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【咲-Saki-SS:智葉×明華】明華「貴女が私にくれたもの」【ほのぼの?】
<あらすじ>
女手一人で自分を育ててくれた母を、
早く楽にしてあげたい。
そう考えて一人故郷を飛び立った雀明華は、
だが孤独に肩を震わせる。
故郷を、母を思い歌う彼女の歌は、
果たして誰に届くのか。
<登場人物>
雀明華,辻垣内智葉,ネリー・ヴィルサラーゼ,メガン・ダヴァン,ハオ・ホェイユー
<症状>
・特になし
(あえて言うなら依存?)
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・辻垣内×明華で甘いやつ(病んでても大丈夫)
--------------------------------------------------------
留学生。
私、雀明華はまだ二十歳にも届かぬ身空で
一人故郷を飛び立つ事になりました。
目的は母から離れるため。
と言っても、仲が悪いわけではありません。
むしろそれは母のため。
早くに父と死に別れ、ずっと苦労をかけてきたから。
少しでも早く独り立ちして、
楽にしてあげたかったのです。
特待性として留学すれば、
費用の一切は学校持ちになります。
寮生活で強制的に離れ離れになりますから、
親離れの意味でも最適。
こういった経緯から、私はふるさとから遠く離れた、
日本という離れ小島に流れ着いたのでした。
入念に計画を練った上での留学。
ただ、一つだけ考慮漏れがあったとすれば。
私が。自分が思っていた以上に
甘えん坊だった事でしょう。
--------------------------------------------------------
『貴女が私にくれたもの』
--------------------------------------------------------
『寂しい』。
日本にやってきて以来、私の口癖になった言葉。
文化が異なる異国での生活は、
想像以上に私の心をすり減らしていました。
何か問題が起きているというわけではないのです。
特待生として結果は出していますし、
チームメイトとの関係もそれなりに良好。
でも、心にはいつも隙間風が吹いていました。
要は単なるホームシックです。
家に帰った時、真っ暗な部屋を見るのが辛い。
『ただいま』、そう呟いた時、
空しく響き渡るのが苦しい。
心を許せる者の不在。ただそれだけの事が、
これほどまでに胸を穿つとは思いませんでした。
(歌えば、少しは気がまぎれるでしょうか)
一人静かに屋上へ。周りの迷惑とならないように。
なんて、歌一つ満足に歌えない環境に、
またも文化の壁を感じてしまいます。
空は紅く染まっていました。
美しく雄大なその景色、でもだからこそ、
自分が酷くちっぽけに思えてしまう。
気持ちがどんどん沈んでいきます。
晴れぬ気持ちをそのままに、歌に乗せて吐き出しました。
LALALA……LALALA……♪
それは故郷を思う歌。のどかな曲なのに、
今の私が歌うと酷く物悲しく響きます。
まるで嘆きの歌のよう、でも止める事はできなくて、
目から雫がこぼれ落ちそうになって――
「哀しい歌だな」
――彼女が声を掛けてきたのは、まさにそんな時でした。
「……そんな事はないですよ?
普通に、故郷を懐かしむだけの歌です」
「なら、哀しいと感じるのはお前のせいか」
「……そうですね。そうかもしれません」
辻垣内智葉さん。チーム唯一の日本人。
今、私の心境からもっとも遠い人物と言えるでしょう。
「故郷が恋しいか」
「いえ。引っ越しを繰り返してきましたから、
場所にはそこまで思い入れはありませんね」
「なら人か」
「ええ。でも耐えなければ」
「そうか」
多くを語る事はなく、かといって、
踵を返して立ち去るでもなく。
ただ沈黙を保ったまま、彼女はそこに在り続けます。
私は戸惑いながらも、彼女の出方を待ちました。
でも、彼女が口を開く事はなく。
「……」
少しばかり居心地の悪さを感じつつも、
再び空に歌を流します。
故郷を、母を思いながら。
LALALA……LALALA……♪
ひとしきり歌い終え、少しだけ気が晴れました。
立ち去ろうと足を踏み出した時。
黙って歌を聞いていた智葉さんが、
視線を空に投げました。
「私達は所詮他人だ。あげく、お前は異邦人で私は現地人。
お前が感じる寂寥を、本当の意味で理解する事はできない」
「でしょうね」
「だが。ここ臨海にいる間、私達は一つの家族だ」
「っ……でも、ライバル、ですよね?」
「留学生同士はそうなのかもな。
でも、私はそう思っちゃいない」
「私には継ぐべき家業がある。
麻雀で飯を食うつもりはないからな」
「寂しくなったら、寄りかかる肩くらい貸してやるさ」
ぽん、と肩に手を置く智葉さん。
その表情はどこまでも優しくて。
少しだけ。そう、ほんの少しだけ、
故郷で待つ母に似てる。
だから。
「そうですね。そのうち、身の上話でも聞いてください」
少しだけ、お言葉に甘えてもいいのかな。
なんて思ってしまったのでした。
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辻垣内智葉さん。
正直な本音を語ってしまえば、
彼女に苦手意識を持っていました。
彼女が纏う独特の雰囲気は、どこか
ジャパニーズ・マフィアを彷彿とさせるもので。
関わらない方がいい、そう思い避けてきたのです。
しかしながら、彼女は
私が求めるものを差し出してくれました。
そういえば聞いた事があります。
マフィアは外に向けては非情でも、
仲間の事は血を分けた家族のように大切にするのだと。
ジャパニーズもそうなのでしょうか。
いえ、そもそも智葉さんが本当に
『そう』なのかも知らないのですけれど。
「明華、根詰め過ぎだ。少し休め」
あの日以来、智葉さんは何かと私を
気に掛けてくれるようになりました。
一つ一つは小さな事です。例えば、
疲れている時に休憩を勧めてくれたり。
寒さに身震いした時に、
そっとブランケットを掛けてくれたり。
些細な親切。でも、普段から
私を見ているからこそできる優しさ。
例えるなら、母が子を見守るような無償の愛。
私が求めてやまなかったものでした。
でも。
求めていたものだからこそ。それが、
赤の他人から与えられる事に、
いくばくかの懐疑を覚えてしまいます。
「智葉さんは、どうしてそんなに
優しくしてくれるんですか?」
「言っただろう?私達は家族だと。
お前は母から愛されて、
『どうして?』なんてわざわざ聞くのか?」
「血を分けた家族ならそうでしょう。
でも、私達はお金で繋がる傭兵チームですよね?
むしろ家族とは対極じゃないですか?」
そう、これこそ、私がいまいち甘えきれない理由。
智葉さんがくれる愛、その根拠がわからないのです。
裏を勘ぐってしまうのは、私が疑り深いからではないでしょう。
なのに智葉さんは、『なんだそんな事か』、
とでも言わんばかりに肩をすくめました。
「お前の国がどうかは知らないがな。
日本におけるインターハイは、
一生の思い出になりうるものなんだ」
「大半の者は出場すらできない。
私だって、三年にしてようやく、
最初で最後の団体戦だ」
「一生に一度のインターハイ団体戦。
共に挑む仲間を大切に思うのは、
そんなにおかしい事だろうか」
「私はそうは思わないな」
そう微笑む智葉さんの眼差しは、
どこまでも温かく優しくて。
まるで本当の家族に向けるような、
愛情に満ち満ちた目をしています。
「……確かにそう言われれば。
あり、かもしれませんね」
向けられた視線がくすぐったくて、
思わず顔を伏せてしまいます。
胸が少しずつ鼓動を速め、頬に熱がたまっていきます。
そのぬくもりは、凍りついていた心を融かし、
やがて、今まで味わった事のない
火照りを私に与えたのでした。
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『家族になってやる』、
智葉さんはそう言いました。
そしてその言葉通り、
智葉さんは私を可愛がってくれました。
(……もう、素直に甘える事にしましょうか)
実際参っていたのは事実なのです。
それに、彼女の愛が無償だというなら、
もはや遠慮する理由もありません。
『勉強が分かりません』、
そう言えば親身に教えてくれました。
『寂しいです』、
悲しそうに俯けば、泊まりに来てくれました。
『抱き締めてください』、
上目遣いでおねだりすれば。
そっと抱き寄せ、頭を撫でてくれました。
智葉さんから与えられる愛。
受け取る条件を満たすのは
それほど難しくはありません。
ただただ真剣である事。ひたむきに努力するだけで、
智葉さんは私を見てくれて、純粋な愛を与えてくれる。
言うなれば、親に褒めてもらうため頑張る子供と、
子供の努力を認めて褒めてあげる親の図式。
母の愛に飢えていた私が、
溺れないはずありませんでした。
どんどんのめり込んでいきます。
私の重たさがどれだけ増しても、
智葉さんは当然のように受け止めてくれました。
いつしか私達は常に寄り添うようになり。
時に他の部員から冷やかされるまでに至ります。
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それは私にとって喜ばしい事でしたけど。
でも同時に、恐怖の始まりでもあったのです。
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なんて事のない一日でした。
いつものように、サトハさんが辻垣内家への贈り物を
部員におすそ分けしていた時の事。
「あっ、このツブツブお金かかってそう!
これネリーがもらうね!」
「おっと、こいつはもう売約済みだ。
明華の好物らしいからな」
高級イクラの瓶を見て、我先にと飛びつくネリーちゃん。
その手をサトハさんが払いのけました。
ぷくーと頬を膨らませたネリーちゃんが、
不服を隠す事もなく毒づきます。
「サトハってさ、ミョンファにだけ甘いよね。
ネリーにはすっごい厳しいのに」
「お前はちょくちょく勉強とかサボるだろ。
明華はいつも頑張ってるからな」
「十六にして単身故郷を離れて戦っているんだ。
状況を鑑みれば、むしろ私の方が甘やかされてる」
「そこはネリーも一緒だよね?
もっと甘やかして欲しいんだけど?
具体的には私にも色々ちょうだい」
「ならばこれをくれてやろう。
参考書のお下がりだ。好きなだけ堪能するといい」
「ミョンファばっかりひいきだ!!」
「贔屓して何が悪い。努力は報われて然るべき。
私は努力する者の味方だ」
当然のように答えるサトハさんに、
ほっこり心がぬくもって。
でも次の瞬間、ぞっと背筋が凍りました。
サトハさんが私を贔屓してくれる。
その事自体はとても嬉しい。嬉しいけれど――
――それは『私だから』じゃない。
いつか、私より努力する人が出てくれば、
私よりサトハさんを愛する人が現れれば。
サトハさんはその人を贔屓して、
私は今のネリーちゃんのように
体よくあしらわれるのでしょう。
(……もっと頑張らないと)
誰より一番努力しよう。
サトハさんに目を掛けられるように。
誰より手のかかる子になろう。
サトハさんの施しを独り占めできるように。
もっと、もっと、もっと、もっと。
悪癖が顔を覗かせ始めました。
自分を勝手に追い込んで、挙句自滅する悪癖。
そうやって一度は痛い目を見たはずなのに。
性懲りもなく、私は同じ事を繰り返そうとしたのです。
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誰よりも早く部室に来て、誰よりも遅く部室を出る。
誰よりも長く勉強して、誰よりも酷く疲弊する。
日に日に私は痩せていき、
つまらないミスを繰り返すようになりました。
努力の仕方を間違えている、そんな事にすら気づく事なく。
いえ、努力ですらなかったのかもしれません。
ただサトハさんに甘えていただけ。
『私はこんなに頑張っているんですよ、
だからもっと構ってください』
そう言って無垢な幼子のように両腕を広げ、
ただ与えられる愛を甘受する。
甘える事が苦手な私の、酷く不器用な愛情表現。
ただただ、そんな愚かな行為を繰り返す。
そして――
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ある日、当然のように倒れたのでした。
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世界が突然ぐにゃりと歪み、方向感覚が消え去ります。
時間の流れがスローになって、なのに体は動かせません。
「明華!!」
サトハさんの鋭い声。同時に鈍い衝撃が脳を襲い、
倒れたんだと気が付きました。
「明華!しっかりしろ!明――
ズキズキと広がっていく痛み、気味の悪い浮遊感。
視界が暗転していって、心地よい闇が訪れます。
そして促されるままに――
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そのまま、意識を手放しました。
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夢を見ていました
いいえ、それは過去に起きた現実で
記憶のフィルムを巻き戻して眺めている、
そう言った方が正しいかもしれません
フランスを発つ空港、ラウンジから空を見上げる私
隣で佇む母が、零すように言いました
『無理しなくていいからね。つらくなったら、
いつでも戻ってきていいからね』
私は笑顔で頷きながら、でも、正反対の決意を抱きます
どんなに苦しくても弱音は吐かない
母を早く楽にしてあげたいから
お見通しだったのでしょう
母は眉を下げながら小さく笑うと
喉を震わせる事はなく、ただ唇だけ動かしました
『ごめんね』
己の不甲斐なさを恥じました
ああ、私が幼く頼りないから、母を不安がらせている
だから胸を張りました
母の心配を取り除きたい
私は独りでやっていけるよ、そう証明して見せたくて
母は何も言いません
ただ、私の手をぎゅっと握って
私のそばにあり続けました
そのぬくもりがとても嬉しくて、でも酷く物悲しい
結末を知っているからです
この手はいずれ離される
現実を受け止めたくなくて、
母の手をぎゅっと握りしめて――
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『大丈夫だ。私はお前を離さない』
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不意に目が覚めました。視界に広がる白い壁。
舞台は空港から保健室へと移ったようです。
隣にいた母は姿を消して、代わりに
サトハさんが私の手を握っていました。
目覚めた事に気づいたのでしょう、
サトハさんは顔を上げると、
いつもより低い声で尋ねます。
「気分はどうだ」
「割といい感じです」
「半日も眠っていればそうだろうな」
私の手を握ったまま、サトハさんは続けます。
私が突然倒れた事、抱きかかえて医務室に連れて行った事。
過労だと診断された事、そのまま半日眠り込んでいた事。
ひとしきり語り終えると、サトハさんは息を吐き出して。
瞳を覗き込みながら、脅すように言いました。
「もう無理はするな。休め。これは命令だ」
く、と息がつまります。いえ、わかってはいるのです。
当然の忠告でしょう。でもそれを順守すれば、
サトハさんの一番から転落してしまいます。
寝起きだったからでしょうか。
自分でも驚く程に、素直に口にしてしまいました。
「でも、誰より一番努力しなければ、
サトハさんの一番になれないでしょう?」
言ってから頬が染まります。
それは、どう聞いても愛の告白で。
隠し続けるべき秘密のはずでした。
なのにサトハさんは、まるで意に介さずに。
淡々と言葉を返すのです。
「やっぱりお前はズレてるな。
いや、この場合は擦れてるというべきか」
「……何がですか?」
「価値を得るために対価が必要、そう考えているだろう?
愛を得るための対価として、
病的な努力が必要だと思っている」
「違うんですか?」
「私がいつそんなものをお前に要求した?」
言葉を返せず押し黙ります。
確かに、面と向かって言われた事はありません。
でもそれが何だというのでしょう。
実際私は努力によって、愛を手に入れていたはずです。
私より努力量が少なかったネリーちゃんは、
すげなくあしらわれていたのですから。
表情に表れていたのでしょう。
サトハさんは肩をすくめると、
ゆっくりと言葉を吐き出します。
「私がお前を気に掛ける理由。
もちろん、お前が努力家だという事もあるが。
実際には別の理由がある」
「……何ですか?」
「留学してきた目的だよ。
ダヴァンや慧宇であれば、自身に磨きをかけるため。
ネリーであればお金のため。
方向性は違えど、結局はどれも自分のためだ」
「だが」
「お前だけは違うんだ。
早く独立して母を楽にしてあげたい。
目的が他人に依存している」
「お前自身が独立を望むのならそれもありだろう。
でも違った。お前は今も母の愛を求めている。
つまり、お前のそれは自己犠牲だ」
「危ういと思った。放っておけないと思ったんだ」
留学生の中で、私だけが特別。
その事実は少しだけ私の心を晴らします。
だからと言って、素直に全部を
飲み込む事はできませんでした。
「……他人のために動く事は間違いでしょうか。
母を楽にしてあげたい、
そう思うのは危うい思想なんでしょうか」
「そこまでは言わないさ。
でも、それで潰れてしまうなら論外だ。
お前のお母さんだって、
そんな事は望んでいないだろう」
「でも。私が居たら、母は自分の人生を送れない。
母の足枷になってしまいます」
「それの何がいけないんだ?」
あまりに自然な物言いに、完全に虚を突かれました。
そう返されるとは思っていなかったのです。
目を見開く私を前にして、サトハさんは
呆れたように息を吐き出しました。
「子供が親のすねをかじる、そんなの当たり前の事だろう。
子供を産んで育てるとはそう言う事だ」
「自由を満喫したいなら最初から生まなければいい。
なのにわざわざ生んで育てる、それは
枷すらも甘んじて受け入れる事を意味している」
「お前の母はお前に言ったか?
『苦しいからさっさと独立してくれ』と」
「……言って、ません」
ふと、母の笑顔が脳裏をよぎります。
別れ際に見せた寂しそうな微笑み。
そして呟かれたあの言葉。
『ごめんね』
ぽつりと告げられた謝罪の一言。
その意味を考えたくなくて、今まで栓をしてきたけれど。
もし言葉を付け加えるなら、
きっとこうなっていたのでしょう。
『(片親のせいで)(要らない気を遣わせて)ごめんね』
だとしたら、私が今までしてきた事は。
ただ、悪戯に母を傷つけただけだったのでしょうか。
「誤解するな。お前の決意自体は尊い。
お前が立派に育った事、
そこは親御さんもさぞ喜んでいるだろう」
「ただ、お前が早熟で甘え下手なのもまた真実だ。
大切な人のために自我を押さえる、
愛を得るためには対価が必要。
お前の考えはあまりにも大人が過ぎる」
そこでサトハさんは言葉を区切ると。
私の頭を優しく撫でて、慈しむように微笑みました。
「甘えたいから甘えたい、ただそれでいいんだよ。
お前はもっと我儘になるべきだ」
「努力なんて対価は要らない。もっと素直に甘えてこい」
ぽとり、何かがシーツに落ちました。
ぽとり、ぽとり。雨の降り始めのように、
雫がシミを作っていきます。
それはきっと、私が幼い頃からずっと求め続けて、
でも、求めてはいけないと思っていたもの。
「本当に、いいんですか?」
「ん?」
「私が努力を止めたとしても。
サトハさんは、私を愛してくれるんですか?」
「二言はないさ」
「もし、私よりも努力家の子が出てきて。
私よりも、危うい子が出てきたとして」
「それでも。私を見捨てたりしませんか?」
「もちろんだ……と言っても」
涙をこぼし嗚咽する私を抱きながら。
サトハさんは笑うのです。
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「心配しなくても、お前以上に愛が重たい奴なんて、
一生出て来ないと思うがな」
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サトハさんが私を気に掛ける理由。
それは私固有のもので、
誰かに横取りされる心配はない。
サトハさんの目的は、私を甘えさせる事。
そこに条件は必要ない。
私はただ、サトハさんが与えてくれる愛に
没頭していればいい。
私がサトハさんに向ける熱。
それが『家族愛』と呼べるものなのか、
私には正直わかりません。
ただ、一つ言える事があります。
愛の形がどうであれ。
私は、この人を一生手放す事はないでしょう。
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『えーと、一体どういう事ですカネ?』
『見ての通りだ。私は今日から、
明華を手放しで甘やかす事に決めた』
『私も、もう我慢しない事にしました』
『それでいきなりお姫様抱っこで登場ですか』
『ていうか今まで我慢してたの!?
これまでも結構酷いバカップルっぷりだったよね!?』
『そろそろ不純同性交友で捕まったりしませンカ?』
『臨海だからな。結果があれば文句はないだろうさ』
『そーゆー事。勝つなら私は不問にするよ。
スポンサーも同じ回答だろうね』
『え、じゃあこれから毎日この光景見せられるの?
ネリー今にも砂吐きそうなんだけど』
『耐えろ』
『耐えてください』
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『サトハ、今日は三回トップを取りました。
ご褒美が欲しいです』
『まったく、前にも言っただろう。
努力の報酬として愛を求めるな』
『……じゃあ、ご褒美はなしですか?』
『欲しいものがあるなら素直に言え。
いちいち前金を用意する必要はない』
『なら、その。ほっぺにキスして欲しいです』
『お安い御用だ』
『だから部室でそういうのは止めて!
せめてミョンファの部屋に戻ってからにしてよ!』
『手遅れでスネ。あれはもう一時間は離れまセン』
『放っておいて帰りましょう』
--------------------------------------------------------
『朝からお二人揃って出勤でスカ』
『ああ、昨日は明華の部屋に泊まったからな』
『明華の首回りが痕だらけになっていますが』
『私からサトハにお願いしたものなので
問題ありませんよ?』
『問題大ありだよ!せめてマフラーとかで隠してよ!』
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反動とでもいうのでしょうか。
我慢する事をやめた私は、自分でも病気を疑うくらい、
サトハにべったり依存しました。
なのにサトハは一度として拒否する事はなく、
甘えたいだけ甘えさせてくれます。
そんな日々を繰り返すうち、
私の愛はどんどん重くなっていき。
形も変質していきました。
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冬が通り抜けて春が訪れ、梅の香りが漂う頃。
「卒業、おめでとうございます」
「ありがとう」
卒業証書を携え佇むサトハ。
そんな彼女を抱き寄せながら、
私は静かに問い掛けました。
「卒業後はどうやって一緒になりますか?」
「当面は我慢だな。一年したら追い掛けてくればいい」
「無理です。一日だって離れたくありません」
「我儘な奴だ」
「そうしろと言ったのはサトハですし」
数か月前なら考えられなかった図々しさで、
私はサトハに迫ります。
だって私達は家族なのだから。
家族相手に遠慮する必要はないでしょう?
と、そう言えば。
「あの日サトハは言いましたよね。
『ここ臨海にいる間は家族だ』って。
つまり今日から、サトハは
私と家族じゃなくなるわけですか」
「お前はそれを許してくれるのか?」
「まさか。新しい家族の関係をもらおうと思ってます。
サトハは、私にどんな関係をくれますか?」
サトハはいつものように肩をすくめると、
懐から何かを取り出しました。
卒業式の着物に似つかわしくない、
洋風の上品さ漂う小箱を。
「右手を出せ」
言われるがままに手を差し出すと、
サトハは私の薬指に『それ』を通していきます。
シンプルな白銀に、大粒のダイヤモンドが輝く指輪。
「見ての通りこいつは婚約指輪だ。
結婚指輪は私が家を継いだ時に渡そう」
言いながら、私の唇にキスを落とすサトハ。
こうして私は、本当の意味で
サトハと『家族』になったのです。
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出会ってから数年後。無事に式を挙げた私達は、
祖国フランスの大地に足を踏みしめていました。
二人でのフランス訪問。それ自体は初めてじゃありません。
でも、生まれ故郷を訪れるのは
これが初めての事でした。
フットワークの軽い母は、昔から状況に合わせて
住処を転々としていました。
だから母に挨拶する時も、
故郷を訪ねる必要はなかったのです。
「一度は見ておきたかったんだ。明華が生まれたこの場所を」
サトハは感慨深げに零します。
私はサトハに寄り添いながら、
落日を遠めに眺めていました。
「こうしていると、あの日の事を思い出すな」
「いつの事ですか?」
「部室の屋上で、お前が一人泣いていた時だ」
「泣いた覚えはありませんけど」
「涙が流れていなかっただけだろう?
心は確かに泣いていた」
私にとっては苦い記憶で、それでいて、
サトハと繋がるきっかけになった大切な思い出。
過去に想いを馳せ目を閉じます。
するとその時、ずっと引っ掛かっていた疑問が
ふと頭をよぎりました。
「そう言えば、一つ聞きたかった事があるんです」
「なんだ?」
「あの日、サトハはどうして
私の事を拾ってくれたんですか?」
「その質問には一度答えたはずだが」
「なら言い換えますね。サトハはどうして
私を娶ろうと思ったんですか?」
サトハが私を助けてくれた理由。
それは確かに聞きました。
でもそれはどちらかと言えば同情で、
贔屓目に見ても家族愛に属するものでしょう。
いつの間にか一緒にいるのが当然になっていた私達は、
結婚する時も理由を問い質したりはしませんでした。
でも、だとすれば。サトハはいつ、何がきっかけで、
私を妻として愛するようになったのでしょうか。
「一緒だよ。私が恋に落ちたのも同じく『あの日』だ。
夕焼けを背景にして歌うお前に見惚れた」
「自分ではなく誰かのために身を滅ぼす。
その危うさが、あまりに美しくて心を奪われたんだ」
「そして、お前が愛を求めていると知った。
なら私の愛で埋め尽くしてやれと思った」
「だから私は、お前のために愛を注いでいたわけじゃない。
私がお前を手に入れるために、
腕の中に閉じ込めただけだ」
不敵に口角を釣り上げるサトハ。
その笑みは、対局時を思わせる冷徹さを感じさせて。
寒くて、鋭くて、ぞくりと背筋が震えます。
でも。その震えは、甘い官能を伴っていました。
「軽蔑するか?」
「いえ。むしろほっとしました」
ずっと心の奥底で、棘のように刺さり続けていたのです。
サトハの愛は確かに深く、失われる事はない。
でもその根源は同情で、私を火照らせるそれとは
まるで種類が違うのではないか。
そう思わずには居られなかった。
でも違ったのです。
サトハの言葉が真実なら、搦めとられたのはむしろ私。
こんなに嬉しい事があるでしょうか。
「当然もう知っているだろうが、
私も相当愛が重たい人間だ。
生半可な相手では、受け止める事すらできやしない」
「それでいて一本気な人間だ。私の愛は薄れるどころか、
重たさを増す一方だろう」
「だが、お前にはもう逃げるという選択肢はない。
私と一緒に沈んでもらうぞ」
「ええ、喜んで」
とどのつまり、私達は最初からお似合いだったのでしょう。
愛が重たく一途なサトハと、愛を求めて泣く私。
割符がぴたりと符合して、私達は重なり合った。
だからこれからも大丈夫。
私はただただサトハに甘えて、
無尽蔵の愛を受け取ればいい。
「冷えてきたな、そろそろ帰るか。おっと、
その前に写真でも一枚撮っておくか」
「いいですね。印刷して皆に送りましょう。
きっとネリーちゃん嫌がりますよ」
「お前、結構いい性格してるよな」
「サトハにしつけられましたから」
夕陽をバックに二人でパシャリ、
カメラが世界を切り取ります。
映し出された画面の中で、
私達は幸せそうに笑っていました。
帰ったらプリンターで印刷して、
メッセージを添えて送りましょう。
内容はこれから考えるけど、
結びの言葉は決まっています。
『旅先にて 辻垣内智葉・明華』
もう、私達は『他人』じゃありません。
血を分ける事はできないけれど。
でも、苗字を分け合う『家族』ですから。
(完)
女手一人で自分を育ててくれた母を、
早く楽にしてあげたい。
そう考えて一人故郷を飛び立った雀明華は、
だが孤独に肩を震わせる。
故郷を、母を思い歌う彼女の歌は、
果たして誰に届くのか。
<登場人物>
雀明華,辻垣内智葉,ネリー・ヴィルサラーゼ,メガン・ダヴァン,ハオ・ホェイユー
<症状>
・特になし
(あえて言うなら依存?)
<その他>
以下のリクエストに対する作品です。
・辻垣内×明華で甘いやつ(病んでても大丈夫)
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留学生。
私、雀明華はまだ二十歳にも届かぬ身空で
一人故郷を飛び立つ事になりました。
目的は母から離れるため。
と言っても、仲が悪いわけではありません。
むしろそれは母のため。
早くに父と死に別れ、ずっと苦労をかけてきたから。
少しでも早く独り立ちして、
楽にしてあげたかったのです。
特待性として留学すれば、
費用の一切は学校持ちになります。
寮生活で強制的に離れ離れになりますから、
親離れの意味でも最適。
こういった経緯から、私はふるさとから遠く離れた、
日本という離れ小島に流れ着いたのでした。
入念に計画を練った上での留学。
ただ、一つだけ考慮漏れがあったとすれば。
私が。自分が思っていた以上に
甘えん坊だった事でしょう。
--------------------------------------------------------
『貴女が私にくれたもの』
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『寂しい』。
日本にやってきて以来、私の口癖になった言葉。
文化が異なる異国での生活は、
想像以上に私の心をすり減らしていました。
何か問題が起きているというわけではないのです。
特待生として結果は出していますし、
チームメイトとの関係もそれなりに良好。
でも、心にはいつも隙間風が吹いていました。
要は単なるホームシックです。
家に帰った時、真っ暗な部屋を見るのが辛い。
『ただいま』、そう呟いた時、
空しく響き渡るのが苦しい。
心を許せる者の不在。ただそれだけの事が、
これほどまでに胸を穿つとは思いませんでした。
(歌えば、少しは気がまぎれるでしょうか)
一人静かに屋上へ。周りの迷惑とならないように。
なんて、歌一つ満足に歌えない環境に、
またも文化の壁を感じてしまいます。
空は紅く染まっていました。
美しく雄大なその景色、でもだからこそ、
自分が酷くちっぽけに思えてしまう。
気持ちがどんどん沈んでいきます。
晴れぬ気持ちをそのままに、歌に乗せて吐き出しました。
LALALA……LALALA……♪
それは故郷を思う歌。のどかな曲なのに、
今の私が歌うと酷く物悲しく響きます。
まるで嘆きの歌のよう、でも止める事はできなくて、
目から雫がこぼれ落ちそうになって――
「哀しい歌だな」
――彼女が声を掛けてきたのは、まさにそんな時でした。
「……そんな事はないですよ?
普通に、故郷を懐かしむだけの歌です」
「なら、哀しいと感じるのはお前のせいか」
「……そうですね。そうかもしれません」
辻垣内智葉さん。チーム唯一の日本人。
今、私の心境からもっとも遠い人物と言えるでしょう。
「故郷が恋しいか」
「いえ。引っ越しを繰り返してきましたから、
場所にはそこまで思い入れはありませんね」
「なら人か」
「ええ。でも耐えなければ」
「そうか」
多くを語る事はなく、かといって、
踵を返して立ち去るでもなく。
ただ沈黙を保ったまま、彼女はそこに在り続けます。
私は戸惑いながらも、彼女の出方を待ちました。
でも、彼女が口を開く事はなく。
「……」
少しばかり居心地の悪さを感じつつも、
再び空に歌を流します。
故郷を、母を思いながら。
LALALA……LALALA……♪
ひとしきり歌い終え、少しだけ気が晴れました。
立ち去ろうと足を踏み出した時。
黙って歌を聞いていた智葉さんが、
視線を空に投げました。
「私達は所詮他人だ。あげく、お前は異邦人で私は現地人。
お前が感じる寂寥を、本当の意味で理解する事はできない」
「でしょうね」
「だが。ここ臨海にいる間、私達は一つの家族だ」
「っ……でも、ライバル、ですよね?」
「留学生同士はそうなのかもな。
でも、私はそう思っちゃいない」
「私には継ぐべき家業がある。
麻雀で飯を食うつもりはないからな」
「寂しくなったら、寄りかかる肩くらい貸してやるさ」
ぽん、と肩に手を置く智葉さん。
その表情はどこまでも優しくて。
少しだけ。そう、ほんの少しだけ、
故郷で待つ母に似てる。
だから。
「そうですね。そのうち、身の上話でも聞いてください」
少しだけ、お言葉に甘えてもいいのかな。
なんて思ってしまったのでした。
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--------------------------------------------------------
辻垣内智葉さん。
正直な本音を語ってしまえば、
彼女に苦手意識を持っていました。
彼女が纏う独特の雰囲気は、どこか
ジャパニーズ・マフィアを彷彿とさせるもので。
関わらない方がいい、そう思い避けてきたのです。
しかしながら、彼女は
私が求めるものを差し出してくれました。
そういえば聞いた事があります。
マフィアは外に向けては非情でも、
仲間の事は血を分けた家族のように大切にするのだと。
ジャパニーズもそうなのでしょうか。
いえ、そもそも智葉さんが本当に
『そう』なのかも知らないのですけれど。
「明華、根詰め過ぎだ。少し休め」
あの日以来、智葉さんは何かと私を
気に掛けてくれるようになりました。
一つ一つは小さな事です。例えば、
疲れている時に休憩を勧めてくれたり。
寒さに身震いした時に、
そっとブランケットを掛けてくれたり。
些細な親切。でも、普段から
私を見ているからこそできる優しさ。
例えるなら、母が子を見守るような無償の愛。
私が求めてやまなかったものでした。
でも。
求めていたものだからこそ。それが、
赤の他人から与えられる事に、
いくばくかの懐疑を覚えてしまいます。
「智葉さんは、どうしてそんなに
優しくしてくれるんですか?」
「言っただろう?私達は家族だと。
お前は母から愛されて、
『どうして?』なんてわざわざ聞くのか?」
「血を分けた家族ならそうでしょう。
でも、私達はお金で繋がる傭兵チームですよね?
むしろ家族とは対極じゃないですか?」
そう、これこそ、私がいまいち甘えきれない理由。
智葉さんがくれる愛、その根拠がわからないのです。
裏を勘ぐってしまうのは、私が疑り深いからではないでしょう。
なのに智葉さんは、『なんだそんな事か』、
とでも言わんばかりに肩をすくめました。
「お前の国がどうかは知らないがな。
日本におけるインターハイは、
一生の思い出になりうるものなんだ」
「大半の者は出場すらできない。
私だって、三年にしてようやく、
最初で最後の団体戦だ」
「一生に一度のインターハイ団体戦。
共に挑む仲間を大切に思うのは、
そんなにおかしい事だろうか」
「私はそうは思わないな」
そう微笑む智葉さんの眼差しは、
どこまでも温かく優しくて。
まるで本当の家族に向けるような、
愛情に満ち満ちた目をしています。
「……確かにそう言われれば。
あり、かもしれませんね」
向けられた視線がくすぐったくて、
思わず顔を伏せてしまいます。
胸が少しずつ鼓動を速め、頬に熱がたまっていきます。
そのぬくもりは、凍りついていた心を融かし、
やがて、今まで味わった事のない
火照りを私に与えたのでした。
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『家族になってやる』、
智葉さんはそう言いました。
そしてその言葉通り、
智葉さんは私を可愛がってくれました。
(……もう、素直に甘える事にしましょうか)
実際参っていたのは事実なのです。
それに、彼女の愛が無償だというなら、
もはや遠慮する理由もありません。
『勉強が分かりません』、
そう言えば親身に教えてくれました。
『寂しいです』、
悲しそうに俯けば、泊まりに来てくれました。
『抱き締めてください』、
上目遣いでおねだりすれば。
そっと抱き寄せ、頭を撫でてくれました。
智葉さんから与えられる愛。
受け取る条件を満たすのは
それほど難しくはありません。
ただただ真剣である事。ひたむきに努力するだけで、
智葉さんは私を見てくれて、純粋な愛を与えてくれる。
言うなれば、親に褒めてもらうため頑張る子供と、
子供の努力を認めて褒めてあげる親の図式。
母の愛に飢えていた私が、
溺れないはずありませんでした。
どんどんのめり込んでいきます。
私の重たさがどれだけ増しても、
智葉さんは当然のように受け止めてくれました。
いつしか私達は常に寄り添うようになり。
時に他の部員から冷やかされるまでに至ります。
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それは私にとって喜ばしい事でしたけど。
でも同時に、恐怖の始まりでもあったのです。
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なんて事のない一日でした。
いつものように、サトハさんが辻垣内家への贈り物を
部員におすそ分けしていた時の事。
「あっ、このツブツブお金かかってそう!
これネリーがもらうね!」
「おっと、こいつはもう売約済みだ。
明華の好物らしいからな」
高級イクラの瓶を見て、我先にと飛びつくネリーちゃん。
その手をサトハさんが払いのけました。
ぷくーと頬を膨らませたネリーちゃんが、
不服を隠す事もなく毒づきます。
「サトハってさ、ミョンファにだけ甘いよね。
ネリーにはすっごい厳しいのに」
「お前はちょくちょく勉強とかサボるだろ。
明華はいつも頑張ってるからな」
「十六にして単身故郷を離れて戦っているんだ。
状況を鑑みれば、むしろ私の方が甘やかされてる」
「そこはネリーも一緒だよね?
もっと甘やかして欲しいんだけど?
具体的には私にも色々ちょうだい」
「ならばこれをくれてやろう。
参考書のお下がりだ。好きなだけ堪能するといい」
「ミョンファばっかりひいきだ!!」
「贔屓して何が悪い。努力は報われて然るべき。
私は努力する者の味方だ」
当然のように答えるサトハさんに、
ほっこり心がぬくもって。
でも次の瞬間、ぞっと背筋が凍りました。
サトハさんが私を贔屓してくれる。
その事自体はとても嬉しい。嬉しいけれど――
――それは『私だから』じゃない。
いつか、私より努力する人が出てくれば、
私よりサトハさんを愛する人が現れれば。
サトハさんはその人を贔屓して、
私は今のネリーちゃんのように
体よくあしらわれるのでしょう。
(……もっと頑張らないと)
誰より一番努力しよう。
サトハさんに目を掛けられるように。
誰より手のかかる子になろう。
サトハさんの施しを独り占めできるように。
もっと、もっと、もっと、もっと。
悪癖が顔を覗かせ始めました。
自分を勝手に追い込んで、挙句自滅する悪癖。
そうやって一度は痛い目を見たはずなのに。
性懲りもなく、私は同じ事を繰り返そうとしたのです。
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--------------------------------------------------------
誰よりも早く部室に来て、誰よりも遅く部室を出る。
誰よりも長く勉強して、誰よりも酷く疲弊する。
日に日に私は痩せていき、
つまらないミスを繰り返すようになりました。
努力の仕方を間違えている、そんな事にすら気づく事なく。
いえ、努力ですらなかったのかもしれません。
ただサトハさんに甘えていただけ。
『私はこんなに頑張っているんですよ、
だからもっと構ってください』
そう言って無垢な幼子のように両腕を広げ、
ただ与えられる愛を甘受する。
甘える事が苦手な私の、酷く不器用な愛情表現。
ただただ、そんな愚かな行為を繰り返す。
そして――
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ある日、当然のように倒れたのでした。
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世界が突然ぐにゃりと歪み、方向感覚が消え去ります。
時間の流れがスローになって、なのに体は動かせません。
「明華!!」
サトハさんの鋭い声。同時に鈍い衝撃が脳を襲い、
倒れたんだと気が付きました。
「明華!しっかりしろ!明――
ズキズキと広がっていく痛み、気味の悪い浮遊感。
視界が暗転していって、心地よい闇が訪れます。
そして促されるままに――
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そのまま、意識を手放しました。
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夢を見ていました
いいえ、それは過去に起きた現実で
記憶のフィルムを巻き戻して眺めている、
そう言った方が正しいかもしれません
フランスを発つ空港、ラウンジから空を見上げる私
隣で佇む母が、零すように言いました
『無理しなくていいからね。つらくなったら、
いつでも戻ってきていいからね』
私は笑顔で頷きながら、でも、正反対の決意を抱きます
どんなに苦しくても弱音は吐かない
母を早く楽にしてあげたいから
お見通しだったのでしょう
母は眉を下げながら小さく笑うと
喉を震わせる事はなく、ただ唇だけ動かしました
『ごめんね』
己の不甲斐なさを恥じました
ああ、私が幼く頼りないから、母を不安がらせている
だから胸を張りました
母の心配を取り除きたい
私は独りでやっていけるよ、そう証明して見せたくて
母は何も言いません
ただ、私の手をぎゅっと握って
私のそばにあり続けました
そのぬくもりがとても嬉しくて、でも酷く物悲しい
結末を知っているからです
この手はいずれ離される
現実を受け止めたくなくて、
母の手をぎゅっと握りしめて――
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--------------------------------------------------------
『大丈夫だ。私はお前を離さない』
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不意に目が覚めました。視界に広がる白い壁。
舞台は空港から保健室へと移ったようです。
隣にいた母は姿を消して、代わりに
サトハさんが私の手を握っていました。
目覚めた事に気づいたのでしょう、
サトハさんは顔を上げると、
いつもより低い声で尋ねます。
「気分はどうだ」
「割といい感じです」
「半日も眠っていればそうだろうな」
私の手を握ったまま、サトハさんは続けます。
私が突然倒れた事、抱きかかえて医務室に連れて行った事。
過労だと診断された事、そのまま半日眠り込んでいた事。
ひとしきり語り終えると、サトハさんは息を吐き出して。
瞳を覗き込みながら、脅すように言いました。
「もう無理はするな。休め。これは命令だ」
く、と息がつまります。いえ、わかってはいるのです。
当然の忠告でしょう。でもそれを順守すれば、
サトハさんの一番から転落してしまいます。
寝起きだったからでしょうか。
自分でも驚く程に、素直に口にしてしまいました。
「でも、誰より一番努力しなければ、
サトハさんの一番になれないでしょう?」
言ってから頬が染まります。
それは、どう聞いても愛の告白で。
隠し続けるべき秘密のはずでした。
なのにサトハさんは、まるで意に介さずに。
淡々と言葉を返すのです。
「やっぱりお前はズレてるな。
いや、この場合は擦れてるというべきか」
「……何がですか?」
「価値を得るために対価が必要、そう考えているだろう?
愛を得るための対価として、
病的な努力が必要だと思っている」
「違うんですか?」
「私がいつそんなものをお前に要求した?」
言葉を返せず押し黙ります。
確かに、面と向かって言われた事はありません。
でもそれが何だというのでしょう。
実際私は努力によって、愛を手に入れていたはずです。
私より努力量が少なかったネリーちゃんは、
すげなくあしらわれていたのですから。
表情に表れていたのでしょう。
サトハさんは肩をすくめると、
ゆっくりと言葉を吐き出します。
「私がお前を気に掛ける理由。
もちろん、お前が努力家だという事もあるが。
実際には別の理由がある」
「……何ですか?」
「留学してきた目的だよ。
ダヴァンや慧宇であれば、自身に磨きをかけるため。
ネリーであればお金のため。
方向性は違えど、結局はどれも自分のためだ」
「だが」
「お前だけは違うんだ。
早く独立して母を楽にしてあげたい。
目的が他人に依存している」
「お前自身が独立を望むのならそれもありだろう。
でも違った。お前は今も母の愛を求めている。
つまり、お前のそれは自己犠牲だ」
「危ういと思った。放っておけないと思ったんだ」
留学生の中で、私だけが特別。
その事実は少しだけ私の心を晴らします。
だからと言って、素直に全部を
飲み込む事はできませんでした。
「……他人のために動く事は間違いでしょうか。
母を楽にしてあげたい、
そう思うのは危うい思想なんでしょうか」
「そこまでは言わないさ。
でも、それで潰れてしまうなら論外だ。
お前のお母さんだって、
そんな事は望んでいないだろう」
「でも。私が居たら、母は自分の人生を送れない。
母の足枷になってしまいます」
「それの何がいけないんだ?」
あまりに自然な物言いに、完全に虚を突かれました。
そう返されるとは思っていなかったのです。
目を見開く私を前にして、サトハさんは
呆れたように息を吐き出しました。
「子供が親のすねをかじる、そんなの当たり前の事だろう。
子供を産んで育てるとはそう言う事だ」
「自由を満喫したいなら最初から生まなければいい。
なのにわざわざ生んで育てる、それは
枷すらも甘んじて受け入れる事を意味している」
「お前の母はお前に言ったか?
『苦しいからさっさと独立してくれ』と」
「……言って、ません」
ふと、母の笑顔が脳裏をよぎります。
別れ際に見せた寂しそうな微笑み。
そして呟かれたあの言葉。
『ごめんね』
ぽつりと告げられた謝罪の一言。
その意味を考えたくなくて、今まで栓をしてきたけれど。
もし言葉を付け加えるなら、
きっとこうなっていたのでしょう。
『(片親のせいで)(要らない気を遣わせて)ごめんね』
だとしたら、私が今までしてきた事は。
ただ、悪戯に母を傷つけただけだったのでしょうか。
「誤解するな。お前の決意自体は尊い。
お前が立派に育った事、
そこは親御さんもさぞ喜んでいるだろう」
「ただ、お前が早熟で甘え下手なのもまた真実だ。
大切な人のために自我を押さえる、
愛を得るためには対価が必要。
お前の考えはあまりにも大人が過ぎる」
そこでサトハさんは言葉を区切ると。
私の頭を優しく撫でて、慈しむように微笑みました。
「甘えたいから甘えたい、ただそれでいいんだよ。
お前はもっと我儘になるべきだ」
「努力なんて対価は要らない。もっと素直に甘えてこい」
ぽとり、何かがシーツに落ちました。
ぽとり、ぽとり。雨の降り始めのように、
雫がシミを作っていきます。
それはきっと、私が幼い頃からずっと求め続けて、
でも、求めてはいけないと思っていたもの。
「本当に、いいんですか?」
「ん?」
「私が努力を止めたとしても。
サトハさんは、私を愛してくれるんですか?」
「二言はないさ」
「もし、私よりも努力家の子が出てきて。
私よりも、危うい子が出てきたとして」
「それでも。私を見捨てたりしませんか?」
「もちろんだ……と言っても」
涙をこぼし嗚咽する私を抱きながら。
サトハさんは笑うのです。
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「心配しなくても、お前以上に愛が重たい奴なんて、
一生出て来ないと思うがな」
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--------------------------------------------------------
サトハさんが私を気に掛ける理由。
それは私固有のもので、
誰かに横取りされる心配はない。
サトハさんの目的は、私を甘えさせる事。
そこに条件は必要ない。
私はただ、サトハさんが与えてくれる愛に
没頭していればいい。
私がサトハさんに向ける熱。
それが『家族愛』と呼べるものなのか、
私には正直わかりません。
ただ、一つ言える事があります。
愛の形がどうであれ。
私は、この人を一生手放す事はないでしょう。
--------------------------------------------------------
--------------------------------------------------------
『えーと、一体どういう事ですカネ?』
『見ての通りだ。私は今日から、
明華を手放しで甘やかす事に決めた』
『私も、もう我慢しない事にしました』
『それでいきなりお姫様抱っこで登場ですか』
『ていうか今まで我慢してたの!?
これまでも結構酷いバカップルっぷりだったよね!?』
『そろそろ不純同性交友で捕まったりしませンカ?』
『臨海だからな。結果があれば文句はないだろうさ』
『そーゆー事。勝つなら私は不問にするよ。
スポンサーも同じ回答だろうね』
『え、じゃあこれから毎日この光景見せられるの?
ネリー今にも砂吐きそうなんだけど』
『耐えろ』
『耐えてください』
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『サトハ、今日は三回トップを取りました。
ご褒美が欲しいです』
『まったく、前にも言っただろう。
努力の報酬として愛を求めるな』
『……じゃあ、ご褒美はなしですか?』
『欲しいものがあるなら素直に言え。
いちいち前金を用意する必要はない』
『なら、その。ほっぺにキスして欲しいです』
『お安い御用だ』
『だから部室でそういうのは止めて!
せめてミョンファの部屋に戻ってからにしてよ!』
『手遅れでスネ。あれはもう一時間は離れまセン』
『放っておいて帰りましょう』
--------------------------------------------------------
『朝からお二人揃って出勤でスカ』
『ああ、昨日は明華の部屋に泊まったからな』
『明華の首回りが痕だらけになっていますが』
『私からサトハにお願いしたものなので
問題ありませんよ?』
『問題大ありだよ!せめてマフラーとかで隠してよ!』
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反動とでもいうのでしょうか。
我慢する事をやめた私は、自分でも病気を疑うくらい、
サトハにべったり依存しました。
なのにサトハは一度として拒否する事はなく、
甘えたいだけ甘えさせてくれます。
そんな日々を繰り返すうち、
私の愛はどんどん重くなっていき。
形も変質していきました。
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冬が通り抜けて春が訪れ、梅の香りが漂う頃。
「卒業、おめでとうございます」
「ありがとう」
卒業証書を携え佇むサトハ。
そんな彼女を抱き寄せながら、
私は静かに問い掛けました。
「卒業後はどうやって一緒になりますか?」
「当面は我慢だな。一年したら追い掛けてくればいい」
「無理です。一日だって離れたくありません」
「我儘な奴だ」
「そうしろと言ったのはサトハですし」
数か月前なら考えられなかった図々しさで、
私はサトハに迫ります。
だって私達は家族なのだから。
家族相手に遠慮する必要はないでしょう?
と、そう言えば。
「あの日サトハは言いましたよね。
『ここ臨海にいる間は家族だ』って。
つまり今日から、サトハは
私と家族じゃなくなるわけですか」
「お前はそれを許してくれるのか?」
「まさか。新しい家族の関係をもらおうと思ってます。
サトハは、私にどんな関係をくれますか?」
サトハはいつものように肩をすくめると、
懐から何かを取り出しました。
卒業式の着物に似つかわしくない、
洋風の上品さ漂う小箱を。
「右手を出せ」
言われるがままに手を差し出すと、
サトハは私の薬指に『それ』を通していきます。
シンプルな白銀に、大粒のダイヤモンドが輝く指輪。
「見ての通りこいつは婚約指輪だ。
結婚指輪は私が家を継いだ時に渡そう」
言いながら、私の唇にキスを落とすサトハ。
こうして私は、本当の意味で
サトハと『家族』になったのです。
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出会ってから数年後。無事に式を挙げた私達は、
祖国フランスの大地に足を踏みしめていました。
二人でのフランス訪問。それ自体は初めてじゃありません。
でも、生まれ故郷を訪れるのは
これが初めての事でした。
フットワークの軽い母は、昔から状況に合わせて
住処を転々としていました。
だから母に挨拶する時も、
故郷を訪ねる必要はなかったのです。
「一度は見ておきたかったんだ。明華が生まれたこの場所を」
サトハは感慨深げに零します。
私はサトハに寄り添いながら、
落日を遠めに眺めていました。
「こうしていると、あの日の事を思い出すな」
「いつの事ですか?」
「部室の屋上で、お前が一人泣いていた時だ」
「泣いた覚えはありませんけど」
「涙が流れていなかっただけだろう?
心は確かに泣いていた」
私にとっては苦い記憶で、それでいて、
サトハと繋がるきっかけになった大切な思い出。
過去に想いを馳せ目を閉じます。
するとその時、ずっと引っ掛かっていた疑問が
ふと頭をよぎりました。
「そう言えば、一つ聞きたかった事があるんです」
「なんだ?」
「あの日、サトハはどうして
私の事を拾ってくれたんですか?」
「その質問には一度答えたはずだが」
「なら言い換えますね。サトハはどうして
私を娶ろうと思ったんですか?」
サトハが私を助けてくれた理由。
それは確かに聞きました。
でもそれはどちらかと言えば同情で、
贔屓目に見ても家族愛に属するものでしょう。
いつの間にか一緒にいるのが当然になっていた私達は、
結婚する時も理由を問い質したりはしませんでした。
でも、だとすれば。サトハはいつ、何がきっかけで、
私を妻として愛するようになったのでしょうか。
「一緒だよ。私が恋に落ちたのも同じく『あの日』だ。
夕焼けを背景にして歌うお前に見惚れた」
「自分ではなく誰かのために身を滅ぼす。
その危うさが、あまりに美しくて心を奪われたんだ」
「そして、お前が愛を求めていると知った。
なら私の愛で埋め尽くしてやれと思った」
「だから私は、お前のために愛を注いでいたわけじゃない。
私がお前を手に入れるために、
腕の中に閉じ込めただけだ」
不敵に口角を釣り上げるサトハ。
その笑みは、対局時を思わせる冷徹さを感じさせて。
寒くて、鋭くて、ぞくりと背筋が震えます。
でも。その震えは、甘い官能を伴っていました。
「軽蔑するか?」
「いえ。むしろほっとしました」
ずっと心の奥底で、棘のように刺さり続けていたのです。
サトハの愛は確かに深く、失われる事はない。
でもその根源は同情で、私を火照らせるそれとは
まるで種類が違うのではないか。
そう思わずには居られなかった。
でも違ったのです。
サトハの言葉が真実なら、搦めとられたのはむしろ私。
こんなに嬉しい事があるでしょうか。
「当然もう知っているだろうが、
私も相当愛が重たい人間だ。
生半可な相手では、受け止める事すらできやしない」
「それでいて一本気な人間だ。私の愛は薄れるどころか、
重たさを増す一方だろう」
「だが、お前にはもう逃げるという選択肢はない。
私と一緒に沈んでもらうぞ」
「ええ、喜んで」
とどのつまり、私達は最初からお似合いだったのでしょう。
愛が重たく一途なサトハと、愛を求めて泣く私。
割符がぴたりと符合して、私達は重なり合った。
だからこれからも大丈夫。
私はただただサトハに甘えて、
無尽蔵の愛を受け取ればいい。
「冷えてきたな、そろそろ帰るか。おっと、
その前に写真でも一枚撮っておくか」
「いいですね。印刷して皆に送りましょう。
きっとネリーちゃん嫌がりますよ」
「お前、結構いい性格してるよな」
「サトハにしつけられましたから」
夕陽をバックに二人でパシャリ、
カメラが世界を切り取ります。
映し出された画面の中で、
私達は幸せそうに笑っていました。
帰ったらプリンターで印刷して、
メッセージを添えて送りましょう。
内容はこれから考えるけど、
結びの言葉は決まっています。
『旅先にて 辻垣内智葉・明華』
もう、私達は『他人』じゃありません。
血を分ける事はできないけれど。
でも、苗字を分け合う『家族』ですから。
(完)
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2人の組み合わせも良いですね。
期待の遥か上をいく内容でとてもよかったです
また機会があればこの2人のSSを見れたら嬉しいです
ほんわかで優しさに溢れた関係>
明華
「ありがとうございます。実際サトハは
結構甘くて優しい気がします」
智葉
「真剣で一生懸命な奴ならな」
受けも攻めもできる辻垣内さんの可能性>
明華
「ありがとうございます。
基本的には引っ張っていく
タイプだと思いますけどね。
押されると受け入れちゃいそうでもあり」
智葉
「嫌な奴ならちゃんと拒絶するがな」
期待の遥か上を>
明華
「ありがとうございます。
甘さは足りてましたか?」
智葉
「まあ私が相手の時点で
これ以上は難しいだろう」
ネリー
「いや、サトハって結構アレだし
まだまだいけると思うよ」