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【咲-Saki-SS:久咲】『忘れじの』

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<あらすじ>
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 大好きな姉と離別し、どこか色あせた世界に生きていた宮永咲。
そんな彼女の人生は、竹井久率いる麻雀部に入部する事で変わり始める。

 結果的にすべてが上手く行き、幸せの絶頂にあった咲。
そんな最中、咲の元に一通のメッセージが届く。

『いままでありがとう』

 送り主は竹井久。本能的な恐怖に襲われ、宮永咲は駆け出すが――?

※個人的にはハッピーエンドのつもりです。

※なお今回は以下の制約の中で書いています。
・「百人一首の中から一つ選んで書く」
・「言葉以外の方法での告白」


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<登場人物>
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<竹井久>
清澄高校の3年生で学生議会長と麻雀部部長を兼務する才女。
164cmのスリム体型で飄々としている食わせ者だが、
精神的に脆い側面を併せ持つ。
家庭に複雑な事情があり、旧姓は『上埜』だった。


<宮永咲>
清澄高校の1年生で麻雀部のエース。
155cmの慎ましい体型で基本は大人しい文学少女。

麻雀において非凡な才能を持つ。
家族麻雀で負けてはお年玉を巻き上げられ、
勝ったら怒られた結果、常に負けない『プラマイゼロ』を身に着けた。

家庭に複雑な事情があり、母や姉とは別居している。
姉とは復縁したいと考えているが、
前に会いに行った時は一言も口をきいてもらえず無視された。


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<症状>
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・狂気
・????


<その他>
●FANBOX支援者に送る限定先行公開していた作品です。
 2020年9月に公開した作品でそれなりに月日が経過したので公開します。

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<本編>
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 変わらない事。それがどれだけ難しい事か、
私、竹井久は嫌になる程知っている。

 例えば一つ例を出そうか、私の両親について語ろう。
二人は恋愛の末結ばれた。結婚式、誓いを立てたその瞬間。
二人はもちろん、互いの愛を疑ったりはしなかっただろう。

 17年前、私を産み落とした日はどうか。
残念ながら記憶はない。けれど古ぼけた写真の中で、
両親は確かに微笑んでいて。そこには愛が満ち満ちていた。

 でも、そこから先は下り坂。

 愛はどんどん目減りした。二人の関係は冷えていき、
愛より呪詛を吐く日が増えた。

温かだったお茶の間は一転、寒々しい空気に支配された。
そうかと思えば次の瞬間、争いが酷く燃え盛る。

 幼い私にはどうする事もできなかった。
わずかに残った愛情が、再び蘇る事を願うだけ。
でも、ついにそんな日は訪れなかった。

 15年が経過した『あの日』。
二人の愛はついに潰えた。『愛の結晶』だった私は、
独り無情に捨てられる。

 私の名前は『竹井』久。
『上埜』を名乗る事を禁止された竹井久。

 そんな私は知っている。愛に永遠などないのだと。


◆ ◇ ◆

『忘れじの』


◆ ◇ ◆


 15年間生きてきて、私、宮永咲が作り上げた世界。
それは全てが色あせた、醜い灰色の世界でした。

 心に風穴が空いている。大きく穿たれた穴からは、
今もなお血が滴っています。
現実にはもう希望はなくて。ただただ痛みを和らげるモルヒネを、
本の世界に見出しました。

 どうしてこうなったのでしょう。

 もがいてきたはずでした、一生懸命生きてきたはずでした。
でも努力は報われず、完成したのはこの世界。
酷く寒々しく希望のない、死に彩られた世界です。

 だから私は、戦う事を諦めました。
緩慢な死に身を置きながら、ただただ、
更なる不幸が訪れない事だけを願うのです。

 幸せを諦めた残滓(のこりかす)。
それが、部長と出会う前の私でした。


◆ ◇ ◆


『宮永さん。麻雀は勝利を目指すものよ』
『次は勝ってみなさい!』


◆ ◇ ◆


 部長が告げたその言葉。そこに他意はなかったでしょう。
でも私にとっては、まさに世界を変える一言でした。

 当時は呪いに蝕まれていたのです。
15年間生きてきて、根深く刻み込まれた価値観。
それは、『勝利も敗北も等しく苦痛』という思い込みでした。

 戦えば戦う程、抗えば抗う程苦しさは増していく。
何も変わらないプラマイゼロ。それだけが、
これ以上苦しまない唯一の道。
その認識を、部長は変えてくれたのです。

『今日はコレ、和了ってもいいんですよね』

 いつもは崩していた役満、今日だけは牌を倒してみました。
つまりは禁忌を犯したわけで、普段は怒られていた行為です。
でも、部長は微笑んでくれました。

『あなたの勝ちよ』

『勝ったー?』

『そう』『よくやったぞ』

 凍てついた世界が融けていく。
じんわりと、胸に喜びが広がっていきます。

(勝った。私が、勝った――!!)

 勝った事、それはもちろん凄く嬉しい。
でも何よりも。『勝利を褒めてもらえた事』が、
涙が出る程嬉しかった。

 勝つ事は許されない、喜びを得る事は許されない。
私を縛り付けていた絶対の法則。それを、
部長が壊してくれたのです。

 はたから見れば大した意味はなかったでしょう。
『部活の麻雀で一回勝った』、それだけです。
でも。私にとっては、人生を大きく変える出来事でした。

 勇気がわいてきたんです。戦いに身を投じる勇気が。
だから私は踏み出しました。一度は失ってしまった絆、
それを取り戻す戦いへと。

そんな風に、私を変えてくれたのは部長だったんです。


◆ ◇ ◆


 世界が変化し始めました。

 部長が示してくれた道、お姉ちゃんへと続く道。
一歩ずつ踏みしめ歩いていきます。

 平坦とは言えません。つらくて、苦しくて、悲しい事もありました。
『もう歩けない』、その場に蹲った事もあります。
それでも私の肩を抱き、支えてくれる人がいました。

『立ち止まらず一歩一歩歩いて行けば、何か必ず違う景色が見えてくるわ』

 私は歩き続けます。すると、世界は徐々に変わっていきました。
色褪せた世界が色づいて、『穴』が少しずつ塞がって。
流れ出る血液の量が減っていきます。

 そして――全てを歩き終えた時、
私の横にはお姉ちゃんが居てくれて。
私を穿った大きな穴は、埋まって消えていたんです。

 誰より大好きだった人。でも、
もう二度と言葉を交わす事は叶わない人。
叶わなかったはずの人。
そんな人が傍にいて、手を握ってくれている。

 滲む視界を前に向ければ。導いてくれた人達が、
穏やかに微笑んでくれている。

 ああ、何もかもが変わりに変わった。
絶望が、希望で塗り替えられたのです。


◆ ◇ ◆


 道を歩き終えた時。とある『想い』に気がつきました。

 私を支えてくれる大勢の人達。
そんな中でも一際大きく、私の心を占める人。

 幸せを掴むきっかけをくれた人。
何度となく挫けそうになる私を支えて、そっと導いてくれた人。


 私はそんな、部長の事を――。


◆ ◇ ◆


 自分の想いに気づいた刹那。
部長から『それ』が届いたのは、まさにそんな瞬間でした。


◆ ◇ ◆


『今までありがとう』


◆ ◇ ◆


 全身を戦慄が駆け抜けました。
たった8文字。特に不自然でもない一文が、
私を恐怖の奈落に叩き落とします。

 何一つとしてわかりません。
お礼を言われた理由はもちろん、
このメッセージが送られてきた意味も。
わからない、わからない、わからない、わからない。

 わからない事だらけの中で、でも直感が働きました。
『今この瞬間(とき)を逃したら、部長を永遠に失う』と。

「駄目っっ!!」

 弾かれたように飛び出しました、がむしゃらに足を動かします。
心臓が悲鳴を上げて、足がきしんで重くなる。
それでも、ひたすら全力で駆け抜けました。

 部長がどこに居るのかなんて知りません。
それでも走り続けます。ただ、足は一点を目指していました。
まるで、目的地が決まっているかのように――。


◆ ◇ ◆


 旧校舎の屋上。馴染み深い部室の奥で、
部長は一人佇んでいました。

 息が上がって酷く苦しい。肩を上下させる私を前に、
部長は涼やかに語りかけてきます。

「正解。よくここに居るってわかったわね」

「わかりませんでした。でも、部長の事を考えて
 走ったらここに着いたんです」

「あはは、そりゃぁ随分ロマンチックね」

 いつも通りの部長でした。でも、だからこそ酷く異常です。
なんて切り出せばいいんだろう。しばらくの間逡巡するも、
結局は、思ったままを口にしました。

「あのメッセージ、どういう意味だったんですか?」

「そのままの意味よ。今までありがとう」

「その、どこか、行っちゃうんですか?」

「ええ。どこに行くと思う?」

 思い当たる節はありました。
部長は最上級生、部活はこれで引退です。
その意味では、私達から離れていくと言えなくも――

(――違う。これはそんな意味じゃない)

 部長から滲む闇の気配が、私の心を揺るがします。
脳裏をよぎった暗い想像。私はそれを打ち消して、
答える事を拒絶しました。

「…………わかりません」

「そか。じゃ、教えてあげる。でも単純よ?」

「ちょっとあそこのベランダから。
 お空の旅へと洒落こもうか……ってね」

 全身が凍りつきました。

 思いついた中で最悪の仮定。理由はわからないけれど、
『もしかしたら、ひょっとして』『ううん、流石にそれはない』
なんて、考える事を放棄した『最悪』。
なのに、部長はそれを選んでしまったのです。

「ど、ど、どうして」

「ごめんね。そこは教えてあげられないわ。
 聞いたら貴女は、私を説得しようとするだろうから」

 部長はそこで言葉を区切り、周囲は重苦しい沈黙に包まれました。
涙を滲ませる私を前に、部長は思い直したように口を開きます。

「でも、そうね。ちょっとだけヒントをあげましょっか」

「忘れじの、行く末までは、難(かた)ければ。
 今日(けふ)をかぎりの、命ともがな」

 紡がれた言葉、それはおそらく和歌でしょう。
でも、歌の意味まではわかりませんでした。
疑問符が頭を駆け巡り、気の利いた言葉が出てきません。

「ええと、その」

「ああ、別に理解できなくてもいいわ。
 別にコメントを求めてるわけじゃないの」

「私が貴女に聞きたいのは一つだけ」

 踊るようにふらふらと、空との境界へと歩みを進める部長。
そしてひらりと振り返り。部長はその手を、私の前に差し出しました。


◆ ◇ ◆


「一緒に、行かない?」


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

 部長に抱き締められながら
空が目まぐるしく流れていきます

 部長のぬくもりを感じる最中(さなか)
脳裏を巡るはさっきの和歌

 どういう意味なんだろう、わからない
でも、どこかで聞いた事があるような

 理解したいと願いました
言うなればこれは『辞世の句』
わからないまま逝きたくはなかったのです

 わずかに残された数秒間
走馬灯を巡らす代わりに、記憶を必死で掘り返します
和歌、古典、百人一首
確か、国語の授業で調べたような
そして、私は、答えにたどり着きました


◆ ◇ ◆


 ああ、そうか だから部長は……


◆ ◇ ◆


 部長の真意を理解して、瞳を覗き込みました

 私の機微を読んだのでしょう
部長は笑みを浮かべると、私の唇に、
そっと自分のそれを重ねて

 そして――


◆ ◇ ◆


――地面が、私達を砕きました。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 咲を抱いて死にゆく最中
心の中でもう一度、あの和歌をそっと詠んでみた

『忘れじの、行く末までは、難(かた)ければ。
 今日(けふ)をかぎりの、命ともがな』

 新古今集に編纂された一首、詠み手は儀同三司母(ぎどうさんしのはは)だ
藤原道隆の夫にして中宮定子の母と言えば、
少しは馴染みが生まれるかもしれない

 他とは一線を画す歌だった
技巧を凝らす事もなく、ただただ、むき出しの想いを告げた歌
初めて歌を知った時、涙が溢れて止まらなかった

『貴女への愛を一生忘れない
 貴方はそう言ってくれたけど
 将来ずっとは難しいだろうから
 いっそこの言葉を受け取った今日限りで
 命が尽きてしまえばよいのに』

 幸せの絶頂だからこそ、変わる事への恐怖に怯える
そんな想いを詠った歌だ

 痛い位によくわかる――否、あまりにも深く分かり過ぎた
歌は私の心を抉り、嗚咽を止める事ができない
心配した友人に囲まれてもなお、
私は涙を拭い去る事ができなかった

 人は変わる、変わってしまう 私の両親がそうだったように

 どれだけ深い愛で繋がっても、『愛の結晶』を作り上げても
月日が、環境が、経験が人を捻じ曲げて、
やがて愛は終わりを迎える

 反論できない真実だった
愛が潰えて残された『残滓』、それこそが私なのだから

 だから私は心に決めた
もし、幸せの絶頂に上り詰めた時
『これ以上の幸せは望めない』と確信した時
その時は、笑顔で人生に幕を引こうと

 だから私は身を投げる
そしてこれは、私なりの告白でもあった

 一生愛を忘れない、そんな無責任な言葉は吐けない
代わりに、この想いを抱いて身を投げる

 ついてきてくれるなら恋愛成就
最愛の人と結ばれた最高の瞬間に逝けるのだ
我ながら完璧すぎる計画だと思う


◆ ◇ ◆


 そして咲は気づいてくれた
私の瞳を覗き込み、頬を赤らめ微笑んだ

 理由も聞かず、ただ私のために命を捧げる
つまり、咲は告白に応えてくれたのだ

 唇を重ねる、恐怖すら感じる程の多幸感に襲われた
視界がぼやける、地面まで後数秒
確定だ 私達は二人、最高の愛を抱いたままこの世を去る


◆ ◇ ◆


 嗚呼、なんて幸せなのかしら
もう人生に悔いはない


◆ ◇ ◆


 さあ、私を砕いて頂戴


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 でも悲しいかな、運命はいつも天邪鬼だ。


◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆

◆ ◇ ◆


 私達は結局しくじった。二人揃って無事に生還、
無機質なベッドの上に転がっている。

 それでも私は満足していた。咲は私の愛を受け入れ、
共に幕を引く道を選んだ。なら、未遂に終わっても問題はない――。

「もう一回飛べばいいだけだもの」

 瞳を閉じて恍惚に浸る。幸福な結末に思いを馳せていたら、
予想外の物言いに思考を引き戻された。

「それなんですけど……ちょっと延期してもらっていいですか?」

「……え」

 一転、恐怖の影が差す。
拒絶された。激痛が咲を変えてしまったのだろうか。
表情を強張らせる私の横で、咲は慌てたように否定する。

「ち、違います! そういうのじゃなくて!
 ただ、『もうちょっと欲張りたいな』って思っただけです!」

「どゆこと?」

「その、部長が飛び降りたのって、つまり。
 一番の幸せを迎えたら、その状況が変わる前に
 死んじゃいたいって事ですよね?」

「ええ」

「その、だとしたら私……もっと、
 もっと部長の事を好きになれると思うから」

「今が一番かって言われると…違うかなって」

 青天の霹靂だった。どうやら咲は、
『まだ頂点じゃない』と言いたいらしい。
無言で続きを促す私に、咲は静かに言葉を紡ぐ。

「変化するのを恐れる気持ち、正直すごくわかります。
 私もいっぱい苦しんだから」

「でも。そうやって諦めちゃってた私を『変えてくれた』のは部長です」

「だから、私はもっと変わりたい。
 部長の事をもっと好きになりたいです。
 部長にも、私をもっと好きになって欲しい」

「そして……それはできると思うんです」

 温かな笑みを浮かべる咲に、私は一人黙り込む。
気を惹く提案ではあった。でも、『破滅の一歩』だとも思う。

 どこまでも上を追い求め変わり続ける事、それができるなら確かに理想だ。
でも私は知っている。咲が告げる提案は、現状維持よりも難しい。だから――。

「条件付きなら受け入れるわ」

「条件、ですか」

「そ。私達が二人とも、愛情が下り坂に入ったって感じたら。
 その時には潔く身を投げる事」

「いいですよ。私もそんな状態で生きてたくないですから」

 本音を言えば正直微妙だ。
下り坂で断罪するよりも、頂上で気持ちよく燃え尽きたい。
でも。『まだ上がある』なんて断言されたら、
目指してみたい気持ちもあった。

「で、契約成立として。貴女はどんな世界を見せてくれるのかしら?」

「え、えぇ!? 今すぐですか!?」

「何かしらあるから食い下がったんでしょ?
 素直にしたい事を言えばいいわ」

「え、ええと……その」

 隣のベッドで転がる咲が、しどろもどろに言葉を濁す。
でも、やがてぎゅっと唇を結び、決意で空気を震わせた。

「その……こ、これからは。な、名前で呼んでも、いいですか?」

 なるほど。言われてみれば、してない事はたくさんあった。
私が命を投げ出す時は、まだまだ当分先かもしれない。


(完)
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posted by ぷちどろっぷ at 2021年10月11日 | Comment(0) | TrackBack(0) | 咲-Saki-
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