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【オリジナル百合SS】 「叶えたかった。貴女の願いを」【依存】【狂気】

<あらすじ>
まだ人々が日照りにあえぎ飢饉に震えていた時代。
滅びゆく村を救うべく、一人の村娘が神に祈る。
どうか、村に恵みの雨を。

神が少女の願いを聞き入れる事はなかった。
なぜか?答えは単純。信仰を失った薄弱な神には、
彼女の願いを叶えるだけの力が残されていなかったのだ。
諦めて村を捨てるように諭す神に、
しかし少女は首を振る。

「信仰が戻ればよい。それなら話は簡単だ。貴女の信仰を取り戻す」
そう語る彼女の瞳には、狂気の光が輝いていた。

<症状>
・狂気
・共依存

<その他>
・管理人が夢で見たシリーズ。
 例によって複雑な話ではない上に短編なので、
 肩の力を抜いて読んでいただけると。



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 脳髄《のうずい》まで焼けそうなほど暑い日だった。
村から離れた森の中。古ぼけた小さな社《やしろ》の前で、
少女が一心に祈りを捧げている。

「お願いします、お願いします」

 どれだけの間そうしていたのか。
社を拝む少女の瞳は、酷く虚ろに揺らめいている。
疲労。ともすれば倒れかねないほどに憔悴《しょうすい》しながら、
少女は願掛けを続けていた。

「どうか村を助けてください。
 恵みの水を与えてください」

「どうか、どう……か……」

 刹那《せつな》、少女の瞳から意志が消える。
ふっと意識が遠のいて、首がくらりと崩れ落ちる。
ああ、自分はこのまま倒れてしまうのだろう。
諦めに瞼《まぶた》を閉じた瞬間、少女は奇妙な浮遊感を覚えた。

「……えっ」

 瞼を開く。暗転した世界に光が戻った。視界に広がるは白い衣。
いつの間に現れたのか、少女は見知らぬ女に抱き寄せられていた。

『ごめんなさい。見ていられなかったの』

 骨まで焦がしそうな日照りの下、汗一つかかず女は謝る。
純白の着物に身を包み、髪を腰まで垂らした彼女は、
神事を司《つかさど》る巫女にも見えた。

 だが違う。ある一つの事実が少女の印象を否定していた。
女の体は透けている。
 人外だ。少女の額を、暑さとは異なる汗が伝う。

『ずっと。ずっと聞いていた。貴女の願い。
 ただただ、村を思うその叫び』

 でも逃げる気はしなかった。
少女は抱きかかえられたまま、女の声に耳を傾ける。
悟ったのだ。この存在は自分に害をなさないと。

なぜならば。

『でもごめんなさい。その願いを叶えるには、
 あまりにも私は無力過ぎる』

 頭上から投げ掛けられる声音が、
どこまでも優しく儚《はかな》かったから。




 長いこと日照りが続いていた。田畑からはすっかり水が引いて、
乾燥した土を地割れが引き裂いている。

 村人はみな絶望に天を仰いだ。
両の手を重ね合わせ、恵みの雨をこいねがう。
願いが聞き届けられることはなかった。
じりじりと照り付ける太陽に、生命は乾き、渇き、死んでいく。
最初に力尽きたのは獣。野良犬や猫が干からびた後、
やがて牛、馬と言った家畜まで。いまや滅びの時は刻一刻と迫っていた。

 ついには人が渇いて腐る中、少女は村を駆け出した。
村から少し離れた森の中にひっそりと佇《たたず》む小さな社。
何の神様かは知らない。でも、拝むならここだと思った。

 少女は祈る。神様どうかお願いします。水をください。雨をください。
どうか、どうか、どうか、どうか。

 少女の祈りは神に届いた。神は人の形を模《かたど》って少女の前に姿を現す。
だが悲し気に目を伏せながら、小さく首を横に振った。

『願いを叶えるには力が要《い》るのです。信仰と言う名の力が。
 神は神として在るのではなく、信仰によって神と成る』

『永く信仰が途絶え、自らの起源すら辿《たど》れない私では、
 天候を司ることは叶わない』

『私はもはや、神と呼ばれるに相応しい存在ではないのです』

 神による懺悔《ざんげ》。しかし、少女の目には力が宿る。
希望を見出したのだ。信仰こそが彼女の力。ならば崇《あが》め奉《たてまつ》ればいい。
声高にそう語る少女に、しかし神は嘆息《たんそく》した。

『無理でしょう。信仰とは一朝一夕で得られるものでありません。
 何より。窮地《きゅうち》に追い込まれてから助けを求めてすがっても、
 それを信仰とは呼べないのです』

 無論神は知っている。
今目の前に跪く少女が、常日頃から社を清めていてくれたことを。
干ばつが村を襲う前から、毎日朝と夕には必ず訪れて祈りを捧げていたことを。

 救ってやりたい。だがたった一人の少女の祈りでは、
照り輝く太陽に立ち向かうにはあまりにも淡過ぎた。
今こうして具現したのも、少女を諭し、
別の集落に逃げ延びることを勧めるために他ならない。

 なのに、少女の目に光が宿る。その光の属性は狂気。
少女は爛々《らんらん》と目を輝かせると、崇めるべき神に言い放った。

「なら、私が貴女を神にする。私自身の信仰で」

「思いが力に変わると言うなら。あらがう手段があると言うなら。
 私は絶対に諦めない」

 嗚呼。神は唇を噛みしめる。気づいていたからだ。
少女の意志が向かう先。その先に破滅が広がっていることに。

『お願い。どうか考え直して』

 すがるように告げる声。その言の葉が、少女の心を打つことはなかった。



 三日三晩、少女は祈りを捧げ続けた。
寝ることもなく、休むこともなく。ただただ神に祈り続けた。
喉が涸《か》れても。目が落ちくぼんでも。体が動かなくなってきても、
少女は祈る両手を崩そうとはしなかった。

 神の体内で、力の奔流《ほんりゅう》がうねりを上げる。
久しく感じていなかったその脈動に、神は身を震わせて恐怖した。

『お願い、もう止めて。このままでは貴女の命が尽きてしまう』

 少女は嗤《わら》った。

「命を捧げる程の信仰なら、きっと貴女の力になれるでしょ?」

 少女の言うとおりだった。力が満ち満ちていく。
流れ込んでくる、流れ込んでくる、流れ込んでくる、流れ込んでくる。

 まるで少女の命を吸い取っているかのように。

 神は戦慄《せんりつ》した。そして気づく。少女の終わりが近づいているのだと。
このままでは、少女の祈りは忌まわしい儀式へと変貌《へんぼう》してしまう。
それは少女の命を贄として、悍《おぞ》ましく穢《けが》れた力を得る儀式。

『お願い……お願いだから、もうやめてっ……!!』

 声を震わせ嗚咽《おえつ》する。その神の手を両手で握り、
少女は安らかに微笑んだ。

「ごめんね。後は、よろしくね」

 次の瞬間、少女の首が力を失う。
ごとり。生き物から物体に変わった彼女の頭が、
地面へと叩きつけられた。



 雨雲が天を覆っている。稲光《いなびかり》で地を照らし、大粒の雨を叩きつけている。
からくも生き残った村人達が歓喜に踊り狂う中、
神が少女の亡骸《なきがら》を抱き締めて慟哭《どうこく》していた。

『叶えたかったの。貴女の願いを』

『助けたかったの。貴女の命を』

『なのに、なのに゛っ……』

 彼女が涙を一滴こぼす度に、その雫が雨となり人々に恵みを与える。
それは少女とて例外ではない。
限界まで干からび、骨のようにやせこけ乾いたその肌を、神の涙がつたっていった。
 だが。躯《むくろ》が息を吹き返すことはない。

『貴女が死んでしまっては、何の意味もないじゃない゛っ……!』

 神は知っていた。彼女の祈りが、自身の救済を願うものではなかったことを。
知っていた。むしろ自己犠牲に類するものであることを。
知っていた。その願いが救う対象に――神自身が含まれていたことを。

 知っていたのだ。少女には生き残る術があった。
村を捨てて逃げ出せばいい。実際逃げる者も居たのだから。

 少女が逃げなかった理由。この村と運命を共にした理由。
それはひとえに、故郷への愛情がなせる業だったのか?

 否定はしない。それも一つの要因ではあっただろう。
でも神は知っていた。
彼女が命の灯を消してでも、なおこの地に残ることを決めた理由。
そこに。この地に宿る神への愛情が含まれていたことに。



 まだ、人々の世が平穏の中にあった頃。
小さな森で遊ぶ中、少女は小さな社を見つけた。

 人に忘れ去られたのだろうその社は、見るも無残に朽ち果てていて。
見た者に畏怖の念を抱かせるどころか、薄気味悪さを感じさせただろう。

 なのに少女は驚くべき行動に出た。一目散に駆け出していった後、
水がたっぷり入った桶と清潔な布を手に戻ってきた。
そして丹精込めて社を清掃したのだ。

 何度となく布を黒く染め、そのたびに川と社を往復し、
数時間かけてようやく清め終わった後。
少女は疲労に震える両手を、ゆっくり掌を重ね合わせ、
ほどけるような笑顔で語った。

「忘れられるのって、悲しいよね」

「大丈夫だよ。これからは私が毎日参拝するから」

「だから。神様も寂しくないよ」



 あの日頬をほころばせ笑った少女は、もうその目を開かない。

『あ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁぁあ゛ぁぁぁっ゛!!!!』

 骸《むくろ》をかき抱き泣きじゃくる神の叫びが、大雨となって降り注いだ。







 あれから数年の年月が流れた。
かつて朽ち果てた社があったその場所には、
少しだけ立派になった神社が佇んでいる。
それなりに信仰されているのだろう。
大勢とは言えずとも、参拝に来る者が途絶える日はない。

 時折、人々は社の脇に立つ看板に目を向ける。
ある者は目を閉じて黙とうし、
ある者は手を合わせて首を垂れた。

 看板に刻まれた伝承はこう語る。
かつてこの地を日照りが襲い、命と言う命を摘み取ったのだと。

 伝承は語る。迫りくる絶望の中、
村の存亡を願い命を捧げた少女が居たと。

 伝承は語る。天は少女の願いを聞き届け、
命と引き換えに雨をもたらした。
天に召された少女は村人に感謝され、
その地を救った神と共に、この神社で祀られることになったのだと。

 伝承はこう締めくくる。いずれこの地を日照りが襲う時。
再び神と少女は目覚め、この地に慈愛の雨を降らせるだろうと。

 最後の参拝客が立ち去り、闇の帳《とばり》が降りる中。
誰も居ないはずの社の中を、蠢《うごめ》く一つの影があった。

『いつか、貴女を蘇らせてみせる』

『もっと信仰を集めるの。私と貴女の信仰を。
 私が神に成れたのだから、貴女だって成れるはず』

『そしたら二人で暮らしましょう。この村を護る神として』

『だから信仰を集めなければ。
 もっと、もっと、もっと、もっと』

 物言わぬ白骨を抱き、頭部に優しく指を這わせながら、
女は空を仰ぎ見る。夜空を隠していた雲が霧散し、満天の星が瞬いた。
これで明日は雲一つない快晴になるだろう。

『信仰をあつめるの。もっと、もっト、もット、モット』

 やがて月が地平に沈み。太陽が顔を出す。
照り輝く太陽から人々を守る雲はなく。
あの干ばつを思わせる灼熱が、再び人々に降り注いだ。

『モット、シンコウ、アナタノ、タメニ』

 そして歴史は繰り返す。世のため人のため命を落とし、
長い年月の果てに自らの名前を失った少女が、
神として生まれ落ちるまで。
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posted by ぷちどろっぷ at 2019年01月19日 | Comment(7) | TrackBack(0) | オリジナル百合SS
この記事へのコメント
ヤンデレ、狂気に、これも共依存なのか。
神様は祟り神みたいになっちゃってる……これは目論見通り信仰が集まっても、少女の新生にだけ力を使うんでしょうね。
地上は干ばつで死ぬけど、生まれ変わった少女はそれを見てなにを思うやら
Posted by at 2019年01月19日 21:49
「しょ、少女お前…」からの「信仰の対象になって二人で生きれるエンドだやったぜ!」ってなりました。
と思ったら、少女のために本末転倒しちゃう神様…。ジェットコースターっぷり……。

管理人さんとしては今さらなのかもですけど、すごいヘビーな夢で胃もたれしそうですね。
Posted by at 2019年01月19日 22:41
命の雨……、
昔のあの作品の過去話という見方で読むと一石二鳥のうまあじ……。
Posted by at 2019年01月19日 23:01
神様が犠牲になった娘の他にこの世の人と会話できるなら、現実の宗教組織のようなものをつくりそうです。国教や世界宗教までいかなくとも、村の外でも信者を獲得できれば、信仰を沢山集められるのではないでしょうか。少女を神にするため頑張る神様、のネタだけでお話が一本できそうな気がします。このssのラストを見ると、タタリガミになりそうですが…。キリスト教のマリア様のように少女が神格化されてる教典が書かれる等、妄想が膨らみます…。
Posted by at 2019年01月19日 23:24
面白かったです
マッチポンプで信仰は稼ぎ放題なので、神に成れたなら2人に離別はなさそうですね。そう願います

振り仮名はテンポが悪くなるような気がしました
Posted by at 2019年01月20日 00:50
神様…少女と再び逢える日がくるといいのですが。皆に忘れ去られた中社を見つけてくれた少女は、ある種天涯孤独の身と言える神様からしても神様だったのかもしれませんね。
Posted by at 2019年01月20日 01:08
考えさせられるようなお話ながら、神様の執念がどのように結実するのかすごく気になる百合でした!
Posted by at 2019年01月23日 01:42
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