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【咲-Saki-SS:宮永照】照「今の私は、麻雀が嫌いじゃありません」−後編−【まったり】
<あらすじ>
照「続きものだよ。過去作は冒頭のリンクを辿ってね」
「私は麻雀、好きじゃないんです」
http://yandereyuri.sblo.jp/article/186888304.html
<その他>
欲しいものリストでの贈り物に対するお礼のSSです。
以前同じくリクエストで執筆したお話の後日談となります。
終始毒のないまったりとしたお話です。
※前回同様詳細なあらすじがありますが、
盛大なネタバレとなるので作品終了時に展開します。
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『前編はこちら』
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数日後。私達は電車を乗り継ぎ、奈良は吉野、
阿知賀女子学院へと足を運んでいた。
出迎えてくれたのは顔見知りの二人。
新子憧に高鴨穏乃。どちらも昔、
高校時代に覇を競い合った連中だ。
「いやぁ、まさか宮永姉妹が来てくれるなんてねー!」
「菫はどうしても外せない用事があるらしくって、
私達が代打ちを引き受けた。問題なかった?」
「もっちろんですよ! 照さんの『能力発現』は有名ですし、
バンバン才能を開花させちゃってください!」
咲と二人で教室を回る。雰囲気は『近所の麻雀教室』だ。
『本気で教える』というよりは、『麻雀で遊ぶ』という方が近い。
最初は緊張していた咲も、徐々に慣れてきたのだろう。
子供達に引っ張られつつ、笑顔で対応し始めている。
「いい教室だね」
「はいっ。元々は私達の先生――赤土さんがやってた教室なんですけど、
先生がスカウトされて終わっちゃって。
それで、私達が復活させようって話になったんです!」
「それがどうして菫と繋がったの?」
「あー、照さんが高3だった時の決勝戦覚えてます?
あの時うちの次鋒だった宥姉――松実宥さんが弘世さんと友達になって。
それで、宥姉経由でお願いしたら快諾してもらえたんですよ」
なるほど、そういう繋がりもあるか。
麻雀で縁を繋いだのは私だけじゃない、
他のメンバーもしっかり人脈を広げていたらしい。
しばらくそのまま指導が続く。
下は小学校3年生から、上は中学校3年生まで。
世代もてんでバラバラで、当然強さもばらつきがある。
それでも全員に共通する点が一つあった。
みんな笑顔だと言う事だ。その微笑ましい光景が、
遠い過去の記憶と重なる。
(ああ、そうだ。私達にもこんな時期があった)
まだルールもおぼつかない、でも、牌を握るだけで楽しかったあの日。
私達が互いの縁を繋ぐために『麻雀』を選んだ、
その理由となる光景が――。
「――さん、照さん、大丈夫ですか!?」
「え? どうかしたの?」
「どうかしたのって……照さん泣いてるじゃないですか!
どこか痛いんですか!? 体調悪いなら保健室行きましょう!」
「え?」
駆けつけてきた高鴨さん、言われて初めて異変に気付く。
視界が妙にぼやけていた。濡れてキラキラ輝いて――ああ、
これは確かに涙が出ている。
「…………ああ、ごめん、大丈夫だから。
ちょっと昔を思い出してただけ」
「昔、ですか」
「うん」
少しだけ過去を打ち明ける。高鴨さんは茶化す事なく、
静かに懺悔を聞いてくれた。幼い頃の楽しい思い出。
そして、それを私が壊してしまった事を。
「あーでもそういう事ってありますよね。
憧と私も、それで一度離れちゃってるし」
「そうなんだ?」
「はい。別に喧嘩したってわけじゃないんですけどね。
でも、私はただ皆と楽しんで打てればよくて。
憧は上を目指したがった」
「それで、憧は阿知賀じゃなくて阿太峯中学に入学したんです。
まあ、結果として私の我儘に付き合って戻ってきてくれましたけど」
「……そっか」
人の数だけ物語がある、波乱は私達だけのものじゃない。
今は平穏にある彼女達もきっと、幾多の難関を乗り越えてきたのだろう。
「そう言えば聞きたかったんだ。
阿知賀の人って、誰もプロにならなかったよね。
それには何か理由があるの?」
彗星のごとく現れて、全国の決勝まで上りつめた阿知賀女子。
それも、一度は私達を倒した上で。当然話題をかっさらったし、
プロへのオファーも来ていたはずだ。
でも。結果として、新たなプロ雀士は生まれなかった。
皆が全員家業を継いで、『一般人』として生きている。
高鴨さんは困ったように、でも小さく笑って答えた。
「んーと、そもそもコレ言っちゃうと怒られちゃうかもですけど。
私達って、別に全国制覇は興味なかったんですよ」
「え、そうなんだ?」
「はい。ほら、清澄高校に原村和っていたでしょう?
あの子、実は私達の幼馴染なんです。引っ越しで居なくなっちゃったけど。
だからあの子が中学でMVPになったって知った時、
『みんなで昔みたいに遊びたいな』って」
「私達にとっての麻雀って、『みんなで楽しく遊ぶもの』なんですよ。
だから。お金をもらって勝ち負けにこだわるのは、
『なんか違うな』って思ったんです」」
その言葉を聞いた瞬間、頭の『もや』が霧散した。
そうだ、原点に立ち返れ。
私が麻雀を打つ理由。私にとって麻雀とは――。
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人との縁を、繋ぐもの。
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思えば私の麻雀は、『縁をぶった切った』ままだった。
高校三年生の夏。あの忌まわしい出来事を経て、
私は雀士の道を閉ざした。あれ以来、私は公式の場で打った事はない。
それが何を意味するか。『大勢の人を裏切ったまま』という事だ。
かつて『宮永照の再来』と呼ばれた、彼女の言葉を思い出す。
あの子は私を罵倒した。それは『多数大勢』の代弁でもあっただろう。
『わかっています。私はただの一ファンです、
貴女が私を知るはずがない。貴女が語る「大切な人」の中に、
当然含まれてはいないでしょう』
『でも、私はこの言葉に感銘を受けたんです。
だから貴女に憧れた、「麻雀で縁を繋ぎたいと思った」』
『なのに当の貴女自身は、何も言わずにやめてしまった!!
縁をぶった切ったんです!』
そう。あの日の彼女が言う通り、私は皆を裏切った。
本来なら違約金を払う必要があり、借金に塗れるはずだったのだ。
オーナーの厚意で赦されただけ。『それだけの罪を犯した』事実は揺るがない。
心に残った罪の意識。それこそが、あの日辞退を躊躇った、
『引っ掛かりの正体』だったのだろう。
「ありがとう。貴女達のおかげで、
自分のするべき事が見えた気がする」
「へ? 照さん、何か悩んでたんですか?」
「うん。これは秘密にしておいて欲しいんだけど、
実は今、プロ雀士に誘われてるんだ」
「条件的には魅力的だったけど、私はなぜか頷けなかった。
でも今日、ここにきて答えが見つかった」
私は……私も、皆にのびのびと麻雀を楽しんで欲しい。
そう、幼かった頃の私達のように。
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そしてそのためにやれる事は、『プロ雀士』以外にもあるはずだ。
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『――と言うわけですいません。二人で話し合ったんですが、
あの件は辞退させていただきます』
『そうかい、残念だけど仕方ないわねぇ。
貴女達にも都合があるでしょうし』
『代わりと言っては何ですが、別の形で麻雀界と繋がっていくつもりです。
次代に麻雀を繋ぎたいという思いは、私達も同じですし』
『へぇ、それはありがたいね。
何をするとか聞いてもいいかしら?』
『はい。まずはボランティアレベルですけど――』
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『麻雀教室でもやろうかと思います。
皆にもっと、麻雀そのものを楽しんで欲しいんです』
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結論を先に言ってしまえば、
この麻雀教室は大変な賑わいを見せる事になった。
咲の友人の雀荘を借り、週2回で麻雀教室を開く。
まずは定員数名の、こじんまりとした教室にするつもりだった。
ところがどっこい、最初の数回で計画が狂う。
なぜかこの雀荘――『roof−top』は、
妙にプロ雀士の来訪が多いのだ。
「へぇ、面白そうじゃない! そういう事なら一肌脱ぐわ!」
竹井プロを皮切りに、藤田プロに天江プロ、
錚々たるメンバーが集結する。
プロリーグの卓が再現できてしまう顔ぶれだ。
挙句、なぜかにぎやかしのアナウンサーまでやってきて、
麻雀教室の映像がインターネットでリアルタイム公開された。
『あの宮永姉妹に教わる、清澄こども麻雀教室!
竹井プロとか他のプロ雀士もよく来るよ!』
配信サーバーがパンクした。
同時に募集も殺到し、その数はなんと1000を超える。
当然と言えば当然だろう。本物のプロ雀士にはした金で会える上、
指導までしてもらえるのだから。
「竹井さん、福与アナ。正座」
「後悔はしてないわ!」
「右に同じ!」
「いや後悔してくださいよ」
「咲の言う通りだよ。私達は『未来のプロ』を育成したいわけじゃない。
せいぜい家族麻雀レベルで、
麻雀の楽しさを知ってもらえればそれでいい」
「甘い甘い、大甘ね照。貴女達、
自分の知名度を理解できてないでしょう?」
「そーそー。表に出てこなくなった分注目度は爆上がりしてるんだよねー。
麻雀業界だといまだに『インハイチャンピオン』って言ったら
『宮永照』を指すくらいだしさ。
あ、ところで二人ってガチで付き合ってるの?」
「あの物語はフィクションです」
「ま、百合姉妹かは置いておいてもさ、貴女達は大人気なのよ。
私達が何かしなくても、割とすぐこの状態になったと思うわよ?」
方向転換を余儀なくされる。まずは教室のタイプを2つに分けた。
麻雀を打てるだけでいい会員と、戦力アップを望む会員で区別する。
無論、どちらも『麻雀を楽しむ事』がモットーだ。
前者を私達が、後者を竹井プロ達で見てもらう事に。
ついでに龍門渕さんにスポンサーになってもらい、
専用の部屋を借りる事にした。
それでも供給が需要に追いつかない。なので通常の麻雀教室とは別に、
飛び込みOKの臨時教室を設ける事にした。
……まあ、結局はこちらも募集者多数で抽選になってしまうのだけど。
「なんか、すごい大事になっちゃったね」
「うん。この前聞いたら阿知賀も同じような状況みたい」
「あっちも淡ちゃんが大々的に宣伝しちゃったもんね」
「嫌になったら降りてもいいからね。これは私の我儘だから」
「ううん、私も続けたいな。今の教室の雰囲気好きなんだ。
いろんな昔を思い出すから」
「…………そっか」
将来的にこの『清澄こども麻雀教室』は、
多くのプロを輩出する大教室へと変貌する。
そしてこの麻雀教室の出身者は皆、
『本当に楽しそうに打つ』事で有名になった。
私の取ったこの行動が、目的を達成したかはわからない。
あの日犯した罪を償うに値したか。
人と人の心を繋ぐ、楽しい麻雀を教えられたか。
評価するのは私ではなく、授業を受けた生徒達だ。
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ただ一つ、動かしようのない事実がある。
始めた頃の生徒と教員。その両方と、私は今も繋がっている――。
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そんなこんなで季節は巡る。
忙しいながらも充実した日々を送る私の元に、
一本の電話が飛び込んできた。
『白糸台高校です。卒業生の宮永照さんに、
講演会の依頼をしたく電話を差し上げました』
電話の主が語るには、白糸台高校出身の著名人として、
在校生に向けたエールを送って欲しいとのことだ。
数多くいた候補の中から、なぜか私が選ばれた。
彼女達の頭では、『白糸台高校の顔と言えば宮永照』らしい。
当然私は難色を示した。皆がどう思ってるかは知らないが、
私自身は、自分を優れた人物だと思ってはいないからだ。
例によって虎姫集合。半ば愚痴をこぼすように打ち明ける。
「――と言うわけで、講演会をして欲しいって言われたんだけど」
「えーいいなー! 私も教壇に立って偉そうにふんぞり返りたい!」
「だったら淡と代わってあげるよ。
私は人前で偉そうに語れる武勇伝なんて持ち合わせてない」
「たまたま運に恵まれただけ。私自身は、失敗と後悔の連続だった」
そう、私は落伍者だ。
恥の多い人生を送ってきた。
血を分けた妹と仲良くできず、むしろひたすら傷つけ続けた。
契約を精神疾患でキャンセルし、違約金は踏み倒した。
その後もうだうだ泣き言ばかり。
結局咲と復縁するまで、さらに数年を浪費している。
そんな私を救ったのは、生来の『才能』と『幸運』だ。
周囲の人に恵まれた、皆が道を示してくれた。
私の努力によるものじゃない。『運も実力のうち』とは言うけれど、
講演会でそれを語られても、相手は困惑するだけだろう。
「だったら、その『失敗談』を語ればいいんじゃないか?」
「……菫」
「咲ちゃんの小説もあるしな、みんなとっくに知ってるんだよ。
お前の人生が、順風満帆じゃなかった事はな」
「単に『成功した』、『有名になった』人間なら他にもいる。
お前より大金を掴んでいる人間もそれなりにいるだろう。
それこそ淡だってそうだし、宇野沢先輩とかもいる」
「でも学校はお前を選んだ。その意味をもっと考えろ。
少なくとも学校は、『全国三連覇の宮永照』だから
お前を選んだんじゃないと思うぞ」
「……」
なるほど、『先達の失敗から学べ』と言う奴か。
それなら語りたい事はいくらでもある。
ここで一つ、私と言う人物の誤解を解いておくとしよう。
「わかった、生徒の前で話してくるよ。
私自身は大した人物じゃなくて、でも、
皆に助けられてきた事を」
「……謙遜は時に嫌味となる。あんまりへりくだり過ぎるなよ?
お前が様々な偉業を達成した事実は間違いないんだ」
「わかってる」
1か月後。虎姫の皆の後押しを受け、私は母校の教壇に立つ。
まだ若い生徒たちの視線を一身に受け、私は静かに口を開いた――。
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私がこれからお話するのは、『武勇伝』ではありません。
何度も失敗を繰り返してきた、愚かな人間の『失敗談』です。
皆さんの中には、兄弟姉妹がいる人もいるでしょう。
仲良く一緒に遊んでいますか?
だとしたら、私はそんな貴女の足元にも及びません。
本当に、何度も失敗を繰り返しました。
妹と仲良くする事もできず、決めた進路も直前で撤回して、
周囲に迷惑を掛け続けてきた。
本来私は、こんな教壇の前で偉そうに語れる人物ではないのです。
でも。そんな弱音を零したら、同級生の親友に諭されました。
『だったらその失敗談を語ってこい』と。
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皆さんもご存じかもしれませんが。
私の人生には、常に『麻雀』がついて回ります。
ですが。意外と思われるかもしれませんが、
昔の私は、麻雀が好きではありませんでした。
これだと語弊がありますね。
麻雀のゲーム自体は別に嫌いではありません。
ただ、たまに辛い事を思い出すから苦手だったんです。
でも――そんな私を救ってくれたのも麻雀でした。
トラウマが原因で雀士の道が閉ざされても。
麻雀は形を変えて、常に私を導いてくれた。
それが最終的には妹との復縁に繋がって、
今もなお、新たな繋がりを作り続けている。
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だから……今の私は、麻雀が嫌いではありません。
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――ここでお伝えしたいのは、
人生は案外『道を外れてもなんとかなる』という事です。
おそらく私の人生は、私を知る大半の人物からすれば
『予想もしなかったルート』でしょう。
それでも私はこの人生に、とても満足しています。
もし。皆さんの中で進路に迷う人がいるなら、
今一度自分に問いかけてください。
『それは本当にやりたい事か?』と。
才能や適性のある道が、必ずしも幸せに繋がっているとは限りません。
自分の固執している道が正解とも限りません。
一人で悩まず、周囲に相談しながら考えてみてください。
仮にそれで失敗しても、案外人生は何とかなります。
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自分にとって本当に大切なものを見つけてください。
私にとってそれは妹であり、友人であり――きっと、
おそらくは麻雀だったのでしょう。
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皆さんにとっての、『大切なもの』が見つかる事を願っています。
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それからさらに時は流れて、『世代交代』が訪れる。
今では私も二児の母だ。子供もすでに高校を卒業した。
姉はプロ雀士として活躍、妹は編集者になっている。
「今日も大将でトップをまくった。
そろそろお母さんより活躍したと思うし、
『宮永照の娘』の名を返上したい」
「うんうん、じゃあ私がまたお姉ちゃんの特集打つよ!
タイトルは『もう「宮永照の娘」じゃない』で行こう!」
私達の時とは違い、姉妹仲は良好だ。
良好過ぎて、ちょっと不安になったりもするけれど。
後そのタイトルはもう少し考え直して欲しい。
「あ、後さ! うちの上司が言ってたんだけど、
今度お母さんの自伝を出版したいって!」
「勘弁して。偉人でもあるまいし、自伝を出すとか思い上がりも甚だしい」
「まーまーそう言わないで。
実際お母さんの人生って結構面白おかしいと思うよ?」
「言い方」
「お母さんが著者じゃなくてもいいんだよ?
私達が勝手に好き放題書いて出すからさ、
インタビューの権利だけ頂戴!」
「何それ怖過ぎるんだけど」
次女の要求をはねのけながら、私は一人考える。
自伝は当然却下するとしても、
私は人に誇れる程の人生を送って来ただろうか。
自己評価ではノーなんだけど。
客観的な評価が欲しい。そう思い、
フリーの百科事典サイトを覗いてみる。
そこには『宮永照』の項目があった。
無論私は書いてない、有志が勝手に記したものだ。
(……有志にしては妙に細かい。これ、咲か菫が書いてない?)
後で詰問しておこう。半ば閉口しながらも、その長文を読み進めていく。
数万文字にも及ぶ超大作は、最後にこう締めくくられていた。
『苦難に満ちた彼女の半生は、だが多くの人に道を示した。
彼女の生き方、思い、そして軌跡は、末長く語り継がれるだろう』
大仰な文に苦笑する。だが不覚にも、目じりの奥が熱くなった。
私が歩んだ人生は、確かに苦難の連続だった。
時には生きる事を諦め、自殺未遂を繰り返した事もある。
『終わりよければすべてよしと』は言うけれど、
とても人にお勧めできる人生ではないだろう。
それでも。この人生が、誰かの糧になっている事を祈る。
そして何より――私と繋がる人々の幸せに結びついていればいい。
私はふと携帯を取り出し、とある人物に電話を掛ける。
コール音で数秒待たされ、あの子と電話が繋がった。
『どうしたのお姉ちゃん?』
「ああ、うん。特に用事はないんだけど、
今度一緒に食事でも行かない?」
『東横インの朝食サービスとかじゃなくて?』
「うん。純粋にただの姉妹として」
『それならもちろん喜んで!』
咲の弾んだ声を聞き、頬を一筋涙が零れる。
私はこっそり目をこすり、いつもの口調で言葉を返した。
「じゃあ……『いつも通り』、駅前のタコス屋さんで」
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一度千切れてしまった縁は、再び結び直された。
私の歩んだ人生は、今も。咲との縁を繋いでいる。
(完)
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<いただいたリクエスト内容>
※一部『削除』とした部分は
申し訳ありませんが話の都合上削りました。
宮永照はかつて勤めていた麻雀TODAYのメンバーの飲み会に参加していた。
お互い近況を話し合い、咲は執筆した小説が人気になり中堅作家になり
照は仕事張りが認められて他の作家さんを任されたりしている。
職場では上司や先輩に恵まれて後輩には慕われている。
お菓子をガソリンにしているとも言われたりする。
社内には照の生き方に嫌味を言う人もいる。
『麻雀強い事を過度に自慢する人を大人しくさせたりもしている。(★削除)』
今でもプロ雀士と交流があり咲と一緒に麻雀したり食事に行ったりする。
麻雀TODAYの方は西田記者のもとで色々学び照や西田記者のように
雀士や人を守れる人になりたいと、若手雀士や麻雀経験のある新卒が来るようになり
記者やメディア関係者などになり羽ばたいている。
ある日会社のツテを通して熊倉トシさんからの夕食のお誘いを照咲は受ける事に。
西田記者へ学ぶ人の中にはプロで大活躍する人物も含まれているので、
アンタらのせいで人材が流出したぞでも言われるかとビクビクするも
そんな事なくむしろ照の歩んだ軌跡のおかげで
記者やメディアも雀士の事を前よりも理解するようになり
雀士もより幅広く活躍できるようになった。
トシさんからの提案で麻雀界に復帰しないか誘われる。
現在はスマホなどの台頭で麻雀も昔ほど活気が無くなっている。
そこで麻雀界を盛り上げる手段の一つとして咲照の電撃復帰を考えている。
しかも復帰するならば破格の契約を提示する。
咲も照も今は楽しく麻雀をやっているので悩むけどお断りして
その代わりボランティアとして手伝う事にした。
照にかつての母校から講演会を依頼される。
自身は悩むけど虎姫のみんなからぜひやった方がいいと言われて講演をする。
才能が必ずしも本人を幸せにするとは限らないやりたい事があれば目指せばいいし
不安な時は1人で背負わずに周りを頼ればいいなど言う。
その後は『社内(★削除)』結婚して出産して娘達は麻雀のプロで大活躍したり
編集者になったりなどする。
宮永照の生き方や思いや軌跡は末長く語り継がれる。
コロナで辛い事がたくさんあると思うので
最初から最後まで幸せに終わるSSを。
照「続きものだよ。過去作は冒頭のリンクを辿ってね」
「私は麻雀、好きじゃないんです」
http://yandereyuri.sblo.jp/article/186888304.html
<その他>
欲しいものリストでの贈り物に対するお礼のSSです。
以前同じくリクエストで執筆したお話の後日談となります。
終始毒のないまったりとしたお話です。
※前回同様詳細なあらすじがありますが、
盛大なネタバレとなるので作品終了時に展開します。
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『前編はこちら』
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数日後。私達は電車を乗り継ぎ、奈良は吉野、
阿知賀女子学院へと足を運んでいた。
出迎えてくれたのは顔見知りの二人。
新子憧に高鴨穏乃。どちらも昔、
高校時代に覇を競い合った連中だ。
「いやぁ、まさか宮永姉妹が来てくれるなんてねー!」
「菫はどうしても外せない用事があるらしくって、
私達が代打ちを引き受けた。問題なかった?」
「もっちろんですよ! 照さんの『能力発現』は有名ですし、
バンバン才能を開花させちゃってください!」
咲と二人で教室を回る。雰囲気は『近所の麻雀教室』だ。
『本気で教える』というよりは、『麻雀で遊ぶ』という方が近い。
最初は緊張していた咲も、徐々に慣れてきたのだろう。
子供達に引っ張られつつ、笑顔で対応し始めている。
「いい教室だね」
「はいっ。元々は私達の先生――赤土さんがやってた教室なんですけど、
先生がスカウトされて終わっちゃって。
それで、私達が復活させようって話になったんです!」
「それがどうして菫と繋がったの?」
「あー、照さんが高3だった時の決勝戦覚えてます?
あの時うちの次鋒だった宥姉――松実宥さんが弘世さんと友達になって。
それで、宥姉経由でお願いしたら快諾してもらえたんですよ」
なるほど、そういう繋がりもあるか。
麻雀で縁を繋いだのは私だけじゃない、
他のメンバーもしっかり人脈を広げていたらしい。
しばらくそのまま指導が続く。
下は小学校3年生から、上は中学校3年生まで。
世代もてんでバラバラで、当然強さもばらつきがある。
それでも全員に共通する点が一つあった。
みんな笑顔だと言う事だ。その微笑ましい光景が、
遠い過去の記憶と重なる。
(ああ、そうだ。私達にもこんな時期があった)
まだルールもおぼつかない、でも、牌を握るだけで楽しかったあの日。
私達が互いの縁を繋ぐために『麻雀』を選んだ、
その理由となる光景が――。
「――さん、照さん、大丈夫ですか!?」
「え? どうかしたの?」
「どうかしたのって……照さん泣いてるじゃないですか!
どこか痛いんですか!? 体調悪いなら保健室行きましょう!」
「え?」
駆けつけてきた高鴨さん、言われて初めて異変に気付く。
視界が妙にぼやけていた。濡れてキラキラ輝いて――ああ、
これは確かに涙が出ている。
「…………ああ、ごめん、大丈夫だから。
ちょっと昔を思い出してただけ」
「昔、ですか」
「うん」
少しだけ過去を打ち明ける。高鴨さんは茶化す事なく、
静かに懺悔を聞いてくれた。幼い頃の楽しい思い出。
そして、それを私が壊してしまった事を。
「あーでもそういう事ってありますよね。
憧と私も、それで一度離れちゃってるし」
「そうなんだ?」
「はい。別に喧嘩したってわけじゃないんですけどね。
でも、私はただ皆と楽しんで打てればよくて。
憧は上を目指したがった」
「それで、憧は阿知賀じゃなくて阿太峯中学に入学したんです。
まあ、結果として私の我儘に付き合って戻ってきてくれましたけど」
「……そっか」
人の数だけ物語がある、波乱は私達だけのものじゃない。
今は平穏にある彼女達もきっと、幾多の難関を乗り越えてきたのだろう。
「そう言えば聞きたかったんだ。
阿知賀の人って、誰もプロにならなかったよね。
それには何か理由があるの?」
彗星のごとく現れて、全国の決勝まで上りつめた阿知賀女子。
それも、一度は私達を倒した上で。当然話題をかっさらったし、
プロへのオファーも来ていたはずだ。
でも。結果として、新たなプロ雀士は生まれなかった。
皆が全員家業を継いで、『一般人』として生きている。
高鴨さんは困ったように、でも小さく笑って答えた。
「んーと、そもそもコレ言っちゃうと怒られちゃうかもですけど。
私達って、別に全国制覇は興味なかったんですよ」
「え、そうなんだ?」
「はい。ほら、清澄高校に原村和っていたでしょう?
あの子、実は私達の幼馴染なんです。引っ越しで居なくなっちゃったけど。
だからあの子が中学でMVPになったって知った時、
『みんなで昔みたいに遊びたいな』って」
「私達にとっての麻雀って、『みんなで楽しく遊ぶもの』なんですよ。
だから。お金をもらって勝ち負けにこだわるのは、
『なんか違うな』って思ったんです」」
その言葉を聞いた瞬間、頭の『もや』が霧散した。
そうだ、原点に立ち返れ。
私が麻雀を打つ理由。私にとって麻雀とは――。
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人との縁を、繋ぐもの。
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思えば私の麻雀は、『縁をぶった切った』ままだった。
高校三年生の夏。あの忌まわしい出来事を経て、
私は雀士の道を閉ざした。あれ以来、私は公式の場で打った事はない。
それが何を意味するか。『大勢の人を裏切ったまま』という事だ。
かつて『宮永照の再来』と呼ばれた、彼女の言葉を思い出す。
あの子は私を罵倒した。それは『多数大勢』の代弁でもあっただろう。
『わかっています。私はただの一ファンです、
貴女が私を知るはずがない。貴女が語る「大切な人」の中に、
当然含まれてはいないでしょう』
『でも、私はこの言葉に感銘を受けたんです。
だから貴女に憧れた、「麻雀で縁を繋ぎたいと思った」』
『なのに当の貴女自身は、何も言わずにやめてしまった!!
縁をぶった切ったんです!』
そう。あの日の彼女が言う通り、私は皆を裏切った。
本来なら違約金を払う必要があり、借金に塗れるはずだったのだ。
オーナーの厚意で赦されただけ。『それだけの罪を犯した』事実は揺るがない。
心に残った罪の意識。それこそが、あの日辞退を躊躇った、
『引っ掛かりの正体』だったのだろう。
「ありがとう。貴女達のおかげで、
自分のするべき事が見えた気がする」
「へ? 照さん、何か悩んでたんですか?」
「うん。これは秘密にしておいて欲しいんだけど、
実は今、プロ雀士に誘われてるんだ」
「条件的には魅力的だったけど、私はなぜか頷けなかった。
でも今日、ここにきて答えが見つかった」
私は……私も、皆にのびのびと麻雀を楽しんで欲しい。
そう、幼かった頃の私達のように。
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そしてそのためにやれる事は、『プロ雀士』以外にもあるはずだ。
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『――と言うわけですいません。二人で話し合ったんですが、
あの件は辞退させていただきます』
『そうかい、残念だけど仕方ないわねぇ。
貴女達にも都合があるでしょうし』
『代わりと言っては何ですが、別の形で麻雀界と繋がっていくつもりです。
次代に麻雀を繋ぎたいという思いは、私達も同じですし』
『へぇ、それはありがたいね。
何をするとか聞いてもいいかしら?』
『はい。まずはボランティアレベルですけど――』
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『麻雀教室でもやろうかと思います。
皆にもっと、麻雀そのものを楽しんで欲しいんです』
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結論を先に言ってしまえば、
この麻雀教室は大変な賑わいを見せる事になった。
咲の友人の雀荘を借り、週2回で麻雀教室を開く。
まずは定員数名の、こじんまりとした教室にするつもりだった。
ところがどっこい、最初の数回で計画が狂う。
なぜかこの雀荘――『roof−top』は、
妙にプロ雀士の来訪が多いのだ。
「へぇ、面白そうじゃない! そういう事なら一肌脱ぐわ!」
竹井プロを皮切りに、藤田プロに天江プロ、
錚々たるメンバーが集結する。
プロリーグの卓が再現できてしまう顔ぶれだ。
挙句、なぜかにぎやかしのアナウンサーまでやってきて、
麻雀教室の映像がインターネットでリアルタイム公開された。
『あの宮永姉妹に教わる、清澄こども麻雀教室!
竹井プロとか他のプロ雀士もよく来るよ!』
配信サーバーがパンクした。
同時に募集も殺到し、その数はなんと1000を超える。
当然と言えば当然だろう。本物のプロ雀士にはした金で会える上、
指導までしてもらえるのだから。
「竹井さん、福与アナ。正座」
「後悔はしてないわ!」
「右に同じ!」
「いや後悔してくださいよ」
「咲の言う通りだよ。私達は『未来のプロ』を育成したいわけじゃない。
せいぜい家族麻雀レベルで、
麻雀の楽しさを知ってもらえればそれでいい」
「甘い甘い、大甘ね照。貴女達、
自分の知名度を理解できてないでしょう?」
「そーそー。表に出てこなくなった分注目度は爆上がりしてるんだよねー。
麻雀業界だといまだに『インハイチャンピオン』って言ったら
『宮永照』を指すくらいだしさ。
あ、ところで二人ってガチで付き合ってるの?」
「あの物語はフィクションです」
「ま、百合姉妹かは置いておいてもさ、貴女達は大人気なのよ。
私達が何かしなくても、割とすぐこの状態になったと思うわよ?」
方向転換を余儀なくされる。まずは教室のタイプを2つに分けた。
麻雀を打てるだけでいい会員と、戦力アップを望む会員で区別する。
無論、どちらも『麻雀を楽しむ事』がモットーだ。
前者を私達が、後者を竹井プロ達で見てもらう事に。
ついでに龍門渕さんにスポンサーになってもらい、
専用の部屋を借りる事にした。
それでも供給が需要に追いつかない。なので通常の麻雀教室とは別に、
飛び込みOKの臨時教室を設ける事にした。
……まあ、結局はこちらも募集者多数で抽選になってしまうのだけど。
「なんか、すごい大事になっちゃったね」
「うん。この前聞いたら阿知賀も同じような状況みたい」
「あっちも淡ちゃんが大々的に宣伝しちゃったもんね」
「嫌になったら降りてもいいからね。これは私の我儘だから」
「ううん、私も続けたいな。今の教室の雰囲気好きなんだ。
いろんな昔を思い出すから」
「…………そっか」
将来的にこの『清澄こども麻雀教室』は、
多くのプロを輩出する大教室へと変貌する。
そしてこの麻雀教室の出身者は皆、
『本当に楽しそうに打つ』事で有名になった。
私の取ったこの行動が、目的を達成したかはわからない。
あの日犯した罪を償うに値したか。
人と人の心を繋ぐ、楽しい麻雀を教えられたか。
評価するのは私ではなく、授業を受けた生徒達だ。
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ただ一つ、動かしようのない事実がある。
始めた頃の生徒と教員。その両方と、私は今も繋がっている――。
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そんなこんなで季節は巡る。
忙しいながらも充実した日々を送る私の元に、
一本の電話が飛び込んできた。
『白糸台高校です。卒業生の宮永照さんに、
講演会の依頼をしたく電話を差し上げました』
電話の主が語るには、白糸台高校出身の著名人として、
在校生に向けたエールを送って欲しいとのことだ。
数多くいた候補の中から、なぜか私が選ばれた。
彼女達の頭では、『白糸台高校の顔と言えば宮永照』らしい。
当然私は難色を示した。皆がどう思ってるかは知らないが、
私自身は、自分を優れた人物だと思ってはいないからだ。
例によって虎姫集合。半ば愚痴をこぼすように打ち明ける。
「――と言うわけで、講演会をして欲しいって言われたんだけど」
「えーいいなー! 私も教壇に立って偉そうにふんぞり返りたい!」
「だったら淡と代わってあげるよ。
私は人前で偉そうに語れる武勇伝なんて持ち合わせてない」
「たまたま運に恵まれただけ。私自身は、失敗と後悔の連続だった」
そう、私は落伍者だ。
恥の多い人生を送ってきた。
血を分けた妹と仲良くできず、むしろひたすら傷つけ続けた。
契約を精神疾患でキャンセルし、違約金は踏み倒した。
その後もうだうだ泣き言ばかり。
結局咲と復縁するまで、さらに数年を浪費している。
そんな私を救ったのは、生来の『才能』と『幸運』だ。
周囲の人に恵まれた、皆が道を示してくれた。
私の努力によるものじゃない。『運も実力のうち』とは言うけれど、
講演会でそれを語られても、相手は困惑するだけだろう。
「だったら、その『失敗談』を語ればいいんじゃないか?」
「……菫」
「咲ちゃんの小説もあるしな、みんなとっくに知ってるんだよ。
お前の人生が、順風満帆じゃなかった事はな」
「単に『成功した』、『有名になった』人間なら他にもいる。
お前より大金を掴んでいる人間もそれなりにいるだろう。
それこそ淡だってそうだし、宇野沢先輩とかもいる」
「でも学校はお前を選んだ。その意味をもっと考えろ。
少なくとも学校は、『全国三連覇の宮永照』だから
お前を選んだんじゃないと思うぞ」
「……」
なるほど、『先達の失敗から学べ』と言う奴か。
それなら語りたい事はいくらでもある。
ここで一つ、私と言う人物の誤解を解いておくとしよう。
「わかった、生徒の前で話してくるよ。
私自身は大した人物じゃなくて、でも、
皆に助けられてきた事を」
「……謙遜は時に嫌味となる。あんまりへりくだり過ぎるなよ?
お前が様々な偉業を達成した事実は間違いないんだ」
「わかってる」
1か月後。虎姫の皆の後押しを受け、私は母校の教壇に立つ。
まだ若い生徒たちの視線を一身に受け、私は静かに口を開いた――。
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私がこれからお話するのは、『武勇伝』ではありません。
何度も失敗を繰り返してきた、愚かな人間の『失敗談』です。
皆さんの中には、兄弟姉妹がいる人もいるでしょう。
仲良く一緒に遊んでいますか?
だとしたら、私はそんな貴女の足元にも及びません。
本当に、何度も失敗を繰り返しました。
妹と仲良くする事もできず、決めた進路も直前で撤回して、
周囲に迷惑を掛け続けてきた。
本来私は、こんな教壇の前で偉そうに語れる人物ではないのです。
でも。そんな弱音を零したら、同級生の親友に諭されました。
『だったらその失敗談を語ってこい』と。
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皆さんもご存じかもしれませんが。
私の人生には、常に『麻雀』がついて回ります。
ですが。意外と思われるかもしれませんが、
昔の私は、麻雀が好きではありませんでした。
これだと語弊がありますね。
麻雀のゲーム自体は別に嫌いではありません。
ただ、たまに辛い事を思い出すから苦手だったんです。
でも――そんな私を救ってくれたのも麻雀でした。
トラウマが原因で雀士の道が閉ざされても。
麻雀は形を変えて、常に私を導いてくれた。
それが最終的には妹との復縁に繋がって、
今もなお、新たな繋がりを作り続けている。
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だから……今の私は、麻雀が嫌いではありません。
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――ここでお伝えしたいのは、
人生は案外『道を外れてもなんとかなる』という事です。
おそらく私の人生は、私を知る大半の人物からすれば
『予想もしなかったルート』でしょう。
それでも私はこの人生に、とても満足しています。
もし。皆さんの中で進路に迷う人がいるなら、
今一度自分に問いかけてください。
『それは本当にやりたい事か?』と。
才能や適性のある道が、必ずしも幸せに繋がっているとは限りません。
自分の固執している道が正解とも限りません。
一人で悩まず、周囲に相談しながら考えてみてください。
仮にそれで失敗しても、案外人生は何とかなります。
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自分にとって本当に大切なものを見つけてください。
私にとってそれは妹であり、友人であり――きっと、
おそらくは麻雀だったのでしょう。
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皆さんにとっての、『大切なもの』が見つかる事を願っています。
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それからさらに時は流れて、『世代交代』が訪れる。
今では私も二児の母だ。子供もすでに高校を卒業した。
姉はプロ雀士として活躍、妹は編集者になっている。
「今日も大将でトップをまくった。
そろそろお母さんより活躍したと思うし、
『宮永照の娘』の名を返上したい」
「うんうん、じゃあ私がまたお姉ちゃんの特集打つよ!
タイトルは『もう「宮永照の娘」じゃない』で行こう!」
私達の時とは違い、姉妹仲は良好だ。
良好過ぎて、ちょっと不安になったりもするけれど。
後そのタイトルはもう少し考え直して欲しい。
「あ、後さ! うちの上司が言ってたんだけど、
今度お母さんの自伝を出版したいって!」
「勘弁して。偉人でもあるまいし、自伝を出すとか思い上がりも甚だしい」
「まーまーそう言わないで。
実際お母さんの人生って結構面白おかしいと思うよ?」
「言い方」
「お母さんが著者じゃなくてもいいんだよ?
私達が勝手に好き放題書いて出すからさ、
インタビューの権利だけ頂戴!」
「何それ怖過ぎるんだけど」
次女の要求をはねのけながら、私は一人考える。
自伝は当然却下するとしても、
私は人に誇れる程の人生を送って来ただろうか。
自己評価ではノーなんだけど。
客観的な評価が欲しい。そう思い、
フリーの百科事典サイトを覗いてみる。
そこには『宮永照』の項目があった。
無論私は書いてない、有志が勝手に記したものだ。
(……有志にしては妙に細かい。これ、咲か菫が書いてない?)
後で詰問しておこう。半ば閉口しながらも、その長文を読み進めていく。
数万文字にも及ぶ超大作は、最後にこう締めくくられていた。
『苦難に満ちた彼女の半生は、だが多くの人に道を示した。
彼女の生き方、思い、そして軌跡は、末長く語り継がれるだろう』
大仰な文に苦笑する。だが不覚にも、目じりの奥が熱くなった。
私が歩んだ人生は、確かに苦難の連続だった。
時には生きる事を諦め、自殺未遂を繰り返した事もある。
『終わりよければすべてよしと』は言うけれど、
とても人にお勧めできる人生ではないだろう。
それでも。この人生が、誰かの糧になっている事を祈る。
そして何より――私と繋がる人々の幸せに結びついていればいい。
私はふと携帯を取り出し、とある人物に電話を掛ける。
コール音で数秒待たされ、あの子と電話が繋がった。
『どうしたのお姉ちゃん?』
「ああ、うん。特に用事はないんだけど、
今度一緒に食事でも行かない?」
『東横インの朝食サービスとかじゃなくて?』
「うん。純粋にただの姉妹として」
『それならもちろん喜んで!』
咲の弾んだ声を聞き、頬を一筋涙が零れる。
私はこっそり目をこすり、いつもの口調で言葉を返した。
「じゃあ……『いつも通り』、駅前のタコス屋さんで」
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一度千切れてしまった縁は、再び結び直された。
私の歩んだ人生は、今も。咲との縁を繋いでいる。
(完)
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<いただいたリクエスト内容>
※一部『削除』とした部分は
申し訳ありませんが話の都合上削りました。
宮永照はかつて勤めていた麻雀TODAYのメンバーの飲み会に参加していた。
お互い近況を話し合い、咲は執筆した小説が人気になり中堅作家になり
照は仕事張りが認められて他の作家さんを任されたりしている。
職場では上司や先輩に恵まれて後輩には慕われている。
お菓子をガソリンにしているとも言われたりする。
社内には照の生き方に嫌味を言う人もいる。
『麻雀強い事を過度に自慢する人を大人しくさせたりもしている。(★削除)』
今でもプロ雀士と交流があり咲と一緒に麻雀したり食事に行ったりする。
麻雀TODAYの方は西田記者のもとで色々学び照や西田記者のように
雀士や人を守れる人になりたいと、若手雀士や麻雀経験のある新卒が来るようになり
記者やメディア関係者などになり羽ばたいている。
ある日会社のツテを通して熊倉トシさんからの夕食のお誘いを照咲は受ける事に。
西田記者へ学ぶ人の中にはプロで大活躍する人物も含まれているので、
アンタらのせいで人材が流出したぞでも言われるかとビクビクするも
そんな事なくむしろ照の歩んだ軌跡のおかげで
記者やメディアも雀士の事を前よりも理解するようになり
雀士もより幅広く活躍できるようになった。
トシさんからの提案で麻雀界に復帰しないか誘われる。
現在はスマホなどの台頭で麻雀も昔ほど活気が無くなっている。
そこで麻雀界を盛り上げる手段の一つとして咲照の電撃復帰を考えている。
しかも復帰するならば破格の契約を提示する。
咲も照も今は楽しく麻雀をやっているので悩むけどお断りして
その代わりボランティアとして手伝う事にした。
照にかつての母校から講演会を依頼される。
自身は悩むけど虎姫のみんなからぜひやった方がいいと言われて講演をする。
才能が必ずしも本人を幸せにするとは限らないやりたい事があれば目指せばいいし
不安な時は1人で背負わずに周りを頼ればいいなど言う。
その後は『社内(★削除)』結婚して出産して娘達は麻雀のプロで大活躍したり
編集者になったりなどする。
宮永照の生き方や思いや軌跡は末長く語り継がれる。
コロナで辛い事がたくさんあると思うので
最初から最後まで幸せに終わるSSを。
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後編のSSとても素晴らしかったです
前編の阿知賀子ども麻雀クラブでどんな展開になるのかワクワクしていましたが新子憧に高鴨穏乃が登場して楽しそうに麻雀する姿を見て原点に立ち返る所がいいです
白糸台高校の講演も内容と文面がしっかりしていて過去を振り返りながら目の前の人に向けてのメッセージを送ってる感じがとても出ていました
特に最初の兄弟姉妹一緒に仲良く遊んでますか?だとしたら私は貴女の足元にも及びませんの所がとても響きました
最後の月日が経ち親子仲良く会話して咲ちゃんに食事の誘いの電話していつも通り駅前のタコス屋さんで
が時が経っても姉妹仲良く過ごしている雰囲気が出ていいです
とても素晴らしいSSありがとうございました
コロナで辛い状況でも仕事が大変でもまた明日頑張れます
今後も影ながら応援してます、ご自愛下さい
また返信が遅くなってごめんなさい!
いただいたリクエストがかなり詳細で
しっかりしていたので、
後は間を繋ぐピースをはめ込んでいく感じでした。
私が何も考えず書いたらまず間違いなく
こういう話にはならないので面白かったです。
咲-Saki-というと本編と阿知賀編の
2種類がありますが、
ある意味で阿知賀編は咲や照にとっての
理想形なのではないかなと思います。
リクエストで受け取ったお話ではありますが、
照が大切にしてきた「麻雀は縁を繋ぐもの」
「そして自分にとって大切なもの」と言うあたりが
表現できていたらいいなと思います。
原作がどうなるかはわかりませんし、
そもそも何かと暗い話ばかり書いている私ですが。
原作的にはこのお話のように、
姉妹が復縁してくれればいいなと願っています。
最後に、リクエストありがとうございました!
お仕事無理せず乗り切ってくださいね!