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【咲-Saki-SS:竜怜】怜「しゅわしゅわ」【狂気】

<あらすじ>
小ネタなのでなし。
『その他』を参照してください。

<登場人物>
園城寺怜,清水谷竜華

<症状>
・ヤンデレ
・狂気
・共依存

<その他>
・お題をもらって書いた小ネタSSです。
 お題は以下。
 『しゅわしゅわな恋心』



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竜華がシャンパンをグラスに注ぐ。

きっとお高い奴なのだろう、琥珀色の液体は、
グラスの中でしゅわしゅわと
きめ細かい泡を泳がせている。

2客のグラスに注ぎ終わる。
少し緊張したように、でも、
笑顔を浮かべて竜華は言った。


「さ、乾杯しよか!」


私の視線は、なおもグラスに注がれている。
シャンパンはお祝いの日に飲むもの。
お酒に詳しくない私でも、何となくは知っていた。

竜華の事だ、きっと選びに選び抜いた逸品なのだろう。
でも、竜華の頑張りとは裏腹に、
私の気分は落ち込んでいった。


「しゅわしゅわかぁ」
「あれ?怜、炭酸駄目やったっけ」

「そういうわけやないけどな……」


言うか否か。言えば当然、
竜華の気遣いに水を差す事になる。

わずかに逡巡、でもすぐに考え直す。
アホか。そんな殊勝な事を考えるなら、
そもそも態度に出すべきではなかったのだ。

言ってしまおう。大切な門出だからこそ、
しこりを残したまま我慢して進めたくはない。
最悪、これが最期かもしれないのだから。


「なんちゅうか、炭酸って物悲しくならん?」


視線を泡に向けたまま、呟くように言葉を紡ぐ。

竜華は沈黙。目の前で数多の泡が、
しゅわしゅわと浮かんでは消えていた。



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泡。私は泡が嫌いだった。

『夢幻泡影』、なんて熟語がある。
人生が泡の影のように儚い事を例えた言葉だ。

『水泡に帰す』
それまでの努力が何一つ結実する事なく、
水の泡のように消えてしまう事を意味する言葉だ。

言葉は心にしっくり馴染んだ。
あがいても、もがいても、ただ泡だけが浮き上がり、
やがてパチンと爆ぜて消える。何一つ残す事もなく。

まるで私の人生みたいだ。
『泡』をイメージするたびに、
私はいつも『死』を意識する。

同族嫌悪という奴なのだろう。私にとって
泡は自分自身であり、喪失の象徴だった。



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「だからな。『しゅわしゅわ』っちゅうのは、
 どうにも受け入れられへんねん」

「考え過ぎやってのはわかっとる。でもあかん。
 私にとって泡は喪失の象徴なんや」

「……永遠の愛を誓う時に、
 泡を持ってくるとかあり得へん」


グラスから目を伏せ吐き捨てる。

酷い事を言っている自覚はあった。
意味不明が過ぎる難癖。
それも、わざわざ私を想って
用意してくれた恋人に向けて。

竜華の気持ちを思うなら、
口をつぐんで押し黙るべきだった。
でも、竜華だからこそわかってほしい。
矛盾した感情で、私は竜華を傷つける。

なのに、竜華は笑顔のままだった。


「そっか。怜はそう考えるんやな」
「逆に竜華はどう考えるん?」

「うち?泡に悪いイメージはあらへんな。
 むしろ――」

「消えるからこそ、リアルなんちゃう?」


竜華は言う。お祝いや門出に
シャンパンが使われる理由。そこには、
『永遠に出続けるシャンパンの泡のように、
 幸せがずっと続きますように』
なんて願いが籠められているらしい。

語りながら。竜華は愛おしそうに、
シャンパンのボトルを指でなぞった。


「わかっとるよ。気の抜けん炭酸なんてない。
 いつかは泡も止まってまう。
 そこはもちろんわかっとる」

「でもな。だからこそ、シャンパン職人は頑張るんや」


竜華はさらに言葉を続ける。
スパークリングワインの製法はいくつもあって、
作り方によって、泡の持続時間はまるで違うのだと。


「お手軽に作るんなら、炭酸ガスを注入すればええ。
 でもこの製法やと、泡がすぐに消えてまう」

「もうちょい頑張るなら、タンク内で発酵させる。
 注入するよりは長持ちするな」

「でも一番長持ちするんは、
 瓶詰めした後で気長に発酵させる方法や」

「ワインに酵母を加えてな、
 毎日少しずつ瓶を回転させんねん。
 それも、手作業で地道にな」


ぐるぐる、ぐるぐる。竜華が瓶を手で回す。
それを見るだけでも容易に想像がついた。
どれほど途方もない作業なのか、が。


「こうやってな、地道に地道を重ね続けて……
 少しでも、『永遠』に近づけるんや」

「どうか、少しでも泡が長持ちしますようにって、
 思いを籠めながら」


そこで竜華は言葉を区切る。祈るように目を伏せた。

そうだ、竜華は知っている。
どれだけ愛を注いでも、どれだけ手を尽くしても。
『終わり』は理不尽に訪れるのだと。


「『永遠』なんて、ない。でもシャンパンは、
 その事実から目を背けんと頑張っとる」

「だから、うちらの門出にぴったりやと思ったんや」


竜華はふにゃりと破顔すると、
グラスのフットに指を添え、私の前にグラスを寄せる。

無言でそれを受け取ると、
今一度泡を見つめ直した。
浮かんでは消える泡。それは儚く美しい。

全ての泡はいずれ消える。だからこそ延命に力を注ぐ。
竜華の考えは現実味があった。
ただ、消えゆく泡から目を背けた私よりも。


「泡の事、ちょぉっとだけ見直したわ」
「せやろ!」


それでも、竜華の考えには賛同できない。

『永遠』なんてない、竜華はそう断言した。
つまりはそういう事なのだ。竜華はもう『諦めている』。
結論は動かない。そう決めつけているのだ。

『私が竜華より先に死んで、竜華を置き去りにする』と。

いずれ喪われる愛情。つまり、
消えゆくシャンパンの泡に私を重ねている。


(……負けへんで。
 絶対、竜華の『永遠』になったる)


竜華より後に死ぬ事で。

ぐいとグラスを一気にあおる。
しゅわしゅわが体を通り抜ける。

胃の奥に溜まる空虚な泡が、酷く気持ち悪かった。



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『手術中』のランプが光り、
ただただベンチに座り続ける。

なんてベタな光景は、ドラマの世界だけの話。
現実では、何もない廊下に取り残された。


『経過は都度携帯で連絡しますから、
 できるだけ楽な方法で過ごしてください』

『……長時間の手術になりますから』


正論だった。結局のところ、私は怜の傍に居られない。
それでいて、私がどこで何をしていても、
手術結果には影響しない。

だとすれば、手術が終わった後
全力で怜をサポートできるように、
今は体力を温存しておくべき。

わかってはいた。
でも、気持ちがついてくるかは別だ。


(……寒いな)


手足の感覚がない。見れば小刻みに震えていた。
現実味がない。夢の中を揺蕩うような浮遊感。

怜が永遠に喪われるのか、
それともひとまずは戻って来られるのか。
数時間後、遅くとも十数時間後には、
全ての結論が出てしまう。


「信じとるで、怜……!」


嘘だ。

拳は白くなるほどに握りこまれていた。
私は今から覚悟しているのだ。
怜が逝ってしまった時に備えて。

思えば私はいつもこうだ。
いずれ訪れる別れを恐れて予防線を引く。
怜と初めて出会った時もそうだった。

大切になってから喪われるのは耐えられないから。
そんな事になってしまえば、きっと壊れてしまうから。
だから最初から距離をとる。自分を守るためだけに。
それが『消えても』大丈夫なように。


(消える……消える、浮かんで、消える)


不意にシャンパンが脳裏によぎった。
浮かんでは消える泡。永遠を希い、でも儚く消える泡。
消える泡に怜が重なる。


(違う!怜は『まだ』消えへん!!)


いくらそう叫んでも、
泡は頭にこびりつき続けた。



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暗い暗い海の底

ゆっくり沈んでいきながら

私は一人考えていた


『……っ、……っ!』


遠い遠い水面から

竜華の泣き声が聞こえてくる

ああ、これ、どっちなんやろな

嬉し泣き?それとも、慟哭?

わからない

ただ一つだけわかる事実は

どちらにせよ、
竜華を泣かせてしまったという事


思う

例え生き延びたとしても
ずっとこんな苦しみを
竜華に与え続けるのだろうか

やっぱり永遠なんてありえないのか
回避する方法はなかったのか

所詮病弱な私では、竜華より
後に死ぬなんて無理だったのだろうか



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違う



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正解は確かにあった

それも、酷く単純な模範解答が



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殺せばいいのだ
私が死ぬ前に竜華を殺す



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そうすれば、私は竜華の中で永遠になれる



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陽が天に昇りやがて沈む。

予定終了時間を過ぎても、
終わりの連絡は来なかった。
長引いている。その事実が、
私の胃に重りを載せる。

知っていたからだ。手術が長引く事、
それは死に直結すると。


(怜……大丈夫やで。もし『駄目』でも、
 うちもちゃんとついてくからな)


思考が絶望に塗り潰されて、さらに待つ事数時間。
ぼやけた視界が突然揺れる。スマートフォンのバイブレーション。
私は即座にボタンを押して――



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竜華がシャンパンをグラスに注ぐ。
きっとお高い奴なのだろう、琥珀色の液体は、
グラスの中でしゅわしゅわと
きめ細かい泡を泳がせている。

2客のグラスに酒を注ぐ。
両目を赤く染め上げて、でも
満面の笑顔を浮かべて竜華は言った。


「……乾杯しよか!」

「せやな!」


私の視線は、なおもグラスに注がれている。
浮いては消える泡沫は、
あの日とまるで違いがない。
あえて違いをあげるとすれば、
眺める私の心境だろう。


「じゃ……怜の手術成功を祝って、かんぱーい!」

「かんぱーい!」


ぐい、と一気に飲み干した。
あの時と同じように、
泡が私に飲み込まれて消える。


「ええ飲みっぷりやな」

「憂いも取り払われたしな!
 コーラでもシャンパンでも、
 いっくらでも持ってこいや!」


そうだ、もうこいつらに自分を重ねる必要はない。
だって私は知っているのだ。
竜華に永遠を与える方法を。


「じゃんじゃん飲むでー!」


注いでは飲んで消していく。
職人が永遠を望んだ泡は、
瞬く間に私の奥に消えていった。



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あれから早数か月。
園城寺怜という名の泡沫は、
今も消えずに揺蕩っている。

しゅわしゅわ音を立てる恋心。
それは、竜華を喜ばせる幸せの泡。

泡は私が死ぬまで続く。
いつか、竜華を殺す時まで。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2019年03月24日 | Comment(3) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
竜怜の薄氷の上を行く幸せ感がすごい好きです〜
できればこのまま80年くらい一緒に生きていてほしいですね
Posted by at 2019年03月24日 22:37
怜竜のこの感じめっっっちゃ好き
Posted by at 2019年03月26日 23:37
コメントありがとうございます!

竜怜の薄氷の上を行く幸せ>
怜「昔っから竜華はそんなところあるな」
竜華
 「怜の病弱もだいぶ影響しとると思うで?」

怜竜のこの感じめっっっちゃ好き>
怜「実は最近怜-Toki-読みましてん」
竜華
 「個人的にはめっちゃ好みやったんやけど、
  好みに合致しすぎて若干失敗になったわ」
怜「あれが原作ならこのブログも
  原作準拠やな」
竜華
 「普通の読者さんついてこれるんか心配や」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2019年03月30日 11:42
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