、サキ、サキ、サキ、
サキ、サキ、サキ、サキ、サキ』
「ああ、制限入っちゃったか。
相変わらず狂ってるねぃ。もう行っていいよん」
『サキ、サキ、サキ、サキ、サキ』
「……行ったか。ていうか、あの状態で
道に迷わないってのがまた恐怖だねぃ」
「……あ、あの。Weekly麻雀TODAYの西田ですが。
優勝決定という事で、フィニッシュを飾った竹井選手に
インタビューをお願いしたかったんですけど……」
「そ、その。今の、一体なんですか?」
「あー、これオフレコな?あの子、
なんか相方に『他人と50文字を超えて話したら駄目』って
制限掛けられてるみたいなのさ」
「ええ……完全に病気じゃないですか」
「ありゃ、意外とお茶の間には伝わってないんだねぃ。
竹井ちゃん、むしろ正気の時の方が珍しいんだけど」
「控室に居る時とかさ、ずーっとブツブツ呟いてるぜ?
サキ、サキ、サキ、サキって」
「で、でも。今までインタビューの時は普通でしたよ?」
「そりゃ横に相方が居たからだろ。
一人になった時のあの子はもう、
壊れた操り人形みたいなもんさ」
「ていうか――」
--------------------------------------------------------
「一体、何したらあそこまで人を壊せるのかねぃ。
後学のためにご教示願いたいもんだね」
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
頭の中全てが埋め尽くされて、
もう彼女に会う事しか考えられない。
どこをどう歩いたかすらも覚えてないけど、
私の体は覚えているのか、
いつの間にか彼女の元にたどり着いていた。
『サキ、サキ、サキ、サキ』
「まったくもう。ちょっと一人にすると、
すぐ他の人と仲良くしようとするんだから」
「はい。『制限解除』」
『サキ……あれ?私何してたんだっけ」
「大将戦で逆転して優勝。
これからヒロインインタビューだよ」
ああそうだ。公約通り嶺上開花で勝利して、
来年の年棒が3億で確定して。
喜んでたら、『何か』に声を掛けられたんだっけ。
「あーでもまだ3億かあ。今年が2000万だから……
税金とかも考えると、二人で一生引き籠るには、
まだ少し心もとないわねえ」
「贅沢しなければ十分暮らせると思うけど?
どうせずっとシてるだけだろうし」
「病気になったりするかもしれないじゃない」
「誰かの世話にならないといけないような病気なら、
素直に死んじゃった方がよくないかな?」
「むむ、一理ある」
「だからさ、もう引退しちゃおうよ」
『いいよね?』
そう言われると心が酷く揺れる。
最近、引きこもり欲が酷くなってきた。
この子以外の『何か』に費やす時間が酷くもったいなく感じて。
誰かがこの子に話しかける姿を見ると、殺したいほど虫唾が走る。
それはこの子も同じらしくて。事あるごとに、
社会を切り捨てて引きこもろうって提案してくる。
魅力的な提案ではあるのだけれど。
私はこの子の妻として、この子を幸せにする義務がある。
私みたいに、金銭面で苦労させたくはない。
不安材料は取り除いて、何が何でも幸せに。
彼女の幸せ、それは私の体、私の心、私の命、私の全てより
優先されるべきなのだから。
いくら彼女の願いでも、彼女を不幸にしかねない選択は
受け入れる事ができない。
「うーん。いつになく効きが悪いなぁ。
まあそれだけ、久さんが私を愛してくれてるって
事なんだろうけど」
「ん?何の話?」
「ううん、こっちの話。じゃあ、予定通り
後2年は頑張ってもらおうかな」
「その後は、ずっと二人で引き籠って。
一生、裸で絡みついて生きようね」
「ええ。んじゃ、方針も決まったところで
さっさとインタビュー終わらせましょっか。
後1時間で発情タイムに入っちゃうし」
二人で軽く駆け出した。
腰に食いついた貞操帯が酷く重くて、
でもその重たさが愛おしい。
隙間から蜜が漏れ出してきてるけどガマン。
後1時間すれば、頭をぐちゃぐちゃに壊してもらえるから。
性欲に支配されたメスに堕ちて、いっぱい交尾できるから。
汗で滑る肌を擦り合わせて、トロトロになった秘部を
指で思いっきりグチュグチュかき回して、
何度も何度もびゅるって汁が噴き出して、
腰の痙攣が止まらなくなって、呼吸すらできなくな
「あれ、興奮し過ぎてちょっと催眠解けかけてるね。
インタビューでそんなとろけた顔されてたら困るから――」
『ちょっと人形になってもらうね?』
彼女が一言そう呟くと、視界が突然真っ黒に染まって。
私の意識はぷつりと途絶えた。
脳に、彼女の声が響き渡る。
--------------------------------------------------------
『うんうん、いい子だね。
インタビューの内容は私が考えるから、
間違えずにしゃべってね?』
『第一声は、この勝利を大好きなあの子に捧げます、にしよっか。
最近は久さんに色目使う子増えてきたし、
この辺で釘を刺しておかないと』
『それでね、後は私の事ばっかり話すの。
見てる人がちょっと不気味に思うくらいに
あの人おかしいなって引いちゃうくらいに、だよ?』
--------------------------------------------------------
『いいよね?』
--------------------------------------------------------
脳を支配する彼女の声に、満面の笑みで頷いた。
(SIDE−咲・真相編)
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あと、3憶って誤字るドジぷちさん可愛い!
久さん可愛い!
サ、咲サンカワイイ!
久さん可愛いひっささき!
咲さん可愛いひっささき!!
久さんかわいい!是非とも続編を読みたいです
久さんかわいい!!
…ヒササンカワイイ!
ヤンデレかわいい!
やっべぇ咲さんも可愛いけど!
おちてるじゃないですかねぇ〰️
とりあえず久さんかわいい