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【咲-Saki-SS:照咲】『だから、少しだけお別れ』 後編【ヤンデレ】【共依存】【R18】

<前編までのあらすじ>
宮永姉妹の精神異常を察知して、
状況を打開すべく動き始めた久と菫。

宮永界から経緯を聞き出した二人は、
姉妹が出会う事で共依存が重症化すると判断、
二人の遭遇を回避する事を決意する。

しかし、咲を姉から隔離する過程で、
久は咲の闇に触れる。
狂夢の中、姉を切望する咲を目の当たりにして、
久の心は揺れ始めた。

気が違う程の深い愛情。
それを単に『依存』の二文字で片づけて、
外部が強制的に引き離す。
それは真の意味で咲のためになるのか。

葛藤しながらも、久は菫と共に
姉妹の遭遇を回避し続ける。
やがて団体戦が終わり、ついに個人戦が幕を開ける。

果たして姉妹は出会うのか。
二人は依存の楔を断ち切る事ができるのか、
それとも。


<登場人物>
宮永照,宮永咲,竹井久,弘世菫,宮永界

<症状>
・共依存(重度)
・執着(重度)
・異常行動

<その他>
欲しいものリスト支援者からのリクエストに対する作品です。
ただし内容がかなりのネタバレなので
どのリクエストに対する作品なのかは
末尾に記載しておきます。

 ※リクエストの都合上、
  原作ですでに判明している事実や展開とは
  異なる展開となります。

 ※物語の都合上、本当に最後の最後のみ
  濃厚な性描写があります。
  未成年方、苦手な方は閲覧をお控えください。



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前編はこちら。




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団体戦が幕を閉じた。

途中番狂わせを演じたりもしたものの、
最終的な結果としては下馬評通り。
優勝候補と目された我ら白糸台高校が、
団体三連覇を成し遂げる事になった。

だが私達の戦いは、むしろ始まったばかりと言える。


「ここまでは上手くいったけど」

「ああ。難しいのはここからだ」


地道な努力が実を実を結び、
ここまで宮永姉妹が顔を合わせる事はなかった。

だが流石に対局を止める事はできないだろう。
本気で邂逅を止めるには、法に触れる事も
覚悟しなければなるまい。


「それ、なんだけど。
 私、自信が持てなくなってきたの」

「は?」

「今私達の取ってる行動は、
 本当に咲の幸せに繋がるのかなって」


驚愕のあまり目を見開く。
その言葉にも驚いたが、何より。

久の目から、一切の輝きが失われていた。


「今更何言ってるんだ。二人を引き合わせたら最後、
 二度と依存を払拭する事はできなくなる。
 お前だってわかっているだろう?」

「そうだけど」

「私は逆に、ここ数日で確信したよ。
 照を咲ちゃんに会わせてはいけない」


肌で感じ取っていた。照は日に日に狂っている。
激情を覆い隠していた、無表情の仮面がひび割れて、
妹への異常な執着が顔を覗かせ始めた。

唐突にニタリと笑い始めたかと思えば、
ぼそぼそと何かを呟き始める。
唇の動きはわずかなもので、
ほとんど音は聞こえなかったが。
何度も確認する事で、呟かれた内容が把握できた。


『もうすぐだよ、咲。もうすぐ、もうすぐ』


全身を悪寒が通り抜ける。もはや完全にホラーの域だ。
例え愛情からくるものだったとしても、
あんな情念、妹に向けていいはずがない。
久も分かっているとばかり思っていたのに。

だが。久が次に放った一言は、私を芯まで震撼させる。


「依存して、何がいけないの?」

「なっ……!?」

「わかってるわ。社会的には自律した方がいい。
 わかってるから、私も頑張って咲を守ってきた」

「でも、それで咲は幸せになれるの?
 毎晩あんなにうなされて。
 ずっと苦しみを抱えたまま、
 歯を食いしばって強く生きていけたら幸せなの?」


震える声で語る久の瞳に、
強い既視感を覚えてしまった。
心に傷を持つ者が持つ澱み。
歯噛みする。ミイラ取りがミイラになったのだ。
確か竹井も両親が離婚していると聞いた。
おそらくは古傷を抉ってしまったのだろう。


「……なら聞くが。今のお前は不幸なのか?」

「そうは言わないわ。でも、私もあの時思ったのよ。
 引き離されるくらいなら死にたいって」

「だが乗り越えたんだろう」

「乗り越えざるを得なかったのよ。
 選択肢なんてなかったの」

「もし、過去に戻れるとして、
 好きな方を選べるとしたら。私はやっぱり、
 依存してすがりつく道を選ぶと思う」

「……」

「咲は選択できる立場でしょう?
 その選択肢を、部外者の私達が勝手に摘み取るのって、
 本当に咲のためになるのかしら」


理解できない話ではなかった。

久は決して我を通したいわけじゃない。
むしろ、咲ちゃんの気持ちが痛い位にわかるからこそ、
道徳も何もかもうっちゃって、
真に咲ちゃんが幸せになれる道を模索している。

彼女の考えがぶれるのは、それだけ咲ちゃんの事を
真剣に考えているからなのだろう。
だが、その魂の叫びを理解した上で。
私にはそれを受け入れる事はできない。


「久。お前の前に、麻薬中毒者が居るとしよう」

「彼は麻薬を求めている。与えれば喜ぶだろうな。
 だが、本来得られたはずの平凡な幸福は泡と消えて、
 彼は破滅への道を突き進む事になる」

「死ぬまで麻薬を与え続けるか?
 確かに、彼は幸せの中でこと切れるかもしれないな」

「だが、私にはそれが幸せだとは思えないんだ」


久は唇を噛んだまま、俯いて押し黙る。
彼女は一度堕ちた側の人間だ。だから、
麻薬を与え続けられ、幸せの中に死ぬ事を、
悲劇と考えられないのかもしれない。

もっとも返答がどうであれ、
久はもうリタイアするべきだが。


「ま、お前はもう休め。
 宮永に引っ張られ過ぎてるからな」

「このままじゃお前まで病むだろう。
 いや、もう病み始めている」

「後は私に任せておけ」


俯いた久が頭をあげて、私の顔を覗き込む。
不安と、戸惑いと、救済を望んですがる瞳が、
纏わりつくように私をとらえている。


「どうするつもりなの」

「照に直談判する。その上で、
 場合によっては強制的に個人戦を辞退させる」


これまでは決心がつかなかった。
正直そこまでするべきなのかと。

だが久の反応を見て確信した。
あの二人の闇は深過ぎる。
そばに寄り添っていた久を壊してしまう程に。

絶対に引き合わせてはならない。


「照さんがそれを聞き入れると思う?」

「無理だろうな。だがやらないわけにもいかない」

「それでみんな幸せになれるの?」

「さあな。だが、少なくとも私は納得できる」

「っ……!」


久がハッと息を呑んだ。どうやら気づいたのだろう。
自らの思考の歪さに。


「お前は自己犠牲が過ぎるんだよ。
 お前が選んだ選択肢には、
 お前自身の幸せが含まれてない」

「そりゃ、宮永姉妹がくっつけば、
 二人は幸せになれるのかもな」

「そしてお前は捨てられるわけだ。もちろん私もだが。
 で、お前はそれで満足なのか?」

「……っ」

「私は嫌だ。宮永姉妹には健全に立ち直ってもらって、
 誰も悲しまない大団円を所望する」


久の瞳にようやく、僅かばかりの光が灯る。

おそらくこいつはもう諦めていたのだろう。
宮永姉妹の幸せを願い、
捨てられる覚悟を決めていたのだろう。

ふざけるな。あの二人に切り捨てられる事で、
悲しむ者が大勢いるんだ。

誰かを切り捨てて得られる幸福など、
幸せな結末だと認めてやるものか。


「私は諦めないぞ」


絶対に繋ぎとめてやる。例え、そのせいで
宮永姉妹から恨まれる事になったとしても。



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『なあ照。単刀直入に聞こう。
 個人戦を辞退するつもりはないか?』

『意味が分からない。
 むしろどうして辞退する必要があるか
 聞きたいんだけど』

『咲ちゃんを壊さないために、だ』

『……へえ』

『菫はどこまで知ってるの?』

『正直ほとんど何も知らない。知ってる事と言えば、
 お前と咲ちゃんの間に確執がある事。
 咲ちゃんはお前に依存している事。
 咲ちゃんはお前と麻雀を打てば問題が解決すると思ってる事』

『そして。お前が、咲ちゃんに依存している事だけだ』

『ふうん。知らないとか言う割に、
 大切なところは全部わかってるんだ』

『昔から菫はそうだったね。とぼけたくせして、
 必要なところは絶対に外さない』

『でも、そこまでわかってるなら。
 どうして私と咲を引き裂こうとするの?』

『別に引き裂くつもりはないさ。
 お前達姉妹が仲良くする事は大いに歓迎する』

『だが今のお前を見てると、
 有り余る感情で咲ちゃんを壊しかねないと
 不安になるんだ』

『……本当に菫は怖いね。鏡もない癖に
 どうしてそこまでわかるのかな』

『……そんなの見ればわかるだろ。
 それだけ澱んだ目をしていれば』

『普通はわからないと思うけどね』

『で、どうなんだ。私の主張を聞き入れて、
 個人戦を辞退してくれるのか?』

『しないって言ったらどうするつもり?』

『悪いが、強硬手段を取らせてもらう』

『……』

『やっぱり、こうなっちゃうか』

『予期していたとでも?』

『万が一、私達の異変に気付いて。
 その上で障害になる人が居るとしたら。
 多分菫だろうなとは思ってたよ』

『だから』



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『さよなら、菫』




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幸か不幸か
照さんと咲は個人戦の初日から激突する事になった

決死の表情で挑む咲に対して、
照さんはその表情を崩しはせず
どこまでも無表情に、
淡々と咲の眼差しを受け止めている

少なくとも、健常者にはそう見えただろう

対局は滞りなく進んだ
いつも通り照さんが連続和了を繰り返し、
順当に点棒の山を築いていく
速度では太刀打ちできない咲は、
苦戦を強いられているようだった

異変が起きたのは東三局の三本場
照さんが満貫縛りになった時

咲の手が高らかと天に掲げられ
振り下ろした指が王牌を掴む
そして横一線に薙いで一言


『嶺上開花!』


全身の毛が逆立った

咲の刃が絶対王者に届いたから?
震えあがる程に華麗な打ち筋だったから?

違う
私を震撼させたのは、咲の対面に居る姉の顔


宮永照は、笑っていた


これまでの鉄面皮が嘘のように
テレビの前で見せた笑顔など、
いかにも営業スマイルでしたと言わんばかりに
満面の笑み、でもどこか凄みのある笑顔で、
相対する妹に微笑みかけている


そして、一言



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『やっとまた会えたね、咲。
 あの日の約束、覚えてる?』




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その言葉を聞いた途端
咲も狂ったような笑顔になって




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ゴトリと、椅子から崩れ落ちた




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『だから、少しだけお別れ』 −後編−




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『あの子』が遠い世界に旅立ったあの日
私は徹底的に咲を責め続けた


それほどまでに怒っていたから?
違う
咲がそうされる事を願っていたからだ


私に言われるまでもなく
咲は誰よりも自分を責めていて
酷く罰せられる事を望んでいた


なのに、周りは誰も咲を責めはせず
『不幸な事故だった』と咲を慰める
無論、それは咲を慮った結果ではあるけれど
そのせいで、咲は罪の重さに押し潰されそうになっていた


咲には罰が必要だった
だから責めた
責めて、責めて、責めて、責めて
あの子が許しを請いながらすがりつく手を払いのけて、
あらん限りの罵声を浴びせた


親から無理矢理引き離されて
咲の姿が見えなくなるまで



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あの事件を経て以来、咲は私から離れなくなった


元々懐いてはいたけれど、
今回の件で確信したらしい


私だけが、咲の苦しみに気づいている
自分を救ってくれるのは私だけなのだと


事あるごとに咲は言った
『もう、じぶんを信用できないの』
『だから、お姉ちゃんがぜんぶ決めて』


願ってもない事だった
私自身、酷く後悔していたからだ


本音を包み隠さず言ってしまえば
私も咲は悪くないと思っている


悪いのは私
まだ幼い二人を置き去りにして、
一人離れた私の罪だ


あの子を殺して、咲を壊したのは私
そう、全て私が悪いのだ


償う事なんてできやしない
でも、悲劇を繰り返さないように学ぶ事はできる


だから私は、咲のそばに寄り添って
咲を束縛し続ける


その選択が過ちである事に気づかないまま



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過ちに気づいた時には、
もう取り返しがつかなくなっていた


夜中、寝苦しさに目を覚まし
水を求めて台所に向かう途中
居間から、お父さんとお母さんの言い争う声が聞こえた


『このままでいいはずがないだろう。
 照と咲を引き離すべきだ』

『その方が、結果的にあいつらのためになる』


鈍器で殴られたような衝撃
私はその場にへたりこんだ


あの男は――私達を引き裂こうとしている!!


そして、それが一時の気の迷いでない事は
次の日に男が取った行動から明らかになる

男は私達を精神病院に連れて行った
男の企みを察知した私は、診断の回答を偽ったけれど
咲に伝える時間はなくて


咲は『重度の依存症』だと診断されてしまった



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お年玉を握り締め、二人手を取り逃げ出した


咲の苦しみにすら気づけない部外者に
引き離されるくらいなら
どれだけ険しい道だとしても、
二人ぼっちで生きていきたい


無謀が過ぎる、そんな事はわかっていた
最悪、そのまま飢え死にしてしまう事も覚悟の上だ


咲はついてきてくれた
足りなかったのは私の覚悟


寝床すら確保できず、真っ暗になった公園で
コンビニで買ったパンをかじりながら、
あの世に行く事を考え始める
何の気なしに呟いたら、咲は笑顔で答えてくれた


『わたし、お姉ちゃんとふたりならへいきだよ』
『そうだ、すわこに行こうよ。
 あのさんばしで、いっしょに、しずむの』

『そしたら、あの子と三人で、あっちにいけるよ』


『あの子』、彼女の死にざまを思い出した時
ほんの僅かに正気が戻った


『それだけはできない』と


あの日、あの子が水底に沈んでいって
私は気が違う程に悲しんだじゃないか。
あの子の不幸を嘆き、喉を何度も掻きむしったじゃないか
あんな不幸な幕切れで、咲の人生を締めくくるわけにはいかない


でも、だったらどうすればいいと言うのか
別れは必然、なら一体どうすれば
そんなの、答えは一つしかなかった



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そう、別れるなら再会すればいい




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『ねえ、聞いて咲。これから私達は離れ離れになる』

『え、やだよ。そんなのむりだよ。
 お姉ちゃんとはなれたら生きていけないよ』


『私も同じ気持ちだけど、周りはそう思ってない。
 私達は無理矢理引き離される』

『だったらこのまま行こうよ、すわこ』


『聞いて。私は諦めるつもりはない。
 いい?五年間だけ辛抱して。
 私が高校を卒業したら、必ず咲を迎えに行くから』

『むりだよ。そんなにまってたら、くるっちゃうよ』


『でも、私達が一緒になるにはそれしかない。
 お願い、お姉ちゃんのために協力して』

『お姉ちゃんの、ため…………』


『…………わかった』



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『でも。でもでも。ごねんもたったら
 わからなくならないかな。
 住んでるところも、なにもかも。
 へたしたら、お姉ちゃんのかおだって』

『大丈夫。私達には麻雀がある』


『まーじゃん?』

『そう。高校生になったら、私は何かの大会に出て
 そこで何とか優勝するよ。そしたら咲にも、
 私の消息が掴めるでしょ?』

『うん』


『で、私が高校三年生になったら咲も同じ大会に出場するの。
 そしたら自然と再会できるはず』

『もしかしたら誰かが私達の依存を疑うかもしれないけど。
 五年間隠し続けてれば、依存も治ったと思うんじゃないかな』

『後は簡単。私はお母さんと同じプロ雀士になって咲を攫う。
 生きて行けるだけのお金を貯めたら、
 後は二人ぼっちで生きて行こう』



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『だから、少しだけお別れ。
 でも絶対に迎えに行くから』

『……わかった。でも、ひとつだけ。
 おねがい、聞いてもらってもいい?』

『なに?』



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『わかれるまえに、わたしのこと、こわして』

『かなしいことも、おもいだせなくなるくらい。
 ぜんぶ、ぐちゃぐちゃにして』



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咲は言った

別れは必然で、耐えるしかないのだとしても
離れ離れになった時点で、
自分は耐え切れず壊れてしまうだろうと

なら別れる前に壊して欲しい
離別の悲しみすら感じない程
強烈な傷を与えて、全て塗り潰して欲しいと


『あれやってよ。ほら、テレビでいってたやつ。
 きずものにして、およめにいけなくするの』



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私は願いを聞き入れた
きっと私も不安だったのだろう

遠く離れて暮らしても、咲は私から離れて行かない
そう思えるだけの証が欲しかった



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そして――




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指から血が滴っている
失血死してしまわないか心配になる程に
私は咲を引き裂いた


『お、ねえ、ちゃん。わた、し、こわれた?』

『うん。ほら、見て。こんなに真っ赤になってる』

『これで、咲はもうお嫁にいけないよ。
 私と生きて行くしかなくなる』

『うん』


丹念に血を舐めとりながら、咲の心に楔を打つ

血を垂れ流しながらだらしなく微笑む咲は、
もう完全に壊れてるけど
念には念を押しておく


『この事は二人だけの秘密だよ。
 誰にも話しちゃ駄目。もし話したら、
 お姉ちゃんは死んじゃうと思って』

『いい?咲を独り置き去りにして死んじゃうからね?』

『お、おねえちゃんが、死ぬ。
 わたしを置いていっちゃう、し、やだ。
 やだ、やだ、やだ、やだ』



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『や゛だぁ゛あ゛あ゛ああぁ゛っっっっ!!!』




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そして私達は家に戻った

肩を震わせながら詰問してくる男に対し、
意識を失った咲を抱きながら、
事前に考えていた言い訳を並べ連ねる


『咲が、お父さんが私達を
 引き離そうとした事に気づいたみたい。
 それに抵抗するために家出したんだって』

『私は咲を探し回って、夜になってようやく見つけた。
 離れたくないって泣きじゃくったから、
 寝かしつけるのが精一杯だった』

『でも、今回の件で私も分かった。
 私達は一度離れた方がいい』


男は容易く同意した
というより、もう準備していたのだろう
翌月には東京に引っ越す事になった

お母さんがついてきてくれたのは僥倖だった
麻雀の大会があるとすれば
きっと開催地は東京だろう

いずれ咲と再会する時
あの男に邪魔されないですむ



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その後は大体想定通りだ

一度だけ、咲が一人でやってきたのは予想外だったけど
心を鬼にして拒絶した
私まで咲に依存している事が露見したら、
監視の目が厳しくなるだろうから

そして、あれから五年が流れた今
私達は再び出会う



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『やっとまた会えたね、咲。
 あの日の約束、覚えてる?』




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言葉を耳にした瞬間、
咲の目はあの頃と同じ幼さを取り戻して

にこり、と愛らしく微笑んでから
そっと意識を手放した



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個人戦で咲が倒れて、はや数年が経過した。
二人は表舞台から姿を消して、
もうどこにいるのかわからない。

咲は個人戦欠場となった。
対する照さんは何事もなかったように勝ち進み、
酷くあっさりと個人戦を制する事になる。

インターハイ史に名を刻む快挙を成し遂げた彼女の元には、
プロ麻雀界からのオファーが殺到し、
彼女はそれを快く受け入れた。

そして、あらゆるタイトルを総なめにして、
賞金を稼ぎまくった後。彼女は忽然と姿を消した。

きっと、今は咲と二人で。
誰にも邪魔されない世界を生きているのだろう。


「結局あいつの筋書き通りか」

「そうね」

「悔しいな」

「そう?私はこれでよかったと思ってるわ」

「自分が捨てられたのに、か」

「自分が捨てられたからこそ、よ」


もちろん当時は泣きに泣いた。
両親に離婚された時に味わった悲しみを、
追体験させられているようで。
我が動脈と菫には、随分負担を掛けてしまったと思う。


でも、数年経った今思うのだ。
姉妹という苦難を乗り越え、
望む世界を手に入れた二人の存在は、
私にとって救いでもあるのだと。

二人は証明してくれた。気が違う程の愛があれば、
狂人でも、狂人のまま幸せになれるんだって。
これを救済と言わずして何と言うだろう。


「病人の考えはまるで理解できないな」

「ありゃりゃ?まだわかんない?
 そろそろ菫にもわかると思うんだけど」


二人は全てを捨てて消え去った。
世界はそれを許容して、まるで二人が
最初から居なかったかのように時を進めている。

なのに、目の前にいるこの人だけが。
そんな流れに逆らって、今も二人を探し続けている。

『依存してるな』って思う。

この人の愛も本物なのだ。あの二人と釣り合う程に。
出会いと別れなんてつきものなのに、
今もこの人は病的なまでに、照さんの亡霊を追いかけている。

果たしてどっちが病人なんだか。
不意打ちでスタンガンを死ぬほど浴びせてきた相手に、
よくもまあそこまで執着できるものだ。


「結局、宮永家に関わった人全員が
 壊されちゃったって事ねー」

「おい。私を数に含めるな」

「気づかぬは本人ばかりなり、ってね」

「私のどこが病んでるんだ」

「秘密。菫にだけは教えてあげない」

「……お前、なんか照に似てきたな」


意味深な含み笑いを返しながら、
私は一人空を見上げる。

このどろりと濁った雲の下、
あの二人もどこかで愛し合っているのだろう。
そしてやがては二人指を絡めあい、
微笑みながら逝くのだろう。


素直に羨ましいなと思った。いつか私も、
そんな風に人と結ばれる事ができるだろうか。



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暗闇の中絡み合う

灯りを消して、カーテンを閉め部屋を真っ暗に、
境界を消して、混ざり合って蕩けたいから

多幸感に身をよじると、
ぬちゅり、と粘着質を帯びた水音が周りに響いた
粘液は咲と繋がっていて
それがまた、私に悦びを注ぎこむ


『きょう、これでなんかいめだっけ』

『十四回目』

『おなかがすくわけだね』

『うん。そろそろごはんにしようか』


のそりと咲が起き上がり、
チューブに入ったゼリーを持ってくる
二人で絡み合いながらチューブを啜ると、
一分経たずに食事は終わった


『じゃあ、またえっちしよっか』

『うん』


咲の唇に舌を這わせる
誘い込むように開いた口に舌を差し込むと、
マスカットの味が染みこんできた

美味しいと思う反面、非常食如きに
私の咲を染められた不快感にも襲われる

上書きすべく、咲の口内を貪りつくすと
咲が嬉しそうに目を細めた


『んっ、んっ……もう。またヤキモチ?』

『あたりまえでしょ』

『まあ、きもちはわかるけど。
 わたしもお姉ちゃんのくちから
 お姉ちゃんじゃない あじがして
 ちょっとやだったし』

『でしょ。私を差し置いて
 咲の血肉になるのも許しがたい』

『ならお姉ちゃんのおにく、たべさせてくれる?』

『そうしたいのはやまやまだけど、
 怪我するのはちょっと。
 私達の世界に医者が混入する事になる』

『そっか』


他愛もない会話を続けながらも
咲の柔肉を食んでいく
幾度となく睦みあった肌は体液にまみれていて
咲の味がしてたまらない


『あ、おねえちゃん、あしこっちにむけて。
 わたしもおねえちゃんのことたべたい』

『ん……これでいい?』

『かおにまたがってほしいな』

『はいはい』


どのくらいこうしているのか、
正直もうわからない
今が何年で何日か、何時かすらもわからない

延々と続く交尾
ただお互いの肉を貪り、快楽に悶えて鳴き続ける
なんの進展もないままに


ふと思う
今の私達を見たら、きっと菫は泣くだろう
あるいは肩を震わせて逆上するかもしれない
『こんなの、死んでるのと同じじゃないか』って


そうだ、私達はもう死んでいる
後はこのまま交尾を続けて、命が尽きるのを待つばかり


ああ、なんて幸せなんだろう


幸せにうち震えていたら、
咲が不満げな声を漏らした


『おねえちゃん、した、とまってる。
 かんがえことしてたでしょ』

『しあわせにひたってた』

『うそ。それだけじゃないよね?』


獣の勘というのだろうか
こういう時咲は異常に鋭い
私が気を逸らした事を咎めるように
奥深くに舌を差し込んでくる


『わたしいがいのこと、かんがえちゃだめだよ』

『そんなことかんがえるくらいなら
 こわれてて』

『きもちよくなって、まっしろになって、
 だめになってればいいんだ』


私の思考を食い取るように、咲の攻めが激しさを増す
その期待通り腰がわななき始め、
脳が痺れ、全てが真っ白に染まっていく

ああ、うれしいな
咲が私の事だけ考えてくれてる
私だけに没頭して
私の事を貪って
私以外の存在を許せなくなってる


とめどなく襲い掛かる快感に耐え切れず、
私はひときわ大きな声をあげて全身を硬直させる
同時に『びゅるり』と粘り気のある絶頂の証が噴き出して、
ぼたぼたと咲の顔に降り注いだ


『あは、お姉ちゃんイッちゃった。
 でも、もっとわたしにおぼれてね?』


いまだ戻って来れず内股を震わせる私の秘部に、
咲はなおも舌を這わせ続ける

絶頂の最中に覚える絶頂に、
今度こそ私は思考の全てを吹き飛ばされた



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こうして、私達の人生は終わりを告げる

紆余曲折はあったけれど
大体は私が書いた台本のまま

ただひたすら交尾を繰り返し
何を成し遂げる事もなく

ただ、愛する人と二人、
衰弱して動けなくなってこの世を去った



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この物語、人によって評価は
大きく分かれるのだろう

最高のハッピーエンドだと称賛する者もいれば
筆舌に尽くしがたき絶望だと
唾を吐く者もいるのだろう

ただ、私自身としてはこう加えて終わりたい



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『めでたし、めでたし』と。



(完)

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<リクエスト内容>
・内容は照咲のドロドロの共依存。
 宮永照さんが宮永咲さんを独占したいが為に
 両親を仲悪く別居するよう細工して
 幼い咲さんを壊して依存状態にして別れる、
 咲さんに高校麻雀大会に出るように仕向けて
 宮永照さんと出会って取り返しがつかないくらい
 重症の依存させて宮永咲さんを未来永劫手に入れる。
 その後社会から離れた所で二人っきりでドロドロに愛し合いながら暮らす
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posted by ぷちどろっぷ at 2018年09月15日 | Comment(9) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
前編で「菫壊れてないの…?」って思ってたら結構元から壊れてた…。
そして珍しい照咲…!
てっるさき!てっるさき!
Posted by at 2018年09月15日 21:23
お父さん→男 の心のシャッターが閉じた感じがめっちゃ好きです。社会から離れたドロドロエンドのシーンは2人以外の介入を許さない意思が最高にドロッドロでドロドロ
Posted by at 2018年09月15日 21:24
リクエストした者です、お互いがお互いを支配して一生側にいるドロドロした世界がたまりませんでした。
私はベクトルが違えど姉妹仲良くハッピーエンドのひとつだと思いました。
Posted by at 2018年09月15日 22:53
宮永両親も精神的にきつそう…。
久菫はこの後代償行為でくっついてくれるとおいしい(外道
Posted by at 2018年09月15日 22:53
ハッピーエンドで終わってよかったです。
Posted by at 2018年09月15日 23:08
お疲れ様でした。とても面白かったです。傷物にされた咲さんの年齢って…
麻薬は、人ではなく物に依存するのであまり好きではないですねー。人を依存させるのはそれなりに労力がいりますしその過程が良いので、それをすっ飛ばして誰にでもひょいひょいできてしまう点が微妙。
Posted by at 2018年09月15日 23:15
これはなんとえげつない。クローズド・ワールドを思い起こさせるような闇の深いハッピーエンドだったと思います。むしろ闇はパワーアップしている・・・。
二人っきりで完結した世界で死ぬまで愛を深め合う宮永姉妹はもちろんとして、そんな宮永姉妹を羨ましいと思える久さんはサラリと壊れてるし、そんな宮永姉妹を探し続ける菫さんもまたそれはそれでどえらい壊れっぷりですね。登場人物狂人しかいない・・・。
Posted by at 2018年09月16日 00:20
めでたし。めでたし。
本当にメリーバッドエンド、という言葉がピッタリハマる作品を味わいました。冷静な狂人ほど怖いと言いますがそこに底知れぬ愛が加わるとあまりにも純粋で…照も咲もあの年齢でここまで深く愛し合って依存し合うというのはやっぱり運命感じちゃいますね…
Posted by at 2018年09月16日 17:44
すばらです!
麻薬中毒者が麻雀中毒者に見えてしまいました(笑)
Posted by at 2018年09月16日 20:01
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