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【咲-Saki-SS:穏憧】憧「この身体を枷として」【狂気】

<あらすじ>
リクエストがそのままあらすじです。

<登場人物>
高鴨穏乃,新子憧

<症状>
・依存
・執着

<その他>
次のリクエストに対する作品です。
・「穏→→→→→→→←憧」な穏憧
 シズに告白され、「ごめん、親友でいたい」と断ったのに対し
 「お試しでいいから」となし崩し的に付き合った憧だが、
 付き合ってみたら思いの外楽しくて。
 ただ夜の情事は怖くてキスは「高校生だしまだ早い」と言い訳をして。
 恋人っぽいことをしようとすると拒絶する憧に対して
 痺れを切らしたシズが「じゃあもういいよ!」と別れを切り出すと、
 「このままじゃ前よりもっと遠い関係になってしまう」
 という焦燥感から憧が段々とおかしくなっていく
 (エンドやアマアマ具合、イカれ具合などはお任せ)

 →最初は普通にあまあまを書くつもりだったのですが
  どうしてこうなった???って感じになりました。



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 予想外の出来事だった。

 しずの家に呼ばれた日、あの子の部屋で告白された。
その表情は真剣で、冗談じゃない事は一目でわかる。
情けない事に私はテンパり、回答を保留して質問を投げ返した。


「え? なんで私?」

「なんでって……むしろ憧しかいないでしょ。
 ずっと昔から好きだった」


 燃える瞳が私を貫く。その熱量が強過ぎて、私は逆に顔を背けた。

 しずの事はもちろん好きだ。でも、それはあくまで親友として。
恋愛対象として見た事はない。
もっと言えば、『そういうの』から一番遠いと思ってた。

 あり得ないと思ってたから。『100速まで仕上がった!』
小学生のおバカなノリで、子供みたいにはしゃぐしず。
いつもジャージの上だけで、身だしなみすら整えない。
そんな子が『惚れた腫れた』の機微なんて理解できるわけないでしょう?
そんな風に思ってた。

 ――思ってた、のに。しずは私の知らないうちに、
私よりずっと大人になってた。 正直言ってショックがでかい。

 というか私こそ『お子様』だ。
もちろん知識の上では知ってる、けど実体験を伴わない。
その人の事を考えただけで胸が疼いたり、
顔を見ただけで頬が緩んだりするんだっけ?

 そんな体験した事はない。そして、
それは『目の前のしずに対しても』そうだった。


「……ごめん、しずをそういう目で見た事ない。
 ずっと親友だと思ってたし、これからもそう在りたい」


 後になって思い返せば、あまりに残酷過ぎる返事。
なのにしずはしょげる事なく、むしろ諦めもしなかった。
食い下がる。『あきらめない』性分は恋愛でも有効になったらしい。

 昔はあっさり引き下がってた癖に。
こういうところでも、『変わったんだ』って痛感させられる。


「そう言われるとは思ってた。でもさ、
 お試しでいいから付き合ってよ」

「お試しって言われても。恋愛ってそういうもんじゃないでしょ」

「だってさ、憧ってこっち方面では子どもじゃん?
 私に好かれてるって事すら気づいてなかったわけだしさ、
 ぶっちゃけ恋愛自体よくわかってないでしょ?」

「ぐ」


 図星ど真ん中ストレート。『子供だ』なんて、
しずにだけは言われたくない言葉ナンバーワンだ。
でも訴えても仕方ない、実際その通りなんだから。


「『他に好きな人がいる』とか、
 『恋愛対象として無理』なら潔く諦める。
 でもさ、『恋愛よくわかんないからごめんなさい』はないよ。
 憧が自覚してないだけかもじゃん?
 それで諦めろとか無理があるって」

「ん……まあ、一理あるかもだけど」

「というわけでさ、まずはお試しで付き合ってよ。
 んで、私の事を『そういう目』で見れるかどうか確かめて。
 それで『無理だ』って言われたら、今度はきっぱり諦めるからさ」

「うーん……まあ、そういう事なら」

「やった!!」


 しずが私に飛びついてくる。それはいつもの抱擁で、
でもこれからは『恋人』とのハグだ。……この変化は必要な事?
腕の中のしずがよくわからなくなる。
誰より長く一緒だった幼馴染の事なのに。


「んじゃ、来週末デートしよう!」

「ふきゅっ!?」


 不意打ち過ぎて変な声が出た。
どうやらしずの『恋愛指南』は超スパルタで行くらしい。

 しずと私が『デート』? いつもの『お出掛け』と何が違うの?
わからないまま――私の小さなスケジュール帳に、
デートの文字が刻まれていた。



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 あの『お子様しず』との初デート。

 『どうせ山とか言うんでしょ?』なんて高を括ってた。
吉野山は普通にデートスポットだし、チョイスとしては悪くない。
慣らし運転にはもってこいだ。

 なんて事を考えた私は、まだ甘く見ていたのだろう。
しずが初デートに選んだ場所は、なんと『谷瀬の吊り橋』だった。


「え゛、何これ。普通にすごい怖いんだけど」

「何しろ日本最長のつり橋だからね! じゃあ行こうか!」

「え、待って待って待って無理無理無理無理」

「大丈夫だって。私がちゃんと手を握ってるから」


 言いながら、しずがその指を一本一本重ね合わせる。
手を繋いだのは初めてじゃない、でも『恋人繋ぎ』は初めてだ。
心拍数急上昇、いや大半は『つり橋の恐怖』なんだけど。


「行こう」


 しずがゆっくり歩き出し、当然私も引っ張られる。
『ギシリ』、つり橋が大きく揺れて、恐怖に膝が笑い始めた。


「こ、これ落ちたりしないよね?」

「どうだろね。確かできたのは昭和29年だし、
 老朽化で落ちちゃってもおかしくはないかな」

「なんでそういう事言うかなぁ!? 普通そこは、
 『大丈夫だよ』って笑うところでしょ!?」

「いやー、だってここ、恐怖を感じるための場所だし。
 ドキドキしてなんぼっていうか」


 いやいや私も馬鹿じゃない、しずの狙いはわかってる。
文字通り、『つり橋効果』を狙っているんだろう。
人間は恐怖や不安を感じている時、恋愛感情を抱きやすい。
恐怖による興奮を、恋と錯覚するからだとか。


「で、憧はドキドキしてる?」

「そりゃしてるけど……普通に混じりっけなしの恐怖だから」

「だったらもっとくっつきなよ」

「何そのあからさまな彼氏ムーブ」


 憎まれ口を叩きつつも、お言葉に甘えしがみつく。
いやでもやっぱりミスチョイス、
しずは139cmのミニマムボディーだ。
こんな頼りがいのない『彼氏』も珍しい。

 そもそもそれ以前の問題だ。
しずにすがっても意味はない。仮にこの橋が落ちてしまえば、
二人して転落して死ぬのだから。


「しずは怖くないの? むしろこっちは
 アンタが平常心過ぎて怖いんだけど」

「全く平気ってわけでもないけど、
 ここで死んじゃっても諦めがつくって言うか」

「なんでよ。享年16歳とか嫌過ぎじゃん」

「だって今死んだら、好きな人を独り占めして死ねるもん」


 ドキリ、しずの笑顔に心臓が跳ねる。
こんな最悪な状況で、しずは嬉しそうに笑っていた。
今まで見た事のない、どこか『大人』の表情で。
ゾクゾクと背筋が震える。これは『恐怖』なんだろうか。


「正直わかんない感覚だわ」

「でもさっきより怖くないでしょ?」

「…………まあ、ちょっとだけ」

「それ、憧が私の告白でドキドキしたからだと思うよ。
 案外憧も『それいいかも』って思ってるんじゃない?」

「ないない」


 言いながらも、僅かに恐怖が薄れていく。
胸の鼓動は早いまま、握った手は汗で湿っていた。
……『つり橋効果』が効いてきたのだろうか。

 それでも少し余裕ができたのか、辺りを見回す事ができた。
つり橋を正面から見据えてみる。


(あれ、みんな笑って歩いてる?)


 一人ビビって震えてる自分が恥ずかしくなってきた。
挙動不審に周囲を観察、もう一つの事実に気づく。


「え、何これ。カップルばっかじゃん」

「私達もでしょ」

「……まあそうだけど。え? 私達も
 『この人達と一緒』だって思われてるの?」


 橋を渡る人皆が皆、恋人繋ぎで手を絡ませている。
ほんのり頬を染めながら、ぴったり二人寄り添いあって。
急に実感してしまう。ああ、これって『デート』なんだ。
いつもの『お出掛け』とは全然違う。


「少しは自覚湧いてきた?」

「……まあ。急に恥ずかしくなってきたわ」

「んじゃ、せっかくだし橋の真ん中で写真撮ろっか」

「話聞いてた!? 顔真っ赤でそれどころじゃないんだけど!!」

「だからじゃん。憧が私を意識し始めた記念に1枚!」

「意識したとか、そういうわけじゃ……」


 嘘だ。今、私はしずを意識してる。

 だって私が今まで通り、しずを『親友』と思ってるなら、
『つり橋で友達と記念撮影した!』で終わる話。
しずを『そういう目』で見始めたから、
『特別な意味』を考えてしまうのだ。


「はい! 初デートで初撮影、はいチーズ!」

「う、うぅ……」


 自撮りモードでカメラをパシャリ。
画面に写真が映し出される。しずはにっこり満面の笑み、
対して私は――真っ赤な顔をして俯いていた。
うわ、駄目だ。これは駄目だ。
これじゃ私の方が『しず大好き』みたいじゃん。


「麻雀部のみんなに送信!」

「待って待って待って待って! これはフツーに誤解される!」

「えー、誤解でもなんでもないじゃん。
 お試しとは言え付き合ってんだし」

「でも『お試し』でしょ!
 みんなにバラすのは『正式』になってから!」


 慌てて送信を止めさせるも、正直もう手遅れな気がした。
多分みんなはこれを受け取っても、『ああいつものか』って思うのだろう。
なのに私は、『これ』を恥ずかしいと思ってしまう。


(はぁ……たった数日でこれとか、私どうなっちゃうんだろ)


 先行き不安で思わずため息。そして予想した通り、
私はどんどん、しずにのめりこんでいく事になる――。



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 しずとイチャつく事三か月。

 『恋愛感情がわからない』なんて言ってたお子様な私は、
案外あっさりしずに転んだ。

 しずの顔を見て顔がにやける。
少し手を繋いだだけで、あっさり手汗をかいてしまう。
『ホントにそんな風になるの?』、疑問を抱いた通りの現象が、
毎日私に襲い掛かっていた。

 でも。それでも私はやっぱり『子供』だ。
しずと私がした事は、結局は友達でもできる事。
所詮は気の持ちようで、行為自体に進展はない。

 であれば――しずが『次の段階』を求めるのは、
恋人としてごくごく当然とも言えた。

 『恋人じゃないとできない』事を。
私の部屋に二人きり。しずは私の肩を抱き、そっと唇を寄せてくる。
思わずビクリと身を縮め、私はそれを拒絶した。


「ちょ、ちょっと待ってしず! 早い! 展開が早過ぎるから!」

「ええー、むしろ遅過ぎるくらいだって。
 こっちは小学校の頃からずっと好きだったんだからさぁ」

「アンタはそうかもしんないけどさ、
 こっちはまだ意識し始めて2か月も経ってないから!」

「まだ『お試し』が足りないって事?」

「……そういうわけじゃ、ないけど」


 しずの事は好きだと思う。友情から恋愛へ、
その段階はもう越えてしまった。
でもこれはまた次の段階。恋愛から性愛へ。
ちょっとハードルが高過ぎる。


「ほ、ほら高校生だしさ! キスとかエッチは早過ぎるでしょ!
 私はもうちょっと『清い』交際を楽しみたいって言うか!」


 しずは一瞬表情を無くす。でもすぐに呆れたように、
ため息をついて言葉を返した。


「はぁ……憧は本当にお子様だなぁ」


 諦めたように苦笑しながら、しずの唇が離れていく。
ホッとする、でも不安は拭えなかった。

 しずは私を『そういう目』で見ている。
キスをして抱き合って、やがてはセックスする相手。
そう考えたらゾッとした、まるで別の生き物みたい。
求めるものが違い過ぎる、私はしずに――性欲なんか感じない。


(……でも、しずの方が『普通』なのかな)


 好きならキスして当たり前、セックスするのも当たり前。
それはとても自然な事で、ごくごく常識的な事。
そう思える事が『二次性徴の証』だと言うのなら、
理解できない私が『お子様』なのだろう。

 いつか理解できる日が来て欲しい。
思いながら、私はしずを躱し続けた。


 しずが身体を求めた理由、その『真意』に気づく事もなく。



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 『心苦しい』と気を病みながら。
でも、『めんどくさい』と辟易しながら、しずを拒絶し続けた。


(ごめん、やっぱり理解できない)


 キスしなきゃ駄目? セックスしなきゃ本当の愛じゃないの?
なんで? プラトニックとか素敵じゃん。
私はしずを愛してる、それはもう間違いない。
それじゃ満足できないの?

 私は呆れだしていた。この構図は完全にあれじゃないか。
脳を性欲に支配された男子と、その強引さにドン引きする女子。


(……決めた。高校卒業までは絶対にしない)


 しずの事は今も好きだ。でもしずの目がギラつくたびに、
私は逆に距離を取る。『そういう行為はいたしません』、
意志を表明するために。

 そもそも最初に言ったでしょ? 『高校生にはまだ早い』って。
諦めないのがしずの美点? 度を過ぎれば我儘だ。


「あのねえしず。アンタが私とキスしたいってのはわかったけどさ。
 私まだそこまで求めてないの、いい加減わかってくれない?」

「わかんないよ。だって憧が拒否するのって、
 『早過ぎるから』の一点張りじゃん。
 むしろ高校生で付き合ってるのにキスもなしって、
 どう考えても『遅過ぎる』でしょ」

「あーあー、私が『お子様』だってのは認めるわよ。
 これでも神社の娘だし? 身持ちは硬い方かもね?」

「正直に言うわ。怖いのよ、アンタががっつき過ぎるからさ。
 私の事を『お子様』だって言うけど、
 その子供を怯えさせるアンタは何なの?」

「っ……ご、めん」


 ショックを受けたように目を見開き、その後項垂れ俯くしず。
傷つけたのは心苦しい、でも偽りのない本心だった。

 この展開に陥った時点で、私達はもう駄目だったのだろう。
情事を切望する攻め手側と、頑なに拒み続ける受け手側。
結末は容易に予想できた。いつまでもヤラせてくれない相手に愛想をつかし、
攻め手側が別れを告げるって奴だ。

 私達も例外ではなかった、むしろ典型だったと思う。
拒否し続けて三か月――しずは私に愛想をつかした。



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「わかった! もういいよ!!」




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 しずはそう言い捨てて、私のそばから姿を消した。




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 部屋でうずくまり考える。

 私が間違っていたのだろうか。
要求通りに唇を許せば、この結末を回避できたのか。
それが正しかったのか、愛ってそんなものなのか。
どれだけ考えてみても、やっぱり私にはわからなかった。

 ただ一つ理解できたのは、傷ついたのは私だけじゃないって事。
ううん、むしろ。しずの方が辛そうだった。

 あの時のしずを思い出す。ぼたぼた大きな涙をこぼして、
酷く打ちひしがれていて。その悲痛な表情が、私の心をかき乱す。

 なぜしずは泣いたのだろう。要求を拒絶し続けたから?
それなら怒るのではないか。いや、怒っていたのは事実。
でもあれは、『まるで自分が捨てられた』ような――。


(しずは、どうしてキスしたかったのかな)


 深く考えた事はなかった。恋人ならキスしたくなるのが『普通』、
それを否定する気はない。私もずっと拒絶し続けるつもりはなかったし、
ただ流れが早過ぎて、気持ちがついて来なかっただけ。

 でも、何より先に考えるべき事だった。『しずがどうして求めたのか』。
こうなる前に気づけていれば、私が壊れる事はなかったのに――。



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 私は手遅れになってから気づき、自分で自分を壊してしまう。




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「憧、今までごめんね。『お試し』終了、元に戻ろう」




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 次の日しずが宣言し、私達は元に戻った。
そして私はこの時初めて、『しずがキスをしたがった理由』に思い至る。
恋人から親友に戻っても、表向きは何も変わらなかったからだ。

 結局は『気の持ちよう』で。何も知らない人から見れば、
『親友がいつも通り遊んでた』だけ。極端な事を言ってしまえば、
『恋人の期間なんてありませんでした!』
私がそう押し切れば、無かった事にできてしまうだろう。

 しずからすれば針の筵だ。

 勇気を振り絞り告白して、断られても追いすがった。
『お試し』で首の皮一枚繋がって、
でも許される行為は結局、『お友達』の範囲を超えない。

 私がキスを断る度に、傷ついたに違いない。
毎回しずを振っていたようなものだ。
『愛してるけどキスは嫌』、それって本当に愛してる?
しずが不安になるのも無理はない。事実私達の関係は破綻、
あっさり『親友に戻れてしまった』のだから――。


(ううん、違う。『親友』にすら戻れてない)


 心の距離は間違いなく遠のいた。
表向きは親友で、でもやっぱり『気の持ちよう』。
私達のホントの距離は『かつて親友で恋人だった人』。
今はもう、『ちょっと気まずいお友達』まで開いている。

 別れれば『こう』なる。しずはそれがわかってたから、
あの時あんなに泣いたんだ。で――『もう見込みはない』と諦めた。


(え。じゃあしずはもう『切り替え済み』って事?)


 心がずんと重くなる。

 告白されて約半年、しずの熱を受け続けてきた。
『お試し』で始まったその恋愛は、私の中に確かに根付き、
今でも悲鳴をあげさせる。なのに植え付けた本人は、
もう見切りをつけている。


(え、そんな酷い話ある?)


 わかってる、この事態を招いたのは他ならぬ私だ。
私がしずを拒まなければ、その本心に気づいていれば。
しずに捨てられる事はなかった――。


(…………そっか。私、しずに捨てられたんだ)


 心にピシッと亀裂が入る。人生で初体験だった。
不遜で傲慢にも程があるけれど。私は誰かを捨てる事があっても、
捨てられる事はなかったのだ。
その衝撃は、その強度は。私を『壊す』のに十分だった。


(……ふざ、けんじゃないわよ……
 こんな、こんな簡単に終わらせてたまるもんですか……!)


 酷い焦燥に駆られてた。胸中をくすぶる怒りとは裏腹に、
身体は小刻みに震えてる。『誰かに捨てられる恐怖』、
初めての体験に、心が悲鳴を上げている。


(わかったわよ。キスくらいしてあげようじゃん。
 それで、しずを、しずを引き留められるなら……!!)


 そして私はこの日を境に、だんだんおかしくなっていく――。



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 縋れるものが欲しかったんだ。

 わかってる。ファーストキスを奪ったところで、
憧を独り占めなんてできないって。それでも例え少しでも、
足枷をつけて置きたかったんだ。

 だって、憧には確固たる『自分』がある。
自分の理想を追求するため、大切なものを切り捨てられる人間だ。
そんな憧を縛るには、言葉だけじゃ全然足りない。

 『心が繋がってれば大丈夫』?
そんな『お子様』な夢物語、中学校で打ち砕かれたよ。
『これからもずっとみんなで遊ぼう』
誓いはあっさり断ち切られ、私は小学校卒業と同時に捨てられた。

 言葉なんて意味がないんだ。心なんて変わるんだ。
だから証が欲しかった。いくら心が繋がってても、
『親友がとってもおかしくない行動』なんて、
何の足枷にもならないよ。


(だからお願い。私に憧を『マーキング』させてよ。
 じゃないと私、不安で壊れちゃいそうなんだ)


 なんて焦り過ぎた結果、10年越しの恋が終わった。

 考えてみれば当然だ。私は自分の事ばかり考えて、
憧に気持ちを押し付けて、嫌がる憧にエロい行為を要求した。
憧はまだ、私をそういう目で見てなかったのに。


「憧、今までごめんね。『お試し』終了、元に戻ろう」


 憧は言葉を返さなかった。それが心に突き刺さる。
当たり前だ。散々エロい事を強要して、
許されなかったからブチ切れて、なのに都合よく『元に戻ろう』?
最低だ。見限られても仕方がない。

 憧の目が凍えていくのを感じてた、距離が離れていくのがわかる。
その目で見られるのが怖くって、私も顔を背けてしまう。

 悪循環だ。私はまだ諦めきれてないのに、
憧を遠ざける行動ばかり取り始めた。
そして……だから気づかなかったんだろう。



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 憧が、少しずつおかしくなっていた事に。




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 ある日、突然憧に呼び出された。
私がいつまでも逃げ続けるから、強制的に招集されたのだ。
場所は憧の部屋。ほんの少し前だったら、
それだけで心が浮足立ったのに。
今はもう、居るのが苦痛で仕方がない。


「随分逃げ回ってくれたわね」

「……合わせる顔がなかったから」


 どこか暗く沈んだ瞳で、憧が私を正面から見つめる。

 こんな冷たい憧見た事がなかった。
鋭くて、切れそうで、まるで病人みたいな目。
正直言って怖かった。なのに――そんな憧ですら、
『綺麗だな』なんて思ってしまう。


「しず。アンタはまだ、今でも私とキスしたい?」


 投げ掛けられたその問いに、びくりと背筋を震わせる。
まるで心を読まれたような。
自分の浅ましさを見抜かれた気がして怖い。
どう答えればいいんだろう。私は躊躇い、
でも結局は本心を隠さず告げる。


「したいよ。憧とキスしたい。
 多分この気持ちは一生なくならない」


 嘘をつくのは嫌だった。どっちにしても嫌われるなら、
まだ自分に正直でいた方が諦めがつく。

 憧は小さく薄く笑った。
嘲笑うって言った方が近かったかもしれない。
ああ、軽蔑されちゃったな。そりゃそうだ。
あれだけがっついて嫌われたのに、
それでもまだ欲望に忠実なんだから。

 落胆の末涙が滲む。でも。
冷たい態度とは裏腹に、憧は意外な行動に出た。
嗤いを顔に張り付かせながら、なのに私を優しく抱いて――。


「ほら、したいならしなさいよ」


 唇を。私の目の前につき出してくる。


「……え。どういう事?」

「そのままの意味よ。したいならしなってば。
 アンタと疎遠になるくらいなら、唇くらいくれてやるわ」


 目と鼻の先で唇が震える。
どこか自暴自棄なその物言いに、心がずしりと重くなって。
でもそれ以上に、暗い喜びで満たされた。

 『嬉しい』と思ってしまう。
あの憧が、ファーストキスなんて大事なものを、
私を繋ぎとめるためだけに捨ててくれる。
その事実が脳を焼く。憧がどこかおかしい事も、
気にならなくなっていた。


「……するよ」


 返事を待つ事もなく、逃げられないよう抱き締める。
私はそのまま顔を寄せ、憧の唇を無理矢理塞ぐ――。

――っ。

 二人の唇が重なって、頭が一瞬真っ白になった。
でも次の瞬間には気が違いそうなほどの多幸感に襲われて、
無我夢中で貪っていく。ファースト、セカンド、サード、フォース……。
およそ『もう数えるのもめんどくさい』と思える程
憧の唇を穢しきって、私はようやく憧から離れた。


「っはぁ……はぁ」


 息をするのも忘れてた。身体が酸素を求めてる。
肩を上下させながら、憧の顔を盗み見た。
ゾクリと戦慄。憧の目は酷く潤んでて、でも、
口はニタリと吊り上がっている。

 はっきり言ってめちゃくちゃエロい。
まるで――私を獲物として狙っているような表情に、
お腹から熱くなっていくような錯覚に囚われる。


「どうだった? 新子憧のファーストキスは」

「ど、どうって。そりゃ、幸せだよ」

「そっか。ま、これからはしたけりゃさせたげるわよ。
 ……アンタが私を捨てなければね」


 憧がニッコリ微笑んで、今度は憧から口付ける。
幸せで、嬉しくて、でも、
どこか底冷えするような寒さを感じた。
ああ、そういう事なんだ。憧自身は『幸せ』を感じてない。

 あくまで『縛り』に過ぎないんだ。
私を自分に縛り付けるための餌。
憧からしたら聞き分けのないペットに
餌をやっているようなもので、
この行為にはちっとも喜びを覚えてないんだ。

 普通に考えたら絶望。でも、私はもう普通じゃなかった。
ただただ幸福に襲われる。
あの憧が、私との関係を繋ぎとめるために、
別にしたくもないキスを許してくれた。
いつも『捨てる側』だった憧が、
『捨てられたくなくて』身を削ってる。

 その事実だけで脳が蕩けた。焼き切れて、もう元には戻れない。


「捨てないからもっとさせて」


 夢中で憧を貪った。強引なキスを受け止めながら、
憧が私の頭を撫でる。その表情は優しくて、
でもやっぱりどこか狂ってた。



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 最初の頃が嘘のように、私達の関係は爛れていった。
私はしずに捨てられたくない一心で、
守るべきラインをどんどん切り崩していく。

 いつしかキスの形が変わり、舌が入り込んでくるようになって。
抱き合う時に服を脱がされ、触る場所がきわどくなった。
股の間に足を滑り込ませて、やがては秘めた場所すら重なって。
もう、私の身体でしずが触れていない場所はない。


(あー、だから嫌だったんだ?)


 全てをしずに支配された今、
どうして自分が行為を拒んでいたのか理解する。

 自分にはまだ早い? そう思ったのも事実。
でもそれ以上に、『汚されるのが怖かった』。
無垢な幼さからくる嫌悪感、無意識のうちに性行為を
『汚いもの』と考えていたのだろう。

 そう。今の私は酷く汚い。

 しずと唇を重ねた瞬間、私の純愛は終わりを告げた。
だって相手の気持ちを繋ぎとめるための性行為とか、
『セフレ』や『都合のいい女』そのものじゃん?
そんなの娼婦と変わらない、
お金の代わりに愛や快楽を支払ってもらうだけ――。


(あはは、やっぱり『お子様』だったんじゃん)


 恋愛に夢を見過ぎてた。『プラトニックこそ至高』、
そう信じて疑わなかった。それでいざ相手が離れ始めたら
慌てて股を開くのだから、恋愛弱者にも程がある。


(いいわよ。この際全力で汚れてやるから)


 どうせもう戻れないんだ。だったらこの身体を使って
全力でしずを縛り付ける。快楽を与えて虜にして、
私から離れられないように作り替えてやろう。

 自分が狂っていくのがわかる、でも止める気はさらさらなかった。
そうだ、しずにも壊れてもらおう。二人で一生モノの傷を負って、
もう離れなくなればいい――。


 一度溺れると決めてしまえば、その行為は酷く心地よかった。
二人で堕ちて汗にまみれて、互いの粘液を啜り合う。
酷く汚らわしく淫らな行為。人だからこそ許せる行為――。



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 これが愛の証明であると言えば、まあ理解できなくもない。
こんな『酷い』姿――よっぽど愛してないとできないから。



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 そしてそれから半年後。
しずと私はそろって阿知賀を退学する。
理由は『不純同性交遊』。とても世間様に顔向けできない
恥を背負った私達は、ひっそりと社会から消えた。




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 憧が狂い始めてた事、途中からは気づいてた。
このまま行けば取り返しがつかなくなっちゃう事も、
頭のどこかで理解してた。

 でも私は駄目だった。憧が狂って壊れる以上に、
私はもっと壊れてたから。

 憧の事が好き過ぎる。
憧が狂ってみんなから見捨てられるなら、
『それってむしろラッキーじゃん』、
普通にそんな事を考えていた。
道を踏み外すのは簡単で、ただ欲望のまま貪るだけ。
ただそれだけで私達は社会から弾かれて、
憧と二人っきりになれた。


「はぁ。アンタのせいで退学になっちゃったじゃない」

「ごめん」

「責任は取ってもらうからね? 一生私の面倒見る事!」

「りょーかい」


 これ、どっちが縛られてるんだろ。
できれば私が縛られてると嬉しいな。
釣り合ってるともっと嬉しい。ううん、まだ私の方が重そうだ。
だって私の愛は重過ぎるから。


「ねえ憧、今度は『これ』やってみない?」

「……アンタねえ、いくら何でも
 少しはドン引きされる可能性を考えた方がいいよ?」


 言いながらも、憧もとっくにわかってるだろう。
私が憧を穢す理由。それは単なる性欲じゃなくて、
歪な『独占欲』である事を。


「はぁ、仕方ないわね。受け入れてあげるわよ。
 ここまでしてくれるの私くらいだから覚えときなよ?」


 そうして私達は今日も、互いを縛って落とし続ける。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2020年01月11日 | Comment(7) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
この記事へのコメント
友愛とプラトニックな恋愛の線引きはかなり儚く、したがって、より強靭で特殊な繋がりを求めるのはかなり共感できます。
ただその事実に気がついてしまった恐怖の結果としてこの狂気があるのはかなり皮肉ですね……。
ただそうであるからこそ、歪ながら強靭に溶接された繋がりであるからこそ容易には離れず、離れれば自壊さえしてしまう危うさからより倒錯的に繋がりの上塗りを繰り返していくのがとても素晴らしいです。

ごちそうさまでした。
Posted by at 2020年01月11日 21:50
素晴らしいです!
いつも筆者様のヤンデレ百合作品には感銘を受けていますが、今回も最高でした!
此度の穏憧も最高でした!
是非また穏憧お願いします!
憧→→→→→→→←穏の憧の衝動的な百合乱暴から開き直った憧ちゃんが日々セクハラを行うようになり、徐々に懐柔されて堕とされてゆく穏乃ちゃんとか見てみたいです!
Posted by 名無し at 2020年01月11日 23:58
互いが互いを想いやりながらすれ違い最後は2人だけの世界で幸せに過ごす所がすばらです。
Posted by at 2020年01月12日 04:49
2人で麻雀で荒稼ぎしてある日突然突然いなくなりそう
Posted by at 2020年01月12日 22:00
リクエストにお答え頂きありがとうございました。

尊い。つらい、やっぱ穏→憧なんすよ。
感謝。圧倒的。最強。
Posted by 吉田 at 2020年01月20日 18:24
阿知賀再開と聞いて無性に見たくなってきて、ここに戻ったらまさかの穏憧がーー!!!もう最高でした
ニヤニヤしながら読んできました。これもこれでありですな
Posted by at 2020年02月29日 12:52
感想ありがとうございます!
友愛とプラトニックな恋愛の線引きはかなり儚く>
憧「よく言うもんね。女同士のデートって
  友達と遊んでるのと変わらないって」
穏「お互いがデートだと思えばデートだけど……
  逆に言えば、思わなくなったら
  終わりって言うか」
憧「今ならしずが『特別』を求めた理由もわかるわ」

此度の穏憧も最高でした>
穏「ありがとうございます!」
憧「実際原作準拠で言ったら私の方が
  セクハラしそうではあるわね」
穏「自分で言う?」

最後は2人だけの世界で幸せに過ごす>
憧「片方が重たさを増したらもう片方は
  より重たさを増して、
  シーソーゲームを続けるんでしょうね」
穏「一生続くならハッピーエンドだよ」

ある日突然いなくなりそう>
憧「まあ実際まともな生活は無理よね。
  地元からは姿を消しそう」
穏「憧と二人ならどこに行っても天国だよ!」

やっぱ穏→憧>
穏「いつも私が憧を引きずってる感あるけど、
  憧が受け入れてくれなくなったら
  一気に病んじゃうかもしれないね」
憧「『二度目はいやだ』とか言ってね」

ここに戻ったらまさかの穏憧>
憧「そう、実はまだここ続いてるんですよ!」
穏「阿知賀編再開で穏憧が増えるといいな!」
Posted by ぷちどろっぷ(管理人) at 2020年03月08日 15:54
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