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【咲-Saki-SS:菫照】菫「添い寝するその回数は」【あまあま】
<あらすじ>
寮生活の照と菫。
就寝間際、照は時々菫を訪ねる。
そして添い寝を求める照。
果たしてそれが持つ意味は。
<登場人物>
弘世菫,宮永照
<症状>
・特に病んでいませんので注意してください。
<その他>
以下のトレードに対する作品です。
・2人で一緒のお布団に寝る菫照
※久咲作品とのトレードのために台さんに上納した作品です。
--------------------------------------------------------
コンコン。静かだった寮の部屋に、
ノックの音が響き渡る。
23時、就寝間近の来訪者。
『誰だ』、そう問い返すでもなく扉を開ける。
誰が来たのかはわかっていた。
「……」
扉を開けたその先に佇むのは照。
パジャマ姿でいつものように、
マイ枕を抱きかかえ、上目遣いで
私の動向をうかがっている。
「今日もいい?」
「まあ、構わないが」
酷くな簡素なやり取りの後、私は照を受け入れた。
照は時々部屋に来る。
何をするでもなく、語るでもなく、
ただ一緒に寝るために。
頻度はそう多くない。一月に1回くらいだろうか。
初めて来たのは一年目の冬。高校に入学して、
初めて雪を目にした夜だった。
同じように枕を持って現れた照は、
ぽそりとこうつぶやいた。
『布団が寒い』と。
『お前は猫か』なんて返しながらも、
一向に引き返す気配に私が折れて、
すっぽり包み込んで寝てやった。
それ以来、このよくわからない添い寝は
不定期ながらも続いている。
『暖を取るため』、最初は単純に信じていた。
だがやがて雪が融け、桜が舞い散り、
蝉が合唱する季節になっても、同衾は終わらない。
理由を問いただしても、
照が口を開く事はなかった。
添い寝を求める真の理由。
もはや私が聞く事はない。
どうせ聞いても返ってこないし、
まあ人肌が恋しいだとか、気分の問題なのだろう。
あえてほじくり返す必要もない。
だがその日。照は珍しく口を開いた。
「こうするのも、今日で最後かもね」
腕の中に収まりながら、照がしみじみとした声で語る。
事実だった。私達は3年生で今は2月。
あと数日もすれば卒業式で、この宿から追い出される。
「そこはお前次第だな」
短く返す。正体不明の鈍痛を胸に感じながら。
何かを感じ取ったのか。照は背中に回す腕に力を籠めた。
「何回こうしたか覚えてる?」
「さあな。ま、30回かそこらじゃないか?」
「35回だよ」
「そうか」
照は回数を数えていた。その事実に軽く驚く。
だとすれば。もしかしたら、この抱擁に
深い意味があるのだろうか。
「菫は親切だよね」
「自覚はないがな。人間として
最低限為すべき行動を取っているだけだし」
「だからわからなくなるけど。今こうして、
私を温めてくれるのは親切だから?」
「他の人が同じようにお願いしても、
菫はその人を抱き締める?」
瞼を閉じて考える。端的に答えるなら、
『わからない』が妥当だろう。
誰彼問わずという事はない。
だが仮に、例えば淡が同じように押し掛けてきたら。
最初は拒絶しながらも、
最後には根負けするかもしれない。
沈黙を肯定と受け取ったのだろう。
照は私の返事を待たず、
ため息をつくようにこう続けた。
「まあ、菫ならそうだよね」
私の胸に顔をうずめ、頬ずりしながら。
わからない。照は何を求めているのか、
どんな言葉を欲しているのか。
わからない。わからないが、
沈黙を続けるのが悪手である事はわかる。
「でも、事実としてはお前だけだ」
抱き締める腕に力を籠める。
照がぎゅうと返してきた。
体温が混ざり合い、火照るほどに熱を持つ。
それでも離れる事はなく、私達は抱き合い続けた。
「そっか」
その三文字をもって会話は終わる。
沈黙がやがて眠気を誘い、私達は眠りに落ちた。
◆ ◆ ◆
夜中、暑くて目が覚めた。
首を回そうとして、身動きが取れない事に気づく。
視界に広がるは明度の低い肌色。
そっか。菫の部屋に来てるんだった。
起こさないように身をよじり、
菫との間に空間を作る。
とたん隙間風が肌を撫で、
火照りが急速に奪われていく。
心地よい、でも同時に怖かった。
未来を暗示しているようで。
後数日で卒業式。私達はこの学び舎を卒業し、
それぞれの道を歩いていく。
人の繋がりなんて希薄なものだ。
住処を変え、接点が減ってしまえば、
あっさりと赤の他人に戻ってしまう。
間違いない。経験則だ。
血を分けた家族ですらそうなのだから。
それが普通。大多数の人からすれば、
当然のように受け入れられる事なのだろう。
菫だってきっとそうだ。ううん、
菫は普通の人以上かもしれない。
菫はいつも人に囲まれているから。
菫の唇を指でなぞる。温かくて柔らかい。
この唇も、いずれは私以外の
誰かに触れられるようになる。
それがどうしようもなく狂おしい。
「んっ……」
そっと唇を押し付ける。
もちろん菫に反応はなかった。
◆ ◆ ◆
35回。
それは菫に告白して、勝手に唇を奪った回数。
とうとう、菫は気づかなかったけれど。
◆ ◆ ◆
早朝。太陽が昇る前に、
照は自室に戻っていった。
いつもの事だ。バレたら流石に大騒ぎになる。
そのくらいの分別はわきまえている。
「……」
いつもならこんな風に見送りはしない。
だがこの日、私は照の背中が消えても、
でくの坊のように立ち尽くしていた。
懊悩する。いいや、単に熱暴走と言うべきか。
昨晩はうまく眠れなかった。
気まぐれの添い寝、そこに何かしらの意図があった。
その事実を暗示され、一人考え続けていたから。
浅い眠りの中、唇に何かが触れた。
柔らかい感触。わずかに瞼をこじ開けると、
目と鼻の先に照が居た。
つまりはそういう事なのだろう。
これだけヒントを散りばめられたら、
流石に私だって気づく。
女同士の恋愛がある。それ自体は知っていた。
小中高と男子禁制の箱庭で暮らしてきた身としては、
むしろ男女の恋より身近。
自分が対象にされた事だって何度もある。
でも受け入れた事はなかった。
つまりは、照が初めてなのだ。
寝込みを襲われたとはいえ、
払いのける事はできたはずだ。
突き飛ばして罵倒して、
追い出す事はできたはずだ。
だが私は動かなかった。
ただ眠ったふりをして、照に唇を啄まれ続けた。
つまりはそういう事なのだろう。
照が初めて閨を訪れたのは2年前だ。
滑稽だ。気づくのが遅過ぎる。
照が秘めた気持ちにも、自らの奥底に在った感情にも。
さぞかし照は呆れ果てていた事だろう。
「だが。まだ私達は離れていない」
そう。卒業まで、まだ数日残されている。
◆ ◆ ◆
コンコン。静かだった寮の部屋に、
ノックの音が響き渡る。
23時、就寝間近の来訪者。
誰だろうか。今までこんな時間に
この部屋を訪ねた人はいなかった。
でも、問い返すまでもなく答えがわかる。
「私だ。開けてくれ」
心拍が跳ね上がる。悟られぬよう、
深呼吸してから扉を開けた。
扉を開けたその先に佇むのは菫。
パジャマ姿で、マイ枕を小脇に抱えて、
一言こうつぶやいた。
「どうにもふとんが寒くてな」
じわり、不意に目頭が熱くなる。
私は目を瞬かせると、ごまかすように言い捨てた。
「もうそんな季節じゃないでしょ」
「ああ。でも、だからこそわかりやすいだろう?」
芝居がかったやり取りの後、私は菫を受け入れる。
……期待を胸に秘めながら。
(おしまい)
寮生活の照と菫。
就寝間際、照は時々菫を訪ねる。
そして添い寝を求める照。
果たしてそれが持つ意味は。
<登場人物>
弘世菫,宮永照
<症状>
・特に病んでいませんので注意してください。
<その他>
以下のトレードに対する作品です。
・2人で一緒のお布団に寝る菫照
※久咲作品とのトレードのために台さんに上納した作品です。
--------------------------------------------------------
コンコン。静かだった寮の部屋に、
ノックの音が響き渡る。
23時、就寝間近の来訪者。
『誰だ』、そう問い返すでもなく扉を開ける。
誰が来たのかはわかっていた。
「……」
扉を開けたその先に佇むのは照。
パジャマ姿でいつものように、
マイ枕を抱きかかえ、上目遣いで
私の動向をうかがっている。
「今日もいい?」
「まあ、構わないが」
酷くな簡素なやり取りの後、私は照を受け入れた。
照は時々部屋に来る。
何をするでもなく、語るでもなく、
ただ一緒に寝るために。
頻度はそう多くない。一月に1回くらいだろうか。
初めて来たのは一年目の冬。高校に入学して、
初めて雪を目にした夜だった。
同じように枕を持って現れた照は、
ぽそりとこうつぶやいた。
『布団が寒い』と。
『お前は猫か』なんて返しながらも、
一向に引き返す気配に私が折れて、
すっぽり包み込んで寝てやった。
それ以来、このよくわからない添い寝は
不定期ながらも続いている。
『暖を取るため』、最初は単純に信じていた。
だがやがて雪が融け、桜が舞い散り、
蝉が合唱する季節になっても、同衾は終わらない。
理由を問いただしても、
照が口を開く事はなかった。
添い寝を求める真の理由。
もはや私が聞く事はない。
どうせ聞いても返ってこないし、
まあ人肌が恋しいだとか、気分の問題なのだろう。
あえてほじくり返す必要もない。
だがその日。照は珍しく口を開いた。
「こうするのも、今日で最後かもね」
腕の中に収まりながら、照がしみじみとした声で語る。
事実だった。私達は3年生で今は2月。
あと数日もすれば卒業式で、この宿から追い出される。
「そこはお前次第だな」
短く返す。正体不明の鈍痛を胸に感じながら。
何かを感じ取ったのか。照は背中に回す腕に力を籠めた。
「何回こうしたか覚えてる?」
「さあな。ま、30回かそこらじゃないか?」
「35回だよ」
「そうか」
照は回数を数えていた。その事実に軽く驚く。
だとすれば。もしかしたら、この抱擁に
深い意味があるのだろうか。
「菫は親切だよね」
「自覚はないがな。人間として
最低限為すべき行動を取っているだけだし」
「だからわからなくなるけど。今こうして、
私を温めてくれるのは親切だから?」
「他の人が同じようにお願いしても、
菫はその人を抱き締める?」
瞼を閉じて考える。端的に答えるなら、
『わからない』が妥当だろう。
誰彼問わずという事はない。
だが仮に、例えば淡が同じように押し掛けてきたら。
最初は拒絶しながらも、
最後には根負けするかもしれない。
沈黙を肯定と受け取ったのだろう。
照は私の返事を待たず、
ため息をつくようにこう続けた。
「まあ、菫ならそうだよね」
私の胸に顔をうずめ、頬ずりしながら。
わからない。照は何を求めているのか、
どんな言葉を欲しているのか。
わからない。わからないが、
沈黙を続けるのが悪手である事はわかる。
「でも、事実としてはお前だけだ」
抱き締める腕に力を籠める。
照がぎゅうと返してきた。
体温が混ざり合い、火照るほどに熱を持つ。
それでも離れる事はなく、私達は抱き合い続けた。
「そっか」
その三文字をもって会話は終わる。
沈黙がやがて眠気を誘い、私達は眠りに落ちた。
◆ ◆ ◆
夜中、暑くて目が覚めた。
首を回そうとして、身動きが取れない事に気づく。
視界に広がるは明度の低い肌色。
そっか。菫の部屋に来てるんだった。
起こさないように身をよじり、
菫との間に空間を作る。
とたん隙間風が肌を撫で、
火照りが急速に奪われていく。
心地よい、でも同時に怖かった。
未来を暗示しているようで。
後数日で卒業式。私達はこの学び舎を卒業し、
それぞれの道を歩いていく。
人の繋がりなんて希薄なものだ。
住処を変え、接点が減ってしまえば、
あっさりと赤の他人に戻ってしまう。
間違いない。経験則だ。
血を分けた家族ですらそうなのだから。
それが普通。大多数の人からすれば、
当然のように受け入れられる事なのだろう。
菫だってきっとそうだ。ううん、
菫は普通の人以上かもしれない。
菫はいつも人に囲まれているから。
菫の唇を指でなぞる。温かくて柔らかい。
この唇も、いずれは私以外の
誰かに触れられるようになる。
それがどうしようもなく狂おしい。
「んっ……」
そっと唇を押し付ける。
もちろん菫に反応はなかった。
◆ ◆ ◆
35回。
それは菫に告白して、勝手に唇を奪った回数。
とうとう、菫は気づかなかったけれど。
◆ ◆ ◆
早朝。太陽が昇る前に、
照は自室に戻っていった。
いつもの事だ。バレたら流石に大騒ぎになる。
そのくらいの分別はわきまえている。
「……」
いつもならこんな風に見送りはしない。
だがこの日、私は照の背中が消えても、
でくの坊のように立ち尽くしていた。
懊悩する。いいや、単に熱暴走と言うべきか。
昨晩はうまく眠れなかった。
気まぐれの添い寝、そこに何かしらの意図があった。
その事実を暗示され、一人考え続けていたから。
浅い眠りの中、唇に何かが触れた。
柔らかい感触。わずかに瞼をこじ開けると、
目と鼻の先に照が居た。
つまりはそういう事なのだろう。
これだけヒントを散りばめられたら、
流石に私だって気づく。
女同士の恋愛がある。それ自体は知っていた。
小中高と男子禁制の箱庭で暮らしてきた身としては、
むしろ男女の恋より身近。
自分が対象にされた事だって何度もある。
でも受け入れた事はなかった。
つまりは、照が初めてなのだ。
寝込みを襲われたとはいえ、
払いのける事はできたはずだ。
突き飛ばして罵倒して、
追い出す事はできたはずだ。
だが私は動かなかった。
ただ眠ったふりをして、照に唇を啄まれ続けた。
つまりはそういう事なのだろう。
照が初めて閨を訪れたのは2年前だ。
滑稽だ。気づくのが遅過ぎる。
照が秘めた気持ちにも、自らの奥底に在った感情にも。
さぞかし照は呆れ果てていた事だろう。
「だが。まだ私達は離れていない」
そう。卒業まで、まだ数日残されている。
◆ ◆ ◆
コンコン。静かだった寮の部屋に、
ノックの音が響き渡る。
23時、就寝間近の来訪者。
誰だろうか。今までこんな時間に
この部屋を訪ねた人はいなかった。
でも、問い返すまでもなく答えがわかる。
「私だ。開けてくれ」
心拍が跳ね上がる。悟られぬよう、
深呼吸してから扉を開けた。
扉を開けたその先に佇むのは菫。
パジャマ姿で、マイ枕を小脇に抱えて、
一言こうつぶやいた。
「どうにもふとんが寒くてな」
じわり、不意に目頭が熱くなる。
私は目を瞬かせると、ごまかすように言い捨てた。
「もうそんな季節じゃないでしょ」
「ああ。でも、だからこそわかりやすいだろう?」
芝居がかったやり取りの後、私は菫を受け入れる。
……期待を胸に秘めながら。
(おしまい)
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かわいいなぁ
お互いを理解している感じがすごく好きすぐる。
あったけぇ>
照「こういう作品は珍しい気がするね」
菫「大体お前が病んでるからな」
照「本当の私はこんなに可愛い」
お互いを理解している感じ>
照「大体を理解していて、だからこそ
踏み込めない時ってあるよね」
菫「関係を壊したくなくて……って奴だな」
尊い>
照「そう、菫照は尊い。復唱して」
菫「宗教か」